第5回:携帯電話+PHS=2倍オイシイ? |
これまで便利そうに見えるけどヒット商品にはならない。そんな複合機能型製品は数多く出てきた。事務機でのコピー、プリンタ、FAXの複合機を除けば、たいていの複合機、特に家電の分野ではテレビデオの例を出すまでも無く、オーブンレンジのように本質的に似た機能を一つにした例を別にすれば、これまで成功した例を探すほうが難しい。
果たしてドッチーモは本当に便利なのか。携帯電話は利用形態によって評価が大きく変わるものだが、ここでは僕が外出先で利用してみての感想を交えながら、携帯電話とPHSの複合機について考えてみたい。
■ 携帯電話+PHS=2倍オイシイ?
シャープ SH811 NTTドコモの「ドッチーモ」対応端末。携帯とPHSは、液晶下の細長いボタンで切り替える |
個人的にはそれほどメリットだとは感じないのだが、よく言われるのが移動時に切れにくい、都市部以外で強いなどの性能面での差だが、PHSに「ティーンのための遊びグッズ」というイメージがあることも確かだろう。特に仕事でお会いした若い女性などに「え? 本田さんって、携帯電話持っていないんですか?」と驚かれたりすると、何の非もないのに少し気恥ずかしい気がしてしまう。20代の若い男性ならば「やっぱ社会人は携帯でしょう」と思っても仕方がない。
しかし、PHSには32~64kbpsという高速通信機能があるし、音質は携帯電話をはるかに凌ぐ。人によって感じ方は異なるだろうが、僕は別次元の音質を実現した携帯電話のcdmaOneよりもPHSは音質がいいと思う。また、都市部であれば地下街やデパート内部などでも利用できることもメリットと言えるだろう。さらにハンドオーバー機能の改善により、車で移動時にも都内であればかなり使えるレベルにまで性能も向上してきた。確かに移動電話として捉えたとき、ちょっとしたビルの陰で電話が使えず不便に思うことがないわけではないが、少し場所を変えればいいだけだ。PHSがそれほど大きな欠点をもっているようには思えない。
このような状況を考えて、僕は東京都市部でモバイル用として使いやすいPHSを選んできたわけだ。携帯電話の9.6kbpsという速度は、専用プロトコルを使う10円メールならば遅さを感じることはないが、通常のPOP3メールを読むために使うとなると少々厳しい。個人的にはcdmaOneの14.4kbpsでも不足だと予想している。携帯電話でインターネットを本気で使うなら、今年後半のcdmaOneパケット交換サービスで実現される64kbpsが最低限必要だろう。
というわけで、両方の長所を生かした使い方をするためにドッチーモは大変便利な道具、と言うのは簡単なことだ。しかし、それほど単純なものなのだろうか? いいとこ取りの2倍オイシイ電話機になったのだろうか?
■ 基本料金2倍の価値はあるの?
「ドッチーモ」では、通信接続用のコネクタが携帯電話の形で統合されている |
一方、PHSの高速通信性能、小エリア型のPHSと広域型の携帯電話の特性を併せ持つカバーエリア、PHSの音質の良さなど、そのメリットも明快だ。ここであまり美麗字句を並べてもしかたがないので、詳しくはNTTドコモのページをご覧いただきたい。このページに書かれていることは、単なる宣伝文句ではなく実際にそうした利便性があることを付け加えておく。実際、ほとんどの場所でSH-811を利用できたし、そのメリットは明快だ。しかも、コンパクトフラッシュ型のSH-611を除くと通常の電話機型の端末としては初めて64kbpsの通信速度にも対応している。
ただメリットだけでもない。携帯電話とPHSの両方に別々に加入して、別々に料金を支払う必要があるからだ。もちろん、電話番号も別々だ。つまり、PHSと携帯電話を両方購入し、ふたつ持ち歩くときと比べると、違いは1台になることによる利便性と重さだけしかないことになる(もちろん、これは大きな差ではあるのだが)。
携帯電話とPHSの両方を同じような料金プランで組み合わせる場合は少ないと思うが、ざっくりと7~8,000円の基本料金がかかる。携帯電話ユーザーにとっては2倍というわけではないが、PHSユーザーから見ると2倍以上の基本料金である。よほど長時間携帯電話を使う人であれば、ホームページで紹介されているような経済性のメリットも活きてくるだろうが、そうでないユーザーにとっては少々高すぎる料金ではないだろうか?
同時に加入するのだから、もっと安くしろという意見もあるだろう。しかし、PHS事業はもともと別会社として起こしたNTTパーソナルの資産を経営難を救う形で買い取ったものである。NTTドコモが、携帯電話とPHSをセットで安くサービス提供するようなことがあれば、おそらく法律的、道義的問題が噴出することは間違いない。
また、実際にモバイルで使ってみると、データ通信ではそれほど大きなメリットを感じなかったのも事実だ。もし携帯電話を普段利用していて単に高速通信だけを行ないたいのであれば、DDIポケットのTwoLink Dataサービスに対応したPCカード型端末の方が使いやすい。さらに、ドッチーモ用通信カードは携帯電話モードの通信ならば従来のPDC用が利用できるが、通信接続用のコネクタが携帯電話の形で統合されているため、PHS用の通信カードを別途用意する必要がある。携帯電話とPHSの両モードをサポートしたPCカードの発売や、パルディオ611Sのような通信カード一体型端末が今のところ予定されていないことも大きな不満点だ。
もっとも、これを一方的にダメだと切って捨てるつもりはない。電話機としての魅力そのものはあると思う。特にPHSと携帯電話を併用しているユーザーならば、SH-811を購入するメリットは十分にあるだろう。しかし、データ通信主体の使い方であれば、高い基本料金を支払うメリットは、あまり見当たらないというのが正直な感想だ。
また、両サービスのいいところを統合した形で、料金体系、電話番号、機能などを整理した本当の統合端末が登場して欲しいという気持ちもある。せっかく作り上げたPHSのインフラを、携帯電話網と別々に考えるのは少々ナンセンスだ。将来的に両方の通信網が統合の方向に(法律的にも)進むことを期待していたい。たとえばNTTドコモ以外の携帯電話キャリアとPHSキャリアの提携があってもいいだろう。そうした既成事実を積み重ねることで、将来の理想は作り上げられていくかもしれない。
□ドッチーモ製品情報(NTTドコモ)
http://www.nttdocomo.co.jp/products/doccimo/home.html
□SH811製品情報(シャープ)
http://www.sharp.co.jp/sc/eihon/sh811/text/index.html
[Text by 本田雅一]