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●戦国大名として乱世を生きる
ここしばらく海外勢の躍進が目立っていたパソコンゲーム界に、ようやく国産ゲームの大御所が登場した。コーエーの歴史シミュレーション、『信長の野望・烈風伝』。この作品の発売を、いまや遅しと待ち望んでいたファンは多いに違いない。『信長の野望』といえば、じっくり腰を据えて遊べる、本格的な戦略シミュレーションゲーム。人事、外交、軍事、経済が融合した日本独自のゲームとして、海外に移植されたこともあった。
いまさら説明するまでもないのかもしれないが、ゲームの概要について軽く触れておこう。
『信長の野望』の目的は、戦国時代に生きる大名を演じ、天下統一を果たすことだ。タイトルキャラクターになっている織田信長以外にも、時を同じくして天下人を目指した甲斐の武田や、宿敵の浅井・今川、磐石の武力を誇る毛利や北条など、全国64カ国好きな場所から始めることができる。どの武将、どの城を選ぶかによって戦い方は大きく変わるため、一つのゲームでありながら何度も繰り返して遊べるところがいい。
たとえば織田や武田の場合、最初から比較的恵まれた条件で始めることができる反面、周囲には強敵が多く、生き残ること自体が困難だ。一方、南部や伊達など周辺部分を選べば、当面落ち着いて内政に専念できるものの、周囲を平定して京に登るのは一大事。経済的にもあまり恵まれているとはいえず、武力を貯えるにも時間が必要である。
もちろん、選ぶ大名によって「手駒」となる武将も異なる。このゲームでは軍団を組織したり内政を任せたりと、部下の人事が大きな意味を持つため、有能な武将を多く従えているほど有利なのだ。地理的、経済的、人事的な違いを見極め、誰を演じるのかよく考える必要があるだろう。有力な大名を選んで一気に統一を目指すか、それとも史実では冴えなかった弱小の大名を選んで、自らの手で歴史を書き換えるか。どちらもおもしろい遊び方だと思う。
今回の『信長の野望・烈風伝』では、信長の一生を3つの時代に分け、それぞれを独立したシナリオとしている。信長が尾張の小大名から列強にのし上がるまでを描いた、「桶狭間合戦」。天下統一の基礎を固めた時代を描く、「信長包囲網」。実質的に日本を平定し、地方の征伐を続ける時代をモチーフにした「本能寺の変」。それぞれのシナリオが「初級」「上級」ふたつの難易度に分けられ、自分の好きな場面と難しさで楽しめるようになっている。通信には対応していないものの、1台のパソコンを囲んで最大8人までの同時プレイが可能。逆に一人で8人の大名を演じたりと、遊び方の幅は広い。
シナリオは1560年から始まる「桶狭間合戦」、1570年から始まる「信長包囲網」、1582年から始まる「本能寺の変」の3本が用意されている | 全国64カ国の居城から始めることができる。最大8人まで同時プレイが可能 | 歴史的な事実をベースに、様々なイベントが発生。果たして歴史は変わるのか? |
●新しいアイデアが盛りだくさん
奉行とその部下を任命し、農地の開梱や町の反映を指示。誰を奉行にするかで効率が変わるだけでなく、相性の問題もある |
その後いくつかの条件を満たしていれば、イベントの発生と合戦の開始。合戦シーンは戦場を斜め上から見下ろした画面に切り替わり、各武将が率いる部隊を1つの駒として移動/戦闘させる。足軽や騎馬兵は隣接する相手(斜めも可)への攻撃が基本だが、弓や大砲を使えば離れた相手を叩くことも可能だ。マップには堀や門、櫓などがあり、有利な場所に部隊を置くことによって、効果的に戦うことができる。敵の総大将が率いる部隊を全滅させれば、戦闘終了。その後捉えた武将の吟味を行ない、登用や開放、斬首を命じて終わる。
基本的には消耗戦なので、兵力の大きなほうが有利なことは間違いない。兵法の基本「大軍を以って寡兵を討つ」というのが、このゲームの基本的な戦略だ。しかし武将の指揮能力や威信によって戦況が揺らぐことも少なくなく、また鉄砲が兵力の多寡をくつがえすこともある。特に野戦の場合、騎馬兵や鉄砲の使い方によって勝敗が分かれる場合もあり、プレーヤーの戦術が問われるだろう。
ゲームの勝利条件は、もちろん天下統一である。他の大名を全て倒す武力統一が究極だが、朝廷から征夷大将軍を拝命し、敵対する勢力を残したまま同盟統一を果たしても構わない。各シナリオ10年という短いタームを考えるなら、後者を目指したほうが現実的だと思う。
ところで、『信長の野望・烈風伝』では、前作『信長の野望・将星録』をベースに新しいコンセプトが盛り込まれている。
まずひとつは、“威信”という考え方。各大名は朝廷とのつながりによって、守護や探題、官領、征夷大将軍といった役職(肩書き)を手に入れることができる。こうして自らの威信を高めることによって、外交を有利に進めたり、部下の忠誠度を高めることができるようになった。たとえば威信の高い大名が戦を起こした場合、敵の武将が寝返ることもあり、その戦略的な効果はかなり大きい。
そして“威圧”。大軍を率いて適地に乗り込むと、その軍事的なプレッシャーだけで相手を降伏させたり、無理矢理同盟を結ぶことができる。武力を盾にした暴力外交だが、戦争は政治の一形態という意味で、十分納得のいくシステムだと思う。実際、20世紀も終わろうとしている現在でさえ、同様の暴力外交を行なっている国はいくつもあるからだ。
このほか、動かす部隊の数によって戦場の規模が変わるなど、『信長の野望・烈風伝』ではよりリアルに戦闘を楽しめるよう工夫されている。
●初心者には程良い、ファンにとっては易しい難易度
軍団の編制。武将によって足軽、騎馬、鉄砲などのスキルが違うため、最適の組み合わせを考えること |
まずひとつは、テンポがいいということ。前作『信長の野望・将星録』に比べてシステムが簡素化し、かなりわかりやすくなったと思う。この手のシミュレーションゲームは、リアルであればあるほど手間と時間が掛かるのが難点だが、それがある程度解消されているように感じた。もちろん、これまで『信長』シリーズをプレイしつづけてきたファンにとっては少々食い足りなく感じる場面もあるとは思うが、逆に今回初めてこのシリーズに触れる人にとっては、ちょうどいい“辛さ”なのではないかと思う。
同様に、内政についても若干甘めに設定されている。根を詰めて農地の開墾や町の育成に励まなくとも、かなり潤沢な年貢米や税を得ることができるのだ。正直な話、ほとんど内政を行なわずとも軍を動かすことが可能で、筆者の場合は兵糧や軍資金不足に悩まされることもなかった。これまた筋金入りのプレイヤーには物足りなく感じるに違いないが、初めて『信長の野望』に触れるプレイヤーにとっては、ちょうどいいさじ加減かもしれない。
いずれにしても、かなり遊びやすいバランスに設定されているので、これまで歴史シミュレーションゲームに興味を持ちながら手が出せなかった人でも、十分に楽しめるのではないだろうか。
こうしたテンポアップや内政の簡素化を進める一方、“威信”や“威圧”という新しい概念を取り入れることによって、人事や外交の妙味は増している。このゲームは紛れもなく歴史シミュレーションゲームなのだが、実際にプレイを始めると、それほど単純な切り口では語れないことに気がつくはずだ。武将の登用や役職の任命、宿敵との同盟や裏切りなど、組織経営シミュレーション、もしくは会社経営シミュレーションに通じるところがいくつもある。領地を広げれば広げるほど、そして従える武将が多くなればなるほど、やらなければならないことが増え、必ずどこかで部下に任せる時が来るからだ。
リーダーとしての葛藤や組織の頂点に立つ者の苦労など、組織運営の難しさ、おもしろさのようなものを、十分満喫することができると思う。
攻撃したい場所を決めたら、いよいよ進軍開始。十分な兵糧が必要だ | 中規模攻城戦。門を破りながら天守閣へ攻め登る | 城が大きくなると、堀や櫓が増える。築城コマンドによって、思いのままに城をデザインすることもできる |
●歴史の「もし」を考えさせられる
戦いの後に捕虜の処遇を決める。有能な人物を上手に登用し、自分の「手駒」を増やすのが重要だ |
歴史に「もし」は禁物だが、もしあのとき「本能寺の変」が起こらなかったら、もし信長が生き残っていたら、いまの日本はどうなっていただろう? 合理的で、過去の因習に囚われないドライな性格。ある意味、欧米人的な発想を持つ織田信長が天下統一を果たしていたら、その後の歴史、そして現在の日本は大きく変わっていたに違いない……なんてことを考えながら、遊ぶのもまた一興。このゲームは、本当にいろいろなことを考えさせてくれるゲームだ。
(C)1999 KOEI CO.,LTD.
【筆者紹介】
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