元麻布春男の週刊PCホットライン

Microsoftが圧力をかけたIntelのインターネット関連技術とは?


■ 圧力をかけたとされるのは、どの技術についてなのか

 ちょっと前の話になるが、米国の新聞The New York Timesは、現在Microsoftと反トラスト法違反訴訟で争っている米司法省が、MicrosoftはIntelにも圧力をかけていた、とする資料を連邦地裁に提出したと報じた。このニュースは、インターネット上のニュースサイトで取り上げられたし、わが国の新聞でも報じられたから、知っている人も多いのではないかと思う。このニュースを読んで筆者には、アレ?と思うことと、ピンとくることの両方があった。

 まずアレ?と感じたのは、少なくとも各社の報道(The New York Timesからの引用という形だが)で、MicrosoftがIntelに対し圧力をかけたのがインターネット関連の技術となっている点だ。報道によると、IntelがIntel Architecture Labsで行なっているインターネット関連の技術開発が、自社のインターネット戦略に対する脅威になると感じ、Intelが開発を続けるなら競合メーカーを支援すると脅しをかけた、のだという。

 確かにIntelは、IALでインターネット関連の技術開発を行なっている。だが、それは今も継続しており、「脅し」に屈して止めたようには見えない。現在のIALのWebページの中から、Internet Media Initiativeのページを見ても、IALがインターネット関連技術の開発を止めていないことは明らかだろう。もちろん、Microsoftの「脅し」に負けて、技術開発の方向性を変えたと考えることは不可能ではない。が、そもそもインターネット上の技術の多くは、何も1つでなければならないというわけではない。上記のページにあるダイナミックな3Dビジュアル効果など、いろいろな技術があって構わないし、別に1つに統一せねばならないわけではない。

 それでは逆に、Intelが「脅し」に屈しなかったので、Microsoftはライバルを支援し、Intelと対立する姿勢を現在見せていると判断可能だろうか。確かに、AMDのプロセッサやIDTのプロセッサには、Windowsのロゴが描かれている。しかし、これが「支援」なのだとしたら、効果があるのかないのか、良く分からない曖昧なものだ。
 そもそもこのロゴは、Hardware Design Guideに準拠すれば、サードパーティは利用することができる。実際に利用するかしないかは、サードパーティの判断に過ぎない。また、DirectX 6では、AMDの3DNow!がサポートされており、これを「支援」とみなすことも不可能ではないかもしれない。だが、DirectXでは、IntelのKatmai NewInstructionもサポートされることになっている。今のDirectX 6がそれをサポートしていないのは、まだKatmaiがリリースされていない、ということが最大の理由である。

 DirectXの3D命令サポート(ジオメトリ演算のアクセラレート)に関しては、Intelのもの(Katmai New Instruction)以外には、あと1つしかサポートしないので、互換プロセッサベンダは調整するようにとMicrosoftが伝えた、というのが業界での定説になっている。その結果、最も開発が進んでいたAMDの3DNow!にすることで各社の調整が行なわれ、それで一本化されたようだ。また、Intel以外にもう1つ、というのも、純粋に開発やサポートの問題からで、政治的な意味はないと見るのが一般的である。おそらく自社でドライバを開発すれば、DirectX 6のジオメトリアクセラレーションを利用することは可能なのではないだろうか。

 結局Microsoftは、ライバル企業を支援していないわけではないが、Intelを排除しているわけでもない。この点に関して(他の点については筆者が知る由もない)、特に独禁法上の問題があるようには思えない。というわけで、Microsoftがインターネット関連技術を理由にIntelに対し圧力をかけた、という報道には、筆者はアレ?と首をかしげてしまったのである。


■ 筆者がピンときたのは『NSP』

 では、筆者がMicrosoftがIntelの技術を潰したと聞いてピンときたのは何か。それはIALが開発したNSPと呼ばれる技術だ。NSPとはNative Signal Processingの略で、通常はDSPが行なうような処理を、MMX命令を備えたIntelプロセッサで行なおうというものである。その応用分野としては、ソフトウェアMIDI、ソフトウェアモデムなどが予定されていた(無理やりソフトウェアモデムをインターネット関連技術とこじつけられなくはないだろうが、それはあまりに強引な見方であろう)。ここまで聞けば、あぁそういうのもあったなぁ、と思い出す人もいるかもしれない。

 NSPについて、Microsoftが最も気に入らなかったのは、NSPの実装がリング0で動作するVxDに依存していたからだ。NSPでは、多くのDSPが利用している業界標準のリアルタイムOS(SPOX)を、VxDの形で実装することになっていた(このバージョンをIA-SPOXと呼ぶ)。ところが、すでにMicrosoftは、将来のWindowsでVxDを止め、Win32 Driver Model(WDM)へ移行することを決めていた。VxDの追加は、とうてい許容しがたいことだったに違いない。

 そもそもOSの開発者にとって、リング0に他社のコンポーネントが入ってくるだけでも嫌なことだ。リング0で動作するプロセスは、どんな命令でも実行することが可能な特権を持つ。そこに他社のコードが入るということは、最終的なOSの安定性を自社で保証できないということになりかねない。それもあって、VxDからWDMへの移行を決めたのに、IA-SPOXが入りこんできては、元の木阿弥である。MicrosoftがIntelにNSPの導入を止めるよう要請したとしても不思議ではない。実際、IntelはNSPを発表したものの、しばらくするとNSPについて極めて口が重くなり、そのうちNSPの話はどこかへ立ち消えになってしまった。この間に、The New York Timesがいう、「脅し」があったと考えることは可能である。NSPに関してMicrosoftがIntelにクレームをつけたのは、おそらく間違いないことであろう。

 筆者は、NSPを止めるようにIntelに言うことそのものは、別に違法ではないと思うし、それを言うだけの権利がOSの開発元であるMicrosoftにはあると考える。唯一問題なのは、説得するにあたり、脅迫めいたことを言ったかどうかだ。しかしこれは、当事者以外は知りえぬことである。連邦地裁でどのようなことが明らかにされるのか、注目して見守りたい。

[Text by 元麻布春男]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp