440BXでは、FSB(Front Side Bus ~ Pentium Pro/IIでプロセッサとチップセットやメインメモリを結ぶデータバス)クロックとして正式に100MHzがサポートされたため、様々なブランドの440BX搭載マザーボードが秋葉原などに並び始めると、自作PCマニアが飛びついた。
確かに、これまでもイリーガルなクロックアップで、75MHzや83MHzといったベースクロックを試していたPCユーザーも多かったのだが、正式に100MHzがサポートされて安定動作する魅力は大きい。それに、100MHzが正式サポートされているのだったら、クロックアップすると、もっと高い周波数で動作するのでは……と、考えた人も多いはずだ。
これらの理由により、数多くの自作PCユーザーが、いろいろな440BXマザーボードを購入し、インターネットや大手BBSで使用感などをレポートしている。そこで、目に留まったのが、AOpenのマザーボードである。これまでも、AOpenは様々なマザーボードを発売してきたが、440BXを搭載したAX6Bは、発売当初から人気が高く、購入したユーザーにも好評を得ていた。筆者もこのAX6Bが気にはなっていたが、既にABIT BX6を手配していたため、購入にはいたらなかった。
筆者が最初の440BXマザーボードとしてABIT BX6を選択したのは、CORE電圧がBIOSセットアップで自由に設定できるからだ。この仕様は、クロックアップを試すPCユーザーには魅力的で、実際に便利だった。例えば、非常に効果的なCeleronのクロックアップも簡単に行なえる。sSpec NumberがSL2QGの266MHz版Celeronは、CORE電圧を規定値の2.0Vから2.2V程度に昇圧するだけで、クロックアップ時でも極めて安定して動作する。FSB 100MHzや112MHzで内部4倍速、つまりCPU内部クロック400MHz、448MHzで動作するのだ。2次キャッシュが搭載されていないとはいえ、400MHzを超えるクロックで動作するとなるとかなり強力で、このパワーを実売1万円台のCPUで手に入れられるのだから、自作PCユーザーには、たまらない魅力といえる。
【AX6BC全体】 |
【AX6BCのシルク印刷】 |
その問題を克服すべく、次のマザーボードを物色していたところ、AOpenのWebサイトに掲載された新しいマザーボード「AX6BC」が目に留まった。前述したようにAOpenのマザーボードは評判がいいので、前から実際に触れてみたいと考えていた。そのため、このAX6BCが次のマザーボードのターゲットになった。
実際に現物が市場に出てくるまでしばらく時間がかかったが、なんとか購入でき、筆者にとっては3枚目となるSlot 1マザーボードとなった。そこで、今回はその使用感をレポートしよう。
一番ありがたいのは、製品を手にしてから感じたメリットではあるが、AX6Bの日本語マニュアルがAOpenのWebサイトに登録されていることだ。AX6BCはAX6BとBIOSセットアップの内容などの使いこなしの部分が、非常に類似しているために、AX6Bの日本語マニュアルが参考にできる。また、日本語でのメーカーのサポートページがあるのも心強い。もうしばらくすれば、AX6BCの日本語マニュアルも登録されるだろう。
まず最初にハードウェアの仕様から見ていこう。チップセットには440BXを採用しており、ファームファクタはATX仕様となっている。BIOSはAward製。SB-LinkやWake On Lanをサポートし、オプションのIrDAユニットを接続するコネクタも用意されている。拡張スロットはAGPスロットが1つ、PCIスロットが4つ、ISAスロットが1つに、PCIとISAの兼用スロットが1つある。ISAバスがPCI兼用を入れて2本しかないが、最近めったにISAバス対応拡張カードを使用することがなくなり、PCIバス対応のカードが増えてきたので、PCIスロットが5つ使えるメリットの方が大きいだろう。
【拡張スロット】 |
【SB Linkコネクタ】 |
【IrDA用コネクタ、WOL用コネクタ、Flash BIOS】 |
