元麻布春男の週刊PCホットライン

近頃わが家で欲しいもの(前編)


■プリンタが必要になった事情

 このコラムを読んでいる人なら、筆者が以前中心に仕事をしていた某誌が休刊になったことをご承知だろう。頻繁に出入りしていた編集部が無くなって困ったことの1つが、プリントアウトをどうするか、ということだ。そもそも筆者は、あまり文書を紙に打ち出すということをしない。特に、20インチクラスのディスプレイを使うようになってこの傾向は顕著で、大半の文書は画面上で読むのを通例としている。

 とはいえ、たまには印刷したい文書に出くわすこともある。その1つが、ある程度の長さを超えたMicrosoft Word文書だ。現在、Internet等で図版の入った文書を配布するフォーマットとして広く使われているのは、このWordフォーマットとAdobeのPDFだが、こと他者が作成した文書を単に読む、ということに限ると、扱いの容易さ、ビューワーの簡便さ、日本語環境での英語文書の扱いなどの点で、PDFに軍配が上がるように思う。

 そういうこともあって、最近はPDFで配布される文書が増えている気がするのだが、頑としてWord文書を配布し続けるベンダがある。言うまでもなく、Microsoft自身だ。MicrosoftはIntelと並び、PCの標準化を先導するベンダの1つ。当然、同社からは多くのWhite Paperや規格がWord文書形式でリリースされてくる。できれば、これらを印刷したいというのが筆者の希望である。

 これまでは、事前にMicrosoftの規格についての原稿を書く予定の有無にかかわらず、冒頭で触れた某誌編集部にプリントアウトを頼んでいたのだが、今やそれは不可能になってしまった。まぁ、紙に出力しなくてどうしても困るわけではないのだが、できればプリントアウトしたい。そこで、これを機会にプリンタを買おうかという気になり、本気でプリンタ選びを行なう気になったのである。


■まずは要求仕様をまとめる

 では、どのようなプリンタが良いのか。まずこちらの要求仕様をまとめなければ、話にならない。今回のプリンタ選びに際して、絶対に譲れないのは以下の2つだ。

1. 価格は20万円以下
2. 印刷速度10ppm以上(ppm=Page Per Minuteの意で、1分間に印刷可能なページ数)

 プリンタは、PC本体、あるいはプロセッサと異なり、製品寿命が比較的長い。たとえばプロセッサの性能は、3年で4倍になる(ムーアの法則により18カ月で性能が2倍になるサイクルが2回)のに対し、プリンタの性能向上はとてもこのペースでは進まない。現在16ppmクラスのプリンタが、3年後に64ppmの性能(1秒1枚)を実現できているとは到底考えられないし、1,200dpiのプリンタが4,800dpiに高解像度化しているとも考えられない。3~4年は使える、と考えて良いだろう。

 コンピュータとその周辺機器は、購入価格が20万円を超えると減価償却期間が6年、10万円~20万円なら3年、10万円以下なら単年の一括損金扱い、という風に経費計上の方法が変わってくる。他にリースという手もあるのだが、個人リースがポピュラーな米国と異なり、日本では法人登記していない個人がリースすることは、ほとんど不可能である。プリンタの製品寿命と減価償却期間を考え合わせると、20万円を超えるプリンタは、少なくとも筆者には無縁の存在だ。

 次の印刷速度が重要なのは、筆者の主用途が、他者の書いた文書の印刷にあるからだ。雑誌の記事やコラムが中心である筆者の原稿は、1本あたり原稿用紙換算でせいぜい50枚~60枚程度と、それほど長文ではない。おそらく、A4用紙に2段組で印刷したとして、20ページくらいでおさまる。この程度の量なら6ppm~8ppm前後のパーソナル向けプリンタで十分だ。しかし、筆者が印刷したいと思っているMicrosoftやIntelがリリースする文書の中には、500ページを超える『PC99 System Design Guide』や250ページを超える『AGP 2.0 Specification』等が含まれる。これを遅いプリンタで印刷していたら、日が暮れてしまう。というより実際は、印刷しなくなる。

 もちろん、購入前に分かるプリンタの印刷速度は、あくまでもカタログ数値であり、プリンタ内のメモリにあるデータをコピー印刷した際のもの。実際に図版入りの長い文書を印刷する場合の速度とは異なるが、とりあえず目安にはなる。可能な限り速いに越したことはないが、値段や印刷時の騒音まで考えて、10ppm程度が譲れない線と考えたのである。

 この「10ppm以上、20万円以内」という枠は、ほとんどSOHO向けレーザープリンタの枠とほぼ同義。この枠の中で、どのような機能や特徴を求めるのか、これが問題だ。筆者が要求したい機能は、次の6点である。

1. 両面印刷のサポート
2. 低消費電力
3. A4専用機(可能なら)
4. PCL互換性
5. ネットワーク接続
6. FAX機能

 まず1だが、これが望ましいのは用紙の量を減らせるからだ。このクラスのレーザープリンタは、おおむね250枚程度の用紙がセットできるカセットで給紙する。両面印刷が可能ということは、1カセットで500ページまでの文書を印刷できる、ということを意味する(もちろん、環境にも優しいだろうが)。通常、両面印刷すると印刷速度が低下するが、これはその時々で、どちらをとるか選択すれば良いことだ。

 筆者のように1人で仕事をするフリーランスの場合、それほどプリントジョブは多くない。つまり、プリンタは1日の大半を待機モード、あるいはさらに低消費電力のスタンバイモードで過ごすことになると思われる。こうした非動作時の消費電力が低いことはかなり重要だ(印刷のたびにいちいち電源を入れる手間が入っては、やはり印刷しなくなる)。また、インテリジェントオフィスビルに事務所を構えるわけではない筆者の場合、印刷時の消費電力が大きいと、ブレーカーが落ちてしまう。印刷時の消費電力も低いに越したことはない。カタログに書かれている消費電力は、あくまでも目安にしかならない(ベンダにより測定条件が違うなど、必ずしも同列には比較できない)が、一応チェックしておきたいところだ。

 次のA4専用機という要求の中には、この消費電力の問題も含まれる。A3対応機に対しA4専用機は、定着ローラーが小型であるため、消費電力の点で有利になることが多い。もちろん、ローラーが小型であるということは、本体サイズの小型化にも貢献する(ハズだったのだが、実際に調べて見ると、必ずしもそうと言えないことも明らかになったのだが)。もちろんA4対応機では、A3やB4を出力することは絶対に不可能だが、筆者は必要性を感じたことはない。ただ、特にデメリットがなければA3対応機を拒否する理由もなく、それほど優先順位の高い項目ではない。

 次のPCL互換というのは、聞いたことがない人も多いかもしれないが、要は米国でデファクトスタンダードになっているHewlette-Packard製プリンタと互換性があるかどうか、ということである。すでに述べたように、英語の文書を出力する機会の多い筆者にとって、この機能があると便利ではある。日本製のプリンタの多くは、バックスラッシュを「\」でしか出力できないが、英語モードのPCL互換であれば正しくバックスラッシュで出力できるハズだ。また、筆者は常時、必ず1台は英語環境のマシンを維持しており、そのマシンからも印刷できるという点でも望ましい。ただ、これもあれば嬉しいものの、必須としているわけではない。

 ネットワーク機能もあればベターだが、なくても済む。というか、無ければ無いで、サードパーティ製のプリントサーバー(たとえばIntelのNetportExpressやメルコのLPV-TXなど)が購入できるからだ。サードパーティ製プリンタサーバーが、プリンタサーバーとプリンタ間が必ずパラレルインターフェイスになってしまう(ホストとプリンタサーバー間は10Base-Tや100Base-TX)のに対し、プリンタの純正オプションなら、プリンタ内部のバスとネットワークを直結することが可能だという違いがある。だが、プリンタ純正オプションといえど、実際には必ずしもこうなっているとは限らない。場合によっては、内蔵ネットワークインターフェイスといいながら、論理的にはパラレル接続になっているものもある。それなら、サードパーティ製の方が、価格が安く、汎用に使える(どのメーカーのプリンタとも組み合せられる)だけマシというものだ。プリンタ純正のネットワークオプションは、なぜこんなに高いのだろうか。

 最後のFAX機能も、あれば良いなぁ、という機能だ。わが家のFAXは、感熱紙(ロールペーパー)を使う古いタイプ。もしレーザープリンタを購入するのであれば、これがFAXにもなってくれればもっと嬉しい。そのくらいの希望である。だが、調べて見ると、意外とこのオプションが用意されているプリンタは少ない。しばらく前は、もう少しFAXオプションが用意されているプリンタが多かったようにも思うのだが、最近ではプリンタのオプションとしてではなく、最初からFAX/プリンタの複合機の方がハヤリのようである。

 そう思って、こうした複合機を調べていたのだが、1つのことに気づいた。それは、ほとんどがFAXにプリンタ機能を加えたような仕様になっていることだ。たとえばSOHO向けの複合機としては、富士ゼロックスのLaserWindOffice 105W IIやWorkCenter 450C(インクジェット)、シャープのZU-3600といった製品があるが、いずれもプリンタとしては4ppmと極めて低速だ(本格的なオフィス向けには、20ppmを超えるリコーのimagioなど高速なものがあるが、価格も65万円からとケタ違いである)。FAXはそれほど高速な出力は必要ではないからこれで良いのだろうが、プリンタとしては辛い。もし複合機を考えるのであれば、プリンタにFAX機能をつけたいところだ。もちろん、より自由度を求めるなら、プリンタにFAX機能を持たせるのではなく、PCにFAX機能を持たせた方が良いと思うのだが、自分以外の家人が利用することまで考えると、PCベースにはなかなか踏み切れないところがある。

 というわけで次回は、実際に条件に合致するプリンタについて、各機種別に検討していこうと思う。果たして、筆者が買っても良いと思うプリンタはあるだろうか。

[Text by 元麻布春男]


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