IntelとAMDの、MPU価格引き下げレースがニュースになっている。
まず、Intelは、Pentium IIIプロセッサ550MHzの発表と同時に、Pentium II/IIIラインの価格を大きく引き下げたようだ。「More Intel price cuts due next week, 550-MHz Pentium III to debut」(Electronic Buyer's News,5/13)は、Intelに近い筋からの情報として、Pentium III 500MHzの価格が637ドルから483ドルへとスライドしたと伝えている。しかし、500MHz版よりも劇的なのはPentium III 450MHzで、こちらは411ドルから273ドルへと下がっている。
Pentium IIIの価格スライドに応じて、Pentium IIの価格も落ちてきたようだ。記事によると、Pentium II 450MHzは、396ドルから273ドルへと下がったという。そう、Pentium IIIとPentium IIは同クロックなら同じ価格になったのだ。これまでも、IntelはPentium IIとPentium IIIでほとんど価格差をつけないでいたが、今回の価格調整で完全に同じ価格となった。となると、ストリーミングSIMD拡張命令(SSE)というオマケのある分だけ、Pentium IIIの方がいいに決まっている。必然的にPentium II 450MHzは消え去る運命になる。
ところで、Intelは、Pentium II/IIIプロセッサの価格を基本的に200ドル以上、Celeronは200ドル以下と区切っている。そのため、Pentium II/III系は200ドル台が最終プライスで、Pentium III 450MHzは、早くもその価格に入ってしまった。ちなみに、200ドルを切ったPentium II/IIIは消え去るフェイズに入る。Intelは、200ドルを切ったPentium II/III系プロセッサを使って、PCメーカーが新規モデルを出すことをあまり推奨しないと言われている。
では、Pentium II 400MHzはどうなったかというと、記事によると、ボリュームプライスで234ドルから181ドルに下がったという。こちらは、ついにボーダーの200ドルをまたいでしまったのだ。つまり、Pentium II 400MHzは消滅モードに入ったわけだ。もっとも、これは、Celeronに動作クロックで逆転されているのだから当然と言えるだろう。
Intelは一応その下のPentium II 350MHzにも価格はつけている。163ドルだ。しかし、Pentium II 350MHzはPentium IIIが登場した時点ですでにこの程度の価格にまで下がっていた。つまり、価格はついているけれど、ほぼ供給はしていない。既存のラインナップでPentium II 350MHzモデルがあって、それを継続して出したいOEMに向けただけの価格のように見える。
この記事の伝えるIntelのMPU価格で興味深いのは、Intelが以前に計画していた価格よりも引き下げ幅が大きいことだ。Intelは、今年頭にPentium III 533MHzを6月に出すことを計画していたが、その時の計画ではこの時点でのPentium III 450MHzの価格は300ドル台を予定していた。実際の価格は、それよりも若干だが下がったわけだ。つまり、Intelは価格引き下げ攻勢の手をまだゆるめていない。
●AMDはK6-III 450MHzをPentium IIIより下の価格へ
さて、Intelが価格を引き下げると、AMDも当然価格を下げなくてはならない。「AMD to cut prices in line with Intel」(NEWS.COM,5/14)が伝えるAMDの価格スライドは、K6-III 450MHzが397ドルから220ドル、400MHzが237ドルから185ドルと、こちらもなかなかアグレッシブだ。
AMDは、K6-IIIの発表時にその価格を同クロックのPentium IIとぴったり同じにつけてきた。K6-IIIの発表価格は、K6-III 450MHzは476ドル(1,000個時)、K6-III 400MHzは284ドルで、これはそれぞれPentium II 450MHz、400MHzと同じ価格だった。AMDは、それまでPentium II系に対しては、同クロック品なら「手頃な価格」、つまり25%安い価格をつけてきた。しかし、AMDはK6-IIIでMPUの平均販売価格(ASP)を引き上げるため、Pentium IIと同じ価格でぶつけたわけだ。
しかし、今回はK6-III 450MHzはPentium II/IIIよりかなり低い価格につけてきた。これはおそらく、現実問題として同じ価格で競争ができなかったからではないだろうか。一方、K6-III 400MHzはそれよりは強気の設定だ。これは、Intelの供給の狭間をつけると見たからだろうか。しかし、K6-III 400MHzは、100ドル近辺にまで落ちてきていると言われるCeleron 400MHzよりもかなり割高で、クロックドリブンのコンシューマ市場では分が悪そうだ。
●激しいK6-2対Celeronの価格戦争
では、K6-2プロセッサの方の価格はどうなっているのだろう。「AMD cuts prices, reports improved yields」(Electronic Buyer's News,5/17)によると、AMDはこちらの価格も引き下げたという。K6-2 475MHzが152ドル、450MHzが112ドル、400MHzが82ドルだそうだ。これに対して、CeleronのOEM向け価格は、業界関係者の情報によると、466MHzが169ドル、433MHzが143ドル、400MHzが103ドルだという。つまり、AMDの方が20%かそれ以上ほど安いことになり、K6-2の方はかなりコンペティティブな価格付けを考えているように見える。
だが、実態は違うようだ。「Intel Schedules Unexpected Price Cut」(Computer Retail Week,5/19)によると、ローエンド市場では競争が激しくなっており、MPU価格は実質的に下がっているという。たとえば、PPGA版Celeron 366MHzは、71ドルで売るはずが、実際には68ドルで売られているという。つまり、実際には差はずっと小さいだろう。
また、IntelはCeleronの価格もスライドさせるつもりだという。じつは、今回のPentium III価格スライドの時点では、IntelはCeleronプロセッサの価格は変えていない。据え置きになっている。だが、この記事によると、Intelは6月6日にCeleronの引き下げも計画しているという。しかも、これは計画にない価格引き下げだという。もしそうだとしても、このAMDの価格を見れば不思議はない。
●相変わらず苦しいAMDのふところ
Intelは、現在Celeronのローエンドを実質60ドル台で売っている。そのため、AMDはより低い価格をつけなければならない。「AMD cuts prices, reports improved yields」(Electronic Buyer's News,5/17)によると、K6-2の366MHzは61ドルで、同クロックのCeleronよりも、10%ほど安く売っているようだ。そして、その下のローエンドのK6-2 333MHzだと51ドルだという。これは、もうフリーPC向けMPU以外のなにものでもない。
だが、AMDが売れ筋のK6-2 450MHzの価格を112ドルとつけざるをえなかったのは厳しい。AMDはASPを100ドルより上に引き上げることが目的だが、それを達成するのが、ますます難しくなってしまったからだ。
「Can troubled AMD recover?」(Electronic Engineering Times,5/10)によると、AMDは歩留まりで苦しんだために、今年第1四半期のMPU生産数は430万個と、昨年第4四半期の500万個から落ちたという。特に、高スピード品の歩留まりが悪かったために収益が悪かったという。そのため、AMDのASPは78ドルだったという。AMDにとって、道のりはまだまだ険しそうだ。
('99年5月21日)
[Reported by 後藤 弘茂]