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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Windowsゲーム環境の将来が見えたMeltdown


●Fahrenheitはややスケジュールが後退

Jay Torborg氏の講演
 MicrosoftとSGI両社の3Dグラフィックスモデルを統合する「Fahrenheit(ファーレンハイト)」プロジェクトは、'97年末に発表された時、かなりのセンセーションを巻き起こした。3D APIがDirect3DとOpenGLの2つの標準に分かれ、ゲーム市場などで両APIの軋轢が生じ始めていたからだ。その両社が、グラフィックスAPIを統合すると発表したのだから、Fahrenheitに次世代3D APIの本命としての期待が集中したも当然だ。また、Fahrenheitは両社のAPIを統合するだけでなく、より高度な機能を提供するため、PCの3Dグラフィックス自体が大きく発展する可能性もある。

 Fahrenheitは、抽象度の高い高レベルAPIの「Fahrenheit Scene Graph API」とハードウェアに近い低レベルAPIの「Fahrenheit Low Level API」の2つが主要コンポーネントだ。このうち、Scene Graph APIはDirect3D Immediate Moden (IM) APIとOpenGL APIの上に構築される新しいAPI、Low Level APIは現在のDirect3D APIとの互換性を保ちながらそれを置き換えるAPIとなっている。実際には、Direct3D IM APIの次期バージョンだ。しかも、Low Level APIは、OpenGLのアプリケーションを簡単にマイグレートできるようになる予定で、両APIをローレベルで統合するものになるはずだ。

 Fahrenheitは、当初の計画ではScene Graph APIは今年のDirectX7に、Low Level APIは来年のDirectX8に入る予定だった。しかし、この計画はやや後ろにずれこんだようだ。

 今週開催されたMicrosoftのカンファレンス「Meltdown」(6/7~6/9)では、MicrosoftのGroup Program ManagerのMark Kenworthy氏がScene Graph APIのアルファ版は3月に限定された開発者向けに配布され、ベータ版の配布はDirectX7リリースあとの今秋に予定されていることを明かした。もっとも、Scene Graph APIがDirectX7に間に合わないことは、ある程度前から伝わっていたので、驚くべきことではない。それより目立ったのはLow Level APIが、まだSGIとスペシフィケイションの討議中であり、リリース日程が未定となっていたことだ。昨年のMeltdownのプレゼンテーションでは、Low Level APIはDirectX8の目玉的な扱いだったのに……。もっとも、Low Level APIはその野心的な目標から考えても、Scene Graph APIより難しいのは当然で、この遅れも驚くほどではないだろう。しかし、これでFahrenheitの行方に不安の声が出てくる可能性もある。


●VBから使えるようになったDirectX

Jay Torborg氏の講演
Jay Torborg氏の講演
 ここで、現在ベータ段階で今夏にリリースされる予定のDirectX7とその後のDirectXに搭載される主な機能を整理しておこう。

 DirectX7の機能は、大半は去年アナウンスされた通りで、プラスアルファもある。まず、DirectDrawでは、ステレオグラフィック(立体視)ディスプレイがサポートされ、LCDグラスで立体視できる機能が標準で取り込まれた。実際に、MeltdownのプロダクトショーケースではATI Technologiesなどがステレオグラフィックのデモを行なっていた。また、DirectDrawとDirect3Dの統合をより進めて、パフォーマンスを向上させたという。

 Direct3Dでは、トランスフォームとライティング、ブレンディング、スキニングのハードウェア処理がサポートされた。これを受けて、トランスフォームとライティング機能を搭載した3Dグラフィックスチップが今年後半から多数登場し始めるという。また、キューブエンバイロメントマッピングがサポートされ、よりリアルなレンダリングが可能になった。また、エクステンションメカニズムが導入され、DirectXの機能拡張が行なえるようになった。これにより、これまでの年1回のDirectXリリースのスケジュールに縛られず、中間の時期に機能拡張を行なったり、ベンダーが最新の機能を付加することが可能になるという。

 DirectSoundでは、ボイスマネージメントが加わり、ゲームのサウンドバッファをハードウェア側の実際のボイスにプレイ時に割り当てることが可能になった。DirectMusicでは、Windows 98 Second Edition (SE)とWindows 2000上で、ハードウェアアクセラレーションやカーネルモードシーケンシングが可能になった。

 また、大きな拡張としては「DirectX for Visual Basic」がある。これは、ライブラリを用意して、Visual BasicでDirectXを扱えるようにしたものだ。Meltdownでは、3Dの商品データを入れた商品発注システムのデモが行なわれた。Kenworthy氏によると、これは1日でプロトタイピングできたという。このほか、同様にVBで作られた縦スクロールの2Dシューティングゲームのデモも行なわれた。


●Windows Game Manager(WGM)で簡単プレイを目指す

 一方、今後のDirectXの展望では、「Windows Game Manager(WGM)」が大きくフィーチャされた。これは、PCでもゲーム機並みに簡単にゲームをインストールしてプレイできる環境を整える機能だ。MicrosoftはこれまでのPCへのゲームの「インストールは悪夢だった」(Microsoft、Consumer Windows Devision、Graphics and Multimedia Direstor、Jay Torborg氏)と認めた上で、WGMがこの問題を解決するという展望を示した。

 WGMの下では、WGM対応ゲームは、CD-ROMをPC入れて、コントローラを手に取れば、すぐにプレイを始めることができるようになるという。このWGMの構想は昨年すでにアナウンスされていたが、Meltdownでは実際にデモも行なわれた。デモの内容は、WGMありとWGMなしの2台のPC環境で同じゲームをインストールするというもので、WGMなし版が設定やディスク空きスペースの確保などに手間取っている間に、WGM版ではほんの2~3分でプレイを始めることができた。

 WGMによるインストールは具体的には、次の手順を踏む。WGMはゲームのインストール時にハードディスクのスペースを点検。十分な空きスペースがない場合は、最近プレイされていない古いゲームを「ダウンサイズ」する。このダウンサイズされたゲームは、部分再インストールでまた簡単にプレイできるようになるという。次にWGMは、自動的に入力デバイスを探知、そのゲームに最適なコントローラを見つけて、コントローラのボタンにゲームの機能をマップする。次に、PCのハードウェア構成を見て、アクセラレーションや解像度などを最適にコンフィギュレートする。また、WGMには、ペアレンタルコントロール機能があり、親が子供に適していると判断した内容にゲームを制限できるという。

 Microsoftでは、来年の秋のゲームタイトルからWGMに対応することを呼びかけている。ただし、WGMは将来のDirectXに入る機能であるため、詳細は明らかにされなかった。また、WGMを実現するためには、WGM側が各種のゲーム関連ハードウェアの情報を持ち、最適にコンフィギュレートすることが必要となるため、ハードウェア進歩の速いPCの世界で、はたしてデモのように簡単にいくかどうかはまだわからない。

 このほかの将来版DirectXの機能としては、ジオメトリモーフィングとブレンディングが予定されている。また、Direct3DとDirectDrawの統合はさらに進め、パフォーマンスと使い勝手のチューニングを継続して高めるという。オーディオ機能では、DirectSoundとDirectMusicの統合を行なう。また、各種オーディオエフェクトをサポートし、ハードウェアアクセラレーションを可能にするという。ストリーミングオーディオとDirectMusicの同期再生もできるようにするそうだ。現在あまり高い評価を受けていないDirectPlayも大きく手が入る。安定性やパフォーマンスを高めるほか、より多くのユーザーをサポートできるように拡張するという。


●OSカーネルの変更が影響か?

ショーケースの模様
ショーケースの模様
 以上が将来版DirectXの機能だが、これまでのようにこの機能がDirectX8に入るといった言い方はされなかった。DirectX8に入るかDirectX9に入るかは、フィードバックなどを経て決まるという慎重な言い方となった。

 また、スケジュールに限らず、今回のMeltdownでは、将来の展開についてのプレゼンテーションがやや薄かった。これまでのMeltdownやDirectX関連セミナーでは、次のバージョンについて、突っ込んだ説明を行なうことが多かっただけに、これは目についた。このあたりは、DirectX8がメインターゲットとする2000年のコンシューマ用OSが、Windows NTカーネル(Neptune)からWindows 98カーネル(Consumer Windows in 2000)へと変更になってしまったことと関連があるのかも知れない。この変更は、DirectXの開発には大きく影響した可能性がある。

 もっとも、Meltdownでは開発者にWindows 2000を開発環境として推奨。開発側だけでもNTカーネルへの移行を促していた。Windows 2000に入っているモジュールは、基本的には現行のDirectX6.1だが、DirectX7の機能はWindows 2000コードベースの上で十分テストしていると強調する。

 ちなみに、次のDirectX8は、OS(Consumer Windows in 2000)のリリースと同期しないで、それより前に出すという。恒例の夏ではなく、春頃のリリースとなりそうだ。

 このほかのMeltdownで目立ったのはDreamcastのWindows CE上でのアプリケーション開発のセッションがあったことだ。Dreamcastプラットフォームの特性や、アーキテクチャ、開発環境などに関しての概要が説明された。また、比較的小規模だったプロダクトショーケースでは、Matoroxが最新のMillennium G400シリーズで人だかりを集めていた。同社は1つのAGPスロットに挿したG400で、2台のディスプレイをサポートするDhualHead機能などをデモした。


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('99年6月11日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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