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逆襲のIntel-Celeron 400MHz 大バーゲンの理由



●予定が大幅に繰り上がったCeleron 400MHz

 Intelは、本気で逆襲に出た。x86互換CPUメーカーに過半を取られたベーシックPCのシェアを、断固として取り戻すつもりだ。ふたたび、x86互換CPUメーカー、とくにAMDにとって厳しい戦いの時がやってきた。

 Intelは、当初、'99年頭にCeleronプロセッサの366MHz版だけを発表、ある程度の期間を置いて(おそらく'99年中盤に)400MHz版を投入する計画だった。ところが、'98年の11月頃になると、400MHzを4月ごろに投入するとOEMメーカーにアナウンスし始めたという。そして、実際には、そのスケジュールも大幅に前倒しにして、366MHzと400MHzを同時に発表してしまった。Intelは、'98年夏にCeleron 300A/333MHzを発表した際も、何度も予定を繰り上げた。今回も同様にアグレッシブにスケジュールを前倒しにしてきたわけだ。


●予想を上回るバーゲン価格

 だが、Celeron 366/400MHz発表でのサプライズは、スケジュールを繰り上げたことだけではない。バーゲンと言ってもいいくらいの、攻撃的な価格がいちばんのポイントだ。新発表のCeleronの米国での価格は、400MHzのPlastic Pin Grid Array (PPGA)版が158ドル、Single Edge Processor Package (SEPP)版が166ドル。366MHzのPPGA版123ドル、SEPP版が131ドルだ。

 これがどれだけバーゲンかは、Intelが昨夏頃に計画していた価格と比べて見るとわかる。その時点では、Intelは'99年頭にCeleron 366MHzだけを発表する計画でいたが、その366MHz版の価格を190ドル前後にするとOEMメーカーにアナウンスしていたという。つまり、Celeron 400MHzは、366MHzの予定していた価格と比べても、さらに15%も安く登場したことになる。また、Celeron 366MHzは、この半年間情報が入る度に予定価格が下がって来た。当初は190ドル近くだったのが160ドル台に、そしてついには120ドル台に下がった。


●IntelのCPU価格の法則

 ここで、IntelのCPUの価格の規則を説明しておこう。IntelはCPUのリストプライスを、比較的きっちりとした階層に整理している。まず、供給中止になる寸前の製品に100ドル以下、場合によっては80ドル台の値札がつけられる。ただし、この価格帯の製品は、消えゆく製品であり、採用するメーカーは少ない。次に、その上の事実上のローエンド製品が100ドル前後となる。そして、ローエンドからひとつ上のグレードの製品が130ドル前後、もうひとつ上が180ドル前後、さらにその上が250ドル前後となる。これを表にすると次のようになる。

【8】 800ドル前後
【7】 600ドル前後
【6】 450ドル前後
【5】 350ドル前後
【4】 250ドル前後
【3】 180ドル前後
【2】 130ドル前後
【1】 100ドル前後
【0】 100ドル以下

 左のナンバーはCPUのグレードで、通常1グレード上がるとクロックが12%程度向上する。右が価格レベルで1ランク価格が上がると33%程度価格が上がる。つまり、CPUが1グレード下がると価格が約75%に下がる、1グレード上がると価格が133%に上がるように設定されているのだ。この興味深いルールは、'98年10月に開催されたMicroprocessor Forum 98のセミナーで、Forumを主催するMicroDesign ResourcesのアナリストLinley Gwennap氏が解説したものだ。実際、OEMメーカーなどに公開されるIntelのCPU価格を見てみると、多少の上下はあるものの、おおよそこの法則に従ったものになっている。たとえば、'98年初秋のIntelのラインナップは、大体次のようになっていた。

【8】(800ドル前後) なし
【7】(600ドル前後) Pentium II 450MHz
【6】(450ドル前後) Pentium II 400MHz
【5】(350ドル前後) Pentium II 350MHz
【4】(250ドル前後) Pentium II 333MHz
【3】(180ドル前後) Celeron 333MHz
【2】(130ドル前後) Celeron 300A MHz
【1】(100ドル前後) Celeron 300MHz
【0】(100ドル以下) Celeron 266MHz

 そして、この階層の中で、Pentium IIプロセッサは基本的に200ドル以上、Celeronは200ドル以下と区切られている。つまり、【4】(250ドル前後)と【3】(180ドル前後)の間がPentium IIとCeleronのボーダーだ。200ドルを切ったPentium IIは消えて行く。また、Pentium IIは同クロックのCeleronより1グレード上の価格となっている。つまり、Celeron 333MHzが【3】(180ドル前後)だったら、Pentium II 333MHzは【4】(250ドル前後)の価格になるということだ。そして、原則として1四半期ごとにこの価格階層は1段づつスライドして降りてくる。つまり、Pentium II 400MHzがPentium II 350MHzの価格帯に下がり、450MHzが400MHzの価格帯に下がるということだ。

 また、CPU価格とPC本体の価格の関係は、下半分はわりとはっきりしている。およその目安では次のようになる。

【4】 250ドル前後 1,000~1,500ドルPC
【3】 180ドル前後 900~1,200ドルPC
【2】 130ドル前後 800~900ドルPC
【1】 100ドル前後 700~800ドル以下PC
【0】 100ドル以下 700ドル以下PC


●地滑り的にスライドしたIntelのCeleron価格

 以上をふまえた上で、今回の価格設定を見てみよう。さまざまな情報をベースにまとめると、Intelの'98年夏の計画では、'99年頭の時点の価格階層は次のようになるはずだった。

【8】(800ドル前後) なし
【7】(600ドル前後) なし
【6】(450ドル前後) Pentium II 450MHz
【5】(350ドル前後) Pentium II 400MHz
【4】(250ドル前後) Pentium II 350MHz
【3】(180ドル前後) Celeron 366MHz
【2】(130ドル前後) Celeron 333MHz
【1】(100ドル前後) Celeron 300A MHz
【0】(100ドル以下) Celeron 300MHz

 ところが、実際には【2】(130ドル前後)がCeleron 366MHzに、【3】(180ドル前後)がCeleron 400MHzとなった。また、それ以前の段階で、すでにCeleron 333MHzは【1】(100ドル前後)の価格ラインにまですべり落ちており、300A MHzも【0】(100ドル以下)の価格ラインにスライドしていると言われている。つまり、下のように変わったわけだ。

         昨夏の計画     実際
【3】(180ドル前後) Celeron 366MHz  → 400MHz
【2】(130ドル前後) Celeron 333MHz  → 366MHz
【1】(100ドル前後) Celeron 300A MHz → 333MHz
【0】(100ドル以下) Celeron 300MHz  → 300A MHz

 しかも、それぞれIntelの典型的な価格をさらに下回る価格となっている。たとえば、Celeron 400MHzは180ドルではなく158ドルで、Celeron 366MHzは130ドルではなく123ドルだった。また、「PC makers jump on faster Celeron chips」(InfoWorld,'99/1/4)は、新Celeronの発表と同時にCeleron 333MHzは90ドル、Celeron 300A MHzは71ドルになったと報道している。300A/333MHzの数字は公式なIntelの発表ではないが、Celeron 366/400MHzの価格を見る限り、十分ありうる。いずれにせよ、IntelがCeleronラインの価格を地滑り的にスライドさせたのは確かなようだ。


●Intelの価格階層に対応したAMDのCPU価格

 では、Intelのこの低価格攻勢は、何を意味するのか。もちろん、対AMD戦だ。IntelのCeleronの新しいハイエンドが、AMDのK6-2の新しいハイエンドと同じ400MHzであるのは偶然ではありえない。ちなみに、'98年11月の発表時点でのK6-2 400MHzのリストプライスは283ドル、K6-2 366MHzは187ドル。ここで、AMDのK6-2の'98年末の推定価格をIntelの価格階層に当てはめると、次のようになる。

【4】(250ドル前後) K6-2 400MHz
【3】と【4】の中間  K6-2 380MHz
【3】(180ドル前後) K6-2 366MHz
【2】(130ドル前後) K6-2 350MHz
【1】(100ドル前後) K6-2 333MHz
【0】(100ドル以下) K6-2 300MHz

 この価格表の半分は推定で、またAMDとIntelでは顧客へのディスカウントも異なるため単純には比較できない。だが、それでも、もともとのIntelの予定価格では、顧客が同じ価格で1グレード高いクロックのK6-2が買えてしまうことがわかる。Intelは、これを切り崩そうと考えたから、アグレッシブな低価格攻勢に出たのだ。

 AMDは、Intelに対して、同じクロックなら価格を1グレード(約75%)下げる、あるいは同じ価格ラインならクロックを1グレード(約112%)高くすることを、顧客に約束してきた。そのため、Intelがこの新しい価格体系で攻めてくると、AMDは価格引き下げで対抗せざるをえない。AMDは、おそらく'99年の第1四半期から第2四半期にかけて、次のような価格構成に移行するつもりでいたと思われる。


         '98年第4四半期 '99年第1四半期
【4】(250ドル前後) K6-2 400MHz → 450MHz?
【3】(180ドル前後) K6-2 366MHz → 400MHz
【2】(130ドル前後) K6-2 350MHz → 366/380MHz
【1】(100ドル前後) K6-2 333MHz → 350MHz
【0】(100ドル以下) K6-2 300MHz → 333MHz

 ところが、これがIntelのCeleron 400MHzのバーゲン価格で崩され始めたのだ。IntelがCeleron 400MHzを【3】(180ドル前後)に持ってきた以上、K6-2 400MHzを同じ価格帯につけるのは難しくなった。これは、AMDにとって、K6-2 400MHzを高い利幅で売るチャンスを失うことを意味する。その結果、AMDは、せっかく上がりかけた「ASP(平均販売価格)」をまた下げてしまうかも知れない。

 半導体メーカーにとって、このASPというのが、非常に重要な数字だ。IntelやAMDの戦略は、ASPを軸に考えると非常にわかりやすい。ASPについては、次回に詳しく説明しよう。


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('99年1月6日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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