Intelは、コード名「Geyserville(ガイザービル)」と呼ばれるノートPC向けの新テクノロジのベールを、米国パームスプリングスで開催している開発者向けカンファレンス「Spring '99 Intel Developer Forum(IDF)」で、ついにはがした。同社は、Geyservilleテクノロジを使い、年内にノートPCで600MHz以上を実現するという。Intelが年内に出荷するデスクトップ用Pentium IIIの最高クロックは667MHzと見られているため、'99年末にはモバイルCPUはデスクトップCPUにほぼ追いつくことになる。Geyservilleを使えば、今後、ノートとデスクトップでのクロック差は、ほとんどなくなるという。
Geyservilleは、AC電源接続時とバッテリ駆動時で、動作クロックと駆動電圧を切り替える技術。ACでは「性能優先モード」、バッテリ時には「バッテリ優先モード」に自動的に変わる。AC電源で使っている時はバッテリで駆動している時よりもクロックを25%程度アップし、逆にバッテリで駆動している時はAC電源で使っている時よりも消費電力を40%程度カットするという。つまり、ACに接続してデスクトップ代わりにしている時はデスクトップ並みのパフォーマンス、モバイルでバッテリを使っている時はそこそこのパフォーマンスで長時間駆動ができるようになるということだ。それも、PCが起動した状態で、電圧と周波数の切り替えが、自動的に行なわれるようにしたところが最大の特徴。
IntelがIDFで公開したモバイルCPUのプランでは、今年中盤に0.18ミクロン版Pentium IIを400/433MHz(66MHz フロントサイドバス)で投入、今年後半に0.18ミクロン版モバイルPentium IIIを400MHz台と500MHz台(100MHz フロントサイドバス)で投入することになっている。Geyservilleが搭載されるのは、0.18ミクロン版モバイルPentium III以降のパフォーマンスノートPC用CPU。500MHz台のノートPCなら、AC電源時に600MHz以上で駆動できるようにするという。
IDFのキーノートスピーチでは、Robert Jecmen副社長兼ジェネラルマネージャ(Mobile and Handheld Products Group)が、モバイルPentium IIを使い、AC電源を接続した状態で500MHzで動作しているノートの電源を抜き、動作状態のまま、自動的にクロックが400MHzに落ちるところを実演した。
●1.3ボルトまで電圧を落とす
プロセッサの消費電力は、ダイ(半導体本体)が同じなら「電圧の二乗×動作クロック」に比例する。そのため、電圧を少し落とすことができれば、消費電力を大きく下げることができる。
たとえば、AC電源時に500MHzで1.5Vで駆動しているCPUを、Geyservilleを使ってバッテリ駆動時に400MHzで1.3Vに落とした場合、クロック比は80%で、電圧比は87%になる。電圧比は二乗で75%で、これにクロック比の80%をかけると、消費電力は60%ということになる。つまり、クロックと電圧の両方を落とすことで、80%のクロックで60%の消費電力にできるというわけだ。
IDFで配布された技術セッションの資料によると、Intelが'99年後半に予定しているCPUのコアボルテージは1.3ボルトとなっている。0.18ミクロンなら可能な数字だ。そのため、Geyservilleでは1.5ボルトと1.3ボルトを切り替えることを想定していると思われる。電圧を1.5対1.3でスイッチすると仮定すると、Geyservilleによる動作クロックと消費電力は次のように想定できる。
AC電源時 バッテリ駆動時 クロック 消費電力
500MHz 400MHz 80% 60%
600MHz 500MHz 83% 63%
650MHz 550MHz 85% 64%
ちなみに、IntelによるとGeyservilleで切り替えられる周波数/電圧は一組だけだという。つまり、600MHz/1.5Vと500MHz/1.3Vのスイッチはできるが、その間の周波数/電圧へ切り替えることはできないそうだ。また、バスのクロックは変化しない。
●Geyservilleに合わせた冷却が必要
Intelは、モバイル向けの消費電力のガイドラインを決めており、パフォーマンスノートでは、CPUと2次キャッシュの合計で9.5ワットで押さえ込むことになっている。Geyservilleは、この9.5ワットのバリヤを、うまくかいくぐるための技術だ。モバイル時には9.5ワットに抑えるが、AC時にはそれを超えてもOKとすることで、パフォーマンスとモビリティの両立を狙う。現実問題、ほとんどのノートPCユーザーは、デスク上でACに接続して使っている時間がほとんどを占めるため、この方が合理的だ。
ただし、今のノートPCがすべて、Geyservilleで高パフォーマンス化できるわけではない。それは、AC駆動時に消費電力が増える(おそらく15ワット程度)分CPUが熱くなるため、冷却機構を用意しなければならないからだ。
Jecmen副社長も、Geyservilleには、それに合わせた冷却が必要になることを認める。しかし、「現在のノートPCの多くは、その要求を簡単に満たすことができるだろう」という。例外は、日本で流行っている薄型ノートPCで、「薄いノートPCでは、Geyservilleで高い周波数に上げることは確かにできない。しかし、その場合も、たとえば、(バッテリ時に)400MHzを、(AC時に)500MHzに上げるといったかたちで、Geyservilleテクノロジを利用してパフォーマンスを上げることができるかもしれない」(Jecmen副社長)という。
また、ノートPC本体にはバッテリ時用の冷却機構しか搭載せず、ドッキングステーションに冷却ファンなどを装備。ドッキングステーションに接続した時だけ、Geyservilleテクノロジを使うというアプローチもありうるという。ただし、それは「Geyservilleの最初のインプリメンテーションでは登場しないだろう」(Jecmen副社長)という。Intelは、Geyservilleの導入に合わせて、冷却のガイドラインなどをPCメーカーに示していくという。
AC時だけ電圧とクロックを上げるというコロンブスのタマゴのようなアイデアのGeyservilleだが、そのユニークな点は、CPUのリセットを行なわずに電圧を変えられるところにある。同社のAjay Malhotra氏(Senior Advisor, Intel ArchitectureBusiness Group)によると、CPUのレジスタ内容の退避といった動作は一切必要がなく、動作状態のまま電圧を変えられるという。
●新チップセットや新パッケージも投入
このほか、同社はモバイル向けのチップセットと新CPUパッケージの計画、モバイル向け次世代メモリの概要なども明らかにした。
チップセットでは、1,299ドル以下のバリューモバイルPCと、ミニノート向けに、新たに「440MX」を、'99年中盤に投入する。これは、コード名「Banister(バニスタ)」と呼ばれていたもので、ノースブリッジとサウスブリッジを統合してワンチップ化。また、「AC '97 link」インターフェイスを使った、ソフトモデム/オーディオが可能となっている。
パッケージでは、「μPGA」と呼ばれる、PGAのピンのピッチを狭くしたパッケージのCPUを、モバイルPentium IIとモバイルCeleronの両方で提供する。これは、ノートPCでもBTO(ビルドツーオーダー)方式で、製造工程の最後の段階でコンフィギュレーションを変える生産体制への要求が高まってきたことに対応するもの。BGAと異なり、PCメーカーが簡単にCPUを装着できるため、ひとつのマザーボードのシステムでCPUが異なるコンフィギュレーションをBTO体制でやりやすい。従来、Intelはこうした用途にはモバイルモジュールを提供してきたが、一部の市場で、それよりも低コストのパッケージを求める声があるため、新パッケージを用意したという。μPGAパッケージは、第2四半期に投入。従来のモバイルモジュールも、平行して提供していくという。
モバイル向けのメモリでは、前回のIDFで規格の概要が説明されたPC100 SO-DIMMが、現在サンプル段階にあり、第1四半期中に各メモリベンダーが量産に入ることを明らかにした。PC100は、100MHz FSBで登場するモバイルPentium IIIと同時に導入される。また、来年の中盤からは、Direct RDRAMがモバイル向けに導入され、2000年中にパフォーマンスノートはDirect RDRAMに置き換わるというロードマップも明らかにした。モバイル向けのDirect RDRAMは、SO-RIMMと呼ばれる新モジュールに搭載される。128Mビット品を使い、来年第2四半期までに量産が始まるという。
□インテルのニュースリリース(和文)
http://www.intel.co.jp/jp/intel/pr/press99/990225b.htm
□バックナンバー
('99年2月25日)
[Reported by 後藤 弘茂]