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AMDは、Athlonプロセッサをファミリ展開し、Intelに追いつめられつつある現在の苦境を脱しようとしている。今回発表した「Athlon」は、コンシューマ市場のハイパフォーマンスPC市場がターゲット。しかし、今後は、サーバー/ワークステーションから企業向けハイパフォーマンスPC、そして、バリューPC市場にもAthlonを展開していくつもりだ。
AMDの現在の計画は以下の通りだ。
・Athlon コンシューマ/SOHO向けハイパフォーマンスPC
・Athlon Select バリューPC
・Athlon Ultra サーバー/ワークステーション
・Athlon Professional 大企業向けハイパフォーマンスPC
この中で、同社の将来のカギを握るのは、おそらくAthlon Selectになる。
●Athlon SelectはSocketに?
AMDは、今のところ、Athlon Selectに関してはブランド名以外は一切明らかにしていない。Athlonの発表会場でも質問されたが「未定」という回答だった。
したがって、Socket化(PGAパッケージ化)するとは言ってはいない。しかし、狙う市場がバリューPCで戦う相手がCeleronプロセッサ(の高クロック品)となれば、Socket化は必須だろう。PCメーカーもSlotではなくSocketを求めているし、MPU自体のコストもSocket化した方が安くなるからだ。そのため、AMDは、現在のAthlonのカートリッジ型パッケージから、Athlon SelectではPGAパッケージに変えてくるに違いない。ただし、その場合に問題がひとつある。それは、現在外付けSRAMチップを使っている2次キャッシュをどうするかという点だ。
AMDにはいくつかの選択肢がある。まず、(1)は2次キャッシュを搭載しないという方法だ。これは、Intelが初代Celeron(コードネーム、Covington=コヴィントン)で取ったやり方だ。しかし、この方法には性能が落ちるという問題がある。Athlonは1次キャッシュ容量が大きいので性能の落ちる度合いは小さいかもしれないが、それでもかなり影響が出るだろう。
(2)は、MPUコアに2次キャッシュSRAMを統合してしまう方法だ。これは、現在のCeleron(コードネーム、Mendocino=メンドシノ)が採用している。だが、AMDは将来、2次キャッシュを統合する可能性は否定しないものの「Athlonでは現在のところ、そうした計画は持っていない」という。これはおそらくクロック向上の足を引っ張ることを懸念しているからだろう。というのは、AMDはK6-2コアに256KBの2次キャッシュを搭載したK6-IIIで、高クロック品が期待したほど採れないというつまづきを経験したからだ。AMDは、Intelとのクロック戦争では、2次キャッシュの統合よりもクロックの向上の方が優先だと考えていると思われる。そのため、このアプローチを取るとすると、Athlon Selectの投入時期はかなり後ろになってしまう可能性が高い。
AMDには(3)の選択肢もある。それは、PGAパッケージにMPUコアとSRAMチップの両方を載せてしまう手法だ。これには、Pentium Proという前例がある。しかし、MCM(マルチチップモジュール)と一般的に呼ばれるこの手の技術は、コストや歩留まりなどで不利になるという大きな問題があった。Intelが、Pentium ProからPentium IIへ移行する時に、この手法を捨ててしまったのはそのためだ。だが、技術の進歩で状況は変わりつつある。最近では、MCMやスタックの技術で、低コストにできる技術が出てきている。実際、コストに厳しいグラフィックスチップメーカーが、DRAMをMCM技術で搭載したモバイル向けチップを発表し始めている。これは想像だが、AMDがこうしたアプローチを取る可能性もあるかもしれない。
以上が予想されるAthlon Selectの姿だ。どのアプローチを取るかはまだ一切わからない。いずれにせよ、次世代の製造プロセス技術0.18ミクロンへ、Athlonコアが移行してからになるだろう。
●Intelのオーバー500MHz攻勢に対抗できるAthlon Select
AMDは、Athlon Selectをできるかぎり急がなければならない。なぜかというと、バリューPC市場で、Intelの猛撃を受けているからだ。Intelは、今年に入ってからCeleronをどんどん高クロック品へとシフト、価格もアグレッシブに引き下げている。Celeronは、高クロック品がK6-2よりも多く採れるため、IntelがこのままCeleronをさらに高クロックへとシフトさせてしまうと、K6-2は危機に陥ってしまう。
現在、バリューPC市場で新モデルとして受け入れられるクロックは400MHz以上。Intelはこれを来年の前半には500MHz以上にしてしまうつもりだ。つまり、Celeronのほとんどの出荷分を、500MHz以上に引き上げようとしているのだ。ところが、AMDは現在の0.25ミクロン版K6-2では、500MHz品も採れない状態だ。そのため、Intelの戦略がこのまま進行すれば、AMDは、近い将来、バリューPC市場から押し出されてしまう可能性がある。
AMDは、そのために、K6ファミリも0.18ミクロンプロセスに載せるものと思われている。実際に、先月開催されたカンファレンス「Platform 99」で、AMDは、K6-III 0.18ミクロン版モバイル向けMPU「Sharptooth CS50」を年内に出す計画を発表している。もっとも、デスクトップではK6-IIIは人気がないので、AMDはより高クロック品が採りやすいK6-2の0.18ミクロン品をメインに持ってくるのではないだろうか。それがうまく年末か来年頭にある程度の量を生産できるようになれば、AMDはまだ戦い続けられる。
だが、AMDがK6-2を0.18ミクロンに移行させて500MHz以上のクロックに追従しても、Intelにはまだ0.18ミクロン版Celeron(コードネーム、Coppermine-128K)というタマがある。Intelには、来年中盤に投入する予定の、このCoppermine-128Kを前倒しにするという手も残されている。Coppermineの遅れで揺れてはいるが、このコアは原則的には600MHz以上を楽に実現できるはずだ。
そのため、AMDがバリューPC市場で今後Intelと戦うには、より高クロックを実現できるAthlon Selectが何が何でも必要となる。Athlon Selectで600MHz以上を投入すれば、高クロックへ逃げようとするCeleronを押さえ込むことができるからだ。逆に言えば、Athlon Selectを投入しないかぎり、いつかはIntelに競り負けてしまうだろう。
●ボリュームを出すにはAthlon Selectが必要
AMDの製品戦略全体を眺めても、Athlon Selectの必要性は高い。というのは、Athlonは高付加価値チップでマージンは高いが、Pentium IIIが支配的な市場で、どれだけ数が出るか見えないからだ。少なくとも、Athlonだけでは1四半期に数百万個のオーダーにはとうてい達しないだろう。利益率は高いが、売上げ額がどこまで伸びるかは疑問があるというわけだ。
しかし、AMDが地位を確保しているバリューPC市場でAthlon Selectを大量に売ることができれば、単価は安くても利益が出せる。バリューPC市場であっても、その中のハイエンドとなれば、MPUを1個130~150ドル程度で売ることができるので、コストの高いAthlonコアでも十分に利益は出せるだろう。そもそも、米国では、小売り市場でのPCの平均販売価格は1,000ドルを切ってしまったわけで、少なくともコンシューマ向けではもうバリューPCがメインの市場なのだ。
また、Athlon Selectは低クロック品をさばくにもいい手段だ。速いものに飛びつくアーリーアダプターは、Intelの最高速と同クロックかそれ以上のクロックのAthlonに魅かれるだろうが、その下のPentium IIIと競合するクロック帯は事情が違う。この手のマシンを買うのは、より保守的なユーザー層で、そこにPentium IIIと同クロックの500MHzや550MHzクラスのAthlonを売り込むのは、より難しいだろう。ところが、Athlonコアでももちろん低クロック品は必ず出てくる。だから、最上のクロック品しか売れないのでは、低クロック品は在庫になってしまう。それなら、低クロックのコアをAthlon Selectとして売ればいいわけだ。
しかし、Athlon Selectの前途は多難だ。まず、Intelでさえ手こずっている0.18ミクロン化のハードルがある。また、バリューPC市場に持っていくには、現在6層のマザーボードを4層にできないと厳しい。グラフィックス統合チップセットも必要で、そのあたりは他社頼みだ。PCメーカーには、Socket7系とSocket370系に加えて、新しいSocket(SocketA?)をサポートしてもらわないとならない。
こうしたハードルを超えて、市場にAthlon Selectを受け入れさせることができる原動力となるのは、AthlonがPentium IIIを超えたという冠だ。「Athlon=速い」というイメージをうまく浸透させることができれば、Athlon Selectへの引きは強くなる。AMDは、何がなんでもx86最速の王冠を保持し続けなければならないのだ。
('99年8月11日)
[Reported by 後藤 弘茂]