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複雑に入り組んだIntelのチップセット戦略


●複雑に入り組んだIntelのチップセット戦略

 もともとのIntelのチップセット戦略は、ごくごくシンプルだった。Pentium IIIに対応するのは「Intel 820(Camino:カミーノ)」、Celeronに対応するのは「Intel 810(Whitney:ホイットニ)」で、'99年後半からはこの2つのチップセットに収束させる予定でいた。ところが、Intel 820の遅れやSDRAMの価格下落、PCベンダーからの要請などさまざまな要因が重なって、このきれいな絵図は崩れてしまった。PC WatchにIntelのチップセットロードマップを掲載したが、この記事を書いている時点(8月3日 火曜日)では、同社のチップセット戦略は、じつに複雑で入り組んだものになってしまっている。

 まず、Intel 820の問題は、メモリインターフェイスにDirect Rambus DRAM(RDRAM)を選択したため、Direct RDRAMへの移行がうまく進まないとIntel 820への移行も進まなくなってしまったことだ。そこへ、PC-100 SDRAMがスポットで4ドル(64Mビット品)割れという超安値になってしまったため、Direct RDRAMの割高感が高まってしまった。PCメーカーのIntel 820移行の意欲が薄くなってしまったわけだ。
 そのため、IntelはSDRAMラインのチップセットを強化しなければならなくなった。まず、Intel 810系で133MHz FSB(フロントサイドバス:チップセットとCPU間のバス)もサポートするIntel 810eを追加した。Intel 810eは、もともとIntel 810のPentium III版「Intel 815」として登場したが、現在はIntel 810を置き換えてPentium IIIとCeleronの両プラットフォームをカバーするチップに位置づけが変わっているようだ。
 その一方で、Intelは440BX/ZXも、当初の予定より延命させて、トランジション期間の間、かなり長期に渡って残すことにした。そのために、Pentium IIIも100MHz FSBの650MHzを出すことになった。現実問題としては、440BX/ZXは来年前半までは残ることになるだろう。

 このほか、IntelはIntel 820上でSDRAMをサポートするためのメモリインターフェイス変換チップ「MTH」も用意する。具体的な搭載方法としては、現実的には、RIMM(Direct RDRAMのモジュール規格)ソケットにDIMMスロットとMTHを載せたライザーカードを挿す方法と、マザーボード上にMTHを直接載せる方法の2つになる。RIMMスロット2つにDIMMスロット2つの構成のマザーボードもメーカーから登場する見込みだ。


●Intel 810系で拾いきれない部分をSolanoが担当

 Celeron用チップセットも単純にIntel 810に収束するという風にはいかなかった。Intel 810は統合したグラフィックス機能を切り離せないため、グラフィックス性能でパソコンを差別化したいPCメーカーのニーズをカバーしきれないという問題があるからだ。
 そのため、IntelはIntel 810とIntel 820の中間解として、「Solano(ソーラーノ)」を出す必要が出てしまった。これは、グラフィックス統合チップセットでありながら、AGP 4Xインターフェイスを持ち、グラフィックスチップを外付けできる製品だ。Solanoが登場すれば、PCメーカーは同じチップセットで、グラフィックスチップの統合と外付けの2つのソリューションを選択できるようになる。また、Intelは、それまでのソリューションとして440ZXは残した。OEMメーカーによると、440ZXでは、Socket 370ベースのCoppermineをカバーすることも検討しているという。
 こうして複雑になったロードマップに、さらに来年にはIntel 820後継の「Camino2」と、MPUとチップセットの統合チップ「Timna」も加わる。そのために、入り組んだ状況になってしまったというわけだ。

 ただし、現在Intelの製品ロードマップはほとんど週単位で変わっており、この状況が続くかどうかはわからない。製品計画も、Intel内部で決定されてから外部にその情報が伝わってくるため、かなりタイムラグがあるので、今述べたことが現在のロードマップだと断言できないのが実状だ。これまで、Intelの製品計画がこれほどダイナミックに変わり続けたケースはなく、今年はかなり特殊な状況だと言えそうだ。


●Intelがローコスト版820を準備?

 Intelは、Intel 820チップセットでは通常のバージョン以外にローコスト版も用意すると言われている。正確には、数週間前の情報ではそうなっていた。その理由は、Direct RDRAMのクロックだ。
 Intelによると、Direct RDRAMには、現在、3種類の規格がある。800MHzのPC800、711MHzのPC700、600MHzのPC600だ。Direct RDRAMは、クロック信号のエッジの両端に同期してデータを送る。そのため、PC800はデータ転送が800MHz相当で行なわれるという意味で、クロック信号自体は400MHzだ。

 さて、この3規格のうち、「PC600はほとんど需要がない」とDRAMベンダーは口を揃える。これは、データ転送能力の問題だけでなく、Intel 820のFSBのクロックとの対応関係がある。Intel 820は100MHzと133MHzの2種類のFSBに対応するが、133MHz FSBで動作する場合にはPC800(133MHzの6倍)とPC700(133MHzの5.33倍)しかサポートできないと、OEMメーカーは伝える。つまり、PC600を使おうとすると、現状ではIntel 820を100MHz FSBにしなければならないことになる。
 ところが、Intel 820でDirect RDRAMを使ったシステムは、スペックにうるさいハイエンドユーザーをターゲットにする。そのため、FSBは133MHzでないと受け入れられない。つまり、誰もIntel 820のシステムでPC600を使いたがらないわけだ。  しかし、Direct RDRAMは高クロックを要求するため、現状の0.20ミクロンの製造プロセスでは、どうしても711MHz以上で動かすことができない品ができてしまう。例えば、1枚のウエーハ上でDirect RDRAMを製造すると、800MHz以上で動くチップが30%、700MHz以上が60%、600MHz以上が90%といったミックスで採れたと仮定する。そうすると、PC600品としてしか売れないチップが30%も出てしまうわけだ。そうなると、PC700以上しか製品として成立しないとなると、実質的な歩留まり(この場合はテスティングイールドのこと)が60%になってしまい結果としてDirect RDRAMチップの製造コストがアップしてしまうのだ。この問題は、今年末から立ち上がる0.18ミクロンに製造プロセスが移行しないと解決できないと言われる。

 そこで、Intelはこの問題を解決するため、Intel 820に低価格バージョンとして「Intel 820-PC600」を用意すると言われている。これは、PC600だけをサポートするバージョンで、通常のIntel 820より割安になると言われている。また、SDRAMへのメモリインターフェイス変換チップMTHも、Intel 820-PC600では使えないという。
 ただし、このあたりの事情は、今後実際の製品が登場する時までに大きく変わる可能性があるので、まだわからない。


●FC-PGA版Pentium IIIのためのIntel 810e

 Intelのもうひとつの新チップセット「Intel 810e」は、基本的にはIntel 810の機能拡張版だ。FSBは66/100/133MHzに対応、ディスプレイキャッシュは100/133MHzに対応する。メインメモリは一応、PC100 SDRAMのままとされているが、これは将来変わる可能性がある。IntelのPC133サポートの可能性が出てきているからだ。

 インテル日本法人によると「PC133 SDRAMに関しては、PCメーカーやDRAMメーカーからの要望があるため、2000年前半のサポートを念頭に評価を開始した段階。具体的にどのチップセットでいつからサポートするというような詳細は決まっていない」という。時期的なものを考えると、Intel 810eかSolanoでのサポートになりそうだ。このあたりの状況は、8月31日からのIntelの開発者向けカンファレンス「Fall '99 Intel Developer Forum(IDF)」で明らかになりそうだ。
 Intel 810eは、グラフィックスコア自体はIntel 810と同じなので、性能的にはメモリ帯域の影響が大きい3Dグラフィックス性能が少し上がる程度だと思われる。焦点は、性能向上というより、Pentium III用に安価な133MHz FSB対応チップセットを提供することにあるようだ。とくに大きいのは、Socket 370版Pentium IIIのサポートだ。

 じつは、Socket 370版Pentium IIIはIntel 820でサポートされる予定が現在のところない。グラフィックス統合チップセット系のみでのサポートとなっている。つまり、IntelとしてはSocket 370版Pentium IIIは、当面はIntel 810eベースのスモールフォームファクタシステムに特化させたいということのようだ。
 というわけで、Intelのチップセットロードマップを掲載した。今後も新情報が入ればアップデートしてゆきたい。

□関連記事
【8月3日】Intelのロードマップとコードネーム by 後藤弘茂
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/intel/index.htm

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('99年8月4日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp