期待の統合型チップセットMVP4搭載マザーボード登場



 出る出ると言われていながら、なかなか実際の製品が登場しなかったSuper7プラットホーム用の統合型チップセットMVP4が出荷された。これを受けてマザーボードベンダー各社からMVP4を搭載したマザーボードが出荷されはじめ、秋葉原にはMVP4を搭載したマザーボードが並び始めている。今回はこのMVP4を搭載したAOpenのMX59 Proを取り上げて、MVP4の実力に迫っていきたい。



■ MVP4が遅れに遅れた理由は?

AOpen MX59Pro
グラフィック、サウンドがチップセットに統合されたAppolo MVP4を搭載する
 台湾のチップセットベンダであるVIA Technologies(以下VIA)のノースブリッジにグラフィックスアクセラレータを統合したチップセットを搭載したマザーボードが秋葉原で販売され始めたことは、5月15日のAKIBA PC Hotline!でお伝えしたとおりだ。その統合型チップセットとはApollo MVP4(以下MVP4)で、VIAとグラフィックスアクセラレータメーカーとして著名なTrident Microsystems(以下Trident)が共同で開発した製品だ。もちろん、VIAがチップセット部分をTridentがグラフィックスアクセラレータ部分を担当している。

 さて、このMVP4だが実は発表自体は昨年の夏に行なわれていた。VIAの8月10日付けのニュースリリース( http://www.via.com.tw/news/98mvp4nr.htm )を見ればわかるように、既に昨年の8月の時点で発表し、筆者がVIA広報担当者に聞いた限りでは「11月のComdexには製品を出荷する」という話になっていた。ところが、実際には製品が出荷されたのは今になってしまったのだから、実際のところ半年近い遅れがでてしまっている。なぜ、こんなに実際の製品出荷が遅れてしまったのだろうか?

 筆者がVIAのOEMベンダーなどやVIA自身から聞いた話を総合すると、この遅れには2つの理由があるようだ。1つめはVIAが公式に述べている出荷延期の理由だが、VIAとTridentというバックボーンも異なる2つの企業が共同作業を行なう上で、予期していなかった様々な問題が発生し、結果的に出荷時期が遅れてしまったというものだ。なるほど、異なる2つの会社が初めて共同作業を行なうわけだから、確かにそうした問題は起きる可能性は高いだろう。それを裏付けるように、あるOEMベンダーは3月にドイツで開催されたCeBITの時点で「Tridentから毎日のようにドライバのアップデートがあり、いつ出荷できるレベルになるのか頭を抱えている」と述べ、MVP4の出荷が遅れている原因が暗にビデオドライバ周りにあることを認めている。

 もう1つの理由としては、VIAのチップセットコア自体がなかなか安定するバージョンにならなかったということがあるようだ。筆者がメモリに関する取材を行なった時に、国内の大手メモリベンダー関係者はVIAに自社のエンジニアを派遣してバグフィックスを行なっていることを明らかにした。つまり、VIAだけでは解決できない何か、ないしは時間的に追いつかないトラブルをMVP4は抱えていた可能性が高いと言える。

 これらの問題を解決できたからこそ、MVP4は出荷された訳だが、技術の進歩が激しいPC業界において半年間は一般的な産業の3~4年にも相当すると言ってよい。そういう意味において、MVP4はいきなり出だしから躓いてしまった訳だ。


■ MVP4のメリットは低コストなSuper7パソコンを作れること

Apollo MVP4のノースブリッジVT8501。Trident MicrosystemsのrCADE アクセラレータコアを統合した統合型チップセット
 MVP4がエンドユーザーにもたらすメリットは低コストと新メモリという点につきるだろう。MVP4が従来のチップセットを搭載したマザーボードに比べてコストダウンできる点は以下の3点だ。

(1)グラフィックスアクセラレータがノースブリッジに内蔵されていること
(2)AC'97コーデックによりサウンド機能を実現できること
(3)スーパーI/Oが統合されている

 前述のように、MVP4にはTridentのグラフィックスアクセラレータのコアがノースブリッジに統合されている。このコアはTridentのrCADE 3D アクセラレータと呼ばれているもので、2D/3Dアクセラレーション機能のほか、DVDアクセラレーション機能、DFP(Digital Flat Panel)インターフェイス、230MHzのRAMDACなど最新のグラフィックスアクセラレータとしては必要な機能は一応押さえられている。ディスプレイに表示する内容を展開するためのフレームバッファは、ローカルバスで接続され、いわゆるビデオメモリとしては用意されていない。このため、メインメモリの一部をフレームバッファとして利用するUMA(Unified Memory Architecture)方式が採用されている。MVP4は起動時に、メインメモリからBIOSセットアップで設定した容量が確保される仕組みになっており、標準設定では8MBがフレームバッファとして確保される。

Apollo MVP4のサウスブリッジVT82C686A。Ultra ATA/66にも対応している MX59 PROに採用されているAC-linkに対応したオーディオコーデック。AC-linkに対応したオーディオコーデックとしては最もメジャーなAnalogDevice社のAD1819A
 MVP4はAC'97で規定されているAC-linkをサポートしている。これまでのPCではオーディオ機能はオーディオコントローラにより実現されていたが、AC-linkを使えばこのオーディオコントローラを省略することができる。マザーボードにはAC'97に対応したオーディオコーデック(アナログとデジタルを変換するチップ)を搭載するだけで、オーディオ機能を実現できる。つまり、オーディオコントローラにかかっていたコスト分(10ドル程度)はコストダウンを実現できる訳だ。しかし、これまでオーディオコントローラが担当していたオーディオの処理は、ソフトウェアで行なう必要がある。つまりオーディオコントローラを搭載している場合に比べて、オーディオ再生時のCPU負荷率が高くなってしまう点はデメリットと言えるだろう。またMVP4は、MVP3では別チップだったスーパーI/O(シリアル、パラレル、FDDなどをISAバスに橋渡しするチップ)はサウスブリッジに統合された。このチップもわずか数ドル(数百円)ではあるが、コストダウンには役に立っている。

メルコのVC SDRAMを搭載したDIMMモジュールVC-64M。133MHz動作も保証されている
 MVP4のもう1つのメリットは新しいメモリをサポートしていることだ。従来のMVP3ではSDRAMとDDR SDRAMというメモリしかサポートしていなかったのだが、今回のMVP4ではNECが開発したVC SDRAMもサポートされている。VC SDRAMはメモリセルとメモリの入出力の間にチャネルと呼ばれるキャッシュのようなコントローラを入れることで、直接メモリセルにデータを書き込んだり読み込んだりするよりも、高速なアクセスを可能にしたSDRAMだ。基本的にはこれまでのSDRAMと大きく変わらないので、SDRAMとほとんど同じコストで作れるというメリットを持っている。既にメルコからVC SDRAMを搭載したメモリモジュールであるVC-64M/128Mも発売されており、実際に秋葉原で販売されている例もある。

 しかしながら、今回編集部で購入したMX59 ProとVC-64Mの組み合わせでは起動すらしなかった。そこで、AOpenの日本代理店である日本エイサーに確認したところ、現在のリビジョンのMX59 Proではチップセット自体の問題とBIOSの問題から正式にサポートできる状態ではないとの回答を得た。日本エイサー側でもMX59 ProではVC SDRAMはサポートしないと明言して販売しているそうで、パッケージやマニュアルにもVC SDRAMをサポートするという表記はない。

 そこで、MX59 ProでVC SDRAMが動作すると告知していたメルコに問い合わせたところ、実はMX59 Proの開発バージョンのBIOSで動作確認がされたことがわかった。どちらにせよMX59 Proでは動作しないということには変わりなく、今回はVC SDRAMでの動作を確認することはあきらめることにした(なお、メルコではMX59 ProでVC SDRAMが動作すると考えてVC-64M/128Mを購入したユーザーに関しては返品に応じるとしている)。期待のVC SDRAMの船出がやや躓いた形になってしまったのは残念だが、(普及すれば)既存のSDRAMとほぼ変わらないコストですむVC SDRAMの魅力は決して小さくない。そうした意味ではSlot1環境でVC SDRAMをサポートするApollo Pro 133に期待したい。


■ 一般アプリケーションの描画性能は問題なし

 では、MVP4のパフォーマンスに関して、ベンチマークを利用して検証していこう。今回はCPUにK6-III/400を利用してMVP4のパフォーマンスを計測した。比較対象として同じSuper7プラットホームのAladdin V+K6-III/400+Voodoo3 3000とP6バスのP2B+Celeron 400MHz+Voodoo3 3000を用意し、同じクロックのCPUと最新のビデオカードを用意した場合に比べてどの程度の性能差があるかを見てみることにした。なお、MX59 Proには標準ではWindows NTのドライバは付属していないので、AOpenのホームページからダウンロードしたものを利用した。

 なお、本コーナーでシステムの性能を計測するときには、通常アプリケーションを4種類(ビジネスアプリケーション、ハイエンドアプリケーション、マルチメディアアプリケーション、ゲーム)にわけてベンチマークを行なっているが、今回のMX59 Proではマルチメディアアプリケーションのテストとして利用しているMultimediaMark 99が正しく動作しなかったので、この項目に関しては省略した。

