後藤弘茂のWeekly海外ニュース

日本の企業政治につぶされた
3Dfx社のディレクタがDreamcastグラフィックスチップ事件の真相を語る



●Dreamcast用3DチップでPowerVRに破れた理由

Steve Schick氏 Saul Altabt氏
Steve Schick氏 Saul Altabt氏

 いよいよDreamcastが登場した。CPUに「SH-4」、3Dグラフィックスチップに「PowerVR」を搭載したこの次世代ゲーム機の登場は、熱烈なゲーマーたちには歓呼で迎えられた。しかし、ここに、その登場を複雑な表情で迎えた人たちがいる。米3Dfx Interactiveだ。

 それは、Dreamcastに搭載されるのはPowerVRではなく、3Dfxのチップのはずだったからだ。3Dfxはセガのプロジェクト向けにグラフィックスチップを開発していたが、セガは途中で計画を変更、NECの製造するPowerVRに替えた。この件は、3Dfxが'97年8月に、セガおよびSega of America、NECに対して訴訟を起こすという事件にまで発展、業界でおおいに注目された。

 あれから1年3カ月、今年8月には和解も成立し、ほとぼりも冷めた今、3DfxInteractiveのSteve Schickディレクタ(Public Relations担当)は、事件の背景を次のように説明する。

 「結局、伝統的な経営構造を持つ、日本の2つの大企業の政治的な動きがあって、そこから、はじき出されたということさ」

 3Dfxは、この件について、しきりに日本企業の政治的な動きという点を強調する。技術的な問題ではなく、日本の企業同士の政治にうとい米国の小企業が、どうしても日本企業に入り込めなかったという、カルチャーの問題だという。

 「アメリカの企業にとって、日本の企業とつきあう場合、どういう具合に意志決定されているかを理解するのが難しい」とSchick氏は不満を漏らす。

 もっとも、同社にとって、Dreamcastの話がつぶれたことは、悪い側面ばかりでもなかったらしい。

 「今振り返ってみると、これは結果としてはよかったと思う。(セガとの)プロジェクトにわれわれは非常に多くの開発リソースを費やしていた。もしプロジェクトがあのまま進んでいたら、われわれは、Voodoo2を予定通りのタイムフレームに出すことができなかったかも知れない」と語るのは3Dfx InteractiveのSaul Altabtディレクタ(Product Marketing担当)。

 3Dfx Interactive程度の規模の企業にとって、セガの大型プロジェクトは確かにおいしい取り引きだが、そのためには、PC市場での成功を犠牲にしなければならなかったかも知れないというわけだ。結果から見れば、Voodoo2の成功で、PCゲーム市場でのスタンダードの地位を築いたのだから、契約が壊れてよかったというAltabt氏の言葉も、負け惜しみではなさそうだ。


●Voodoo3は183MHz動作と業界最高速

 そして、そのDreamcast登場と同じ月に、同社は次の世代のグラフィックスチップ「Voodoo3」を発表した。11月のCOMDEX Fall '98で発表されたVoodoo3については、すでにPC Watchのニュースでも伝えられているが、今回は、同社スタッフへのインタビューでわかった詳細や将来戦略についてまとめてみよう。

 これまでのVoodooファミリは3Dグラフィックス専用チップだったが、Voodoo3からは3Dと2Dコアを統合したワンチップになった。マザーボードへのオンボード搭載向けの「Voodoo3 2000」と、リテール向けの「Voodoo3 3000」、それに、AGP 4x対応版の3バージョンがある。COMDEXで発表されたのはVoodoo3 2000とVoodoo3 3000で、'99年第2四半期から出荷予定。4xバージョンは'99年に発表の予定だ。

 「2000と3000の違いは動作周波数だ。ダイ(半導体本体)自体は同じだが、周波数が異なる。これは、IntelのCPUが同じダイで異なる周波数の製品があるのと同じことだ」とAltabt氏は説明する。

 具体的には、Voodoo3 3000が動作クロック183MHz、183MHz SGRAMサポートで、350MHzのRAMDACを内蔵。Voodoo3 2000が動作クロック125MHz、125MHz SGRAM/SDRAMサポートで、300MHzのRAMDAC内蔵となっている。性能は2000が250Mテクセル/秒、3000が366Mテクセル/秒以上だ。

 チップ自体のコストは1万個時の価格で35ドル(2000)と45ドル(3000)だが、メモリ価格の差で両製品を使ったグラフィックスシステムのコストには大な差が出るという。2000ではPC-100用に使われている125MHzの非常に安価なSDRAMが使えるのに対して、3000は非常に高価な183MHz SGRAMを使う。両製品をOEM用とリテイル用として区別しているのは、この総コストの差によるが、実際にはPCメーカーがハイエンドPCにOEMで3000を採用するケースも出るだろうという。OEMとリテイルの区別は、あくまでも価格面での目安に過ぎないようだ。


●0.25ミクロンへの移行で統合化を進める

 これまで同社はVoodooは3D専用チップのブランド、2D/3Dチップはブランド「Banshee」と分けてきた。ところが、Voodooブランド2D/3D統合チップ。しかも、Voodoo2とBansheeの両方の後継と位置づけている。また、同社の現在の方針では、2D/3D統合チップを今後も開発してゆくという。

 「Voodooで3Dグラフィックス機能だけに絞ったのは、パフォーマンスを追求したからだ。これまでは、プロセス技術の制約で、3Dの性能を追求するとどうしても2D機能を入れる余裕がなかった。しかし、今は、プロセス技術が進歩したので2D機能を統合しても、3Dパフォーマンスを犠牲にしないですむ。これは単純にプロセス技術の問題だ」(Altabt氏)

 これをもう少し細かく説明すると、Voodoo2とBansheeは0.35ミクロンのプロセス技術で製造していたが、Voodoo3は微細化した0.25ミクロンで製造する。Voodoo2とBansheeがPentium世代、Voodoo3がPentium II世代と考えればわかりやすいだろう。実際、Voodoo3のトランジスタ数は820万で、これはPentium IIの750万よりも多い。ちなみに、他のメーカーの同世代のチップも、0.25ミクロンでほぼ同数のトランジスタを集積している。


●他のメーカーより動作周波数で上回ると主張

 集積トランジスタ数が同じなら、性能も似たようなものになりそうだが、3DfxInteractiveは、同社がパフォーマンスリーダーの地位を維持できると主張する。その根拠は動作周波数だ。

 「プロセス技術が微細化すると、動作周波数の向上が難しくなる。そのため、他社はいずれも高い周波数を達成できていない。例えば、S3のSavage3Dは125MHzで動作するはずだったが、現在は90MHzでしか動いていないと聞いている。また、ATIのRAGE128のオリジナルのスペックは125MHz(143MHz版もある)だったが、実際は100MHzに後退しているそうだ。だが、当社は183MHzで動作させることができる。誰もが、予定の動作周波数をなかなか達成できない中で、当社はスペック通りの周波数を提供できる最初の会社になる。われわれの周波数は他のどのメーカーよりもずっと速い」とAltabt氏は自信を見せる。

 この動作周波数の話も、CPUに置き換えるとわかりやすい。たとえば、AMD-K6-2は、Pentium IIに対して同じ動作周波数なら性能に遜色がないにも関わらず、常に動作周波数で一歩劣るためにパフォーマンスリーダーにはなれない。3Dfxは動作周波数でトップを維持することで、Pentium II同様にパフォーマンスリーダーの地位を守るというわけだ。

 3Dfxによると、高い動作周波数とメモリ帯域のために、Voodoo3は3Dだけでなく、2Dやビデオの性能も高くなるという。2Dコアは基本的にはBansheeと同じなのだが動作周波数が約65%向上したため、2D性能も大幅にアップするという。


●半導体プロセス技術の専門家を迎えて高クロック化

 しかし、グラフィックスチップメーカーにとって、動作周波数の向上は非常にハードルが高いらしい。

 「0.35ミクロンから0.25ミクロンへ微細化すると、デバイスのフィジカルデザインは非常に複雑になる。例えば、0.25ミクロンでは5層レイヤーなのだが、この異なるレイヤーが互いに干渉してしまう。プロセス技術が微細化すると、どんどんノイズの問題が増える。こうした障害によって、動作周波数を上げるのが非常に難しくなる。そこで、当社では優れたツールを作り、半導体プロセス技術に詳しい専門家を雇うことに金を費やした。今回、高い動作周波数が達成できたことは、その結果だと思う」(Altabt氏)

 グラフィックスチップメーカーは、そのほとんどがファブレス(工場を持たない)メーカーだ。そのため、最新の半導体プロセス技術に最適化した設計をすることが非常に難しい。CPUに比べて動作周波数が低い一因はそこにある。3Dfxは、そこに注力することが重要だと言っているわけだ。

 また、同社は自社チップを実際に製造する半導体メーカーとの連携も強めている。今回のVoodoo3の発表では、製造ファンダリであるTaiwan SemiconductorManufacturing Company(TSMC)が、Voodoo3のサンプルチップを19日間というレコードタイムで出したことも発表している。

 「今日では、ロジックデザイナとプロセスエンジニアが密接に連携することが重要だ。われわれは、TSMCとはいい関係でいるが、これは、ファブレスにとっては、もっとも重要なことだ」とAltabt氏は語る。

 ライバルメーカーの追い上げや次世代チップ発表で、このところ旗色が悪かった3Dfx Interactive。今回のVoodoo3発表によって、ゲームPCのパフォーマンスリーダーの地位を固めようという意志は固いようだ。同社のSchick氏とAltabt氏へのインタビューではこのほかにも面白い話がいろいろ出てきたのだが、それはまた改めて紹介したい。


バックナンバー

('98年12月8日)

[Reported by 後藤 弘茂]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp