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Voodoo3はKatmai搭載PCがターゲット、次のステップはモバイル製品


 今回は先週に引き続き米3Dfx Interactiveとのインタビューをお送りします。前編に当たる「日本の企業政治につぶされた-3Dfx社ディレクタがDreamcastグラフィックスチップ事件の真相を語る」も併せて御覧ください。(編集部)



●モバイルが次のロジカルなステップ

 「われわれは、リテイル市場で成功を納め、次に、OEMマーケットに進んできた。この次のステップは、モバイル。そして、ハンドヘルド機器やSTB(セットトップボックス)など、PCを超えたマーケットだ」

  こう語るのは米3Dfx Interactive(以下3Dfx)のPublic Relations担当ディレクタ、Steve Schick氏。Voodoo3の次の目的は、ローエンドデスクトップではなく、モバイルや非PCマーケットだという。これは、近い将来こうした市場でも3Dグラフィックスエンターテイメントのニーズが出てくるからだという。

  3DfxのProduct Marketing担当ディレクタSAUL Altabt氏は、モバイルについて、もう少し背景を説明する。 「モバイルは、当社にとっては非常にロジカルなステップだ。われわれはOEMへ中心を移しつつあるが、そうするとOEMメーカーからはノートPC向けもというニーズが出てくる。モバイル向け製品は、当然の展開だ」

  ただし、詳細について明らかにできるのは、まだ少し先になるらしい。


●非PC向けにはVoodoo技術をライセンスする可能性も

  しかし、具体的なステップにあるモバイルと比べて、ハンドヘルドやSTBはもう少し遠い目標のようだ。同社もぶち上げてみたものの、それほど計画は明確にはなっていないらしい。

  「ハンドヘルドやSTBは、まだどう展開するかはわからない。例えば、ソリューション(チップやドライバ)として提供するのでなく、技術をライセンスするという可能性もあるかもしれない」(Altabt氏)

  今、米国のファブレス半導体メーカーの間では、自社の設計物を製品として売るだけでなく、その設計をIP(知的所有物)として顧客企業に売るという方向がビジネスとして大きくフォーカスされている。3Dfxもそうした方向に向かうのだろうか。

  「ライセンスというのは当社の方針ということではなく、あくまでも可能性だ。しかし、それが合理的ならそうするだろう。というのは、当社のエンジニアリングリソースに限りがあるため、あまり多くのソリューションを提供できないからだ。ライセンスするほうがビジネスとして見返りがよいなら、そうする可能性もある。そのあたりは、フレキシブルに考えている」とAltabt氏は言う。


●Katmai搭載PCがVoodoo3のターゲット

  Voodooファミリは、リテイルでは確固たる人気を得ているが、PCメーカーへのOEMではまだまだ新参者だ。Voodoo3では、OEMにフォーカスすると言うが、どう攻めるのだろう。

  「これまでで最大の勝利はGATEWAYへのBanshee搭載だ。それ以外の大手パートナーは、まだ言えない。ただし、ミッドレンジからハイエンドのPCを狙っていることは確かだ。これは、Voodoo3が出荷される時点ではKatmaiシステムになるが、Katmaiでは3Dグラフィックスがさらに重要になるため、Voodoo3は非常に有望だと思っている。たしかに、競争はタフだが、Voodoo3 2000でもRIVA TNTとは十分戦えると思う」(Altabt氏)

  この、KatmaiシステムへのOEMを狙うという意味では、COMDEXで正式発表してサンプルを出せたことが非常に重要な意味を持つ。

  「われわれは、Katmaiの発表が2月の終わり頃だと考えている。だから、あと数週間(12月中)のうちに、各PCメーカーはKatmai搭載システムのグラフィックスチップの評価を始めるだろう。また、(米国では)主要な雑誌にもKatmaiの評価システムが届き、レビューを始めるだろう。こうした動きは、CPU自体の発表より2~3カ月のリードタイムがある。この評価の時に、サンプルを提供できるかどうかが大きな分かれ目となる。COMDEXで発表できたことで、これに間に合ったと思う」


●Katmai最適化ドライバも準備

  同社は、Katmai搭載を狙うために、Katmaiに最適化したドライバをもKatmaiに合わせて用意するという。

  「Katmai最適化のひとつはジオメトリ処理のアクセラレーティングで、これはDirectXでもMicrosoftとIntelがやっているが、当社のGlideベースのゲームも、同じようにKatmaiのパワーをジオメトリ処理に利用できる。もうひとつは、Katmaiの速いデータ転送レートにドライバを最適化したことだ」とAltabt氏は言う。

  Katmaiは、新しく搭載する「KNI(Katmai new instructions)」で浮動小数点演算を「SIMD(Single Instruction, Multiple Data)」化して、ひとつの命令で最大4個の単精度浮動小数点演算を同時に実行できるようにする。3Dfx Interactiveでは新ドライバでKNIに対応することで、Glideベースでのジオメトリ処理を大幅に高速化できるという。また、Katmaiでは、P6アーキテクチャの特徴であるCPUからグラフィックスチップにデータをバースト転送する「Write Combining」を強化するなど、データ転送レートを高める工夫をしているが、これにも対応するというわけだ。ただし、Katmaiは新レジスタが加わるため、OSの対応が必要で「フルにKNIに対応するには、新しいOS(あるいはパッチ)、新しいドライバ、新しいDirectX、これらを必ず揃える必要がある」(Altabt氏)という。


●グラフィックスとチップセットの統合化は様子見

  Voodooはミッドレンジ以上にフォーカスしているが、その下のローエンドPCでは、グラフィックスチップとチップセットは、統合へと急速に向かっている。3Dfxはこれをどう見ているのだろう。

  「時間とともに、ローエンドマーケットが、グラフィックスを統合するソリューションに向かうのは当然のことだ。なぜなら、PCの低価格化で、マーケットのトータルバリューが縮小し続けているからだ。ローエンド市場に参加し続けようとしたら統合化は避けられないだろう」とAltabt氏は言う。

  つまり、業界はPCの製造コストを下げる方向へと邁進しており、半導体でコストを下げる方法はチップの統合化なので、その方向に向かわざるを得ないと見ているわけだ。ただし、'99年の段階では、その動きはエントリレベルのPCに限られると同社は見る。

  「当社は、ハイエンドからミッドレンジに今はフォーカスしているので、まだ統合化については、どうするかは決めていない。次はラップトップ向け製品のプロジェクトがあり、統合化は検討するとしてもそのあとだ。また、統合化の勢いもまだわからない。ポイントは、『Whitney(Intelのグラフィックス統合チップセット:Intel810)』だ。Whitneyが登場したときに、パフォーマンスがどの程度なのかが重要だ。それによって、統合ソリューションがどのくらい速く浸透するか、どのレベルのパフォーマンスをその市場に提供すればいいのか決まるだろう」(Altabt氏)


●DDR SGRAMが次世代のメモリ

  今回のVoodoo3の対応メモリはSDRAM/SGRAMで、ATI TechnologiesがRAGE 128のローコストバージョンでサポートしたDDR SDRAMへの対応は見送った。DDR(Double DataRate)は、クロックのエッジの両端を使う技術で、データ転送だけを2倍のクロックで行なう。つまり、100MHzならデータ転送は200MHzになり、転送レートは64ビット幅の場合1.6GB/秒になる。'99年から生産が本格化する次世代DRAMのひとつだ。

  「グラフィックスチップの設計で難しいのは、どの種のメモリが、フレームバッファにもっとも適したプライスポイントに来るかを、設計を始める時点で予測しなくてはならないことだ。今回は、SDRAM/SGRAMだが、SDRAM/SGRAMは最高で200MHz止まりなので、Voodoo3以上にメモリ帯域を上げようとしたら、次はDDRがロジカルなステップになる。おそらく、次世代のハイエンド3Dグラフィックスは、多くがDDR SGRAMをベースにするだろう。RAGE 128がDDRをサポートしたのは、メモリバス幅64ビットのバージョンでデータ転送レートを上げるためだ。この使い方は、今の段階でも有効だと思う」とAltabt氏は言う。

  もっとも、Voodoo自体は128ビットのメモリ幅は維持し、64ビット幅のバージョンは作らないという。それは「3Dグラフィックスのパフォーマンスのボトムラインはフレームバッファの帯域で決まる。だからこれだけは妥協ができない」からだという。もっとも、モバイルでは64ビット幅でDDR SDRAMという解もありうると言っていた。


●Direct RDRAMは、当面はグラフィックス向けには不適と主張

  ところで、Intelは、グラフィックス用途にもDirect RDRAMが入ってくると予測しているが、3Dfxはこれには否定的だ。

  「Direct RDRAMは予測が非常に難しい。しかし、'99年のDirect RDRAMの価格は非常に高価だと見ている。2000年には、フレームバッファ用にもっと関心を引くようになるかも知れないが、少なくとも'99年にそれはないだろう。DDRの方がコストパフォーマンスで勝ると思う。それと、もうひとつのDirect RDRAMの問題はメモリの最小構成の問題だ。メモリメーカーは、Direct RDRAMを256MビットDRAMから本格的に送り出そうとしている。そうなると、フレームバッファの最小構成は64MBになってしまう」

  64MBになってしまうというのは、グラフィックスチップの場合、Direct RDRAMを2チャンネル使うからだ。Voodoo3のメモリのピーク帯域は、128ビット幅×183MHzで、単純計算では3GB/秒近い。1チャンネルのピーク帯域が1.6GB/秒のDirect RDRAMでこれに見合う帯域を実現するには、2チャンネル使うことになるが、その場合、256MビットDRAMチップだと、2個で512Mビット=64MBが最小のメモリ構成になってしまうというわけだ。

  「IntelはAGPを使ってフレームバッファサイズを減らすようにと推奨しているが、彼らの推奨するDirect RDRAMを使うと、逆にフレームバッファが増えるという矛盾が生じる(笑)。だから、メモリメーカーはグラフィックス向けのスペシャルバージョンDirect RDRAMを作らないとならないだろう。SGRAMで、64Mビット世代の時に32Mビット版を作ったように。それから、もうひとつDirect RDRAMに気乗りしない理由がある。それはRambusのロイヤリティを払わなければならないことで、マージンをさらに削ることになってしまう」


●ソフトDVDサポートは、今後は不要と判断

  ところで、米国ではDVDのソフト再生が次のコンシューマPCのカギとして浮上している。そのため、DVDのソフトウェア再生を支援するハードウェアとして、グラフィックスチップに動き補償機能を入れた製品が増えている。なかには 、RAGE 128のようにiDCT変換ハードウェアも入れて、CPUのデコード負担をさらに減らすチップも登場している。それに対して、Voodoo3のDVDソフトウェア再生支援機能は最小限で、動き補償もiDCT変換も持っていない。

  「これは、CPUのパフォーマンスがどんどん向上しているので、不要だと判断した。今では、何のハードウェアを使わなくても、Celeron 333MHzで、DVDソフトの再生が70%のCPU占有率で可能だ。しかも、CPUはさらに高速になる。それなら、動き補償機能のために、(半導体の)ゲートを浪費する必要はないと考えた。その分のゲートを、3Dグラフィックスに割いている。それともうひとつ。米国の家庭では、TVはリビングルームにあるが、PCは書斎にある。だから、PCでDVDを再生したいというニーズは、あまりないと思う。もっとも、飛行機で各シートに搭載するとか、日本のように家が小さな国では市場があるかもしれないが」とAltabt氏は説明する。

  もっとも、ATI TechnologiesがDVDソフトウェア再生支援機能に力を入れるのは、PCだけを考えているからではない。米国で放送が始まりつつあるデジタルTV/デジタルCATVのためのSTB(セットトップボックス)の市場なども狙っているからだ。それに対して、Altabt氏はこう指摘する。

  「その市場でも意味がないと思う。というのは、STBでは非常にローエンドのCPUを搭載することになる。そうなると、どうしたってハードウェアのMPEG-2デコードチップが必要となるだろう」(Altabt氏)


●Voodoo2とBansheeはいつまで続けるのか

  同社は、Voodoo3出荷後も、少なくとも6カ月はVoodoo2やBansheeなどの出荷も続けるという。

  「じつを言えば、われわれは2~3カ月前まで、初代のVoodoo Graphicsをまだ売っていた。意外に思うかもしれないが、旧製品でもまだ有効な市場はたくさんある。たとえば、Voodoo Graphicsは、南米やスペインとかで人気だ。それから、最近では中国でVoodooやVoodoo2が非常にポピュラーになっている」(Schick氏)

  中国で3Dゲームというのがピンと来ないかも知れないが、その理由は「安いソフトがいっぱいあるから」とSchick氏は笑う。つまり、中国市場では著作権が軽視されていて、コピーソフトが大量に出回っているが、それがゲーム市場に火をつけたのだという。


●Glideは今後もDirect3Dと棲み分け

  また、3Dfxは、同社最大の財産であるAPI「Glide」も、今後も提供し続けるという。

  「Direct3DとGlideは、違う目的のものだとわれわれは考えている。Direct3Dは、異なるハードウェア間のポータビリティをもっとも重要な目的として開発されており、必ずしも各ハードウェアの最高のパフォーマンスを引き出すとは限らない。それに対してGlideは、ポータビリティは提供しないが、その代わり、当社の製品の性能を最大限に引き出す。開発者はそのパフォーマンスを重視するからこそ、Glideをサポートしてくれている。また、新しい特殊効果も、Direct3Dで使えるようになるより数カ月前にGlideで使えるようになる。また、『triangle strips』や『triangle fans』といった、CPUパワーを浪費しないでパフォーマンスを上げる機能も提供している。そのため、Direct3DとGlideの棲み分けは、今後もずっと変わらないと考えている」とSchick氏は説明する。

  triangle stripsはストリップ状にポリゴンが連結したオブジェクトの場合、頂点座標データを共有することで、無駄な頂点座標計算を省き、CPUの負担を減らす機能だ。triangle fansは、ファン状のオブジェクトで同様の処理を行なう。この2つは、Glide 3.0から加わった。こうした特徴は、地味ながらGlideが大きく評価されているポイントでもある。


●Voodoo3でKatmaiシステムを狙う

  Katmai登場時期には、このパフォーマンスはおそらく最上位にあるだろう。RIVATNT-2が対抗馬になるが、クロックで勝れば、Glideの助けもあるので、Voodoo3の方がゲームユーザーには好まれるだろう。ただ、問題は、最大のライバルnVIDIAと比べると、開発サイクルが半サイクルずれていることだ。nVIDIAがVoodoo3と次世代製品の合間に、TNTの次の製品を投入してくると、またレースは熾烈になる。

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【12月8日】「日本の企業政治につぶされた-
 3Dfx社ディレクタがDreamcastグラフィックスチップ事件の真相を語る」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981208/kaigai01.htm


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('98年12月14日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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