後藤貴子の データで読む米国パソコン事情
 
第17回:「'99年のPC市場は右肩下がり?」ほか


'99年のPC市場 成長率は右下がり?

●第1四半期は2000年問題が買い換えを刺激か

 話題の2000年(Y2K)問題は、'99年のPC市場をも大きく揺さぶるかもしれない。

 IDCは、'99年第1四半期の世界のPC市場は'98年同期より14.1%伸びるという予測を出した。
 その基本的理由は日本を除くアジア太平洋市場に回復の兆しがあり、欧米の景気は相変わらず良いからだが、2000年問題もPCやポータブルPCへの投資を刺激するという。
 また別の調査会社In-Stat Groupも、企業などのPC購入のピークが第3四半期までに来るため、第3四半期は前年比16.96%増の成長になると予測する。その通りになれば、'99年は秋口まで快調にPCが売れそうだ。

● 第4四半期は2000年問題が買い控えを促進か

 だが、In-Statによれば、'99年の第4四半期は7.59%増にガクンとペースが落ちるだろうという。皆が早めにPCに投資をしてしまった結果、ふつう需要が伸びるクリスマス期には買い控えが起きるというわけだ。『Y2K May Create “Scrooge-Like”Christmas for PC Market』という同社のリリースタイトルが示すように、2000年問題は(『クリスマスキャロル』のスクルージじいさんが味わったような)わびしいクリスマスをPC市場にもたらすかもしれない。

 なお、'99年全体では、パソコンの出荷台数は前年比12.2%増と、悪くはないが「通常よりスロー」なペース(In-Stat)。またIDCによると日本市場の成長率は6.2%(米国の成長率は19.3%)という。

□Worldwide Q1 1999 PC Demand with 14.1% Unit Growth over Q1 1998(IDC)
http://www.idc.com/idc7/Data/Personal/content/PS031199PR.htm
□Y2K May Create "Scrooge-Like" Christmas for PC Market(In-Stat Group)
http://www.instat.com/pr/1999/pm9902qu_pr.htm


カーナビ後進国米国で、カーPCに関心高まる

●「カーPC(車載PC)の予算1,000ドル」はケチではない

 米国でも話題だけは盛り上がっているカーPC。米国人は、いったいいくらだったら買うのか? ――答えは1,000ドルだ。CEMA(米国家電業協会)の調査によれば、1,000ドル程度のカーPCなら金を出すという人がドライバーの51%を占めたという。

 20万円のカーナビをためらいなく買っている日本人から見ると、1,000ドル(約12万円)でないと買わないというのはいかにもケチくさい。でもそうではない。1,000ドルのエレクトロニクス製品といえば、米国人にとっては超高額商品。しかも米国では、カーナビは全然普及していない。それを考えると、カーPCに1,000ドル出すつもりがあるというのは、相当な関心の高さを示しているのだ。MicrosoftやIntelが昨年あたりからインカーコンピューティングに力を入れているのは、それだけ潜在的ニーズの強さを感じているからだろう。

●カーナビ以上のものなら欲しがられる

 米国でカーナビが普及していないのは、米国がクルマ社会だからだ。モータリゼーションを前提に作られたフリーウェイやその他の道路は単純でわかりやすく、渋滞箇所も少ない。だからたいていの場合、知らないところでも地図を見れば着けてしまう。渋滞の迂回路を次々に教えてくれるカーナビが活躍する東京などに比べると、必要度ははるかに低い。そのためカーナビは贅沢品でしかなく、市場が小さいため安い製品も出回っていない。

 ではなぜカーPCには関心が高いのかというと、それも米国がクルマ社会だからだ。通勤をはじめ、どこへ行くにもクルマを使う社会で、車内にいる時間は長い。また人里離れた場所を通ることも多い。だから、ただの道案内なら不要だが、車内にいる時間を有効利用できたり、緊急時に警察やレッカー車派遣サービスに連絡できるなど、安全/安心を与えてくれるものなら欲しいのだ。

 たとえばCEMAのアンケートでは、緊急の場合に遭難シグナルを送れるようなPCを欲しいと答えた人が70%、ハンズフリーで電話できる機能が欲しいという人が51%いた。カーPCでは、そのほか、交通情報やメールのチェックを音声コマンドでできるような機能も考えられている。

 このような機能を備えたカーPCが出れば、装備が進み、価格も下がってブームが起きるかも。

□Strong Consumer Interest In Safety, Communication And Information Features Of Smart Cars(CEMA―Consumer Electronics Manufacturers Association)
http://www.cemacity.org/gazette/files3/carpc.htm


伸びたNTワークステーションはUNIXを駆逐するか

●Windows NT機は成長、UNIX機は落ち込む

 '98年は、NTワークステーションの年だった。
 International Data Corporation (IDC)がまとめた'98年の世界のワークステーション市場状況によると、Windows NTワークステーション(ワークステーションとして使われるハイエンドデスクトップ含む)の出荷数は'97年の36%アップの170万台、収入も'97年より18%アップの68億ドル。この勢いに対し、UNIXワークステーションは2年連続で収入も台数も減り、台数は60万台弱、収入は79億ドルだった。

 IDCでは、NTが台数を伸ばした理由を、従来からUNIXを使っていたワークステーションユーザーより外にユーザー層を広げたからだと分析。それに対しUNIXは、欧米でのUNIXへの投資減とアジア・日本市場の経済不況のために台数が落ち、またNTとの競争激化のあおりで平均価格も下がったために、収入も減ったとする。

 ただメーカー別では、UNIXとNTワークステーションの両方を出しているHewlett-Packard(HP)が台数でトップ。収入ではUNIXのSun Microsystemsが僅差でHPを上回った。つまり、NTは多くのメーカーが出しているが突出したメーカーがなく、UNIXはSun などの少数の大手メーカーがガッチリとシェアを握り、高額商品を売っているというわけだ。

●このままNT化が進むのか

 IDCでは、今後は、「UNIXを大量にインストールしている大企業がコアアプリケーションのエリアでNTに徐々に移行する」と予測する。
 現在は、NTによってワークステーションのすそ野が広がっているものの、ピラミッドの上の方はまだUNIXで固められている。IDCによれば、それが上の方までNTに置き換わる流れがある、というわけだ。

 しかし、IDCは、移行するとしても「徐々に」、という点を強調する。おそらくそれは、UNIX/RISCワークステーションの牙城で、Windows NT/Intelワークステーションでは切り崩せない部分があることを言っているのだろう。CPUではIntelの64ビットアーキテクチャ「IA-64」が2000年に出ると、Intelもハイエンドに食い込むことができる。ところが、そのIA-64に載せるOSについては、64ビット版Windowsが出遅れて、UNIXが中心になる可能性が高いと言われている。それが「徐々に」ということではないだろうか。

□Strong Unit Growth in Workstation Market in 1998 But Revenues Decline Slightly(IDC)
http://www.idc.com/idc7/Press/default.htm


米国の学校は「ローテク」か

●公立校の9割がインターネットにつながった米国

 ついに、米国では公立の学校の9割がインターネットにつながった。

 米教育省によれば、今や米国公立校の89%がインターネットにつながり、ゴールは次の段階、つまり教室、ラボ、図書室など授業が行なわれる部屋すべてにインターネットをつなぐことに移った。これも'98年中にインターネット敷設が進んだ結果、51%が達成できている。コンピュータ1台当たりの生徒数も、6人に1台という。

●だがこれでもまだ「ローテク」?

 日本と比べると何年先を走っているかという状態だが、それでも、企業や教育機関のトップたちで作るテクノロジー教育推進団体「CEO Forum on Education and Technology」から見ると、大半の米国の学校は「ローテク」レベルなのだそうだ。

 CompaqのCEOエッカード・ファイファー氏やDellの副会長ケビン・ロリンス氏が名を連ねる同団体は、米国の学校でのコンピュータの取り入れ方を、ハードの整備面から、使われ方、教師の質まで細かく定義して採点。それによれば、学校にコンピュータが入っていてもそれがLANでつながっておらず、1台に8~20人の生徒がいて、教師が技術的にようやく使いこなせるという程度では、それはローテク。そしてこのレベルの学校がまだ54%を占めるのだという。

 ちなみに、同団体が理想とするレベルでは、LANでつながったコンピュータが生徒2~5人に1台、インターネットは高速の専用線でできる状態。そして教師も適切なトレーニングを受けて授業内容とテクノロジーを長期的視野で結びつけることができ、生徒一人一人に応じたカリキュラムが組める。さらに、学校の事務などもコンピュータ化されて、教育が「テクノロジーなしではすまない」状態なのだそうだ。まあ、そこまでいくと、教育の理想というより“ハイテク業界の理想”という感じだが、ここが米国のおそろしいところで、すでに6%の学校がその段階にあるという。

 さて、日本の学校が採点されたら……?

□Internet Access in Public Schools and Classrooms: 1994-98(U.S. Department of Education)
http://nces.ed.gov/pubsearch/pubsinfo.asp?pubid=1999017
□The CEO Forum on Education and Technology
http://www.ceoforum.org/
[Text by 後藤貴子]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp