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●バレットCEOがCoppermineを紹介
「(Coppermine)は10月に登場するスケジュールになっている」「800MHzは技術デモだが、製品も7という数字で始まるスピードで登場する」
Intelのクレイグ・R・バレット社長兼CEOは、デスクトップ向けの0.18ミクロン版Pentium IIIプロセッサ(Coppermine:カッパーマイン)の出荷計画をこのように明かした。つまり、待ちに待たれていたCoppermineは、あと2ヶ月後に、それも700MHz以上のクロックで登場するというのだ。
バレット氏のこの発言は、8月31日から米国パームスプリングスで開催されているIntelのハードウェア技術者向けカンファレンス「Fall '99 Intel Developer Forum(IDF)」のキーノートスピーチの中で飛び出したものだ。IDFでは、このほかにもCoppermineがいたるところに登場した。キーノートスピーチのデモはほとんどがCoppermine。また、IntelやPCメーカーのコンセプトマシン展示も、搭載MPUのほとんどがCoppermineだった。それも、ソケット版(FC-PGA)のCoppermineがメインに使われるという、刺激的な登場の仕方だ。
クロックも衝撃的だった。デモには、600MHzや667MHzだけでなく、冒頭で触れたように800MHzのCoppermineも登場した。800MHz以上のクロックのデモは、過去のIDFでも行なわれていたが、それは特殊な冷却装置を使っての話。ところが、今回Intelは、Coppermineをごく普通の冷却で(遠目にはフィンだけに見えた)、800MHzを達成してのけた。これは、次世代の製造プロセス技術0.18ミクロンに移行することで、消費電力と発熱量が大きく下がるためだ。
また、IntelはCoppermineを搭載したデモ機やコンセプトマシンに、次世代チップセット「Intel 820」と次世代メモリ「Direct Rambus DRAM(RDRAM)」、それにAGP 4x対応ビデオチップ、あるいはFlexATXマザーボードを使い、Coppermineが次世代プラットフォームのためのCPUであることを強くアピールした。
●IDF直前になって前倒ししたCoppermineのスケジュール
このCoppermineオンパレードでもわかる通り、Intelは、IDF直前になってCoppermineの出荷にかなりの自信を持ったようだ。その証拠に、IDFの直前(前々日)になって複数の情報筋から、IntelがCoppermineの計画をどんどん前倒しにしてきているという情報が相次いで入って来ていた。
それらの情報によると、Intelは10月後半に、デスクトップとモバイルそれぞれのCoppermineと、0.18ミクロン版Pentium III Xeonプロセッサ(Cascades:カスケイズ)を、一気に発表するということだった。デスクトップでは、当初予定されていた600MHz版以外に、667MHz版と650MHz版、それに533MHz版を発表するとも伝わってきた。さらに、より高クロックのCoppermineの出荷も前倒しにし、来年の第1四半期中に733MHzと700MHzを、来年中盤に800MHz以上のCoppermineを出すという話も聞こえてきた。つまり、バレット氏がデモを行なった800MHzは、来年の今ごろには製品として実際に手に入るようになるのだ。
これは従来の予定より、高クロック化のペースが早く、Intelがそれだけ量産に自信を持っていることを示している。しかも、バレット氏の発言が聞き違いでなければ、Intelはその予定もさらに前倒しして、700MHz以上の製品の発表も前に持ってくることになるわけだ。もし、そうなれば、Coppermineが一気に話題をさらうことは間違いないだろう。
●Coppermineではソケット版が前面に
また、Celeronと同じ370ピンソケットに収まるPGAパッケージ版のCoppermineの計画も大幅に更新された。Coppermineは2次キャッシュSRAMを内蔵しているために、Celeronと同様にPGAパッケージに収めることができる。Coppermine用のPGAパッケージを、IntelではFC-PGAと呼んでいると言われる。
Intelは、当初、370ピンソケット用のFC-PGA版Coppermineは100MHz FSB(フロントサイドバス)版のみで、133MHz FSB版は418ピンにするかもしれないと、OEMメーカーにアナウンスしていた。しかし、その計画は取りやめになり、100MHz FSBも133MHz FSBも370ピンソケットで対応することになった。そして、年内に500MHz版と550MHz版を出荷するという計画はそのままだが、来年第1四半期には、FSB 133MHz版も含めて、733MHzまでの全クロックの製品でFC-PGAパッケージ版が出ることになったという。
つまり、FC-PGA版Coppermineは、たんなるパッケージの違いだけで、特別な製品系列ではなくなってしまったのだ。この変化は、今回のIDFでも強く感じられた。明らかにIntelは、CoppermineではFC-PGA版を前面に押し出しており、従来通りのSECC2バージョンは後ろへ後退してしまった雰囲気がある。もしかすると、IntelはCoppermineを機に、一気にFC-PGAへのシフトを進めるつもりかもしれない。IntelはWillametteもソケットで出す計画と言われるため、カートリッジタイプのCPUはこれが最後になりそうだ。
このほか、Intelは、バリューPC市場向けのCeleronプロセッサでも、0.18ミクロン版(Coppermine-128K)の投入予定を早めた。Intelは現在の0.25ミクロン版Celeron(Mendocino:メンドシノ)は、来年初めに投入する533MHzで打ち止めにして、来年第2四半期の566MHzや来年半ばの600MHzからは、Coppermineと基本的には同じCoppermine-128Kコアを使うことにしたという。ボリュームが必要なCeleronに、低クロック品であってもCoppermineを使うということは、Intelは量産に問題がないと確信を持ったことを示している。
●注目されていたCoppermineの動向
実は、今回のIDFではCoppermineがきちんと登場するかどうかが注目されていた。それは、Coppermineが遅れていたからだ。Coppermineは、そもそも今回のIDFの直後に発表される予定だった。前回のIDFの直後に0.25ミクロン版Pentium III(Katmai:カトマイ)が発表されたのと同じパターンを、Intelは予定していたのだ。
ところが、Intelは6月の後半になって、突然、その予定を2ヶ月後ろの11月へずらした。理由は「ターゲットとしていた600MHz以上という周波数が十分採れなかったため、新しいマスクに変えるので遅れる」というものだった。しかし、業界の一部には、この説明を額面通り受け取らず、Coppermineの遅れを深刻にとらえる声もあった。それには、Coppermineのまともなサンプルがなかなか出てこないといった事情もあったと言われている。
それだけに、今回のIDFがCoppermineオンパレードだったという意味は大きい。Coppermineへの不安を払拭し、PC業界の期待を盛り上げる効果があるからだ。
しかし、これは、AMDにとっては最悪のニュースだ。Coppermineが、現在の情報の通りに出てくれば、影響をもろに受けるのはAthlonプロセッサだからだ。
AMDは、IntelがCoppermineでトラブっている間に、Athlonプロセッサを発表した。Athlonは、同じ製造プロセスで作れば、Pentium IIIより高クロックにできる可能性が高く、またアーキテクチャ的には同クロックのPentium IIIよりも、かなり性能を高くできる可能性を秘めている。しかし、それも、製造プロセスの開発レースでIntelにぴったりついていければの話だ。もし、Athlonの0.18ミクロン版が、Coppermineに大きく遅れを取ったりすると、状況は一変してしまう。たとえば、Coppermineの方が700MHz台に先に到達すると、Athlonの優位性はたちまち色あせてしまうのだ。
('99年9月1日)
[Reported by 後藤 弘茂]