第11回:こだわりを捨てることでらくになることもある



 ある日、Yahoo!メールをチェックしてみると、読者から1通のメールが届いていた。なになに? 飛行機の中で使える電源アダプタについて教えてください……とある。なるほど、最近飛行機のシートに取り付けられているPC用の電源ポートを使うためのアダプタのことらしい。シートに電源コンセントがつけられているわけではなく、利用には専用のアダプタが必要なのだ。

 しかし、大方の人が予想するように、この機能はビジネスクラス以上のシートにしか装備されない上、すべての航空会社が採用しているわけでもない。今この記事は、運良く乗れたビジネスクラスシートの上で書いているが、残念なことに電源ポートは付いていない。したがって、実際の使い心地を伝えることはできないのだが、品物自体は米国の電気店で普通に売られていた記憶がある。ポートの形は共通のようだから、ほしい人は見つけたら買っておくといいだろう。ただし、そんなに安いものでもなかったような記憶があるが。



■ 航空会社選びは宗教だ、と思うこと

 モバイルとはまったく関係のない話で恐縮だが、僕は航空会社をノースウエスト航空ひとつに絞っている。これは別に、ノースウエストがすばらしいサービスを提供してくれるからではない。サービスだけなら日本やアジア系の航空会社、あるいはデルタ航空やアメリカン航空などのちょっと小さめの航空会社の方がずっといい。

 ノースウェストやユナイテッド航空といった大手の米国航空会社を利用する理由は、米国内の路線が充実しているからだ。さまざまな場所で開催されるイベントに行くために同じ航空会社を使い続けようと思うなら、大手の会社を選ぶしかないのである。

 別に同じじゃなくていいのでは? と思うだろう。しかし、航空会社が行なっているFFP(いわゆるマイレージプログラム)は、それを許してくれない。たとえばノースウエストの場合、年間75,000マイルを飛ぶと最高ランクの会員になり、その最高ランクの会員は実マイルの125%を毎回ボーナスとして別途受け取ることができる。その上、米国内路線は席が空いている限り自動的にエコノミーからファーストクラスにアップグレードされるのだ。

 つまり、1万マイル飛行すればボーナス込みで22,500マイルがマイル口座に加算される。LAやサンフランシスコの往復は約12,000マイルといったところだから、一回の西海岸旅行で27,000マイル。これだけあれば、香港でもサイパンでもタダで行けてしまうし、もう一回旅行して5万マイル以上貯めれば米国往復が無料になる。

 しかし年間の飛行マイル数が落ちてしまうと、翌年はカードのランクが下がってしまうため、そんなオイシイ特典も受けることができない。忠誠度が落ちると、たちまち扱いは低くなってしまうのがFFPの特徴。だから、みんなFFPをやめられない。これはもう、一種の宗教と言ってもいいだろう。

 これのおかげで、たとえばLA往復のビジネスクラスが、ある不人気アジア系航空会社で12万円で売られているのに、わざわざ10万円近くを出してエコノミーのチケットを買うといった信じられない行動に自分を駆り立ててしまう。FFPをやっている航空会社のいいカモだ。多分、FFP教を脱退してしまえば、あるいは多少距離をとりながら「ランクが下がってもいいや」と思えるだろう。そうすれば、どんなに楽なことだろうか。電源ポートが付いている航空会社を自由に選ぶことだってできる。

 そう思うのに、宗旨替えするときには今の宗派のランクを継続できないかな、なんて考えているのだから当分の間はFFPをやめられそうにない。(他社のカードランクをそのまま引き継けるサービスをやったら、かなりウケルと思うのだが、どこかやらないだろうか?)



■ こだわりを捨てて楽になった例

 思い切ってしまえば、本当は得だったり楽だったりすることは、FFP以外にも世の中にはたくさんあるものだ。たとえば東京都板橋区に在住のフリーランス・ライターM.Hさんは、数年前のPC Watchで「ハッキリ言ってパッド型のポインティングデバイスは最悪。特に(初代)Let's noteのパッドは世界一使いにくい。やっぱ男は黙ってトラックポイントでしょう(かなり意訳しています)」と言い切っていた。

 そんなM.Hさんが、その後の買い替えでLet's note(トラックボールの機種)を買い、さらに「最近のパッドは良くなったね。ぜんぜん問題ないよ」と言っているのは、内緒にしておいてほしいと本人から言われたから、黙っておくことにしよう。気が変わることはよくあるものだ。彼は今、パッド採用の機種購入を真剣に考えているところだ。

 実際のところ、ポインティングデバイスの種類だけにあまりこだわり過ぎるのはどうかと思う。トラックボール教、トラックポイント教など、この宗教にはさまざまなタイプが存在するが、デバイスそのものの素養だけではなく、進化してきたデバイスやドライバに目を向けなければならない。同じ種別のデバイスでも、それぞれ操作性は異なるのだ。

 たとえばトラックポイント。今では人気のこのデバイスも、最初から万能だったわけではない。最初に採用したThinkPadがIBMから登場したのは、ちょうど日本でDOS/Vブームが始まろうとしていたころだったが、その名前には「II」という数字が加えられていた。「I」はどこに? という話もあろうが、うわさでは某社にライセンスされたという。IとIIの違いはハードウェアの違い(前者は機械接点のセンサー、後者は圧力センサ)とのことだ。

 しかしトラックポイントが不動の評価を得たのは、次の「III」になってからだと個人的には思っている。IIIは止めようと思ったときにはポインタが通り過ぎてしまう、という感覚と実際の動きのずれを補正する制御が組み込まれ、大きく操作性が向上した。その後、現在の「IV(拡張トラックポイント)」に進化しているが、やはり決定打はIIIだ。

 つまり、同じタイプのポインティングデバイスでも、感覚に合う操作ができるか否かは、デバイスそのものの性能に加えて、ドライバもしくはデバイスに内蔵されているコントローラのデキが大きく関わるものなのだ。

 多くのマニアが忌み嫌うパッドも、確かに少し前まではちょっと使う気がしないほどひどいものもあった。それが今では、主にドライバの改良により大幅に操作フィーリングがアップしている。パッドの最大の欠点は、キー入力中に思いがけずタップしてしまい、入力位置が変更されてしまう点にあった。しかし、キー入力中にはタップを認識しないオプションがアルプス製ドライバなどに実装され、問題なく入力作業を行なえるようになっている。

 まだ一部の機種ではパッド専用のドライバがインストールされないため、旧来の使いにくい状態で販売されているものもあるが、メジャーベンダーのノートPCには一通り高機能なドライバが行き渡っている。もし、頭からパッドを否定しているなら、今一度再評価してみるべきだ。

 というのも、パッドを受け入れることでノートPCの選択肢が大きく広がるからだ。たとえばトラックボールでなければダメだ、と言ったところで、薄型ノートPCを作るためにはボール径を小さくしなければならない。すると操作性が落ち、本来の意味を失ってしまう。また、ボールを使うことで内部のスペースが分断され、設計の自由度が下がるというデメリットもあるだろう。トラックポイント、と言った時点で、これも大きくベンダーの選択肢が狭まる。

 PCはポインティングデバイスだけで性能が決まるわけではない。こだわりを捨てて、総合的に判断する気持ちが大切ではないだろうか。ある点をあきらめても、それをあきらめることで得られるメリットが大きいのであれば、製品全体としてはあきらめた方がいいことになる。問題はスペックや機能ではなく、製品全体のパーソナリティだろう。

[Text by 本田雅一]


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