●WinChip 3は'99年8月から量産出荷
IDT/Centaur Technologyは、WinChipシリーズでローエンドPC市場に足がかりを掴んだ。そして、同社はさらにその足場を確固としたものとするため、ラインナップを広げ、性能の向上を図る。COMDEXで、IDT/Centaur Technologyは、WinChip新シリーズの具体的なスペックと供給計画を顧客に向けて明らかにし始めた。
まず、WinChip 2では、より高速な動作クロック250/266MHzのバージョンが登場する。その他、ノートPC向けのBGAパッケージも200/233MHzで登場する。これらはいずれも'99年早々にサンプル出荷を始め、4月頃には量産出荷を始める予定だ。
同じ'99年4月頃には、WinChip 3のサンプルが登場する。これは、WinChip 2と同じコアだが、1次キャッシュを128KBに強化したものになる。IntelのCeleron 300A/333MHzやAMDのSharptoothなど、新しいプロセッサの多くは2次キャッシュを統合するが、IDT/Centaur Technologyは、1次キャッシュを増やす方向を選んだ。CentaurTechnologyのGlenn Henry社長は、10月のMicroprocessor Forumでその理由を「1次キャッシュを大きくしたほうが、小さな1次キャッシュと大きな2次キャッシュの組み合わせより高速になるから」と説明した。2次キャッシュを大きくするより、1次キャッシュを大きくする方が難しいが、WinChipの動作クロックならそれも可能だという。
WinChip 3では、SRAMの増量により、従来の600万トランジスタから1,020万トランジスタへとトランジスタ数は跳ね上がった。しかし、ダイサイズ(半導体本体)自体は76平方mmに抑え込んでいる。さらに、駆動電圧を2.2~2.8ボルトに抑えることで、消費電力も大幅に下げた。WinChip 3は200/233/266MHzで登場するが、266MHz版ですら消費電力は6ワット(Typical)、200MHz版にいたっては3ワット程度になるという。これは、ノートPCはもちろん、サブノートPCにも十分入れられる数字だ。
WinChip 3では、低消費電力が大きな利点となるため、IDTもRise同様にノートPCをターゲットとして重視するという。そのため、WinChip 3はBGAでも提供するほか、Mobile Moduleでの提供も予定しているという。同社はこの計画の詳細をまだ明らかにしていないが、IntelのMobile Moduleと差し替えができるとすると、同社のノートへの進出はこれまでより可能性が広がることになる。つまり、PCメーカーはMobile Module対応のマザーボードをひとつ作れば、ミッドレンジノートPC以上はPentium IIのMobile Module、ローコストノートPCはWinChip 3のMobile Moduleといった具合に、Mobile Moduleを入れ替えるだけで製品ファミリを構成できるようになるからだ。ノートPCでは、通常はそれぞれのプロセッサファミリに対して最適化した設計にするため、x86互換メーカーのプロセッサは使いにくかった。Mobile Moduleでは、その問題が解決され、PCメーカーがデスクトップと同様にx86互換メーカーのプロセッサを容易に採用しやすくなるかも知れない。
WinChip 3の量産出荷は'99年8月の予定だ。
●WinChip 4は450MHz版までがロードマップに
そして、'99年8月には、いよいよ次世代アーキテクチャのWinChip 4のサンプルがOEMメーカーなどに配布される予定だ。WinChip 4ではコアの設計が完全に変わり、11段と深いパイプラインとなり、非常に高い動作クロックを実現できるようになる。また、パイプラインが乱れた際のペナルティを軽減するために、分岐予測機能を大幅に強化。95%以上の予測ヒットを実現するという。WinChip 4では、x86命令を内部命令「μop」に変換する。しかし、これはPentium IIやK6の内部命令のようなRISC風命令(ロード/ストア命令と演算命令に分離された命令スタイル)ではない。また、アウトオブオーダー実行は、トランジスタ数を必要とするわりに、効果が薄いとして採用しなかった。
WinChip 4は、'99年の8月から300/350/400MHzのサンプル出荷が始まる予定となっている。WinChip 4の量産開始は'99年の第4四半期中で、その同じ第4四半期には、450MHz版のサンプルが始まる予定だ。つまり、IDTは今後、新プロセッサが量産に入るとすぐに次のプロセッサのサンプルが始まるという、ハイペースの展開を行なうようだ。動作クロックだけ見れば、1年後には今の段階の2倍近いクロックにまで一気に上がることになる。また、Microprocessor Forumでの発表では、その後、2000年前半には、0.18ミクロンへ製造プロセスを移行して、より高速化したバージョン2を出荷し始める。こちらは、500~700MHzの動作クロックになるという。
WinChip 4は、トランジスタ数を抑えながら性能向上を図ったアプローチの結果、0.25ミクロン版では1,160万トランジスタで95平方mmとコンパクトなダイ(半導体本体)になっている。同じ0.25ミクロンで製造し、128KBの2次キャッシュを統合したCeleron(Mendocino)が1,900万トランジスタで153.9平方mmであることを考えると、いかにWinChipがコンパクトかわかる。にもかかわらず、性能レンジは同等クラスだという。そして、ダイサイズはバージョン2になるとさらに縮小し、60平方mmになる。製造コストと消費電力はさらに下がることになる。このダイサイズの小ささは、WinChipの強力な武器だ。
IDTは、WinChip 4でも引き続きノートPC市場を狙う。ただし、WinChip 4では高速化する分、消費電力は高くなるため、駆動電圧を抑えたバージョンで対応する。300MHzは2.2ボルト駆動で7ワット、350MHzの2.2ボルトバージョンが8ワット。これらがモバイル向けとなる。これが、バージョン2になると、1.8ボルト駆動となり500MHz版の消費電力が9ワットとなる。500MHzノートが実現できることになる。
●目標はエントリーレベルのデスクトップとノート市場
このように、IDT/Centaur Technologyの'99年から2000年前半にかけての展開は非常にアグレッシブだ。しかし、同社ではIntelもどんどん動作クロックを上げてくるため、WinChip 4でも、まだエントリーレベルの市場にとどまるだろう予測する。ミッドレンジに上がることは目標だが、まだその時期には来ていないという。とりあえず、ベーシックPC市場で地歩を固めるのが同社の目標だ。
また、同社は、ノースブリッジを統合した「WinChip 2+NB」というチップも開発していたが、これはキャンセルとなった。チップセットメーカーがすべてローエンド向けチップセットでグラフィックス機能の統合に向かってしまったために意味をなさなくなってしまったからだという。また、同社は現在、グラフィックスチップをMPUに統合するCyrixのようなアプローチは、具体的な製品としては考えていないようだ。
('98年11月20日)
[Reported by 後藤 弘茂]