2月のこのコラムで、飛び入りのような形で取り上げた製品に、ATI TechnologiesのグラフィックスカードであるXPERT128がある。同社の新しいグラフィックスチップであるRAGE 128 GLを用いたグラフィックスカードは他にも発表されているが、当時入手できたのは16MBのSDRAMを搭載した廉価版であるXPERT128のバルク品のみだった。しかし3月に入って、他モデルのバルク品が出まわると同時に、正式パッケージ(リテールパッケージ品)の流通も始まった。今回は、このリテールパッケージ品のRAGE Fury(26日に秋葉原で購入、実売価格26,800円)を取り上げたい。
このRAGE Furyは、ATIのPC向けグラフィックスカード製品のうち、最上位にあたるものだ。ローカルフレームバッファとして32MBのSDRAMを搭載し、ビデオ出力機能も備える。パッケージには、バンドルソフトウェアとしてEXPENDABLE LITE(現在開発中のゲームの体験版)、HALF-LIFE DAY ONE(HALF-LIFEの体験版)、MotoRacer2(フルバージョン)に加えて、ATI DVD Player 3.0が含まれている。ATI DVD Playerは、RAGE 128 GLが持つDVD再生アクセラレーション機能(Motion CompensationならびにIDCT)をサポートしたソフトウェアDVDプレーヤーである。今回添付されていたドライバCD-ROM(Version 601)に含まれているディスプレイドライバは、以前バルク版に添付されていたドライバ(CD Version 600)と異なり、サードパーティ製ソフトウェアDVDプレーヤーも動くようだが、無料であること、DVD再生アクセラレーション機能のサポートを考えると、やはりATI DVD Playerを使うべきだろう。
■リテール品ではヒートシンクを採用
ATIinfoプログラムで見たバルク版のXPERT128(画面1)と、リテール版RAGE Fury(画面2)の情報。ASICリビジョンはともに0である。メモリサイズ以外、ほとんど変わらない。 |
だからなのか、搭載するディスプレイメモリも、今回のRAGE Furyで使われているのも、XPERT 128と同じ最大クロック125MHzのSDRAMだ。どうやらメモリクロックの引き上げは行われなかったようだ。以前より、製品版でもメモリインターフェイスのクロックは115MHzに据え置かれるという情報があったが、それが裏付けられた恰好である(製品発表時は125MHz動作が予定されていた)。ただ、16Mbit SDRAMチップ8個を貼りつけたXPERT 128に比べ、倍の容量のディスプレイメモリを搭載するRAGE Furyの方が、64Mbit SDRAMチップを利用するため、メモリチップ数が4つと少なく、スッキリとした印象を与える。
■ ImpacTV2によるTV出力は、現在もトップクラスの表示品質
RAGE Furyの特徴の1つは、自社製のビデオエンコーダチップ(ImpacTV2)を使ったビデオ出力(TV出力)である。グラフィックスチップの左側に見える正方形のやや小ぶりなチップがそのImpacTV2である。コンポジット出力用のRCAピンジャックとSビデオ出力用のDINコネクタは、ドータカード上に取りつけられている。ImpacTV2によるTV出力は、1,024×768ドット解像度のサポートがないことを除けば、今もトップクラスの表示品質を持つと同時に、TV出力時に表示位置や表示サイズを細かくコントロールできるのが長所だ。ImpacTV2を取り囲むようなパターンは、後継となるRAGE Theater用のものだと思われるが、RAGE Theaterでも1,024×768ドットをサポートしていないことから考えて、これについては、ATIにポリシーのようなものがあるのかもしれない。
カードに左上部にあるフィーチャーコネクタ部は、XPERT 128とRAGE Furyで異なる部分の1つだ。以前取り上げたバルク品のXPERT 128では、フィーチャーコネクタ右側の12本のピンが省略されていたが、これがバルク品に限らずXPERT 128の仕様となっている。つまり、ATI独自のビデオ入力ポートであるAMC(ATI Media Channel)はXPERT 128ではサポートされず、VIP(Video Input Port)1.1相当の機能に限定される。それに対してこのRAGE Furyではすべてのピンが実装されており、AMC 2.0互換のカードとなっている。ただ、AMCコネクタを利用するカードは、事実上ATI-TV(ATI純正のISAバス対応TVチューナーカード。ISAバスは電源をとるだけで、信号はAMCでやりとりする)に限られている。しかも、ATI-TVの後継モデルであるATI-TV WonderはPCIバス経由で動画データをオーバーレイするよう仕様が変更されてしまった。すでにATI-TVを持っている限られたユーザー以外、AMC互換でなくてもほとんど問題にはならないだろう(筆者は、その数少ないATI-TVユーザーの1人だが)。
■ 以前のバルク版と比べて、リビジョンの違いによる大きな差はなさそう
というわけで、グラフィックスチップのコアクロック等、見ただけではわからない部分もあるものの、全般に今回のリテール版RAGE Furyと以前取り上げたバルク版XPERT 128の差は、あまり大きくないようだ。もちろん、ディスプレイメモリを2倍搭載していることからくる性能的な上乗せは当然あるし、ビデオ出力やAMCコネクタなど、機能的な差は存在する。だが、バルク版に使われていたRAGE 128 GLチップと今回のRAGE Furyに使われていたRAGE 128 GLチップで、リビジョンが大きく違うため、性能にも大きな差がある、ということはなさそうだ。
■ マルチテクスチャに強いTNT、32bitフルカラーモードに強いRAGE 128
それを確認する意味も含めて、最後にベンチマーク結果を紹介しよう。テストに用いたシステムは、以前に用いたものと全く同じ。ただ、ベンチマークテストプログラム自体が、新版である3DMark 99 Max Proに変わっている(旧版とは直接結果を比較できない)。また、今回用いたディスプレイドライバは、RAGE FuryとXPERT 128にRAGEFuryに付属していたCD601のドライバ(4.11.6060)を用い、Viper V550にはnVIDIAのリファレンスドライバVersion 0109(Detonatorと呼ばれるSSE/3DNow!対応版)を用いている。
【ベンチマーク結果】
3DMark 99 Max ( 800×600、85Hz、16bitZ、Triple Buffering)
Viper V550 | XPERT128 | RAGE Fury | |
ドライバ | 0109 | CD601 | CD601 |
3DMarks(16bit色) | 3741 | 3487 | 3682 |
CPU 3DMarks | 4291 | 4310 | 4309 |
Fill Rate | 77.3MT/秒 | 74.6MT/秒 | 103.6MT/秒 |
Fill Rate w/Multi Texture | 141.4MT/秒 | 96.4MT/秒 | 133.1MT/秒 |
3DMarks(32bit色) | 3198 | 3362 | 3577 |
CPU 3DMarks | 4321 | 4322 | 4317 |
Fill Rate | 62.3MT/秒 | 56.1MT/秒 | 87.1MT/秒 |
Fill Rate w/Multi Texture | 117.0MT/秒 | 77.1MT/秒 | 108.3MT/秒 |
3Dグラフィックス性能に加え、定評ある動画再生支援機能、ソフトウェアDVDプレーヤーのバンドルなど、RAGE Furyは現時点で入手可能なグラフィックスカードとしては、間違いなくトップクラスの製品に仕上がっている。問題は、それがいつまで続くか、という点にある。Riva TNT2、Savage4など、この春リリースされそうなグラフィックスチップの足音が、すぐそこまで迫っている。
[Text by 元麻布春男]