~Pentium IIIとプロセッサ・シリアル・ナンバを検証する~ |
Pentium IIIのパッケージと中身 |
CPUに関しては従来のPentium IIと比べて外観は大きく異なっている。従来のPentium IIがSECC(Single Edge Contact Cartridge)という形状だったのに対して、Pentium IIIではSECC2という、新しい形に変更されている。SECCがCPUボード全体がプラスチックで覆われた形状になっていたのに対して、SECC2では後面にプラスチックのカバーをついているだけの、SEPPのCeleronと似たようなパッケージに変更されている。注意したいのは、SECC用のリテンションキットは利用できないことだ。SECC2を利用する場合には、Celeron用のリテンションキットかSECC/SECC2/Celeronの全てで利用できるユニバーサルリテンションキットが必要になる。
実はSECCからSECC2への移行は既にPentium IIでも徐々に行なわれていた。AKIBA PC Hotline! '98年12月5日号で既にお伝えしている通り、Pentium II/350MHzでは既にSECC2への移行が行なわれている。また、2月に開催されたIntel Developer Forumで示されたロードマップによれば、SECCのCPUは'99年上半期の半ばで無くなり、今後は(Pentium IIを含む)すべてのSlot 1用CPUがSECC2に切り替わることになっている。
ところで、SECC2にはCPUとの接地面やヒートシンクの大きさなどの違いで、2種類の規格があることをご存じだろうか。それが、SECC2-OLGA(Organic Land GridArray)とSECC2-PLGA(Plastic Land Grid Array)だ。CPUクーラーもOLGA用とPLGA用の2種類があることは注意しておきたい。
インテルの資料によると、Pentium II(およびPentium III)においてSECC2-OLGAなのかSECC2-PLGAであるかは下表のようにCPUクロックで分類することができる。
CPUクロック | パッケージ |
---|---|
350MHz | PLGA |
400MHz | PLGAとOLGA |
450/500MHz | OLGA |
PLGAとOLGAの大きな違いはCPUの形とL2キャッシュの搭載方法だ。AKIBA PCHotline!の1月9日号ではSECC2のPentium II/350MHzのバルク版の写真を掲載している。これを見るとPLGAではCPUはプラスチックパッケージになっており、L2キャッシュは両側に貼り付けられているのがわかる。これに対してOLGAのPentium IIIではCPUがコアむき出しになっており、右側にのみL2キャッシュが貼り付けられている。これをまとめると下表のようになる。
CPU | L2キャッシュ | |
---|---|---|
PLGA | プラスチック | 両側 |
OLGA | コアむき出し | 右側のみ |
なお、SECC2のCPUクーラーはPLGA、OLGAのどちらか一方にのみ適合するように作られている。なぜかと言えば、CPUに接地する部分がPLGAとOLGAでは異なっているので、別々に作らなければならないからだ。中にはCoolerMasterのように両方に適合するようなSECC2用のファンを用意しているクーラーメーカーもあるが、多くのクーラーメーカーは別々に用意しているので、今後SECC2のCPUをバルクで購入する場合にはPLGAなのかOLGAなのかを見分けて、それぞれに対応したCPUクーラーを購入するようにしたい。
なお、Pentium IIIのデータシートにはPentium IIIのパッケージとしてSECCも記述されてはいるが、実際にはS-Spec#をチェックできるQuick Reference Guideを見る限りでは、現在出荷されているPentium IIIはすべてSECC2となっている。おそらくOEMの要求によってはSECCも作りますよということなのだろうが、先ほどのロードマップと考えあわせるとリテール版では登場する可能性は低いと思う。
OLGAのPentium III。なおこれはバルクの写真で、リテール品はファンを取り外すことができない | PLGAのPentium II/350MHz。こちらもバルク |
プロセッサ・シリアル・ナンバ・コントロール・ユーティリティ |
Pentium IIIにはMSR(Model Specific Register)というレジスタが用意されていて、このレジスタが「0」に設定されている場合にはソフトウェアはPSNを読みとることができる(つまりPSNは有効になっている)。逆に「1」に設定されている場合には、ソフトウェアはPSNを読みとることができない(つまりPSNは無効になっている)。出荷時にはこのレジスタは0すなわちPSN有効の状態になっている。なお、インテルではこのレジスタを「1」から「0」にした場合(つまりPSNを無効から有効に設定した場合)でも、PCをリブートしない限りはPSNを読みとり可能にすることはできないとしている。
PSNを有効にしたり無効にしたりする方法(つまりはMSRレジスタの設定を変更する方法)は2つある。1つはインテルが配布するユーティリティがプロセッサ・シリアル・ナンバ・コントロール・ユーティリティ(以下PSNコントロールユーティリティ)を利用する方法で、もう1つはマザーボードのBIOSセットアップに用意されているPSNの設定項目を利用する方法だ。
PSNコントロールユーティリティをインストールすると、タスクバーに地球のアイコンが表示される。このアイコンをクリックするとPSNが有効になっていればPSNが表示され、PSNが無効の場合には「使用不可」と表示される。PSNを有効から無効、もしくは無効から有効へ変更したい場合には再起動が促され、再起動しなければ変更することができない。Windows上のユーティリティで変更をかけているということは、きっとレジストリになんらかのパラメータを持っていてそれで有効・無効を決めているのだと当たりをつけてレジストリを調べてみると、
HKEY_CURRENT_USER\Software\Intel\IntelProcNumUtility
というキーのStatusという値が0になっているときにはPSNが無効、1になっている時にはPSNが有効になっていることがわかった。PSNコントロールユーティリティを利用しなくても、このキーを手動で書き換えるとPSNを有効から無効(もしくは無効から有効に)に変更することができた(ただし、無効から有効にするときは再起動は必要だった)。
このレジストリキーをユーザーの知らない間に書き換えてPSNを無効から有効へ勝手に変更してしまうようなソフトウェアを書くことは原理的には不可能ではないだろう(なお、そのためには、プロセッサ・シリアル・ナンバ・コントロール・ユーティリティがインストールされている必要がある)。しかし、既に述べたようにそうした変更を反映させるには、PCを一度リブートさせる必要がある。だからこそ、インテルはユーザーの知らない間にソフトウェアが勝手にPSNを有効にして送信してしまうというようなことは難しいとアナウンスしてきた。
ところが、ドイツのc'tという雑誌のプログラマがリブートしなくてもPSNを無効から有効にすることができるツールを作り実証した(ただし、ツールは公開されていない)としており、実はインテルが主張するような安全性は確保されていないことが今となっては明らかになっている。もしクラッカーがc'tが作ったようなリブートしなくてもPSNを無効から有効にでき、かつPSNを特定のサーバーなどに送信するようなソフトを作成すれば、PSNを容易に盗むことができるようになるだろう(その入手したPSNに使い道があるのかどうかは別問題だが)。
しかし、BIOSセットアップで無効になっている場合には、PSNが有効になることはない。各マザーボードベンダーでは440BX搭載マザーボードにPentium III対応BIOSを用意しており、BIOSアップグレードを行なえばBIOSセットアップの中にPSNの有効・無効を設定する項目がでてきて、そこで設定できるようになる。前述のc'tの記事でもBIOSセットアップでPSNを無効にしてあった場合には、有効にすることができなかったことは認めており、どうしてもPSNを有効にしたくない場合にはBIOSセットアップで無効にしておくのが現時点では最も確実な方法だということができるだろう。
レジストリエディタを利用して手動でPSNの有効・無効を決めている画面 | ASUSTeK Computer P2BのPentium III対応BIOS(バージョン1008、02/11/1998)にあるPSNを設定する項目 |
プライバシーについて気になっているのであれば、もっと気にした方がよいことはたくさんある。例えば、IPアドレスだ。インターネットに接続してホームページを閲覧している時に、自分の情報は接続先にはわからないと考えているのであれば、それは大きな過ちだ。実際にはWebサーバーの管理者は、どのIPアドレスから自分のWebサーバーに接続されたかを調べることは可能だ。また、調べる気になれば接続しているユーザーのブラウザの種類、IPアドレス、ドメイン名などを調べることは不可能ではない。例えば、インターネットのホームページにはこうしたブラウザから取得できる情報を一覧で表示してくれるページがある。こうしたページに接続してみると、意外と詳細な情報が相手に漏れているのがよくわかるだろう。こうした情報を、悪意のあるホームページ作成者が入手して、悪用することがないとは言えないだろう。特にOCNなど常時接続されているようなネットワークのユーザーの場合、ドメイン名がわかってしまえばクラッカーの攻撃対象にされてしまう可能性だって十分にある。また、Windows 98の「Registration Wizard」を利用すると、ユーザーが意図しない情報がマイクロソフトに送信されてしまう可能性があることがニュースになっている( PC Watch 3月9日付け記事参照 )。このように、PSNなどより注意を払うべきことはもっと他にある。
最後にこの問題がどうして問題になっているのかについて触れておきたい。結局のところ、この騒動の原因はPSNの機能の問題ではなく、インテルの姿勢にあると思う。こうしたプライバシーにかかわるような重要な機能を製品にインプリメントし終わった後で、(やや唐突な印象で)発表した。おそらくそのことが、プライバシー保護団体の不興を買ったのだろう。もし、もっと前に計画を発表してそれが必要であるという世論を形成する努力をしていれば、現在のような騒動にはならなかったのではないかと筆者は思う。さらに、インテルにとって悪いことにDixonコアを採用した一部のモバイルPentium IIとモバイルCeleronにもPSN相当の機能が組み込まれていることが判明し、3月11日、The Registerなど欧米のニュースサイトで一斉に報道され始めた 。意図的であるのかないのかのはわからない(インテルは意図的ではなく事故だと主張している)が、消費者に黙って製品にそうした機能をインプリメントしてしまった事実は、インテルがプライバシーを軽視している会社であるという印象を消費者に与えかねない痛いミスだ。インテルはこの点を真摯に反省し、消費者が納得するような説明と今後デフォルトでは無効にして出荷するなどの具体的な対応をすべきだと思う。今回の問題は技術そのものにあるわけではなく、それを製造する会社の姿勢が問われているのだと結論づけることができるだろう。
□AKIBA PC Hotline! 関連記事
【2月27日号】Pentium III発表と同時にリテールパッケージの販売開始
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/990227/piiibox.html
[Text by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]
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