Click


後藤弘茂のWeekly海外ニュース

VIAがCyrix買収で本当に欲しかったものは何か


●VIAが抱えるP6バス問題とNational Semiconductorの持つIntelライセンス

 台湾のVIA Technologiesは、はたして“何が欲しくて”Cyrixを買うのか。これが、現在の焦点だ。

 VIAがMPU事業に進出したいからという模範解答を信じているPC業界関係者は、実のところほとんどいない。いや、それはVIAがCyrixブランドMPUを作って売るつもりがないと言っているわけではない。MPU事業も引き継ぐだろうけれども、MPU以上に欲しいモノがあったと、多くの人が考えているのだ。それは、P6バス(Pentium IIIやCeleronのバス)を利用できる知的所有権だ。

 Intelは、P6バスを知的所有権などで守っており、P6バス互換のMPUやチップセットは、Intelのライセンスを受けないかぎり、合法的に作ることはできない。AMDがSocket 370やSlot 1のMPUを出すことができないのはそのためだ。しかし、Cyrixは現在の親会社National Semiconductorが、Intelと広範囲なクロスライセンスを以前に結んでいたため、P6バスを使用することができると見られていた。そして、VIAが欲しがっているのは、そのP6バスを利用できる権利だとウワサされているのだ。

 VIAには、P6バスの権利を欲しがる理由がある。それはVIAが、本丸であるチップセット事業を成り立たせるために、P6バスを自由に使える権利が必要だからだ。VIAは、昨年末にIntelからP6バスのライセンスを受けたが、これは利用できる製品が限定されたものだった。そして、VIAは現在、その契約に含まれていないといわれる133MHz FSB/PC-133 SDRAMサポートのP6バスチップセット「Apollo Pro+133」を開発したことで、Intelからライセンスの取り消しと提訴を受けている。この件に関するIntelの姿勢は非常に断固としたものだと言われており、VIAとIntelの間で妥協が成立する可能性は低そうだ。

 そこに突然出てきたCyrix買収。となれば、誰でもこの2つの関連を疑うのは当然だ。また、VIAの発表もその疑問をさらにふくらませる。VIA本社からは、昨日2本のプレスリリースがEメールで送られてきた。最初のリリースはCyrix買収のものだったが、数時間後に送られてきたもうひとつのリリースは、Intelのチップセット訴訟に対して、VIAが防衛する手段を用意したというものだった。このリリース「VIA Protects Rights Against Intel Lawsuit」では、その法的な防衛手段に関しての具体的な記述は何もないが、このタイミングで送られてくれば、誰でも関連性を勘ぐりたくなる。


●業界誌のいくつかはこの問題を直撃

 VIAのCyrix買収を伝える業界誌/ニュースレターのいくつかも、そこにスポットを当てている。それを読むともう少し状況が見えてくる。

 この件について、非常に具体的な情報を伝えているのが、MPU業界専門紙Microprocessor Reportの出版元Cahners MicroDesign Resourcesの出しているニュースレター「Microprocessor Watch」だ。その最新号の記事「Chip-Set Maker VIA to Buy Cyrix」(Microprocessor Watch,'99/6/30)によると、National SemiconductorのCyrix部門の担当者Stan Swearingen氏が、ライセンスが絡んでいることを明確に認めたらしい。同氏が、Cyrixが今後もIntelの特許に対するライセンスを持ち、VIAもそのライセンスを使ってSocket 370チップセットを作ることができると言ったと、記事は伝えている。そのものズバリだ。

 ただし、National Semiconductorの持つクロスライセンスに関しては、売ったり譲渡したりできるものではないとも、以前から言われていた。それが本当だとすると、Microprocessor Watchの伝える話と矛盾しているように見える。そのあたりは「Update: Via's Cyrix buy not guaranteed to resolve dispute with Intel」(Electronic Buyer's News,'99/6/30)が、もう少し詳しく伝えている。

 こちらの記事の中でも、Swearingen氏が答えているが、それによると、National Semiconductorは、x86のライセンスを他社に売る権利はやはり持っていないという。しかし、他の選択肢があると、同氏のコメントは続いている。その方法はまだ明かせないが、「我々は(知的財産を)ハンドルする完璧な方法を持てると思う」のだそうだ。

 この2つの記事の伝えることが本当だとすると、National Semiconductorはx86関連のライセンスを売ることはできないが、何らかの方法でCyrixを買収した会社がそのライセンスを利用できる方法を編み出したことになる。そして、VIAはそれを“込み”でCyrixを買った、というストーリーになる。そうだとすると、VIAがIntelに対して、訴訟を受けることも辞さない強硬な姿勢に出たこともうなずける。

 ただし、「Update: Via's Cyrix buy not guaranteed to resolve dispute with Intel」は、タイトルからもわかるとおり、本当にVIAがNational Semiconductorのライセンスを使えるかどうかについては疑問を呈している。記事中では、Cyrix側の言い分に対するIntelの否定的なコメントも紹介している。これに関しては、VIAにライセンスを使えるようにする方法がわからない以上、分析のしようがないが、まだひと波乱ありそうだ。

 もっとも、ライセンスを使う方法については、VIAのリリース「VIA Protects Rights Against Intel Lawsuit」の中に多少ヒントもある。この中で、VIAは「近々発表するサードパーティとの製造契約」によってP6チップセットを製造し続けることができるとしている。これをそのままNational Semiconductorとの関係に結びつけると、Intelとのクロスライセンスを持つNational Semiconductorの工場(Fab)で製造してもらうことで、特許問題を回避するという想像もできる。ただ、National Semiconductorは最新の0.18ミクロンFabに関しては過半数の所有権を売却するつもりでいるわけなので、そこにも疑問が残る。明確な解答は、近いうちにあるというVIAの発表を待つしかない。


●疑問が残るVIA傘下のCyrixブランドMPUの行方

 では、VIAはライセンスが欲しかっただけで、MPUは作らないのかというと、そういうわけでもないらしい。「Nimble Via to take on Intel out of the gate」(CNET NEWS.COM,'99/6/30)によると、VIAはM IIの製造を継続し、また次世代プロセッサ「Gobi」もクリスマス商戦に間に合うようにリリースするという。Gobiは、6x86MX(M II)コアを拡張したCayenneコアに256KBの2次キャッシュを統合した、Socket 370用MPUだ。Cayenneコアは、MMXユニットをデュアル実行可能にし、浮動小数点演算ユニットを新設計に替え、3DNow!にも対応している。記事によると、Gobiは133MHz FSBにも対応、466/500/533MHzで登場するという。

 さらに、Gobiのあとは、完全に新しい次世代MPUコア「Jalapeno」を使った単体MPU「Mojave(モハベ)」を予定しているという。このあたりの計画は、その通りいくかどうかはわからないが、ともかくVIAがMPUも作ろうとはしているらしい。また、このスケジュール通り出すと言っているということは、製造もそのままNational Semiconductorが行なうということになる。

 しかし、National SemiconductorはCyrix事業が、MPUの低価格高クロック化で赤字続きになってしまったから手放すわけだ。VIA傘下になったことでCyrixが、その状況を変えられるかというと、そこには疑問が残る。利益が出ないなら、VIAとしては積極的にMPUビジネスをやる理由はない。


●IntelのTimnaへの対抗も視野に

 もっとも、Intelの戦略への対応を考えたら、Cyrix買収はある程度は納得できる。というのは、Intelは来年中盤に「Timna」と呼ばれるチップセット統合型MPUを計画しているからだ。Timnaは、Pentium IIIコアと2次キャッシュ、3Dグラフィックスコア、DRAMコントローラの統合チップを計画していると言われている。もちろんこれはローエンド向けで、現在のCyrixとVIAの市場と正面からぶつかることになる。Cyrix買収は、そのための保証という意味合いもありそうだ。

 また、VIA自体は小さな半導体設計企業だが、実際には台湾で最大規模のコングロマリットFormosa Plastics Groupの一部である。関連企業には、マザーボードメーカーのFICや半導体メーカーもある。もしかすると、グループ全体でのもっと大きな展開が買収の背景にあるのかもしれない。

 しかし、VIAがCyrixを手に入れ、もしP6バスを合法的に利用できる手段も手に入れると、立場が悪くなる企業も出てくる。それはAMDだ。VIAがAMDをある程度積極的にサポートするのは、P6バスのビジネスの不確実性があるからだ。ところが、もしP6バスチップセットとP6バスMPUを気兼ねなく作れるようになってしまうと、Socket 7やEV6バス(K7のバス)のAMDを積極的に推進する意味合いは、これまでより薄くなってしまうかも知れない。

 このあたりがどうなるかは、まだ現時点では五里霧中だ。VIAとCyrixの今後の行動は注意深く見守る必要がある。

□関連記事
【6月30日】VIA、Cyrixのx86CPU事業をNSから買収
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990630/via.htm

バックナンバー

('99年7月1日)

[Reported by 後藤 弘茂]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp