~M II-366GPその謎に迫る~ |
パッケージと同梱品 |
CPUのラベル |
肝心のCPUだがM II-333GPなどで採用されていたフリップチップの黒いパッケージから、333GP以前に採用されていた金色の丘状突起が中央にあるようなものに戻っている。M II-366GPに関して詳しい情報を調べようと米国Cyrix社のホームページとナショナルセミコンダクタージャパンのホームページを調べてみたのだが、どこに情報は載っていなかった。従って、現時点ではCPUに刻印されている情報から全てを判断するほか無い。
M II-366GPの刻印を見ると、「100MHz BUS 2.5X」と書かれており、動作クロックはFSBクロック100MHzの2.5倍で動作する250MHzということで、FSBクロックは違うもののCPUコアの動作クロックはM II-333GPと同等になっている。CPUコア電圧も2.9Vとなっており、M II-333GPと違いはない。ここで、あまりCyrixのCPUについて知らないユーザーであれば、「全然366MHzではないじゃないか」という疑問を持っただろう。実はCyrixのM II-xxxGPという「xxx」は実クロックを意味していない。これはP-Rating(Performance Rating)と呼ばれる性能を指し示す指数で、そのCPUが他社のどのクロックのCPUに相当するのかを表している。
なぜ実クロックではなくこんな面倒な表現にしているのかといえば、同クロックのCyrixのCPUと他社のCPUを比較した場合には、アプリケーションによってはCyrixの方が優れたパフォーマンスを発揮できることがあるからだ。ユーザーがPCやCPUを購入するときには、CPUのクロックをそのCPUが持つ性能の指標としていることが多いので、実クロックを製品名に入れるとM IIの持つ本来の性能を正しく評価してもらえない可能性でてくる。そこで、CyrixではP-Ratingという指数を表示して、他社のどのクロックのCPUと同等であるかを明示しているという訳だ。
では、具体的に「他社のCPU」とはどの会社のどのCPUの事を意味しているのだろうか?。ナショナルセミコンダクタージャパンのホームページにはM II-333GPが333MHz相当であるとすることの根拠として、Ziff-Davis,Inc.のアプリケーションベンチマークであるWinstone 98を利用して計測した性能比較のグラフが掲載されている。これで見る限り、比較の対象はインテルのCeleronであり、筆者も今回のM II-366GPもCeleron 366MHzと比較されているものだとばっかり思っていた。
ところが、CMPnetなどの欧米のニュースサイトでは今回のM II-366GPから比較対象としてAMDのK6シリーズ(366MHzのK6はないので、具体的にはK6-2を意味していると思われる)も加えたことをCyrix社の広報担当者が認めたというニュースが一斉に報じられた。つまり、M II-366GPはインテルのCeleron 366MHz、AMDのK6-2/366MHzとほぼ同等のパフォーマンスを持っているとCyrixでは考えているということができるだろう。今回はそれが本当なのかをチェックするために、K6-2/366MHz、Celeron 366MHzを用意して比較テストを行なってみた。
さて、現代のPCで利用されているアプリケーションは、以下のような3つのジャンルに大きく分類することができるだろう。
(1) ビジネスアプリケーション
ビジネスアプリケーションとはワープロ、表計算、データベース、Webブラウザ、電子メールソフトなどのアプリケーションのことを指しており、普段ユーザーがPCを使う上で最も利用する頻度が高いアプリケーションといっても差し支えないだろう。こうしたビジネスアプリケーションを使う際のパフォーマンスを計測する上で、事実上の標準として利用されるベンチマークがZiff-Davis,IncのWinstone 99 Version1.0に含まれるBusiness Winstone 99だ。CPUやマザーボードのベンダーなどが自社の製品の性能の高さをアピールするような文書には必ずといってよいほど、このWinstone 99のスコアが含まれている。 Business Winstone 99はMicrosoft Office97、Lotus SmartSuite、Corel CorelWordPerfect Suite 8の3つの統合ソフトの本物のプログラムコードを利用してPCのパフォーマンスを計測するアプリケーションベンチマークで、実在のアプリケーションを利用するためユーザーの体感に近い数値がでるという定評がある。ただし、Winstone 99は日本語Windowsでは動作しないので、今回は英語版Windows NT 4.0を用意して実行した。
グラフ1 |
FSB | 倍率 | L2キャッシュ | |
---|---|---|---|
K6-2/366MHz | 66MHz | 5.5 | 66MHz |
K6-2/350MHz | 100MHz | 3.5 | 100MHz |
となる訳だ。ビジネスアプリケーションではL2キャッシュの動作クロックがパフォーマンスに与える影響が大きいため、若干CPUコアクロックが遅くともL2キャッシュのクロックが速いK6-2/350MHzの方が高いパフォーマンスを発揮するのだ。
M II-366GPの結果だが、FSBが100MHzのK6-2やCeleron 366MHzには及ばない結果しか残していない。しかし、ここで重要なのはM II-366GPはK6-2/366MHzとほぼ同等のスコアであるということだ。そこで、先ほどのべたP-Ratingの比較にK6シリーズが含まれるというニュースを思い出していただきたい。もし、P-Ratingの対象がCeleronだけだったとしたら、M II-366GPを366MHz相当というのは無理があるだろう。しかし、K6-2/366MHzとは同等の結果であるから、P-RatingがK6-2を含むのであれば366MHz相当だということは不可能ではないだろう(やや苦しい気もしなくはないが)。
【テスト環境】
マザーボード:MSI MS-5169(K6-2/M II)、AOpen AX3L(Celeron)
メモリ:64Mバイト(PC/100、CL=3)
HDD:Quantum Fireball EX6.4
ビデオカード:Matorx Millenium G200
OS:Windows NT 4.0(英語版)+ServicePack4
(2) ハイエンドアプリケーション
ハイエンドアプリケーションはフォトレタッチ、ビデオ編集、コンパイラといったプロユースで利用されることが多いアプリケーションのことを指している。こうしたハイエンドアプリケーション環境でのパフォーマンスをはかるには前出のWinstone 99に含まれるHigh-End Winstone 99が利用されることが多い。High-End Winstone 99はアドビシステムズのPhotoshopなどプロユースで利用されるアプリケーションの本物のプログラムコードを利用して、PCのハイエンドアプリケーションにおけるパフォーマンスを計測するベンチマークテストだ。
グラフ2 |
【テスト環境】
前出のBusiness Winstone 99と同じ
(3) ゲーム・マルチメディアアプリケーション
ゲームとマルチメディアアプリケーションでは2つのベンチマークを行なった。1つは3DゲームのTUROK Dinosaur Hunterで、もう1つがビデオ再生などマルチメディアアプリケーション環境におけるベンチマークとして使用したのがFutureMark社のベンチマークプログラムであるMultimediaMark 99だ。
TUROK Dinosaur Hunterは恐竜などを倒しながら進んでいくシューティングゲームで、1秒間にいくつのフレームを表示したかを計測するベンチマーク機能があるので、そちらを利用した。MultimediaMark 99はMEPG1ビデオのエンコードおよびデコード、画像のレタッチ、音声加工という4つのテストを行ない、PCのマルチメディアアプリケーションにおける性能を計測することができる。
ここでも、M II-366GPはK6-2/366MHzにも及ばなかった。やはり、ここでも浮動小数点演算能力が弱いことが大きく影響しているのだろう。MultimediaMark 99などではCeleronの半分程度のスコアしかでていない。ここでも、M II-366GPが他社の366MHz相当であるというのは相当に厳しいことだと思う。
TUROK Dinosaur Hunter | MultimediaMark 99 |
【テスト環境】
マザーボード:MSI MS-5169(K6-2/M II)、AOpen AX3L(Celeron)
メモリ:64Mバイト(PC/100、CL=3)
HDD:Quantum Fireball EX6.1
ビデオカード:Quantum3D Raven3D(Voodoo Banshee 16Mバイト)
OS:Windows 98(日本語版)+DirectX6.1
しかし、「366MHz相当」という言葉から離れて考えてみると、いきなり1万円を切って登場するなど、価格面では期待できそうだ。これが初物価格だとすれば、すぐに値段が下がる可能性もある。そうなれば、とにかく安いPCを自作したい、PCなんてWebブラウザ、ワープロ、表計算ソフトが使えればいいのだと考えているユーザーにはコストパフォーマンスに優れた選択になるだろう。
最後にここ数日で話題になっている、Cyrixの次世代CPUについて触れておきたい。THE REGISTERに掲載されているニュースによると、旭川にあるPCショップHAPPY-CATのページに、Cyrixの次世代CPUが商品リストに載ったというニュースが掲載されている(筆者が確認したところ既に消えている:3月19日現在)。THE REGISTERによると、その製品名はMXsで、なんとSocket370ベースのCPUであるという。MXsはL2キャッシュがCPUコアに統合されたCayenneコアを採用した製品で、4月の上旬には出荷される予定であるという内容だったようだ。CayenneコアはCyrixの公式のロードマップにも掲載されており、MICROPROCESSOR REPORT誌12/28号によるとその登場は99年第2四半期となっているので、そろそろでてきてもおかしくない時期ではある。もし、このCPUが本当に発売されるのであれば、Cyrix/NationalSemiconductorが挽回できるチャンスも無いとは言えず、今後の動向に注目していきたい。
□AKIBA PC Hotline! 関連記事
【3月13日号】M II-366GPのリテール版も100MHz×2.5
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/990313/etc.html#mii366ret
【3月6日号】謎だらけのベースクロック100MHz対応M II-366GPが登場
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/990306/etc.html#mii366gp
[Text by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]