後藤貴子の データで読む米国パソコン事情
 
第16回:「Palmが人気を維持/CIOはPentium IIIを支持/2000年問題に自信なし?」


Palmが人気を維持

●Palmが世界で4割のシェア

 米国で待望の「Razor (Palm V)」が出て注目されている3ComのPalm。しかし携帯情報機器(ハンドヘルドデバイス)ユーザにとって気になるのは、やはりMicrosoftの動きだ。Palm OS対Windows CEのシェア争いは今、どうなのか。その戦況報告が米調査会社Dataquestから出た。

 それによれば、'98年の世界のハンドヘルドデバイス出荷台数で、Palm OS搭載機は41%を占め、1位を維持。Windows CE搭載機は25%だった。'98年は、ハンドヘルド市場全体が'97年より61.4%も伸びたが、それに合わせるようにPalmも伸びた。Palm OS機のほとんどを占める3Com製品は、'97年に約102万台、'98年に160万台を出荷。結果的に3Comのシェアは'97年(41.2%)、'98年(40.1%)ともほぼ変わらなかった。Dataquestでは、Palmのインストール数が'97年の2倍に増えたことから、買い換えだけでなく新規のユーザを多く獲得していると分析する。

 それに対し、ハンドヘルドと言う場合、Windows CEの25%にはキーボード付きのH/PCが含まれているはずなので、Palmと直接競合するPalm-size PCのシェアはもっと小さくなる。25%は大きいと言えば大きいが、依然としてPalmのシェアを全く崩せていないわけだ。

 また、Sharp機は20.8%、英国のPsion機は13.0%のシェアをとった。

【'98年の世界のハンドヘルドコンピュータ出荷数仮推計】
社名'97年出荷数(千台)シェア(%)'98年出荷数(千台)'98年シェア(%)成長率(%)
3Com1,01841.21,60040.157.1
Sharp49520.082820.867.4
Psion39716.151913.030.9
Hewlett-Packard2419.72706.812.1
Philips Mobile712.91774.4150.4
NEC150.61704.31,004.5
2349.442410.680.9
2,471100.03,988100.061.4
出典: Dataquest (1999.2)

● WindowsのパワーはWindows CEには及ばず

 このデータが示すのは、ハンドヘルドの世界ではPCとはデータを連携できさえすればよく、ほかはそんなに互換性が必要ないことに消費者が気づいている、ということだ。だからMicrosoftがWindows PCとの連携や機能の豊富さをアピールしても、より軽くて安くて電池が長持ちし、操作が簡単なPalmのほうにユーザは流れていく。

 だが、これでPalmが事実上の標準(デファクトスタンダード)の地位を確立したとはまだ言えないだろう。ハンドヘルド市場はまだ成長のまっただ中で安定していないし、その中でPalmのシェアは5割にも届かない。ここにはまだ、初期のPC市場と同じように複数の規格が併存している。

 独自アーキテクチャが競合していた初期のPC市場は、アーキテクチャをオープンにした(互換機を製造しやすい)IBM PCが登場するとあっという間に独自アーキテクチャが駆逐された。それになぞらえると、サードパーティからの関連製品は多いものの、本体のメーカーはほぼ3ComだけというPalmの状況は、ちょっと不吉かもしれない。一方で、Microsoftはカラー版のWindows CEを発表し、Compaq Computer、Hewlett-Packardなどの強力なメーカーが新製品を投入し始めている。Palmに対抗する廉価版Windows CE機も出てきている。
 対決は、まだまだ最終ラウンドには到達していないのだ。

 なおPalm OS、Windows CEに次ぐハンドヘルドデバイスOSであるPsionのEPOC32は、ヨーロッパで根強い。日本では無名に近いPsionだが、携帯電話のNokiaやEricsson、MotorolaとともにSymbianというワイアレスインターネットアクセスのソフト会社を設立し、Jiniライセンスを受けるなどして、次世代ハンドヘルドをにらんだ動きを見せてもいる。世界市場を見据えるMicrosoftや3Comにとっては、軽視できないかも。

□Worldwide Handheld Market Grew 61 Percent in 1998(Dataquest)
http://gartner11.gartnerweb.com/dq/static/about/press/pr-b9904.html


CIO(企業の情報技術担当トップ)たちはPentium IIIを支持!」

 米国の大手PCメーカーが、Pentium IIIのプロセッサシリアルナンバをデフォルトでオフにして出荷したことで、世界のCIOたちはちょっとがっかりしているかもしれない。

 それは、Pentium IIIとプライバシーの問題について、CIOの62%がIntelを支持していたからだ。『CIO』マガジンの調査によると、ボイコット運動を支持するCIOはわずか12%、また、顧客情報のトラックができることがプライバシーより重要と考える人(64%)がプライバシー保護のほうが大事という人(36%)を上回った。

 これを見ると、企業は消費者の情報がとにかく欲しいことがよくわかる。米国でプライバシー保護運動が燃え上がったのは、こういう企業の“根元的欲求”を消費者がかぎ取っていたからだ。

 だが、運動を起こした団体Electronic Privacy Information Centerも、火ダネの扱いがうまかった。一般の人にとってコンピュータは不気味な箱だ。その中身を作っているIntelをビッグブラザー視するキャンペーンは、まさにイメージにピッタリ。その落とし穴にIntelが気づいていなかったことが、騒ぎが大きくなった一因だろう。

□CHIEF INFORMATION OFFICERS SIDE WITH INTEL, PICKING CUSTOMER DATA OVER PRIVACY(CIO Magazine)
http://www.cio.com/marketing/newsbureau.html


2000年問題に自信のないCIOたち!

●飛行機に乗らないCIOが6割

 ところで、CIOマガジンでは、CIOたちに2000年問題への意識も調査したのだが、それによると64%のCIOが、まだ問題解決が間に合うか自信がないという。

 さらに10人に6人(62%)は2000年1月1日に飛行機に乗るつもりはないし、10人に8人(83%)は原発や核兵器の事故を心配している。食糧不足に備えて缶詰のストックを計画している人まで16%もいて、しかもこの割合は'98年10月の調査の9%よりアップしているのだ。

●一般の人たちは楽観的

 専門家トップたちのこの自信のなさや心配ぶりは、一般の人と比べるとひときわ目立つ。メディア団体Freedom Forumによれば、1月に行なった一般米国民に対する調査では、2000年問題で自分の身に大問題が起きると考える人は13%。シェルターを作ったり食料を貯め込んだり銀行などから金をおろすのはオーバーリアクションだと感じている人が7割なのだ。

 CIOの不安は何なのだろう。自社の対応状況をよく知っていると、政府が食糧不足や核兵器誤発は起きないと発表しても信じられないのか。だとしたら、やっぱり2000年1月1日には食料を買い込んでシェルターにこもる必要がありそうだが……。

 しかし、CIOたちの不安感は、もしかすると案外、別のところに理由があるのかもしれない。2000年問題で企業に何か起きた場合、まっさきに責任をとらされるのはCIO。だからこの問題に関して極度の疑心暗鬼に陥っているのかも。

●日本の半数の企業に重大な問題が起きる!?

 もっとも、米国の状況は一番ましなのだそうだ。
 2000年問題を警告する非営利団体と称するy2kWatchのリリースによれば、米国でミッションクリティカルな事故が1つでも起きる企業は15%。だが日本やドイツでは50%なのだとか。どういう根拠でかは不明だが、日本人にとっては不気味な数字だ。

 まあ、2000年問題に関しては、次々にいろいろなデータがあげられて、正直、何を信じればいいのかわからない。こういうサイトは不安をあおっているだけなのか、正しい警告をしているのか。2000年になってみないとわからないのだから、今年もまだまだ、いろいろなデータが飛び交うだろう。

□The public weighs in on media coverage of Y2K(Freedom Forum Online)
http://www.freedomforum.org/technology/1999/1/28y2ksurvey.asp
□Companies Successfully Striving to Meet Y2K Deadline(BusinessWire)
http://www.businesswire.com/webbox/bw.020599/1097617.htm

[Text by 後藤貴子]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp