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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

ハイエンド向けのAthlon Ultraは8MB 2次キャッシュで登場?


●戦略的に意味があるAthlon Ultra

 「AMDがサーバー市場を狙う? そりゃむちゃだ」  AMDのAthlonプロセッサファミリのうち、Pentium III Xeon対抗でサーバー/ワークステーション市場を狙うAthlon Ultra。この製品計画については、多くの人がこう考えるに違いない。しかし、Athlon Ultraは戦略としては正しい。それは、AMDがメインターゲットとするデスクトップ市場で戦い続けるために、サーバー/ワークステーション市場を狙うことが必須だからだ。

 その理由は簡単だ。Intelが高価格のXeonを高いマージンで売って稼ぎ、より収益性の低いデスクトップMPUでの価格攻勢を支えているからだ。つまり、IntelがバリューPC市場でAMDを追い込めるのは、サーバー/ワークステーション市場で成功しているからだとも言える。Intelのこの収益構造を崩すには、AMDがサーバー/ワークステーション市場でも価格圧力をかける他にない。

 AMDのサーバー/ワークステーション戦略は疑問符をつけられることが多いが、こうして見ると、同社にとっては当然取らなければならない戦略であることがわかる。もちろん、サーバー/ワークステーション市場でAthlonが受け入れられるかどうかはかなり疑問がある。しかし、AMDは、サーバー/ワークステーション市場で大成功を収めることができなくても、IntelのXeonの価格(=マージン)を引き下げることができればまずまずの成功なのだ。そもそも、Xeonは非常に高価格なので、AMDが思い切った価格競争をしかけることができる。ただし、サーバーでは導入コストのうちMPU価格が占める割合は小さいので、AMDが低価格をつけても支持されるかどうかはまだわからない。


●IntelのXeon戦略の大きな穴

 AMDがAthlon Ultra戦略を進めるもうひとつの理由は、おそらくIntelのPentium III Xeonプロセッサのロードマップに大きな穴が見えることだ。

 Pentium III Xeonは、0.18ミクロン世代(コードネーム、Cascades)に入り2つのラインに分かれる。(1)はCoppermineと同じコアを使い256KBの2次キャッシュをMPUに統合(オンダイ)する、エントリレベルまでのサーバーとワークステーション向けの系列だ。こちらは133MHz FSB(フロントサイドバス)でデュアルプロセッサ対応、Pentium IIIより常に1グレード上のクロックを提供していく。もともとの計画では年内に667MHz、来年前半には733MHzと800MHzが提供されることになっていた。

 それに対して(2)の系列はCoppermineより大容量の1MBまたは2MBの2次キャッシュをMPUに統合するもので、ミッドレンジ以上のサーバー向けだ。こちらは4/8ウエイ(4/8個のマルチプロセッシング)対応だが100MHz FSBに留まり、クロックは700/750MHzだと言われている。投入時期は、今のところ来年の第2四半期の終わりと見られている。それまでは、現在の550MHzまでの0.25ミクロン版Pentium III Xeon(Tanner)の1/2MBがこの市場をカバーするようだ。

 こうしてIntelのPentium III Xeonラインナップを見てみると、ここに大きな穴が空いていることに気がつく。まず、4/8ウエイ版では550MHzより上のクロックは来年半ばまでは投入される予定がない。また、750MHz版が出ても、そのFSBは共有型のP6バスの制約のために100MHzに留まる。つまり、バスの性能がボトルネックになる可能性がきわめて高いわけだ。Intelは、2001年の前半に投入する次世代IA-32 MPU「Foster」ではSource Synchronous Clocking技術を採用して大幅にバスクロックを上げる見込みだが、それまでは、もはや古くなってしまったP6バスで戦わなければならない。


●技術的には有利な4/8ウエイでのAthlon Ultra

 Athlon Ultraの基本戦略は、Intelのこの穴を突くことになると思われる。AMDはAthlon Ultraが来年前半までに出ると言っている。その段階での4/8ウエイ版Xeonの最高クロックは550MHz。AMDがオーバー700MHzを投入できればクロックでは大きく凌駕できる。だが、4/8ウエイマーケットでのAMDの本当の武器はAthlonのEV6バスだ。 Pentium IIIのP6バスは100MHzの共有バスで帯域を各MPUが共有し、1プロセッサ当たり4トランザクションを並列に実行する。それに対して、EV6バスは200MHzで、MPUとチップセットはポイントツーポイント(1対1)で接続されており、バスは共有されない。また、1プロセッサ当たり24トランザクションを並列に実行できる。つまり、原理的に言えば、マルチプロセッシング時のバス性能はAthlonの方が格段に優れていることになる。さらにEV6バスは現在の200MHzの2倍、400MHz以上にまで帯域を広げることができる。

 また、Athlonは2次キャッシュの大容量化にも対応できる。AMDの発表では、最大8MBの2次キャッシュ搭載が可能で、キャッシュインターフェイスは、CPUクロックの2/3、1/2、1/3に設定できる。DDR SDRAMにも対応している。また、Athlon本体に内蔵した少量のTagRAMでアーリーディテクションを行ない、2次キャッシュのヒット/ミスのディテクションを高速化できる。

 おそらくAthlon Ultraの4/8ウエイ版は、Intelとの差別化のためにも4~8MB程度の2次キャッシュを搭載して来るだろう。その場合、コストや技術的な制約を考えると1/2程度のクロックで動かすことになるのではないだろうか。

 一方、ワークステーション市場では、2次キャッシュは大容量化よりも高速化の要求の方が強いと言われる。そのため、デュアルプロセッサ版では、おそらく2次キャッシュは1~2MB程度に留め、その代わりインターフェイスを2/3にまで高速化するのではないだろうか。ここでは、Cascadesとクロックで競争することになるだろう。もし、AMDが0.18ミクロン化でIntelに遅れを取らなければ、Athlon UltraはCascadesより高クロックを維持できるかもしれない。また、Athlonの高い浮動小数点演算性能は、ワークステーションでは重要で、それがけん引車となる可能性もある。


●Athlon Ultraを待ち受ける高いハードル

 しかし、Athlon Ultraの前途は明るい話ばかりではない。高いハードルが待っている。まず、Athlonはマルチプロセッサをやろうとするとチップセットの負担が大きくなるアーキテクチャなので、マルチプロセッサ対応チップセットの設計はハードルが高い。

 4~8ウエイサーバー向けAthlonチップセットは、米HotRail(旧Poseidon Technology)が独自のスイッチ技術を使ったチップセットを開発、来年早期に提供すると発表している。4/8ウエイ版Athlon Ultraのスケジュールは、おそらくこのチップセットのスケジュールに合わせられていると思われる。しかし、同社のチップセットがスケジュール通りに出てくるか、Athlonのマルチプロセッサ性能を発揮できるのか、このあたりはまだ未知数だ。そもそも、チップセットをAMD自身が提供できないところに問題があるかもしれない。

 また、技術的な問題以上に、この市場にAMD製MPUを受け入れさせること自体が難しい。実際、AMDは、Intel忠誠度の高いエンタープライズ市場には、これまでほとんど浸透できていない。ちなみに、現在AMDベースのサーバーは、Linux系の米Penguin Computingが発表している程度だ。

 もっとも、AMDにとってサーバー/ワークステーションが攻めやすい要素も多少ある。もともとここはRISC系MPUの市場で、Intelへの忠誠心は高いもののデスクトップほどではない。それに、AMDにとっては、Athlon系列がサーバー/ワークステーション市場に少しでも食い込めば、Athlon全体のブランドイメージの向上につながるので、それだけでもメリットは大きい。

 AMDはAthlon Ultraの登場時期を来年前半としている。そのため、製造プロセスは0.18ミクロンになると思われる。だが、もし、0.18ミクロンプロセスの立ち上がりが遅ければ、0.25ミクロンでスタートする可能性もあるかもしれない。それは、チップセットが出荷可能となり、サーバーメーカーがデザインに入る段階でMPUがないわけにはいかないからだ。4/8ウエイに関しては、Intelも0.18ミクロンへの移行は来年中盤の予定なので、0.25ミクロン版でもスペック的には対抗できることになる。

 野心的だが、AMDにとっては進めなければならないAthlon Ultra。AMDに、はたしてローエンドからハイエンドまで幅広く手を広げる余力はあるのだろうか。


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('99年8月16日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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