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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Intelのモバイル戦略-Intel、フランク・スピンドラー副社長兼ディレクターインタビュー(後編)

 Mobile Pentium IIIとGeyservilleテクノロジで、一気にパフォーマンスアップを狙うIntelのモバイルプロセッサ。その最新動向を、Intelのフランク・スピンドラー氏(副社長兼ディレクター,マーケティング,Mobile/Handheld Products Group)にうかがった。今回はその後編、昨日掲載の前編とあわせてご覧いただきたい。

*なお、Intelのアンディー・コームズ氏(ディレクター,Mobile Support Operation,Mobile/Handheld Products Group)と、ライターの本田雅一氏も同席している。


●Pentium IIIでは省電力版も投入し続ける

 本田 Pentium IIIでミニノート向けに低消費電力版を出す計画は

 スピンドラー Pentium IIIの最初のバージョン群では、ほとんどのノートPCの熱設計に合うだろう。たぶん、年末前にPentium III搭載ミニノートを見ることができるのではないだろうか。詳細はまだ言えないが、低電圧バージョンのPentium IIIを計画している。これは、Pentium IIの低電圧版と同じで、ミニノートのサーマルエンベロープをサポートする特別なバージョンが出てくるだろう。

 後藤 ミニノートの熱設計エンベロープは6Wか

 スピンドラー 熱設計のエンベロープ(範囲)は動いている。ミニノートの場合は、少し上がって通常のノートの10Wに、より近くなっている。これには、ミニノートの主流がA5サイズからB5サイズにシフトしたことも影響している。サイズが大きくなったことで、このタイプのミニノートタイプの熱設計の許容量は、数W増えた。

 本田 低消費電力版は市場に受け入れられるのか? Intelは低消費電力Pentium IIを266MHzで出したが、成功しなかった。マーケットが300MHz以上に移ってしまったためだ。これをどうとらえるか

 スピンドラー スタンダードな製品が小さいサイズのノートに適合するならそれが理想だ。実際に、0.18ミクロンになるPentium IIIでは、ほとんどのノートPCでスタンダードバージョンを採用できると思う。

 一般に、あるカテゴリが成長して広く受け入れられるようになると、ユーザーはパフォーマンスに妥協しなくなる。MMX Pentiumでいい、これ以上いらないという人もいるだろうが、多くのユーザーはもっとパワーが欲しいと感じる。パフォーマンスが上がると製品の魅力が増し、より多くの人に受け入れられるようになるので、高速な製品へと移行するのは自然な流れだ。

 しかし、消費電力の低い製品の提供も、今後も続けていく計画だ。なぜならA5タイプノートでは、6W程度が今も求められているからだ。

 後藤 低電圧版Pentium IIIの電圧はどれくらいか? 2月のIDFの技術セッションでは、低消費電力版は来年前半に1.1Vを目指すというロードマップを示したが、こんな低電圧は可能なのか

 スピンドラー どう言ったらいいだろう(笑)。我々はそれ(1.1V)を目指している。0.18ミクロンテクノロジーでは、1.1Vをサポートできる能力があると思うが……、今のところはまだ答えられない。しかし、低電圧をサポートできるようにしようとしているのは確かだ。


●AMD製品はモバイル向けではない?

 コームズ AMDが『Pシリーズ』のモバイル製品群、つまり、K6-III-PとK6-2-Pで市場シェアを伸ばしている。彼らの戦略は、熱設計のワクを16Wにすることで高いクロックの製品をバリューノート市場に投入することだ。この戦略をどう受け止めているのか

 スピンドラー まず、ひとつ指摘したいことがある。それは、サーマル分野でのスペックのもうひとつの重要なキーは、ケース温度だということだ。これはCPUパッケージの表面の温度のスペックだ。我々はモバイルでのケース温度をデスクトップよりずっと高く設定(100℃)できた。しかし、AMDの製品はそうではなく、ケース温度は低い(80~85℃)ままだ。ケース温度を低く設定すると、システムメーカーはチップを冷やすためにもっと有効なソリューションを用意しなければならない。しかし、われわれのようにケース温度を高く設定すると、サーマルソリューションは少なくてすむ。つまり、ノートの設計がしやすくなる。

 後藤 AMDのモバイルMPUは本当のモバイル向け製品ではないということか

 スピンドラー 重要なことは、デスクトップと同じものを提供するなら、デスクトップでいいということだ。われわれは、モバイル向けのスペックが重要だと考えている。それは、モビリティを犠牲にすることなく、真のパフォーマンスと真の動作周波数をバリュー製品ラインにも提供することだ。それはモバイル向けのパッケージであり、モバイル向けのパワーモードであり、モバイル向けのパワーレベルだ。しかし、消費者の中には、システムをよく知らないで買ってしまう人もいる。だから、われわれは、今、バリュー市場への、よりすぐれた製品の投入にフォーカスしている。


●秋にはより高速なCeleronを投入

 後藤 それは、バリューノートPC市場にさらに力を入れていくということか

 スピンドラー バリューノートPCはノートPC市場全体の成長を助ける。とくに、コンシューマ市場では、バリューノートが市場に強く浸透している。ノートPCにとってはポジティブなトレンドだ。Intelとしても、この市場向けにCeleronファミリの拡張を続ける。第2四半期に3つのバージョンを出したが、秋にはもっと速いスピードのバージョンのCeleronを出す。長期的に、この市場向けにCeleronファミリの拡張を続ける。

 後藤 その高速版Celeronのコアは、これまで通り0.25ミクロンのDixonなのか。現在のCeleronは400MHzだが、0.25ミクロンでそれ以上になると、消費電力が多くなって、熱設計は従来通りでは対応できないはずだ

 スピンドラー まだその仕様は公開できない。Dixonなら、確かに消費電力は高くなるだろう。その場合は、消費電力が同じ周波数のPentium IIIとCeleronの違いのひとつになるだろう。熱設計のエンベロープ(範囲)も上がることになるだろう。それでもモバイル用のパッケージやパワーモードを持ち、モバイル向けのシステムデザインは維持できる。

 後藤 米国ではサブ1,000ドル(1,000ドル以下)ノートPCへの動きがある。Celeronはそこまでカバーするようになるのか

 スピンドラー  そう考えている。Intelでは、プロセッサだけでなくチップセットも含めて、そのセグメントへ向けた製品を提供している。IDFでは440MXチップセットと、(サウンドやモデム機能の)ソフトウェア化を説明した。私は、たぶん今年中にCeleronベースでその価格帯のノートが出てくると思っている。この価格ポイント達成を妨げる主要な制約は、液晶ディスプレイのコストだろう。でも、長い目で見るとそうした制約はなくなってゆくだろう。 また、市場全体のトレンドとしては、「subsidized PC(奨励金つきPC)」に向かっている。つまり、消費者が、PCを購入する時に小売業者やプロバイダーから、数100ドルのリベートを受け取ることが普通になっている。そのため、実際のノートPCの価格は、すでにサブ1,000ドルに達しつつある。こうした動きも、ノートPC市場の成長を助けるだろう。


●Intel 810やTimnaはモバイル向けにリリースされるのか?

 後藤 モバイルではチップの統合化は利点が大きい。それなら、グラフィックス統合チップセット、つまりモバイル版Intel 810の可能性はないのか

 スピンドラー 統合化は当然の方向性だ。すでにわれわれは、MPUに2次キャッシュを統合し、チップセットでは440MXでノースブリッジとサウスブリッジを統合した。グラフィックス統合チップセットも将来の選択肢のひとつとしてはあり得る。しかし、今はそうした製品の話をする段階にはない。

 後藤 Intelには、MPUとチップセットとグラフィックスを統合した「Timna」というチップの計画があると聞いている。これをモバイルに持ってくる予定はないのか

 スピンドラー われわれは、多くの潜在的な製品案を持っている。内部的には、今後5年以上のロードマップを作っており、常にさまざまな選択肢の開発を行なっている。その中には、製品になるものもならないものもある。

 後藤 IntelはモバイルPentium IIで0.18ミクロンプロセスを立ち上げたと言っている。しかし、0.18ミクロン版Dixon(Pentium II)は、実際には本当の意味の0.18ミクロンプロセスではなくオプティカルシュリンク技術によるものではないのか

 スピンドラー Pentium IIの0.18ミクロン版は、Pentium IIのデザインをストレートにそのまま0.18ミクロンにインプリメンテーションしたシンプルな移行だ。確かに、0.18ミクロンに最適化はしていない。それは、これが0.18ミクロンプロセスを立ち上げるためのガイド役だからだ。0.18ミクロンでのPentium IIIの大量生産へスムーズに移行するためのパスだ。しかし、ユーザーレベルでの違いはないはずだ。


●BluetoothはノートPCの標準機能に

 後藤 Intelは新しい屋内無線データ通信規格「Bluetooth」を提案したが、この現況はどうなっているのか

 スピンドラー Bluetoothは、モバイル製品のコミュニケーションを容易にする重要な技術だ。イ ンターネットも含むネットワークに、いつでもどこでもコネクトできるようにすることを目指している。Bluetoothは、低消費電力で低コスト、スモールサイズと携帯製品に最適な技術で、今はVersion1.0が発表されたばかりだ。Bluetooth製品の開発各社は、これによりデザインを完成させて相互運用テストの準備に入ることができる。 Bluetoothは、業界の支持とサポートが非常に良好だ。今、800社以上の支持者がいる。2000年には、最初のシステムが出てくる見込みだ。アドオン製品、内蔵製品のどちらでも、さまざまな製品が出てくるだろう。我々のターゲットは、Bluetoothのベースコストが、ノートPCの標準機能になるくらい安くすることだ。

 後藤 高価格のノートPCだけでなくバリューノートPCにも入るということか

 スピンドラー 時間がたてばそうなるだろう。技術自体は低コスト化が可能だ。シリコンインテグレーションも行なわれるだろう。もうひとつ重要なことは、Bluetoothがコンシューマ志向の技術だということだ。デジカメからイメージをロードするとか、オーディオファイルをプレイするとか。例えば、自動車産業はBluetoothに期待している。ノートPCの中のオーディオファイルを、カーステレオに転送してプレイするといった構想を考えている。このように、多くの産業が、Bluetoothをどう使うか、アイディアを出しつつある。

 後藤 シリコンインテグレーションと言ったが、Bluetoothをチップセットに統合する予定はあるのか

 スピンドラー  それについてはまだ協議していない。しかし、長期的な選択肢の1つであることは確かだ。


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('99年8月19日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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