グラフィックスカードの背面に描かれたHerculesのロゴ。写真のStingray 128/3Dは、3Dfx InteractiveのVoodoo Rushチップを用いたもの |
Herculesアダプタのウリは、MDA互換のモノクロアダプタに、独自のグラフィックス表示機能(つまりCGA互換ではない)を加えたことだ。今風?に言えば、Super VGAならぬSuper MDAカードを売り出したのである。このHerculesアダプタは大ヒットし、おそらくサードパーティによるPC市場初の業界標準となった。Herculesアダプタが、ここまで支持された理由(キラーアプリケーション)は、DOS版のLotus 1-2-3である。データのグラフ化をサポートしたこの表計算ソフトが、高解像度テキストとグラフィックスを安価に両立させたHerculesアダプタなしに、表計算ソフト分野での業界標準になれたかは疑問だ。逆に、Lotus 1-2-3なしに、Herculesアダプタが業界標準になれたかどうかも分からない。いずれにせよ、Windows時代が到来する前の米国のビジネスPCには、HerculesアダプタとLotus 1-2-3(もちろんDOS版)が、必ずといって良いほどセットでインストールされていた。それで十分だったのである。
Herculesアダプタが大ヒットした同社が次にリリースしたのは、In Colorカードと呼ばれるカラーグラフィックスカードだ。しかし、筆者はこれが大ヒット商品になった記憶がない(もはやどのような仕様だったか覚えてもいない)。そして、Windows時代の到来とWindowsアクセラレータの隆盛を受けて、同社も社外のビデオチップベンダのチップを搭載したビデオカードを販売するカードベンダの1つになった。だが、この市場でも後発のベンダに押され気味で、近年はとにかくめぼしそうなビデオチップを片っ端から採用する苦しい姿が目に付いた。また、ドライバ等の完成度がまだ十分でない時点で、製品をあせってリリースすることもあったようだ。同社が買収先を探しているというウワサも何度か耳にした。
かつて、Herculesアダプタを支えたLotus 1-2-3は、Windows時代になってMicrosoftのExcelに表計算ソフトの標準の座を明け渡し、Lotus自身もIBMに買収されてしまった。だが、Notesの会社として、今も市場で確固たるポジションを占めていることは間違いない。ELSAに買収されたHerculesが、Lotusと同じようなシナリオを描けるのかどうか、また買収したELSAがSPEAのような道を辿らず、Herculesの買収を足がかりに米国市場への本格進出と成功を収めることができるのか、注目されるところである。
[Text by 元麻布春男]