先日、Number Nineがビデオチップの独自開発中止、という話題を取り上げたばかりだが、どうやらIntelもビデオチップビジネスから撤退するようだ。Number NineやIntelに限らず、こうした後ろ向きの話については、正式なプレスリリースが出ないことも多く(株価等に大きな影響を与えることが明らかであれば別だろうが)、事実関係がハッキリしないのだが、IntelがデスクトップPC向けのスタンドアロンビデオチップを止めるというのは、間違いなさそうである。実際、この春発表済みのi752にしても、未だに採用したカードが市場に登場していない。i752、さらにはその後継のi754とも、日の目を見ないで終りそうな雲行きだ。
といっても、Intelがグラフィックスのハードウェアから完全に撤退することはないだろう。i810のような、North Bridgeと一体となったグラフィックスは続けていくに違いない。PCの低価格化により、ローエンドPCではもはや独立したビデオチップのコストを捻出できなくなっている。先ごろNVIDIAとALiが提携したことでも明らかなように、主要なチップセット/ビデオチップベンダで、こうした統合型の製品を持たないところは、ごくわずかである。
グラフィックス関連でもう1つ暗い話題と言えば、どうやらHerculesが業務を停止したようだ、ということが挙げられる。Herculesといえば、PCの黎明期に高解像度のテキストにグラフィックスを加えた「Herculesグラフィックスアダプタ」で一世を風靡した名門。最近はあまりパッとしなかったが、RIVA TNT2 Ultraベースの最新作はマニア受けしていた。経営が厳しくなった原因は、ビデオカードの低価格化により、十分なマージンが得られなくなったことにあると思われるが、その種をまいたのは誰あろうIntelのi740だという気がしてならない。市場を引っ掻き回して撤退するIntelも罪作りなものだが、これも市場経済の宿命というものだろう。
■CompaqはAlpha用NTの開発を中止
撤退といえば、CompaqもAlphaシステム上のWindows NTの開発を中止するという。もはや忘れられつつあることだが、そもそもWindows NTは、ACE(Advanced Computing Environment)構想から出てきたもの。MIPSベースのARCS(Advanced RISC Computer System)がネイティブプラットホームだが、そのアーキテクチャの策定に大きな影響力を発揮したのが旧DECのハードウェアエンジニアだったと言われている(DECはAlphaの前にMIPSベースのワークステーションを手がけていたが、その部隊はシアトルにあった)。そういう意味では、DECがMIPSからAlphaへとアーキテクチャを移すにつれ、Windows NTがAlphaをサポートするようになり、MIPSやPowerPCのサポートが打ち切られたあとも、Alphaのサポートが継続されてきたのも肯けるところである。それがついに打ち切られるというのは、間違いなく1つの時代の終りを示すものだ。このこと自体がMicrosoftの売上げに与える影響は、それほど大きくないだろうが、現在Alphaプラットホームをベースに開発中の64bit版Winodws NTにプラスの影響を与えないことも確かだろう。
これで、マルチプラットホームがウリの1つであり、Windows 9x系との違いであったWindows NTも、事実上Windows 9xと同じx86アーキテクチャのみをサポートするOSとなる。すでにHPがIA-64への移行を表明している(ただし、Mercedにはあまり積極的ではなく、次のMcKinley以降が本命のようだが)ことなどなども合わせて考えると、一度は一世を風靡したRISCプロセッサも、結局市場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して表舞台から消え、舞台裏の縁の下の力持ち(組込みプロセッサ)になろうとしているように見える。スーパースケーラテクノロジやスーパーパイプラインテクノロジのような、プロセッサ高速化のテクノロジを提示することで、ある意味Intelにプロセッサ高速化の道筋を教え、最大のライバルであったMotorolaの顧客ベースをズタズタに切り刻んだのだから(RISC登場以前は、プロセッサの市場はIntelとMotorolaの2大メーカーが支配していた)、結果としてRISCはIntelのためにあった、と言えなくもない。登場時は、IntelのようなCISCプロセッサはRISCプロセッサに駆逐される、と言われたことを思えば、歴史の皮肉を感じずにはいられない。
■ビジネス用JavaOS
さらにもう1つの撤退は、SunとIBMが進めていたビジネス用途のJavaOS「JavaOS for Business」だ。一度はThin Client向けOSの本命とまでもてはやされたが、結局は表舞台に立つこともなく、Java-centricデスクトップコンピュータというコンセプトともども消えていく。これが開発言語あるいは開発環境としてのJavaの運命を示唆するものとは思えないが、ビジネス向けコンピュータのアーキテクチャが事実上x86一色になりつつあることを思うと、この分野でのマルチプラットホームやクロスプラットホームということの意義をもう1度考え直す必要があるのかもしれない。
このJava OSに最も翻弄されたのは、カナダのCorelやわが国のジャストシステムといった、アプリケーションソフトベンダだ。いずれも製品構成上、Officeを持つMicrosoftとはどうしても対立する運命にあり、Javaにはかなり入れ込んでいた。が、両社とも先行投資を回収できないまま、次の「期待の星」であるLinuxのサポートへと向かうのだろう。どうも「撤退」がキーワードになりそうな、今年の夏であった。
[Text by 元麻布春男]