そのほかの特徴としては、ジャンパピンで設定する項目が極めて少なく、CPUのクロックなどはすべてBIOSセットアップで設定できることが挙げられる。これは、頻繁にCPUを換えたり、様々な設定を試すものとしては非常にありがたい機能だ。特に筆者にとっては、この機能は非常に重要なもので、これまで購入したSlot 1マザーボードは意識的にBIOSセットアップでCPUクロックを変更できる機種を選択してきた。ちなみに、AX6BCで使用されているジャンパピンは、BIOSセットアップの内容を初期化するスイッチと、AGP Turbo ON/OFFを切り替えるものだけだ。
また、これからマザーボードを購入するときに注意しておきたいのは、BIOSが格納されるFlash ROMの容量だ。なぜかというと、ACPIのサポートにはBIOS Flash ROMの容量が2MBなければ無理という話があるからだ。現状では、ACPIをサポートしているBIOSを提供しているマザーボードメーカーは極めて少ない。このAX6BCに搭載されているBIOSも、WebページではWindows 98でのACPIをサポートしているとあるものの、Windows 98からは認識されない。レジストリに値を追加したり、セットアップ時に「/p j」オプションを付けたりしたが、どうしても認識させることができなかった。しかし、AX6BCはFlash BIOSの容量が2MBであるため、ACPIサポートの可能性が残されているといえるだろう。
ただし、440BX自体も、ロットによってはACPIをサポートできないという噂もあり、正式に動作するACPIを装備したマザーボードの実現は、予想以上に難しいのかもしれない。筆者も調査を行なっているが、440BXには必ずといっていいほどヒートシンクが装着されているためにsSpec Numberが確認できず、よく現状を掴みきれていない。このようなこともあって、なるべく新しい製品でACPIへの対応が期待できるAX6BCを購入したわけだ。
実際に、筆者個人で使用するCPUは手持ちのPentium II 333MHz版で、うまくいけば、これをクロックアップして使っていきたいと考えた。もちろん読者が新規にシステムを組む場合でも、333MHz版を高速で駆動することができれば、FSBクロック100MHz対応の350MHzや400MHz版に比べ、コストパフォーマンスが高くなることはいうまでもない。なお、今回動作チェックに使用したOSは7月に発売された日本語版のWindows 98だ。
まずは、Pentium II 333MHzとPC/66仕様のDIMMを装着して、FSB 66MHz、5倍速の333MHzに設定した。規定どおりの設定なので当然のことながら、何も問題なく動作。次に、FSB 100MHz、3.5倍速の350MHzに設定したところ、これも無事に起動し、Windows 98も安定動作した。ちなみに、ABIT BX6では、この条件で既に動作が不安定になっていた。さらに、FSB 100MHzの400MHzにチャレンジしてみたが、さすがにBIOSすら起動せず、PC/66仕様のDIMMでは、100MHz×3.5=350MHz動作が限界のようだ。
ここで、さらなる高速動作をめざして、メモリをPC/100仕様のものに交換してみた。すると、先ほどBIOSすら起動しなかった、FSB 100MHzの400MHz設定でOSが起動、様々なアプリケーションも問題なく動作した。しかし、これ以上の設定、内部動作倍率4.5や5倍では、BIOSすら表示されずじまい。そこで、ベースクロックも変化させていくと、限界はFSB 103MHzという結果になった。つまり今回試した限りでは、AX6BCでのPentium II 333MHzが安定動作するクロックの上限は103MHz×4の412MHzということになる。
ここで比較のため、編集部で用意してもらった、規定FSBクロックが100MHzとなっているPentium II 350MHz版/400MHz版をそれぞれFSB 100MHzだけで検証した。まず350MHz版のほうは、通常の設定では3.5倍速の350MHz動作が上限、つまり規定内での動作となった。しかし、AGP Turbo機能をONにすることによって、4.5倍速の450MHzでの安定動作が可能になった。同じように400MHz版も試してみたが、AGP Turbo OFFの状態では、やはり規定内の4倍速の400MHz動作が、AGP Turbo ONの場合には450MHz動作がそれぞれ上限となった。つまり、350MHz版でも、400MHz版でもAGP Turbo ON時の上限は同じという結果だった。ちなみに、AGP Turbo機能とは、FSBクロックとAGPのクロックを同じにする働きのことだ。
今回の試用では、Pentium II 350MHz/400MHzについては、FSB 100MHzの設定だけでの検証となったので、正確な比較は難しいものの、333MHzと350MHz/400MHzでは、設定できる上限の差は大きくないという結果になった。特に、まだまだ、333MHzに比べ、350MHz/400MHzの割高感が高いことも考えに入れると、実感としてその差はさらに小さいといえるだろう。
CPU(備考) | 動作上限クロック |
---|---|
Pentium II 333MHz(PC/66メモリ使用) | FSB 100MHz×3.5 = 350MHz |
Pentium II 333MHz(PC/100メモリ使用) | FSB 103MHz×4.0 = 412MHz |
Pentium II 350MHz(AGP Turbo ON) | FSB 100MHz×4.5 = 450MHz |
Pentium II 400MHz(AGP Turbo ON) | FSB 100MHz×4.5 = 450MHz |
パソコンで、多くの仕事や作業をまかなっている身としては、パソコンは高速で安定動作してほしいものである。今回、購入したAX6BCはまさに、その目的にうってつけのマザーボードであり、しばらくは、このマザーボードがメインマシンに居座るだろう。今回実際に使用してみて、自作PCユーザーの間で、AOpenの人気が高い理由がなんとなくわかった。
しかし、AX6BCがメインマシンの座にいるのも長くはないかもしれない。というのも既に次のマザーボードの手配をお願いしているからだ。月末にはそれが届く予定になっているので、そのマザーボードがメインマシンの座につくかもしれない。そのマザーボードも機会があれば、本誌でレポートしよう。
最近のマザーボードは、Slot 1対応マザーボードに限らず、いろいろな新しい機能が付加されている機種が増えてきている。具体的には、Wake On Lan(WOL)やキーボードによる電源ON機能などだ。これらはいずれも、マシンの電源が落ちているときに、何かしらのイベントで電源を投入する機能なので、マシンが落ちている状態でも、そのイベントを検出するために、マザーボードに電源を供給する必要がある。もちろん、これまでのATX電源も、電源ボタンを押されたことを検出するために、マザーボードに電源を供給している。
電源の切れている状態(厳密には完全に切れているわけではないが)をスタンバイ状態といい、この状態の時に、電源ユニットが供給できる容量はユニットに張られたステッカーを見ると判断できる。問題となるのはこの容量で、「+V5SB」となど記述されていることが多い。この容量が少ないと、WOLもキーボードによる電源投入も機能させることができなくなる。さらに、マザーボードによっては、WOLの回路が常に働いているために、動作が不安定になる機種もあるのだ。また、マニュアルに使用条件としてスタンバイ時の電流の容量やATX 2.01準拠と記載されているものもある。
そこで、これから電源付きケースを購入したり、電源の買い替えを考えているのであれば、購入のひとつの目安として、ATX 2.01仕様に準拠しているものを選んでほしい。この仕様の電源であれば、スタンバイ状態での電源供給も考慮されて作られているので、最近のいろいろな機能が搭載されたマザーボードでも安心して駆動できる。
筆者自身も、WOLのLANカードの使用を計画しているために、いままで使用していた電源ユニットを交換した。これまで使用していたのがSeventeamのST-250HRで、スタンバイ時の電源容量は0.1Aとなっている。今回購入したのは、同じSeventeamのST-251HR。この電源はATX2.01準拠で、スタンバイ時の電源の容量も1Aと250HRの10倍。この程度の容量があれば、当面新しい仕様のマザーボードが出てきても大丈夫なはずだ。なお、この電源ユニットもAX6BCと同じPCアドバンスド3丁目店で購入した。
【ST-250HR】 |
【ST-251HR】 |
[Text by 一ヶ谷兼乃]