|
Intelは、デスクトップPCでは低価格化のトレンドを読み間違え、AMDにリテール市場のシェアを一時は大きく譲り渡してしまった。これに懲りたIntelは、ノートPC市場では同じ轍は踏むまいと決意したようだ。つまり、セカンドラウンドであるノートPCでは、急伸するAMDを即座に迎え撃とうというのだ。そのためのタマが、先週のコラムで紹介した、モバイルCeleronの433/466MHz版というわけだ。
AMDは、今年から投入し始めた“P”シリーズのモバイルMPUで攻勢に出た。第1四半期に「モバイルAMD-K6-2-Pプロセッサ」を、続けて第2四半期には「モバイルAMD-K6-III-Pプロセッサ」を投入した。AMDが先々週のカンファレンスPlatform 99で行なった説明によるとPはパフォーマンスの略だという。その意味するところは、実際には「電圧と消費電力は少々高いが、その代わりクロックも高いノート向けMPU」ということだ。
K6-2-Pは最大400MHz、K6-III-Pは最大380MHz。どちらも、コア電圧は2.2Vで、消費電力は上限で16W(Design Power)、標準的アプリケーションの実行時は12W台となっている。対するIntelのモバイルCeleronプロセッサは、コア電圧が1.5~1.6Vで、最高クロックの製品の消費電力は上限で13.8Wだ。この、消費電力は、メーカーによって基準が異なったりするので、そのままIntelとAMDを比較できないが、AMDの新しいモバイル製品がそれなりに消費電力が高く“熱い”のはたしかだ。
●AMDの戦略は熱設計にワクを外して戦うこと
これまで、Intelはモバイル向けMPUを一定の消費電力のワク内にとどめ、その消費電力に対応した熱設計をしたノートPCに載せられるようにしてきた。互換メーカーも、ほとんどの場合は、そのワク内でIntelと戦おうとしてきた。
AMDの戦略は、そうした伝統を転換するものだ。これまでの熱設計のワクを外してIntelと戦おうという戦略だと言うこともできる。
AMDによると、バリューPCと呼ばれる低価格のオールインワン型ノートは、低消費電力にするよりパフォーマンスを高める方が要求されているという。高い消費電力に合わせた熱設計にすると、原則として筺体を大きくしたり冷却を工夫する必要がある。また、熱設計のガイドラインの消費電力と実際の消費電力は異なるが、バッテリ駆動時間も原則的には短くなることが多い。しかし、より高速なプロセッサ、AMDの場合では400MHzを載せられるようになる。そして、コンシューマ向けのバリューノートPCでは、クロックが買い手が購入を判断しているポイントだとみているわけだ。
また、メーカーの側のインフラも、始めから高い熱設計に対応できるベースがあったという。それは、高クロックで安いノートPCのために、デスクトップ用のMPUを載せたノートPCが以前から存在したからだ。
●コンシューマノート市場に食いついたAMD
AMDのこのアプローチの結果、同社は低価格ノートPC市場を浸食し始めた。Platform 99でAMDが行なったプレゼンテーションでは、米国の調査会社PC DATAの市場調査結果を引き合いに出し、米国の小売りノートPCではすでにIntelとAMDのシェアが逆転していると説明した。それは、バリューノートPCが、米国の小売り市場では成長しており、そうしたタイプでAMDの採用が多くなっているからだ。
もっとも、伸びたと言っても、米国ではノートPCは企業ユースが主体でコンシューマ市場は小さく、AMDのシェアはまだごく一部でしかない。コンシューマ市場でもノートが半数を占める日本とはまったく状況が違っている。しかし、AMDが食い込み始めたコンシューマ向けノートの市場は、米国では成長が見込まれるセグメントだけに、Intelとしてもうかうかしていられないというわけだ。
コンシューマ向けノートPCが伸びている理由のひとつは、ノートPCの価格が昨年前半に大きく下落したからだ。各メーカーが相次いでローエンドモデルを1,500ドル前後まで下げ始めて、一時はノートでもサブ1,000ドル時代が来ると言われた。今は液晶ディスプレイの品不足で価格が下げ止まっているが、長期的にはまだ下がるという見方は強い。
また、ノートPCがデスクトップの価格に近づき買いやすくなったことで、購買層が広がり、ノートPCに対する見方が変わったと言われる。映画『ユー・ガット・メール』では、主人公たちが使っているのはノートPC。つまり、おしゃれな映画のおしゃれな主人公が使うのがノートPCというわけだ。
●IntelはモバイルCeleronでも0.18ミクロン版を来年第1四半期に予定
こうした状況に対応して、Intelが取った対抗策は、AMDと同じことをするということだった。Intelは、AMDと同様に“熱くて速い”モバイルMPU、つまりCeleron 433/466MHzを出す。そのために、OEMメーカーには熱設計をより高い消費電力に対応できるように指示しているという。
Intelの解答は簡単なことで、同じ熱設計の土俵で戦えば、AMDより高いクロックを提供できるというものだ。IntelはモバイルMPUではAMDに対して明確なアドバンテージを持っている。それは、低電圧化の技術で引き離しているからだ。0.25ミクロンで1.5~1.6Vという電圧は、他のメーカーではマネができない。そのため、Intelのチップが、ダイサイズ(半導体本体の面積)が大きくトランジスタ数が多くても、クロックで上回れるというわけだ。
また、モバイルCeleronは、価格的にも200ドル前後から下と、かなり安くつけているので、互換メーカーに対しても競争力がある。このあたりの戦略は、デスクトップのCeleronで高クロック化をぐいぐい進めて互換MPUメーカーを圧迫したのとよく似ている。さらに、モバイルCeleronは、デスクトップのCeleronよりも0.18ミクロン化を速いペースで進める。今の予定では、来年の第1四半期に0.18ミクロン版Celeron(Coppermine-128K)の450/500MHzを出すことになっている。
また、Intelはチップセットも440MXに見られるように統合化でコスト削減を進めている。あるOEMメーカーによると、Intelは、Intel 810チップセットのモバイル版も検討しているという。さらに、Intelは、MPUにグラフィックスとチップセットを統合した「Timna」も開発している。これは、デスクトップ用製品として企画されているようだが、モバイルにも最適なコアになりうる。
●AMDは0.18ミクロン化に賭ける
では、これに対抗してAMDが取る戦略は?
Platform 99のプレゼンテーションによると、AMDは製造プロセス技術を0.18ミクロンへ移行したK6-III(コード名Sharptooth SC50)を出すという。このプロセッサは、微細化で消費電力を抑えるだけでなく、モバイル向けの機能(おそらく省電力モードの強化)などを行なうという。また、0.18ミクロン化で、年末にはクロックは500MHzに達するという。ただし、これはAMDが0.18ミクロンでの製造をうまく立ち上げることができたらの話で、AMDが立ち上げた時点で、Intelも0.18ミクロンの立ち上げに成功していれば、当然0.18ミクロン版Celeron(Coppermine-128K)を前倒しして持ってくるだろう。
さらに、AMDのプレゼンテーションによると、同社は来年にはIntelのGeyservilleライクなテクノロジも提供するという。AC電源時にはハイパフォーマンスモード、バッテリ駆動時にはバッテリセーバーモードになることで消費電力を抑えるという、それだけ聞けばGeyservilleそっくりの技術だ。ただし、AMDはこの技術に関しては詳細を一切明らかにしていないために、まだ何とも評価できない状況だ。
いずれにせよ、AMDがモバイルを、対Intel戦の重要な攻略路として重視しているのは確かだ。それは、モバイル向けではバリューPC向けであっても、デスクトップ向けよりも少しは高い価格をつけられるため、販売価格の平均を引き上げることができるという点もあると思われる。
●第4四半期にずれ込んだモバイル版Coppermine
最後に、AMDにとってグッドニュース、Intelにとってのバッドニュースがひとつある。それは、Intelの0.18ミクロン版Pentium III(Coppermine)がさらに遅れることだ。モバイルCoppermineは、OEMメーカーに対する説明によると、当初9月の始めに出てくることになっていた。ところが、それは9月の末にスリップし、最新の情報では第4四半期にずれ込んだという。第4四半期へスリップしたことは、IntelのMobile/Handheld Products Groupのフランク・スピンドラー副社長兼ディレクター(Marketing)に対するインタビューで明らかになった。この、インタビューは今週末までに紹介する予定だ。
('99年8月2日)
[Reported by 後藤 弘茂]