スタパ齋藤

日本人の繊細さと
超小型PC CASSIOPEIA FIVA



■ 日本人は良いなあ

CASSIOPEIA FIVA
カシオ CASSIOPEIA FIVA
オープンプライス。Cyrix MediaGX 200MHz搭載。6.7インチでSVGA表示のHAST液晶は高精細なのはもちろんだが、非常にきれいなのに驚く。825g(モデム非内蔵タイプ)なのに標準バッテリで約3時間という駆動時間も魅力
 俺は、ご存じの方も多いかと思うが、その外見が非常に非日本人的である。東京タワーの展望台とか奈良の大仏とか多摩動物園とか、そういった観光地的なところに入場しようとすると、どうしても必ず英語のパンフを手渡されてしまう。道端で中東系の肉体労働者とすれ違うと「よォ兄弟、調子はどうだ。お互いがんばろうゼ」とでも言いたげな視線とともに軽く会釈されてしまう。そして俺の自宅に打ち合わせや取材に来る出版関係者は、仕事上の話が一段落したところでたいてい「あのぉ……齋藤さんって日本人……なん……ですよ、ねぇ!?」という、実に微妙なニュアンスの口調で大胆な質問を浴びせてくる。そこで「いえ、実は祖母がロシア人なんですよ」とか言うと「ははぁ~なるほど、どうりで」みたいに思いっきりガッチリと納得されてしまう。おいおい納得してんじゃねえよと思いつつさらに「ロシアの木こりの家系なんです」と付け加えてみると、「そうですかぁ、じゃあ今も向こうにご親戚とか」などと話が弾んでしまうというから、ぜひ戸籍謄本と住民票と免許証を持ち歩いて和服を着て日本語を喋ってカタカナひらがな漢字を達筆で記述して正座していきたい!! そんで俺が日本人であることを大表現していきたい!!

 本題に触れる遙か以前に話が脱線してしまったが、そんな日本人離れした俺でも、日本人でよかったなあと思うことがたびたびある。自然とか文化とかそういう面でも「良いなあ」と思うことが多くあるのだが、現代のインダストリアルなハードウェアについてはことさら強く「日本人でよかった、日本製は良いなあ」と思うのだ。というのは、日本の製品の多くが独自の“繊細さ”を持っているから。それは日本製と外国製のちょっとしたハードウェアを比べればすぐわかる違いだ。

 例えば安価なプラスティック製置き時計を比べると、日本製は接合部やネジの処理や文字盤の蛍光塗料などがキレイ(と言ってもそれは日本人にとって当たり前の状態)だが、某国製の同等製品を見ると接合部はズレておりネジは斜めっており蛍光塗料は滲んでいるという状態。そんな調子でいろんなモンを比較してみると、印刷物の精度からクルマの乗り心地まで、さすが日本製だわという繊細な作りになっていることがわかる。

 上記の例えの場合、まあどっちのプラスティック製置き時計だって、壊れずに、正しく時を刻み、暗くても時間を確認できれば、機能的には同価値だ。なぜなら、時計は接合部やネジ止め具合を眺めるモノでも蛍光塗料の塗装の美しさを比べるモノでもないからだ。そういう意味では、やや高価な日本製と安価な某国製なら、安価な某国製のを買えばいい。できることが同じなら安いに越したコトはないし、製品を買う=機能を得る、という考えなら、某国製の方が合理的で理にかなった製品なのだ。

 が、比較的多くの日本人は、相当な理由がない限り割高な日本製を買おうとする。両者のプラスティック時計に同じ機能的価値を認めても、日本製=グッド、某国製=ダメ、と判断する傾向がある。思うにそれは、製品に対し日本人特有と思われる深遠なる想像がなされるからだ、と。

 具体的には、筐体にバリがある → いい加減に作ってある → きっといい加減なメーカーなのだろう → 精度だっていい加減に決まってる → そしてすぐ壊れるのだ → だっせぇ時計、みたいな想像だ。
 クルマなら、あっシートの端の縫製が甘い → きっとどこもかしこも甘い作りなのだ → ネジだって精度が低いだろう → エンジンとかもどっかズレてるだろう → だっめなクルマ、とかいう感じだろう。
 コンピュータなどはもっと凄くて、ややっヘッドホンコネクタがズレてるぞ → コネクタカバーも緩い → きっとマザーボードも歪んでるだろう → いつ接触不良を起こすかわからねえ → 糞マシンでしょこんなの → 糞マシン作るメーカーは糞の役にも立たない糞メーカーだ、みたいな激しい想像がなされる。

 逆の場合もある。むっ美しい筐体!! → こんな筐体を作るメーカーなら性能自体もしっかりしてそうだ → さてはこだわりのメーカーだな → きっと長持ちしそうだ→ こういうメーカーのなら安心して買える、とか。

 それらの想像が当たることもあれば外れることもある。だが多くの日本人はいつもそういう想像をしているのだ、と思う。さらに、日本の歴史上長い間そういう想像をしてきたのだ、とも思う。そう思う理由は、日本製品に対するそれらの想像がかなり高い確率で当たるからだ。
 つまり、良さそう → 購入 → 良かった、であり、ダメそう → 試しに購入 → やっぱダメだった、ということだ。最強に強まった想像力を持つ人間が多くて狭い日本において、消費者の想像(から生まれた期待)を裏切るようなメーカーは生き抜けないのである。ヘタな商品作ると、消費者にそれがヘタな商品であることが速攻でバレ、メーカーは速攻で赤字を出すのである。

 ちょっと奥さんあのメーカーのアレってヘタな商品ですってよ、あらまあ大変お向かいの奥様にも知らせなきゃ、というふうにすげえ速さで日本中にヘタな商品に関する情報が蔓延するのである。

 メーカーvs消費者の最強に強まった暗黙の駆け引きが長い間行なわれてきた日本では、某国人には全然理解できないほど凄まじい勢いで、製品の機能や性能以上の品質が求められていると思うのだ。結果、日本の製品には独自の“繊細さ”が生まれたのだ、と思う。

 製品に込められた品質というメッセージがあり、そのメッセージを受け止められる土壌がある。その、メーカー・消費者間にある“繊細さ”、これが俺に「日本人でよかった、日本製は良いなあ」と思わせるのであった。



■ カシオのFIVA

金属筐体は質感も高く、かなりイイ感じ
 さて、このような“繊細さ”を持ってして、話題の超小型PCことCASSIOPEIA FIVA(カシオペア ファイバ)に触れたら、日本人である俺はいつもの想像力を発揮させて「むむむむむっ、イイかも!!」と熱くなってしまった。FIVAが俺に、すげえ強力なメッセージを発信しているような気がしてならない。

 FIVAの魅力は、まず、その6.7型の液晶ディスプレイだ。6.7型にして800×600ドット!! すげえ精細!! このすんばらしい液晶はHAST方式でありつまりHAST LCDであり正確にはHyper Amorphous Silicon Thin Film Transistor Liquid Crystal Displayであってなんかよくわかんない新型液晶なのだが、とにかく非常にクッキリハッキリ色鮮やかだ。こんな小さな窓にこんな小さなドットがギッシリ詰まっているところが、まずはずば抜けた魅力として映る。

 次に、マシン自体のコンパクトさ。210×132×25.4mm(突起部含まず)の840g!! A5サイズ未満!! 東芝のLibretto100が210×132×35mmで1060gということで、そのコンパクトさがよくわかる。

 さらに、キーボードが横15mm縦14mmのキーピッチで十分深い押下感がある!! 試しにタッチタイピング!! いいい、イケた!!
 加えて、マグネシウム合金ボディなのでカテぇ!! 液晶パネルだけを持って本体を持ち上げても、液晶はまるで歪まねえ!! カッとなって手近にあった硬い箱のようなもの(FIVA)で殴打して逃走し国道を通行中に職務質問にあったところ怖くなって自供するほどシッカリしてるんだよアニキ!!

 そして、この液晶とコンパクトさとキーボードと硬さが合体しているのがFIVA!! これは希に見る欲しさだ!! 欲しいぜ欲しいぜ欲しくてたまらん!! オッシャァ!! 今からショップへ行……あ、夜中の2時だった。
 というわけで借り物FIVAをさらにいじくり続けることにしたら、さらなる魅力が俺を待っていたのだった。



■ その気にさせる使い勝手

インターフェイスは左側面にある
ポートリプリケーターを装着してもカッコ悪くならないデザイン
 やはりFIVAの良さは6.7型のHAST液晶だ。何度見てもイイ感じ。そしてこの6.7型という大きさは、A6よりさらにちょっと小さい四角なのだ。A4の紙(最近の電気製品カタログはだいたいA4ですな)を半分に折り、さらにもう一度半分に折ったほどの面積であり、つまりハガキサイズ程度。そこに800×600ドットでWindowsが動いているというのだから、おじさんはねぇもうねぇ出金しそうなんですよぉ。ついでに近い将来A6クラスのSVGAマシンが出るのかも~、と遠くを見つめがちになってしまう。

 このサイズにして200MHzのMediaGXとか3.2GBのストレージとかも魅力だし、2時間程度実働してしまうというのもイイし、V.90/K56flexモデム内蔵でPCカードもフツーに使えるってのも有り難いのだが、一番ソソられるのは意外なほどの使いやすさだ。カシオが言っているとおり、ホントに立ったまま使えるのだ。

 まず、親指や人差し指でけっこう快適に使えるポインティングデバイスことサムパッド。以前はこのテのタッチパッドが嫌いな俺だったが、最近はどんどん使いやすくなってきていて、FIVAのサムパッドもかなりイイ感じで使える。それから筐体の硬さ。前述のとおり液晶を持っても、液晶パネルと本体をつなぐヒンジの部分を持っても、不安な感じがない。同時に840gと軽量なので、(ポインティングデバイスのクリックボタンに親指が当たるように)左手でギュッと持って、右手は本体を軽くささえつつ(支えなくてもイケた)サムパッドおよびキーボード操作に専念させても、苦労・心配なく操作ができる。

 これも同じくカシオが言っていることなのだが、この感じならバッグにポンと入れておいて、いつでも取り出して使える雰囲気だ。もちろん画面の狭さや処理の遅さもない。さらにこれもカシオが言っていることだが、FIVAは2台目としてのマシンにすげえ向いているような気がする!! 俺の最強に強まった東芝TECRA780DVDから抜いたフラッシュメモリカードをFIVAに挿してアウトドアへ!! 都会へ郊外へ、海へ、山へ、川へ!! 都会で盗難、郊外で紛失、海で水没、山で落下、川でも水没、みたいなことになる可能性もあるが、それでも俺のモービルな妄想は広がるゼ!! 夢を見させてくれるぜ、カシオ!!

 それと、こう言っちゃあホントに申し訳ないが、FIVAは俺が持っていたカシオへのイメージを一新させた。細部までよ~く作ってあるし、カッコいいし、堂々とした感じなのだ(あくまでもイメージの話ですけど……)。ボディの仕上げやパーツの配置位置など、いろいろだが、全然チャチくない。それから別売のポートリプリケータとの合体具合も非常にイイ。ポートリプリケータとカチッと簡単に合体したり、ボタンひとつでカコッと分離したり、それからポートリプリケータと合体してもA5サイズのままというのは偉いと思った。凝っているというかよく作ってあるというか、そんな感じ。モバイルコクピットという環境管理とランチャーの役目をするシェル的ソフトも、シンプルながらも役立ってくれてナイスだ。あと、カラーリングはいわゆるひとつの505にクリソツという意見もあるが、どちらかと言えばFIVAの方がデザイン的に好きな俺である。とにかく、「あちゃ~」と思うようなマイナス点が見当たらず、つまり金に余裕のない俺には酷なマシンなのである。



■ 玄人好みのマシン!?

 思うに、FIVAは玄人好みするマシンではないだろうか。というのは同時期に市場に並んでいるサブノートは、どれもヒキのあるマシンばかりだからだ。ソニーのC1やパナソニックのLet's note commなど、強力な魅力を放つカメラ付き機種。パワーと携帯性と実用性を兼ね備えたB5サブノート各機種。B5サブノートにして1,024×768ドットなどとゆー凄まじいのもある(ソニーのVAIO PCG-505RX)。さらにそれに輪をかけてCD-ROMまで入ってるのもある(パナソニックのLet's note ace/A44)。

 そんな時期に、このマシン。他のヒキのあるマシンの中に入れば、すげえ小さくてSVGAだとは言え、FIVAは一瞬色褪せるマシンだ。しかし、考えれば考えるほど熟考型消費者の物欲昇華において決定力のあるマシンだと感じる。アレもコレもソレもできるよ~というスタンスでない点がソソる。お外で使ってネ、ということだけに絞ったコンセプトから、すげえ強い現実性が感じられる。そうなんだよ俺は外で使いてえんだよ、そして外に出るなら小さい方がいいんだよ、でも高性能で画面でけえ方がいいんだよ、もちろん外でもちゃんと使えて欲しいんだよ、という欲張り消費者(俺)の要望に応えまくっている。モノとしては目立たないながらも、俺のような奴に対して完璧な答えを出しているように思えるのだ。

 ところで俺は了見の狭いマニアなので、独断はマズイよね~ってことでFIVAの件についていろんな人に意見を求めてみた。そしたら、おもしろいことに(ていうかやはり/というよりカシオの読みどおり)、初心者ほどFIVAを欲しがらないようだ。逆に、パソコン歴が長い人やパソコンをゴリゴリ使いまくっている人ほどFIVAにソソられていたりする。

 そうなのか!! やっぱりカシオはヘビーユーザーに向けた強いメッセージをFIVAに込めていたのか!! てなわけで、俺としての結論は、FIVAは玄人好みのマシンなのではなかろうか、と。もちろん初心者が買ってもしっかり使えるとは思うが、全体的に質実剛健なマシンなので遊びっぽいトコロはほとんどないという意味だ。外でやるぜ外でやるぜ外でやるぜーッ!! てな具合に強い目的があって選べばジョリーグッドだと言えよう。

□CASSIOPEIA FIVA製品情報
http://www.casio.co.jp/mpc/

[Text by スタパ齋藤]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp