●Intelがアグレッシブな新ロードマップを明らかに
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つまり、x86互換メーカーの追撃が激しいベーシックPCと、互換メーカーの今後の侵攻が予想されるノートPCでは一気にパフォーマンスをアップして対抗。その一方、ハイエンドは一気にクロックで引き離すという反撃計画を明らかにしたわけだ。AMDが、AMD-K6-2/400発売とモバイル版のアナウンス、K7のデモで、Intelを数発殴ったことに対する反応がこれだ。敵を過小評価せずに、病的なまでの警戒心で過剰反応する、これがパラノイド(パラノイア患者)企業Intelの凄みだろう。
Intelは、こうしたMPUロードマップの刷新のアウトラインを、11月13日に行なわれた「Fall Analyst Meeting」で公式に明らかにした。この時のプレゼンテーション資料は、IntelのWebサイトにアップされている。さらに、OEMメーカーにはその前後にコンタクトを取り、より詳細を説明した。先週のCOMDEX/Fall '98でも、特定顧客向けにNDA(機密保持契約)ベースで一連の説明とデモを行なったらしい。ではIntelの新しいロードマップについて、現在わかっている限りの情報を分析しよう。
そこで、Analyst Meetingの資料や、COMDEXでの各OEMメーカーへの取材、その他の業界関係筋などで得た情報をもとに、Intelの新しいロードマップについて、現在わかっている限り分析しよう。
●Celeronは433MHzまで一気にブースト
もっとも変動が激しかったのはベーシックPCセグメントだ。Analyst Meetingの資料の中で、Intelはこの市場に'99年前半に400MHz以上の製品を投入するとしている。これまでIntelはCeleronは'99年前半に366MHzとアナウンス、またOEMメーカーには'99年後半に400MHzを出荷するとしていた。クロックアップを一気に前倒ししてきたわけだ。
COMDEXでは、すでにOEMメーカーの一部は、Celeron 366MHzの公式発表は年明け早々と公言している。また、新しいPPGA(プラスチックPGA)版Celeron用370ピンSocketのマザーボードも公開していたのはご存じの通りだ。440ZXチップセットに関しても、一部のメーカーは目立たないように展示していた。すでにこのあたりは準備が整ったというところだ。
また、OEMメーカーに対してIntelは、Celeron 400MHz版も第1四半期中に出荷、さらに第2四半期には433MHz版を投入すると言っているらしい。また、この433MHzCeleronは、「Whitney(ホイットニー:コード名)」と呼ばれていたチップセットIntel 810と一緒に出てくるようだ。810は、チップセットのうちメモリコントローラとグラフィックスチップを統合したローコストプラットフォーム向けになる。また、Analyst Meetingの資料を見ると、Intelは、2000年にはインテグレーションを進めるとしている。これがMPUへの周辺機能(メモリコントローラなど)の統合を意味するのか、チップセットのワンチップ化を意味するのか、そのあたりはわからない。しかし、IntelがベーシックPC市場向けの最適化をさらに続けるつもりでいるのは確かなようだ。
●66MHzベースに据え置くことでPentium II/Katmaiと差別化
さて、Intelは新ロードマップにより'99年にはローエンドも400MHzクラスに持ってこようとしているが、このCeleron高速化計画には少し注意が必要だ。それはフロントサイドバスのベースクロックを66MHzに据え置いたままMPUを高クロック化しようとしていることだ。以前のIntelのロードマップでは、'99年前半に66MHzベースの366MHzを、'99年後半に100MHzベースの400MHzを投入する計画だった。新ロードマップでは、このベースクロックの移行のスピードは変えずに、MPUだけを高速化している。この場合、400MHzでは6倍速、433MHzでは6.5倍速になる。つまり、チップセット/メモリへのアクセスがその分パフォーマンスの足を引っ張る頻度は多くなるわけで、性能はMPUクロックほどリニアには伸びないと予想される。
