一ヶ谷兼乃の「PCパーツ天国」

中・上級者向けパーツレビュー

一ヶ谷兼乃の「PCパーツ天国」 第5回

最新440BXマザーボード「AOpen AX6BC」使用レポート

~ 自作PCユーザー全般にお勧めできるマザーボード ~



■Slot 1マザーボードの遍歴

 筆者は昨秋に自分にとっては、初めてのSlot 1マザーボードとなる「ASUS P2L97」を購入した。その後、Socket 7のマザーボードなども購入したが、メインマシンの座にはこのP2L97が随分長い間居座り続けた。しかし、440BXチップセットを搭載したマザーボードが登場し始めたときに購入した「ABIT BX6」が、そのメインマシンの座を奪った。

 440BXでは、FSB(Front Side Bus ~ Pentium Pro/IIでプロセッサとチップセットやメインメモリを結ぶデータバス)クロックとして正式に100MHzがサポートされたため、様々なブランドの440BX搭載マザーボードが秋葉原などに並び始めると、自作PCマニアが飛びついた。

 確かに、これまでもイリーガルなクロックアップで、75MHzや83MHzといったベースクロックを試していたPCユーザーも多かったのだが、正式に100MHzがサポートされて安定動作する魅力は大きい。それに、100MHzが正式サポートされているのだったら、クロックアップすると、もっと高い周波数で動作するのでは……と、考えた人も多いはずだ。

 これらの理由により、数多くの自作PCユーザーが、いろいろな440BXマザーボードを購入し、インターネットや大手BBSで使用感などをレポートしている。そこで、目に留まったのが、AOpenのマザーボードである。これまでも、AOpenは様々なマザーボードを発売してきたが、440BXを搭載したAX6Bは、発売当初から人気が高く、購入したユーザーにも好評を得ていた。筆者もこのAX6Bが気にはなっていたが、既にABIT BX6を手配していたため、購入にはいたらなかった。

 筆者が最初の440BXマザーボードとしてABIT BX6を選択したのは、CORE電圧がBIOSセットアップで自由に設定できるからだ。この仕様は、クロックアップを試すPCユーザーには魅力的で、実際に便利だった。例えば、非常に効果的なCeleronのクロックアップも簡単に行なえる。sSpec NumberがSL2QGの266MHz版Celeronは、CORE電圧を規定値の2.0Vから2.2V程度に昇圧するだけで、クロックアップ時でも極めて安定して動作する。FSB 100MHzや112MHzで内部4倍速、つまりCPU内部クロック400MHz、448MHzで動作するのだ。2次キャッシュが搭載されていないとはいえ、400MHzを超えるクロックで動作するとなるとかなり強力で、このパワーを実売1万円台のCPUで手に入れられるのだから、自作PCユーザーには、たまらない魅力といえる。



■なぜAX6BCなのか?

AX6BC全体
【AX6BC全体】
シルク印刷
【AX6BCのシルク印刷】
 しかし、このBX6を使っていて一点だけ気になることが出てきた。それは、メモリに厳しいところだ。このマザーボードには複数のDIMMを装着しても、うまく動作するようにバッファが組み込まれている。が、このバッファのおかげでクロックを上げていくと、メモリに対しての電気信号のタイミングが厳しくなり、うまく動作しなくなる現象が起こるのだ。

 その問題を克服すべく、次のマザーボードを物色していたところ、AOpenのWebサイトに掲載された新しいマザーボード「AX6BC」が目に留まった。前述したようにAOpenのマザーボードは評判がいいので、前から実際に触れてみたいと考えていた。そのため、このAX6BCが次のマザーボードのターゲットになった。

 実際に現物が市場に出てくるまでしばらく時間がかかったが、なんとか購入でき、筆者にとっては3枚目となるSlot 1マザーボードとなった。そこで、今回はその使用感をレポートしよう。



■AX6BCの特徴

 手に入れたのは、秋葉原のPCアドバンスド3丁目店だ。秋葉原Hotline!で、入荷の予定が掲載されていたので、電話で予約して入手した。事前にパッケージを見ていなかったのだが、筆者が購入したものは、アイー・オー・ネット扱いの製品だった。筆者自身はあまりマザーボードのトラブルの経験はないのだが、国内でサポートが受けられるというのはやはり安心感がある。

 一番ありがたいのは、製品を手にしてから感じたメリットではあるが、AX6Bの日本語マニュアルがAOpenのWebサイトに登録されていることだ。AX6BCはAX6BとBIOSセットアップの内容などの使いこなしの部分が、非常に類似しているために、AX6Bの日本語マニュアルが参考にできる。また、日本語でのメーカーのサポートページがあるのも心強い。もうしばらくすれば、AX6BCの日本語マニュアルも登録されるだろう。

 まず最初にハードウェアの仕様から見ていこう。チップセットには440BXを採用しており、ファームファクタはATX仕様となっている。BIOSはAward製。SB-LinkやWake On Lanをサポートし、オプションのIrDAユニットを接続するコネクタも用意されている。拡張スロットはAGPスロットが1つ、PCIスロットが4つ、ISAスロットが1つに、PCIとISAの兼用スロットが1つある。ISAバスがPCI兼用を入れて2本しかないが、最近めったにISAバス対応拡張カードを使用することがなくなり、PCIバス対応のカードが増えてきたので、PCIスロットが5つ使えるメリットの方が大きいだろう。

拡張スロット
【拡張スロット】
SB Linkコネクタ
【SB Linkコネクタ】
IrDAユニット接続コネクタと、WOL用コネクタ、Flash BIOS
【IrDA用コネクタ、WOL用コネクタ、Flash BIOS】

DIMMスロット  現在も販売されているAX6Bとの大きな違いは、拡張スロットの構成と、DIMMスロットの数が4つから3つに減り、コンパクトになっているところだ。DIMMスロットの数が減っている点は、DIMMの主流が64MBや128MB容量であることを考えると、それほどデメリットにはならないだろう。

 そのほかの特徴としては、ジャンパピンで設定する項目が極めて少なく、CPUのクロックなどはすべてBIOSセットアップで設定できることが挙げられる。これは、頻繁にCPUを換えたり、様々な設定を試すものとしては非常にありがたい機能だ。特に筆者にとっては、この機能は非常に重要なもので、これまで購入したSlot 1マザーボードは意識的にBIOSセットアップでCPUクロックを変更できる機種を選択してきた。ちなみに、AX6BCで使用されているジャンパピンは、BIOSセットアップの内容を初期化するスイッチと、AGP Turbo ON/OFFを切り替えるものだけだ。

 また、これからマザーボードを購入するときに注意しておきたいのは、BIOSが格納されるFlash ROMの容量だ。なぜかというと、ACPIのサポートにはBIOS Flash ROMの容量が2MBなければ無理という話があるからだ。現状では、ACPIをサポートしているBIOSを提供しているマザーボードメーカーは極めて少ない。このAX6BCに搭載されているBIOSも、WebページではWindows 98でのACPIをサポートしているとあるものの、Windows 98からは認識されない。レジストリに値を追加したり、セットアップ時に「/p j」オプションを付けたりしたが、どうしても認識させることができなかった。しかし、AX6BCはFlash BIOSの容量が2MBであるため、ACPIサポートの可能性が残されているといえるだろう。

 ただし、440BX自体も、ロットによってはACPIをサポートできないという噂もあり、正式に動作するACPIを装備したマザーボードの実現は、予想以上に難しいのかもしれない。筆者も調査を行なっているが、440BXには必ずといっていいほどヒートシンクが装着されているためにsSpec Numberが確認できず、よく現状を掴みきれていない。このようなこともあって、なるべく新しい製品でACPIへの対応が期待できるAX6BCを購入したわけだ。


■AX6BCの実際の使用感

D4564841G5-A80 PC/100対応DIMM  早速AX6BCを使ってシステムを組んでみた。今回使用したメモリは、これまで使用していたPC/66のSDRAMのDIMMと、100MHz以上のFSBでの使用を考慮してPC/100仕様のSDRAMのDIMM。このPC/100仕様のSDRAMは、クロックアップ時にメモリが原因となって、うまく動作しないことをなるべく避けるために、NECのD4564841G5-A80というチップを搭載した、CAS Latency2のものを購入した。このチップは125MHz仕様であるため、それなりの性能が期待できるという予測に基づいての選択だ。


 実際に、筆者個人で使用するCPUは手持ちのPentium II 333MHz版で、うまくいけば、これをクロックアップして使っていきたいと考えた。もちろん読者が新規にシステムを組む場合でも、333MHz版を高速で駆動することができれば、FSBクロック100MHz対応の350MHzや400MHz版に比べ、コストパフォーマンスが高くなることはいうまでもない。なお、今回動作チェックに使用したOSは7月に発売された日本語版のWindows 98だ。

 まずは、Pentium II 333MHzとPC/66仕様のDIMMを装着して、FSB 66MHz、5倍速の333MHzに設定した。規定どおりの設定なので当然のことながら、何も問題なく動作。次に、FSB 100MHz、3.5倍速の350MHzに設定したところ、これも無事に起動し、Windows 98も安定動作した。ちなみに、ABIT BX6では、この条件で既に動作が不安定になっていた。さらに、FSB 100MHzの400MHzにチャレンジしてみたが、さすがにBIOSすら起動せず、PC/66仕様のDIMMでは、100MHz×3.5=350MHz動作が限界のようだ。

 ここで、さらなる高速動作をめざして、メモリをPC/100仕様のものに交換してみた。すると、先ほどBIOSすら起動しなかった、FSB 100MHzの400MHz設定でOSが起動、様々なアプリケーションも問題なく動作した。しかし、これ以上の設定、内部動作倍率4.5や5倍では、BIOSすら表示されずじまい。そこで、ベースクロックも変化させていくと、限界はFSB 103MHzという結果になった。つまり今回試した限りでは、AX6BCでのPentium II 333MHzが安定動作するクロックの上限は103MHz×4の412MHzということになる。

 ここで比較のため、編集部で用意してもらった、規定FSBクロックが100MHzとなっているPentium II 350MHz版/400MHz版をそれぞれFSB 100MHzだけで検証した。まず350MHz版のほうは、通常の設定では3.5倍速の350MHz動作が上限、つまり規定内での動作となった。しかし、AGP Turbo機能をONにすることによって、4.5倍速の450MHzでの安定動作が可能になった。同じように400MHz版も試してみたが、AGP Turbo OFFの状態では、やはり規定内の4倍速の400MHz動作が、AGP Turbo ONの場合には450MHz動作がそれぞれ上限となった。つまり、350MHz版でも、400MHz版でもAGP Turbo ON時の上限は同じという結果だった。ちなみに、AGP Turbo機能とは、FSBクロックとAGPのクロックを同じにする働きのことだ。

 今回の試用では、Pentium II 350MHz/400MHzについては、FSB 100MHzの設定だけでの検証となったので、正確な比較は難しいものの、333MHzと350MHz/400MHzでは、設定できる上限の差は大きくないという結果になった。特に、まだまだ、333MHzに比べ、350MHz/400MHzの割高感が高いことも考えに入れると、実感としてその差はさらに小さいといえるだろう。

AX6BCでの動作上限
CPU(備考)動作上限クロック
Pentium II 333MHz(PC/66メモリ使用)FSB 100MHz×3.5 = 350MHz
Pentium II 333MHz(PC/100メモリ使用)FSB 103MHz×4.0 = 412MHz
Pentium II 350MHz(AGP Turbo ON)FSB 100MHz×4.5 = 450MHz
Pentium II 400MHz(AGP Turbo ON)FSB 100MHz×4.5 = 450MHz


■メインマシン用として採用決定

 このマザーボードをしばらく使用してみて感じるのは、“非常に扱いやすい”ということだ。特に、よくわからないトラブルがなく、BIOSセットアップで様々な設定を行なったときに、発生したトラブルの原因が掴みやすいところがいいところ。こういった利点を考えると、安定したシステムのベースに向いているともいえるだろう。まさに、自作PCユーザー全般にお勧めできるマザーボードだ。

 パソコンで、多くの仕事や作業をまかなっている身としては、パソコンは高速で安定動作してほしいものである。今回、購入したAX6BCはまさに、その目的にうってつけのマザーボードであり、しばらくは、このマザーボードがメインマシンに居座るだろう。今回実際に使用してみて、自作PCユーザーの間で、AOpenの人気が高い理由がなんとなくわかった。

 しかし、AX6BCがメインマシンの座にいるのも長くはないかもしれない。というのも既に次のマザーボードの手配をお願いしているからだ。月末にはそれが届く予定になっているので、そのマザーボードがメインマシンの座につくかもしれない。そのマザーボードも機会があれば、本誌でレポートしよう。


■ケース/電源選びは、スタンバイ時容量に注意

 話は変わるが、これから電源付きケースを購入したり、電源の買い替えを考えているの方に注意してもらいたいことがあるので、お伝えしたい。

 最近のマザーボードは、Slot 1対応マザーボードに限らず、いろいろな新しい機能が付加されている機種が増えてきている。具体的には、Wake On Lan(WOL)やキーボードによる電源ON機能などだ。これらはいずれも、マシンの電源が落ちているときに、何かしらのイベントで電源を投入する機能なので、マシンが落ちている状態でも、そのイベントを検出するために、マザーボードに電源を供給する必要がある。もちろん、これまでのATX電源も、電源ボタンを押されたことを検出するために、マザーボードに電源を供給している。

 電源の切れている状態(厳密には完全に切れているわけではないが)をスタンバイ状態といい、この状態の時に、電源ユニットが供給できる容量はユニットに張られたステッカーを見ると判断できる。問題となるのはこの容量で、「+V5SB」となど記述されていることが多い。この容量が少ないと、WOLもキーボードによる電源投入も機能させることができなくなる。さらに、マザーボードによっては、WOLの回路が常に働いているために、動作が不安定になる機種もあるのだ。また、マニュアルに使用条件としてスタンバイ時の電流の容量やATX 2.01準拠と記載されているものもある。

 そこで、これから電源付きケースを購入したり、電源の買い替えを考えているのであれば、購入のひとつの目安として、ATX 2.01仕様に準拠しているものを選んでほしい。この仕様の電源であれば、スタンバイ状態での電源供給も考慮されて作られているので、最近のいろいろな機能が搭載されたマザーボードでも安心して駆動できる。

 筆者自身も、WOLのLANカードの使用を計画しているために、いままで使用していた電源ユニットを交換した。これまで使用していたのがSeventeamのST-250HRで、スタンバイ時の電源容量は0.1Aとなっている。今回購入したのは、同じSeventeamのST-251HR。この電源はATX2.01準拠で、スタンバイ時の電源の容量も1Aと250HRの10倍。この程度の容量があれば、当面新しい仕様のマザーボードが出てきても大丈夫なはずだ。なお、この電源ユニットもAX6BCと同じPCアドバンスド3丁目店で購入した。

ST-250HR
【ST-250HR】
ST-251HR
【ST-251HR】

 ということで、これから電源や電源付きケースを買われる方は、ステッカーの「+V5SB」をよく見てから購入されることをお勧めする。

[Text by 一ヶ谷兼乃]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp