~新たにx86互換CPU市場に参入したRise mP6の実力とは?~



 最近、x86互換CPU市場が熱い。2年ほど前までは、x86互換CPUを開発しているメーカーといっても、AMDやCyrix(現National Semiconductor)しかなかったのだが、'97年秋にIDTが加わり、選択肢が広がった。'98年10月には、また新たなメーカーがx86互換CPU市場に参入を表明した。それが、Rise Technologyである。最初の製品となる「Rise mP6」は量産が開始されたばかりだが、そんな製品でもいち早く販売されるのが秋葉原の恐ろしいところだ。しかも、初物にもかかわらず、5,800円という手頃な価格がつけられたことでも話題を呼んでいる。その噂のCPUを入手したので、早速実力を検証してみたい。

■ 動作クロックは低いが、1ランク上の性能を実現するアーキテクチャが特徴

 現在、Rise mp6(以下mP6)には、動作クロックの違いによってmP6 266、mP6 233、mP6 166という3つの製品が存在する。ただし、mP6 266といっても、実際の動作クロックが266MHzというわけではない。mP6 266は、FSBクロック100MHzの2倍、つまり200MHzで動作するのだ(同様に、mP6 233は95MHz×2、mP6 166は83MHz×2で動作する)。
 266という表記は、Rise Technologyが定義したパフォーマンスレートで、実際のアプリケーションレベルにおいて、他社の266MHzクラスのCPUと同等の性能を持っていることを示す。National Semiconductorが採用しているP-Ratingと、同じ理屈だと思えばよいだろう(P-Ratingについては、第2回目の記事を参照してほしい)。  mP6は、実動作クロックが低くても、高いパフォーマンスを得るために、特徴的なアーキテクチャを採用している。mP6は命令デコーダが優秀で、実行ユニットの数が多いことが特徴である。mP6の命令デコーダは、同時に3つのx86命令をデコード可能であり、実行ユニットを合計8個(整数演算ユニット3個、浮動小数点演算ユニット2個、MMX演算ユニット3個)備えることで、高い命令並列度を実現している(ただし、それぞれのユニットで全ての命令を実行できるわけではない)。ダイサイズを削減するために、アウトオブオーダー機能を搭載していないなど、他のCPUとは異なったアプローチがなされていることも特徴だ。

 mP6は、あくまで1,000ドル以下(もっと言うなら、499ドルから699ドル)のPCで使われることを前提に設計されたCPUであり、製造コストを抑えながらも、十分なパフォーマンスを得るために、こうしたアーキテクチャを採用したのであろう。



■ パッケージも一風変わっている

 mP6は、パッケージの形状も変わっている。PGA(Pin Grid Array)パッケージの上に、BGA(Ball Grid Array)パッケージが載った格好になっているのだ。BGAパッケージは、ビデオチップやチップセットなどでもお馴染みのパッケージで、ピンの代わりに半田のボールによって基板に実装されることが特徴。PGAパッケージに比べてサイズを小さくできることがメリットだ。mP6では、CPUコア自体はBGAパッケージに封入し、ノートPC向けにはBGAパッケージのまま提供し、デスクトップ用(Super 7/Socket 7用)としては、BGAパッケージをPGAパッケージに変換するための基板の上に実装して提供するという。なかなか合理的で面白い方法である。

mP6の表面。中央にBGAパッケージが乗っている mP6を横から見ると、BGAパッケージの半田ボールが見える


■ マザーボードには注意が必要

 mP6は、コア電圧2.8V(MMX Pentiumと同じ)で動作するように設計されているが、Socket 7対応マザーボードならなんでも動作するというわけではないようだ。Rise Technologyのホームページには、対応マザーボードの一覧が掲載されているが、mP6を販売していたショップによると、対応マザーボードでも、動作が不安定な場合も多かったとのことなので、現時点では、人柱的な覚悟も必要のようだ。

 今回は、FICのVA-503+ Rev.1.2A(MVP3搭載)と、MicrostarのMS-5169 Rev.2(Aladdin V搭載)を用いてテストをおこなった。テスト環境は以下の通りである。ビジネスアプリケーションの実行性能、整数演算性能、浮動小数点演算性能、およびマルチメディアアプリケーションの実行性能を比べてみることにした。



■ 整数演算能力はそれほどでもないが浮動小数点演算能力は高い

 まずは、ビジネスアプリケーション実行時の性能を比べてみた。比較対象として用意したのは、K6-2/266MHzとM II-266GPである。MII-266GPは、FSBクロック83.3MHzの2.5倍(208MHz)で動作するが、P-Ratingによる性能表記は266MHz相当なので、同列に扱うことにした。ベンチマークプログラムには、Ziff-Davis,IncWinstone 99 Version 1.0に含まれるBusiness Winstone 99を用いた。Business Winstone 99は、WordやExcelなどの代表的なビジネスアプリケーションのプログラムコードを利用して、PCの総合的なパフォーマンスを測定するベンチマークである。なお、Winstone 99は英語版Windowsでないと動作しないので、今回は英語版Windows NT 4.0を導入してテストを行なった。

 結果は表1の通りである。このテストにおいては、mP6 266のパフォーマンスは、K6-2/266MHzやM II-266GPに比べると、かなり劣るという結果になった。もちろん、通常のアプリケーションを使ってみた感じでは、それほど速度に不満があるわけではないが、266MHz相当というには厳しいといわざるを得ない。

【表1:Business Winstone 99】
mP6 266M II-266GPK6-2/266
16.319.619.4

 次に、Windows 98+Direct X6.1環境において、整数演算性能と浮動小数点演算性能を計測してみた。英語版Windows NT 4.0環境のときには、FICのVA-503+を用いてテストをおこなったが、Windows 98を導入すると不安定になったので(K6-2でも同じだったので、マザーボードが原因らしい)、Windows 98環境でのテストは、MicrostarのMS-5169を用いることにした。なお、Windows 98のシステムのプロパティを開いてみると、CPUの項目には「RiseRiseRise」と表示される(画面1)。

システムのプロパティには、“RiseRiseRise”と表示される
 整数演算性能のテストには、Ziff-Davis.IncのWinBench 99 Version 1.1に含まれるCPUmark 99を、浮動小数点演算性能のテストには、同じくWinBench 99 Version 1.1に含まれるFPU WinMarkと東京大学金田研究室が開発した円周率計算プログラム「スーパーπ」を用いた。スーパーπは、本来はベンチマークプログラムではないが、計算時間に、CPUの浮動小数点演算能力が大きく反映されるので、ベンチマークプログラム代わりとしてもよく用いられている。

 結果を見てみると、なかなか面白いことがわかる。整数演算性能を測定するCPUmark 99の結果は、Business Winstone 99と同様に、M II-266GPやK6-2/266MHzに遠く及ばないが、浮動小数点演算性能が効いてくるFPU WinMarkとスーパーπの結果は、なかなか優秀だ。特に、スーパーπでは、実動作クロックが3割高いK6-2/266MHzよりも、3割近く高速に演算を行なえている。M IIやK6-2(特にM II)はインテルのチップに比べて、浮動小数点演算性能が劣ることが弱点と言われてきたが、mP6なら対抗できるであろう(ただし、実クロックが200MHz程度では、300MHzを越える速度で動作するPentium IIやCeleronにはやはりかなわないが)。


【表2:WinBench 99 /スーパーπ 】
 mP6 266M II-266GPK6-2/266
WinBench 99CPUmark 9912.619.418.8
FPUWinMark711470865
スーパーπ571秒805秒733秒
   

 最後に、マルチメディアアプリケーションにおける性能を評価してみた。測定には、FutureMarkのベンチマークプログラムMultimediaMark 99を用いた。MultimediaMark99は、MPEG1ビデオのエンコードとデコード、画像レタッチ、音声加工という4つのテストを行ない、PCのマルチメディアアプリケーション実行性能を総合的に判断するプログラムだ。

 MultimediaMark 99の結果は、K6-2/266MHz > mP6 266 > M II-266GPという順になった。マルチメディアアプリケーションでは、MMX命令や浮動小数点演算命令が比較的多く用いられるため、浮動小数点演算能力の高いmP6も健闘している。

【表3:MultimediaMark 99】
mP6 266M II-266GPK6-2/266
388344493

 mP6は、アーキテクチャと形状が変わっているだけでなく、性能的にもなかなか興味深い。他の互換CPUは、整数演算性能を高めることに重点がおかれているのに対し、mP6は、浮動小数点演算性能が高いことが特徴である。なお、試しにFSBクロックを112MHzにして224MHz動作やFSBクロック90MHzの2.5倍動作(225MHz動作)を行なってみたところ、Windows起動時に保護エラーを出してハングしてしまったので、クロックアップ耐性はそれほど高くないようだ。

 Rise Technologyでは、mP6を低価格PC向けやノートPC向けCPUとして位置づけている。米国では700ドルを切るマシンが好調だが、そのあたりのマシンに使うには、K6-2でも高いといわれている。とことん高い性能を求める人には物足りないだろうが、実売価格が5,800円でスタートしたことを考えれば、コストパフォーマンス面では、十分競争力はある。

 Rise Technologyの次の製品となるmP6 IIでは、mP6コアをベースに256KバイトのL2キャッシュが集積されるため、かなりパフォーマンスが向上することが見込まれる(K6-2とK6-IIIの関係に似ている)。mP6 IIのサンプルは、先日開かれたCeBITで展示されており、'99年第2四半期には量産が開始されるとのことだ。

【テスト環境】
マザーボード:FIC VA-503+(MVP3)、Microstar MS-5169(Aladdin V)
メモリ :64MB(PC/100,CL=3)
HDD :Quantum Fireball EX6.4
ビデオカード:Matrox Millennium G200(AGP:ビデオメモリ8MB)


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[Text by 石井英男@ユービック・コンピューティング]


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