(1)ビジネスアプリケーション

 ワープロや表計算といったビジネスアプリケーションにおけるパフォーマンスを評価するためには、Ziff-Davis,Inc.のWinstone 99 Version1.0に含まれるBusiness Winstone 99を利用した。Business Winstone 99は、Microsoft Office 97やNetscape Navigatorなどの実在のビジネスアプリケーションのコードを利用してPCのパフォーマンスを計測するもので、ユーザーの体感に比較的近い数値がでるとして、世界でスタンダードなベンチマークとして利用されている(ただし、Winstone 99は日本語Windowsでは動作しないので、英語版Windows NT Workstation 4.0上で実行した)。

【Business WinStone99】
 AOpen MX59 ProMSI MS-5169+
Voodoo3 3000
ASUSTeK P2B+
Voodoo3 3000
Business Winstone 9926.730.227.4
※1,024x768ドット、16bitカラー、リフレッシュレート85Hzで計測した

 Business WinStone99の場合、どの環境でもあまり差はなかった。これだけの数値がでていれば、実際にアプリケーションを使っている場合に差を体感することはまず難しいと考えることができる。そう考えれば、ビジネスアプリケーションでは数字にこそ差はでるが、全体的なパフォーマンスに不満を感じることは少ないと考えていいだろう。

(2)ハイエンドアプリケーション

 フォトレタッチやビデオ編集などのハイエンドアプリケーションを使う上でのパフォーマンスを計測するためには同じくZiff-Davis,Inc.のWinstone 99 Version1.0に含まれるHigh-End Winstone 99を利用した。High-End Winstone 99はフォトレタッチソフトのAdobe Photoshopやビデオ編集ソフトのPremireなどの実在のハイエンドアプリケーションのコードを利用してパフォーマンスを計測するテストで、やはりユーザーの体感に近いということには定評がある。

【High-End WinStone99】
 AOpen MX59 ProMSI MS-5169+
Voodoo3 3000
ASUSTeK P2B+
Voodoo3 3000
High-End Winstone 9920.423.521.8
※1,024x768ドット、16bitカラー、リフレッシュレート85Hzで計測した

 このテストでもMX59 Proは他の2つの環境と比較しても遜色のない数値を叩き出した。確かに、若干Aladdin Vを搭載したMS-5169に負けてはいるが、体感できるほどの差ではない。

(3)3Dゲーム

 3Dゲームに関してはゲームベンチを行なおうと思ったのだが、MVP4のドライバはVSYNCをオフにする機能を持っていなかったため、フェアな結果を期待することができないので、今回は見送ることにした。そこで、今回はFutureMarkの3DMark99 Maxで3D描画性能を計測することにした。

【3DMark99 Max】
 AOpen MX59 ProMSI MS-5169+
Voodoo3 3000
ASUSTeK P2B+
Voodoo3 3000
800x600ドット16bit/85Hz1,0222,3563,273
800x600ドット32bit/85Hz597d/sd/s
1,024x768ドット16bit/85Hz6892,3573,253
1,024x768ドット32bit/85Hzd/sd/sd/s
※d/sはその解像度を元々サポートしていないことを意味している

 結論から言えば最新のVoodoo3と比較してMVP4の3D描画能力はあまりに低い。ちょっとお話にならないような数値しか出ていない。今回は掲載していないが、かなり古い世代になってしまったIntel740やRIVA128でもXGA(1,024×768ドット)で1,000を越える数値が出ることを考えると、3Dに関してはIntel740やRIVA128にも及ばないと考えるのが妥当だろう。今回はゲームベンチをやっていないため、ゲームでのパフォーマンスに関しては未知数だが、最新の重いゲームをやるにはやや力不足だと言わざるを得ない。

(4)サウンド再生時のCPU負荷率

 サウンド再生時のCPU負荷率がどの程度違うかを計測するためにZiff-Davis,Inc.のAudio WinBench 99に含まれるCPU Utilizationを実行した。これはDirect Soundを利用してオーディオ再生を行ない、その時のCPU負荷率を計測するテストだ。今回は44.1Hz、16ビットのオーディオファイルを通常の再生時とストリーミング再生時のCPU負荷率を取り上げてみた。MS-5169、P2BにはYAMAHAのYMF-724を搭載したPCIサウンドカードを追加して、オーディオコントローラのあるなしがどの程度CPU負荷率に影響するのかを見てみることにした。

【Audio WinBench 99】
 AOpen MX59 ProMSI MS-5169+
Voodoo3 3000
ASUSTeK P2B+
Voodoo3 3000
Static:Voice 3274.365.453.7
Streaming:Voice 3273.065.651.4
※DirectSound 3D CPU負荷率(単位%、44.1kHz/16bit、1,024x768ドット、16bitカラーリフレッシュレート85Hzで計測した)

 CPUで再生を行なっているMVP4を搭載したMX59 Proは、PCIのオーディオコントローラを利用している場合に比べて10%程度負荷率があがっている。しかし、思ったほどあがっている訳でもなく、アプリケーションが必要としている処理能力に比べてCPUが持つ処理能力が上回っていることを考えると、悪い選択ではないと言えるだろう。

【テスト条件】
CPU
Super7:K6-III/400
Slot1:Celeron 400MHz
メモリ128Mバイト(PC/100 SDRAM)
ハードディスクQuantum Fireball EX6.4
※ビデオのドライバはすべて製品に添付されていたものを利用(MX59 ProのWindows NTを除く)



■ インテルの攻勢に耐えることができるのか?

 こうしたパフォーマンスを見ていくと、3Dの描画能力があまりに低いことが非常に目に付く。ここに、MVP4の出荷が遅れたしわ寄せが来ていると考えることができるだろう。MVP4が発表された8月は、現在話題になっているRIVA TNT2の前のバージョンであるRIVA TNTすらまだリリースされていない時期だ。このコーナーでも毎週のように3Dアクセラレータを取り上げていることからもわかるように、それこそ日進月歩の世界だ。そう考えると、昨年の8月に発表されたMVP4の3D描画機能が既に陳腐化しているとしても致し方ないところではある。

 だからといってMVP4がだめだなどと言うつもりはない。現在大手メーカー製低価格PCではSiSの統合型チップセットSiS 530が採用されている。SiS 530の2D/3D描画機能はMVP4よりもさらに低いが、そのことは問題とされていない。あるメーカーの担当者によれば、ユーザーにアンケートを採るとプライオリティ(優先順位)の最も高い項目は価格で、2番目はインターネットだという。ちなみに、CPUは5番目で、グラフィックスアクセラレータなどはランクインもしなかったそうだ。そうしたことからわかるように、低価格PCでは価格とインターネット対応が何よりも重視されており、3D描画機能がよいか悪いかは重要なポイントではないのだ。そうした低価格PC市場ではMVP4はSiS 530に比べて高速で、値段もあまり変わらないようなので、悪い選択ではないだろう。

 ただ、既にインテルはIntel810という統合型チップセットをリリースしており、6月には量産出荷に入るという。Intel810はグラフィックスアクセラレータのコアにIntel740の後継であるIntel752を採用している。そうしたことを考えると、Intel810はかなり高い3D描画能力を持っている可能性が高く、実際に筆者が入手したエンジニアリングサンプルでテストしたところ、3DMark99 Max(1,024×768ドット)で2,000を越える数値を叩き出している(CPUはCeleron 400MHz)。今回は製品版が入手できなかったのでグラフにはしなかったが、性能面で優れたIntel810+Celeronという組み合わせが、K6-2+MVP4よりも魅力的な組み合わせとなる可能性が高い。そうなった時に、大手メーカーがどういう選択をするのか注目したいところだ。

 さて、自作ユーザーにとってはどうだろうか? 自作ユーザーの場合は、当然3D描画性能は重要な評価ポイントの1つになるだろう。そう考えるのであれば、残念ながらMVP4を搭載したマザーボードはあまりよい選択ではない。ただし、3D描画性能の弱さはVoodoo2のような3D専用カードを持っているユーザーにとって、プライマリのグラフィックスアクセラレータは2D表示ができればよく、3D性能はあまり重要ではないだろう。そうしたユーザーができるだけ安く、それなりのセカンドゲームマシンを作りたいといった用途には悪い選択ではないだろう。

 ただし、自作市場においてもIntel810の3D描画性能がかなり高かった場合は、そうしたユーザーもそちらに流れていく可能性が高いだろう。現在ショップなどに聞くと、Intel810も1万円台半ばで登場すると言われている。現在のMVP4搭載マザーボードの価格帯もほぼ同等であり、このままでは勝負にならないことは明らかだ。Intel810搭載マザーボードが登場する前にどこまで価格が下がるか、それがMVP4搭載マザーボードの評価を大きく左右すると結論づけたい。

□AKIBA PC Hotline! 関連記事
【5月15日】VP4チップセット搭載マザーが3種類販売開始
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/990515/etc.html#mvp4
【5月22日】新型メモリ「バーチャルチャネルSDRAM」の販売スタート
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/990522/etc.html#vcsdram
□関連記事
【5月17日】インテル、モバイルCeleron 366MHzとモデム/オーディオ統合チップセット
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990517/intel_2.htm


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[Text by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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