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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

PCの3Dゲーム性能が2001年にはPlayStation2を超える?


●倍々ゲームでPCの3Dグラフィックス性能が向上

 PCはゲームプラットフォームとして今後も発展し、3Dグラフィックスのパフォーマンスは、すぐに「PlayStation2」に追いつく。

 Microsoftは、シアトルで開催(6月7日~9日)したゲーム開発者向けカンファレンス「Meltdown」で、こんなビジョンを示した。同社によると、PCの3Dパフォーマンスは、2000年の終わりには2,500万ポリゴン/秒を超え、フィルレートも12億ピクセル/秒に達するという。つまり、年に2倍以上のペースで性能が伸びると見ているわけだ。このペースなら2001年の終わりにはPlayStation2の性能(最大7,500万ポリゴン/秒、24億ピクセル/秒)に追いつくことになる。

 MicrosoftのDirectX部隊が、PCの3Dハードウェアの進歩をここまで大きく予測するのには理由がある。それは、DirectXの改良により、より高いパフォーマンス、より進んだフィーチャをグラフィックスハードウェア側が実現できるようにしようとしているからだ。そして、そのマイルストーンとなるDirectX7のβ1版は、Meltdownの少し前にリリースされた。


●ハードウェアジオメトリ処理のサポートがDirectX7の目玉

 3Dグラフィックス面でのDirectX7の目玉は、ハードウェアによるトランスフォーム(座標変換)&ライティング(T&L)をサポートしたことだ。3Dグラフィックス処理のパイプラインは大まかに言って、トランスフォーム→ライティング→セットアップ→レンダリングという流れになる。このうち、レンダリングとセットアップは3Dビデオチップが担当するようになったが、いわゆるジオメトリ処理と呼ばれるT&Lの処理は、これまでのPCではCPUによるソフトウェア処理が一般的だった。

 3Dビデオチップが、ジオメトリハードウェアを持たなかった理由は、いくつかあるが、最大のポイントはDirectXがサポートしていないなかったことだ。しかし、DirectX7ではその方針が大転換となり、ビデオチップ側のジオメトリハードウェアをDirectXが利用できるようになる。つまり、DirectX7のジオメトリAPIを使うゲームなら、自動的にジオメトリ処理のハードウェアアクセラレーションが使えるようになるわけだ。実際に、Meltdownでは、 DirectX7でのハードウェアジオメトリのデモが行なわれた。このデモは、正味1週間半の突貫作業で行なわれたという移植のため、パフォーマンスはまだ出し切れていなかったが、可能性は十分感じることができた。


●ビデオチップへのジオメトリハードウェア搭載が進む

 DirectX7のこの動きに、ビデオチップベンダーも敏感に反応しているようだ。Microsoftのプレゼンテーションによると、今年の秋までに4つのメジャーチップベンダーがT&Lをサポートしたチップを出し、さらに来年はもっと多くのチップが登場するという。すでに、NVIDIAやS3などは、カンファレンスや発表会で、次世代チップでのジオメトリハードウェアの取り込みを明確にしている。今年後半は、ジオメトリ搭載次世代3Dビデオチップの発表ラッシュとなりそうだ。

 ハードウェアジオメトリ処理への壁が取り払われることで、ビデオチップはCPUのジオメトリ処理性能に歩調を合わせる必要がなくなる。コストさえ考えなければ、ビデオチップ側だけで3D性能をどんどん上げることができるようになる。高機能化レースに走るチップベンダーは、これをチャンスと捉えているようだ。 3Dチップメーカーは、CPU性能がある程度まで上がってしまった今では、PCの差別化のポイントはCPUからビデオチップに移ったと主張する。つまり、PCメーカー各社が、ビデオチップに比重を置いて製品の差別化を図り始めたので、高パフォーマンスなビデオチップの可能性が開けているというのだ。


●CPUがビデオチップのライバルに

 ただし、これはビデオチップの高性能化レースが、より熾烈になることを意味している。とくに重要なのは、ジオメトリ処理をCPUからビデオチップに移すことで、チップベンダーはCPUと競争をしなくてはならなくなってしまったことだ。ビデオチップが、中途半端な性能のジオメトリハードウェアを搭載すると、高速化するCPUにすぐに追い抜かれてしまう可能性がある。チップを出して半年後には、CPUでソフトウェア処理した方が速いという事態にもなりかねない。CPUの高速化に負けないペースで性能を強化していかなくてはならないだろう。

 しかし、そうやって3Dアルゴリズムをハードワイヤドでどんどん取り込むことで、ビデオチップは肥大化する。現在のビデオチップの多くはPentium IIIクラスのトランジスタを集積しているが、次はPentium IIIを大きく超えることになる。実際に、WinHEC 99でnVIDIAは次のビデオチップがMercedと同等クラスの集積度になると言っている。その膨大なトランジスタを経済的なチップ面積に取り込むためには、当然、最先端の製造プロセスを使わなくてはならない。おそらく、次のチップではほとんどのメーカーが0.18ミクロンプロセスを使ってくる。

 だが、実際にビデオチップの、製造を担当するファウンダリ(半導体製造メーカー)のスキルで、どの程度の歩留まりで製造をスタートできるかはまだ未知数だ。また、パフォーマンスを向上させるためには、ビデオチップのクロックも上げていかなくてはならないが、これも製造プロセスの微細化が進むと難しくなる。さらに、ビデオチップの場合は、ノイズに弱いアナログ回路も搭載しなければならないので、ますますハードルは高い。


●PlayStation2と同じ方向を向くPCエンターテイメント

 もっともビデオチップ側もCPUと好きこのんでけんかをするつもりはないようだ。「CPUには、AIとかインタラクティブミュージックやネットワークプレイなど、やらなければならないことはもっといろいろある」(S3、Developer Relations Manager、John Carsey氏)。

 つまり、CPUは3D処理の負担が軽くなった分を、もっと他のことに回せば、総合的にゲームがもっとリッチになるというのがビデオ業界の考え方だ。面白いことに、これは、PlayStation2の考え方とも共通している。 PlayStation2では、3Dビデオのパフォーマンスも上げるが、その他に、ソニー・コンピュータエンタテインメントが「エモーションシンセシス」と呼ぶ、情感を創造するための演算コアも搭載して、より深みのあるエンターテイメントを目指す。つまり、「キャラクタの知性や感情が伝わってくるような」細やかな動きや、物理シミュレーションで構成した世界などをエンターテイメントに取り込もうとしている。それと同じことが、高性能な3Dハードウェアを搭載して、CPUパワーに余裕ができる将来のPCでも可能になるというわけだ。どうやら、コンピュータエンターテイメントの方向は、ゲーム機もPCも、同じ方向を向き始めたようだ。


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('99年6月10日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp