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*なお、Intelのアンディー・コームズ氏(ディレクター,Mobile Support Operation,Mobile/Handheld Products Group)と、ライターの本田雅一氏も同席している
後藤 モバイル版Pentium IIIの予定は
スピンドラー Pentium IIIは、この秋に最高500MHzで登場する。0.18ミクロンプロセスで製造、パッケージもより小さくなるだろう。また、0.18ミクロンになることで消費電力も下がる。小さく速く低消費電力になるということだ。熱設計の面では、どんなノートPCカテゴリにもフィットする。ミニノートにもすぐに入っていくだろう。
Pentium IIIには、他にもモバイルで有用なフィーチャーがある。インターネットストリーミングSIMD拡張命令では、映像圧縮の圧縮率が高くできるようになる。これは、ダイヤルアップでインターネットアクセスしてビデオカンファレンスなどをするときに利点になる。また、プロセッサのシリアルナンバーは資産管理で有用だ。このほか、フロントサイドバス(FSB)も100MHzになる。
後藤 Coppermineの投入時期は第3四半期だと聞いていたが、このインタビューで受け取った資料では第4四半期となっている。遅れたのか。
スピンドラー Mobile Pentium III発表の時期は、秋と説明していた。発表日時の決定は、シリコンの状態や開発スケジュール、(そのMPUを搭載した)システムが発表のあとにすぐに出せるかといった要因を考慮して決める。今はちょうど発表時期を検討している最中だ。10月ごろの発表になるかもしれない。まだ日程は決定していないが、だいたいその時期ということだ。
後藤 Geyservilleの計画はどうなっているのか
スピンドラー 来年早期にはPentium IIIファミリにGeyservilleテクノロジを導入する。Geyservilleのアイデアは、デスクトップレベルのパフォーマンスを実現することだ。AC電源に接続している時は、消費電力を気にしなくてすむので、電圧と動作周波数を上げる。AC電源から抜くと、自動的に電圧と周波数が低くなり消費電力を抑えることができる。
後藤 Geyservilleは最初のモバイルPentium IIIに搭載するはずだった。なぜ遅れたのか
スピンドラー Pentium IIIの最初のプロダクトは、オリジナルに設定していたターゲットのスピードレベルである600MHz以上の周波数に達しなかった。年末までにはなんとかなりそうだが、秋には無理だということがわかった。そのため、最初はGeyservilleを見送って、500MHzまでのPentium IIIを先に出すことにした。500MHzでもノート用としては十分に速いと判断したからだ。
Geyservilleの600MHz版は来年の第1四半期に出す予定(資料ではDC時に500MHzでAC時に600MHz)だ。来年にずらしたのは、ホリデーシーズン商戦に間に合わない11月から12月に出すより、来年の第1四半期に遅らせた方がいいと判断したからだ。モバイル製品にとって、自然な発表時期は秋、つまり9月か10月だ。
後藤 Intelはこれまで熱設計のガイドラインとして、MPUと2次キャッシュで9.5Wのワクを示してきた。Geyservilleの熱設計ガイドラインはどうなっているのか
スピンドラー 16Wだ。
コームズ 私の見積もりでは、16Wなら600MHzでなく700MHzが達成できるはずだが
スピンドラー われわれが、ある熱設計のガイドラインを決める時に、1四半期しか持たないガイドラインを決めて、次のシステムで、また別な設計をし直さなければならないようなことはしない。確かに、Geyservilleの最初の製品は、そんなに電力を消費しないだろう。しかし、これ(16W)に対応できるシステムをデザインすれば、より高速なMPUが出たときにすぐに対応できる。より長い期間、その筺体を使えることになる。
後藤 Geyservilleを将来Celeronでサポートする予定は
スピンドラー ノープランだ。今のところGeyservilleはPentium IIIファミリのための技術だ。
コームズ AMDがGeyservilleライクな技術を来年のモバイル製品で提供するとカンファレンスで発表したがどう考えるか
スピンドラー Geyservilleの提供は簡単な仕事ではない。動的に電圧を変えるのは、非常に複雑なことで、システムレベルでも多くのことをしなければならない。チップセットサプライヤ、BIOSベンダー、Microsoftなどのソフトウェアベンダーと協力する必要がある。Intelはこれに多くのエナジーをそそぎ込んだ。
後藤 AMDには難しいということか
スピンドラー 言うのはたやすいが……。
コームズ Intelは1年前に「Mobile Power Guideline 2000」を発表し、その中でMPUの消費電力のガイドラインを示した。普通のノートPCでMPUと2次キャッシュの合計の熱設計ガイドラインの電力(パワー)が9.5Wだったはずだ。今後の製品も、バッテリ駆動時にはこのガイドラインに沿って行くのか スピンドラー 今、あなたは、パワーという言葉を使ったが、これには2つの異なる数字があり、それぞれ意味が違う。まずそこを理解して欲しい。
ひとつはサーマルパワー(熱設計電力)で、これはピーク時にどれだけの冷却能力をノートPCに入れる必要があるかを意味する。つまり、どれだけの発熱に耐えられる設計をするかの指標だ。もうひとつは、アべレージパワー(平均消費電力)で、これは実際に消費する電力の平均値だ。これは、バッテリライフに関係する。
モバイルパワーイニシアチブのガイドラインは、部分的には1つ目のサーマル能力に関係するもので、部分的には2つ目のバッテリライフマネージメント技術などに関係するものだ。ここで重要なのは、サーマルパワーを伸ばすことは、消費電力が増えることを必ずしも意味するわけではないということだ。Intelは、アベレージパワーを下げる努力をし続けている。
コームズ サーマルパワーとアベレージパワーの違いをわかりやすく説明してほしい
スピンドラー プロセッサのパワーを時間軸で見るとこのような図(下図参照)になる。サーマルパワーのエンベロープ(範囲)がおよそ10W。しかし、普通は、オフィスソフトをアクティブに使っている時も、6~7Wのあたりのレベルだ。時々はピークの10Wまで上がるが、そう頻繁ではない。そして、実際には多くの時間、消費電力はわずか1Wだ。それは、プロセッサが使われておらず、Pentium IIのローパワーステイトの状態にいるからだ。当社では、このステイトをクイックスタートモードと呼んでいる。
そのため、通常の使い方の場合、アベレージパワー、つまり実際の電力消費の平均値は2W程度に過ぎない。しかし、熱設計では電力消費の最大値の持続に耐えられるデザインをしなければならない。それは、DVDムービー再生のように、最大パワーを使う場合に必要となるからだ。
消費電力の例
(単位 Watt)
後藤 このサーマルパワーのエンベロープだが、これは徐々に上がっているのか
スピンドラー サーマルエンベロープ(熱設計範囲)をシステムのサイズや重量やファンのノイズと妥協しないで、伸ばすというところで努力してきた。その結果、ノートPCのそれぞれのカテゴリーで、サーマル能力は成長し、熱的に制御できるW数は増えてきた。数年前は4~5Wを扱えるだけだったが、今は約10Wを扱える。サーマル能力が増える利点は、OEMがユーザに提供できるパフォーマンスのレンジが大きく増えることだ。例えば、今は0.25ミクロンで400MHzや366MHzのPentium IIが提供できるようになった。
しかし、さきほどあなたが指摘した通り、われわれは、このところサーマルエンベロープを10W近辺のレベルに止めていた。だが、サーマルエンベロープをAC電源時にだけ16Wのレンジにすれば、もっとパフォーマンスをアップできるのではないかと考えた。それがGeyservilleのアイデアだ。今はフルサイズのノートでは、サーマルエンベロープをこのレベルにしようと考えている。
もちろん、それは東芝やIBMやソニーといった顧客と密接に協力しながらだ。彼らの持つ熱設計のテクノロジはすばらしい。Geyservilleは、彼らの技術協力を得て、サーマルエンベロープを上げるためのいい機会だと捉えている。
重要なのは、1年半前にパワーガイドラインを作成した時と状況が違っていることだ。あの時は、AC電源接続時と、DC電源時でサーマルパワーを区別するということができなかった。Geyservilleでは、かなり電力を消費するし、それに対応した冷却もしなければならないが、バッテリの心配はない。AC電源から外すと、低消費電力のバッテリモードに移るからだ。1年半前は9.5Wのエンベロープの中で、パフォーマンスと消費電力のバランスを取ろうとしていた。しかし、今はGeyservilleがあるので、バランスは重要ではない。
後藤 パフォーマンスのレンジを上げるために熱設計のガイドラインを変えつつあることはわかった。アベレージパワーはどうなのか
スピンドラー アベレージパワーはまた違う話だ。われわれは、サーマルエンベロープは上げてきたが、アベレージパワー、つまり実際の消費電力は下げるように努力してきた。実際の消費電力を抑えるには、消費電力の低いステイトを持つのがモービルプロセッサでは非常に重要で、Pentium II/IIIでは実際に新しい低消費電力モードを持っている。われわれのフォーカスは、あくまでもバッテリ持続時間を最大化することだ。
('99年8月18日)
[Reported by 後藤 弘茂]