Intelが、このように、わざわざ性能向上の足を引っ張るようなことをするのは、CeleronラインとPentium II/Katmaiラインの差別化のためだ。Intelの新ロードマップでも、Pentium II/Katmaiラインは'99年前半でローエンドが350~400MHz、'99年で450~500MHzだ。そのため、新しいCeleronロードマップでは、クロックだけならPentium II/Katmaiのローエンドと並んでしまうことになる。そこで、Pentium II/Katmaiのローエンドはフロントサイドバス100MHz/PC-100 SDRAM、Celeronはフロントサイドバス66MHz/66MHz SDRAMというカタチで差別化を図ろうというわけだ。
ここには、エントリユーザーはクロックにとらわれるが、パフォーマンスユーザーはシステムパフォーマンスを重視するだろうというIntelの計算も見える。それによって、パフォーマンスデスクトップのユーザーがベーシックPCへ流れるのを食い止めるという戦略だろう。そして、'99年後半に入り、「KNI(Katmai newinstructions)」の有無で差別化を図れるようになった段階で、初めてCeleronを100MHzベースに持ってこようというのがIntelの新ロードマップの狙いだ。2000年に入れば、パフォーマンスデスクトップは133MHzのフロントサイドバス/Direct RDRAMに移行するので、Celeronが100MHzに移行しても問題はない。
●モバイルはCeleronで366MHzまで猛攻
モバイルもロードマップが変動した。IntelはAnalyst Meetingの資料の中でMobilePentium IIで366MHzも投入することを公式に明らかにした。この333MHz版と366MHz版のMobile Pentium IIは、業界筋では1月に発表されると言われている。新MobilePentium IIは256KBの2次キャッシュを内蔵した「Dixon(ディクソン:コード名)」タイプになるだろう。そして、300MHz以下のバージョンのMobile Pentium IIもDixonタイプに移行すると言われている。
しかし、Mobile Pentium II以上に衝撃的なのは、モバイル版Celeronの大胆な展開だ。IntelはAnalyst Meetingの資料の中でモバイル版Celeronとして266MHz版と300MHz版を出荷することを明らかにした。だが、OEMメーカーには、それに続いて333MHzと366MHz版のモバイル版Celeronも出すとアナウンスしたらしい。333MHzは'99年前半、366MHzは後半になるようだ。
これが意味するのは、モバイルではパフォーマンスノートPCのミッドレンジから下とベーシックモバイルPCで、CPUのクロックが完全にオーバーラップしてしまうということだ。Intelでは、モバイル版CeleronのカバーするベーシックモバイルPCは1,500ドル以下の製品ラインだとしている。それが2,000ドルクラスの製品ラインとクロックが競合するというのは、従来の戦略からは考えられない展開だ。両MPUファミリの違いは、Celeronが128KBの2次キャッシュしか内蔵していないのに対して、MobilePentium IIは256KBの2次キャッシュを内蔵しているという点だけになってしまう。
しかも、モバイル版Celeronは、これまで予想されていたようなμPGAやBGAといったパッケージだけでなく、Mobile Module 1/2でも提供されるらしい。つまり、Celeron専用のマザーボードではなく、Mobile Pentium II用のマザーボードでMobileModuleを載せ替えるというパターンもありうるわけだ。そうなると、ますますMobilePentium IIとCeleronの棲み分けは難しい。
これは、Intelが肉を切らせて骨を断つという手に打って出たことを意味しているのかも知れない。現在、米国のノートPC市場では、1,500ドル以下のベーシックモバイルPC市場がどんどん膨れ上がりつつある。そこで、PCメーカーは低コスト化の圧力に苦しんでおり、x86互換メーカーがチャンスをうかがっている。デスクトップで、ベーシックPCが勃興し始めた時と同じ状況にあるわけだ。この状況で、おそらくIntelはベーシックモバイルPCではデスクトップの時のような出遅れを出さないようにすることを決意したのではないだろうか。そこで、Mobile Pentium IIとの競合もあえて承知の上で、高クロックのモバイル版Celeronを積極的に推進するつもりなのかも知れない。ちなみに、IntelはベーシックモバイルPC向けに「Banister(バニスター:コード名)」と呼ばれる、ノースブリッジとサウスブリッジを統合したワンチップのロジックチップも出す。
Intelがノート市場でこんな大胆なCeleron戦略に出るのは、第3四半期に0.18ミクロン版のKatmai「Mobile Coppermine(カッパーマイン:コード名)」を投入するつもりでいるからかも知れない。Mobile Coppermineでは100MHzベースになり、動作クロックもAnalyst Meetingの資料では600MHz以上(!)となっている。もっとも、600MHz以上は、AC電源接続時だけのクロックの可能性もあるが、バッテリ駆動時でも400MHz以上は確実だ。ハイエンドノートは、これで一気に引き離すことができるから、安心してCeleronを積極展開できるのかも知れない。
●Katmaiは533MHz、Coppermineは600MHz以上
アグレッシブなベーシックPC/モバイルと対比すると、メインストリームのデスクトップでの展開は、それほど激しくない。3月登場と予想されている「Katmai(カトマイ:コード名)」の動作周波数は、Analyst Meetingで500MHz以上とアナウンスされた。これまでの450/500MHzから、また少し向上したことになる。しかし、AnalystMeetingの資料を見ると、P6アーキテクチャで0.25ミクロン技術でのクロックの上限は500MHz近辺となっているから、上がったとしても550MHz止まりだろう。また、さすがにIntelでも、上限の500MHzで採れる量は限られるだろうから、Katmai 450MHz版も出すことになるだろう。ただし、Pentium II→Katmaiの移行は、製造技術の変更は小さいため、かなり急激に進むと思われる。おそらく、'99年後半のメインストリームデスクトップでは、Pentium IIはすっかり姿を消してKatmaiに入れ替わることになるだろう。また、IntelはOEMメーカーにKatmaiの登場時の予定価格も、800ドル台から700ドル台に引き下げることもアナウンスしたらしい。価格的にもアグレッシブな攻勢に出る可能性が高い。
また、Analyst Meetingでは0.18ミクロン版のKatmai「Coppermine(カッパーマイン:コード名)」のクロックを600MHz以上と明かしたようだ。Coppermineは、当初533/600MHzで登場すると見られていたが、この様子では533MHz版Coppermineはなくなった可能性が高い。おそらく、533MHzまではKatmai、600MHz以上がCoppermineという棲み分けになったのだろう。
ちなみに、IntelはOEMメーカーに対して、フロントサイドバス133MHzをサポートするチップセット「Intel 820(コード名Camino)」を'99年中盤から出荷すると言っているらしい。それに合わせて533MHz(4倍速)のKatmaiが登場、さらに600MHz(4.5倍速)のCoppermineが続くという状況なのだろう。となると、667MHz(5倍速)のCoppermineは予想より早く'99年中に出てくる可能性も出てきた。ちなみに、AnalystMeetingの資料では0.18ミクロンでのP6アーキテクチャの動作クロックの上限は800MHzあたりなっている。となると2000年には733MHzと、もしかすると800MHzが登場するかも知れない。ただし、新しい0.18ミクロンプロセスで製造するCoppermineの出荷量は、'99年中はかなり少なく、ハイエンドにとどまるだろう。
●Cascadesも667MHzへ
ワークステーション/サーバーでは、デスクトップと平行してMPUの進化が続く。KatmaiのSlot 2版「Tanner(タナー:コード名)」は、Katmaiと同時期に500MHzで登場、Pentium II Xeonに置き換わる。さらに、それを追いかけて550MHz版のTannerが第3四半期に出てくると言われている。
そして、Coppermineと同時期か少し遅れる形で、0.18ミクロンの「Cascades(カスケイズ:コード名)」が登場する。Cascadesは、600MHzとおそらく667MHzになると思われる。Analyst Meetingでは、この時期にチップセットとして「Carmel(カーメル:コード名)」を投入、100/133MHzフロントサイドバスをサポートすることを明かしているようだ。ただし、最初のCascadesは256KBの2次キャッシュ統合版だけで、基本はデュアルプロセッサ構成までのシステム向けとなる見込みだ。4ウェイ以上のマルチプロセッサ構成用のMPUは、Cascadesの大容量2次キャッシュ版が登場するまで、Tannerがしばらく残ることになるらしい。
('98年11月26日)
[Reported by 後藤 弘茂]