PC Watchでもレポートされていたが、6月2日から6日まで、台湾最大のコンピュータトレードショウ「COMPUTEX TAIPEI '98」が開催された。現在、台湾はPCを語るときに欠かすことのできない国であり、日本からもPCメーカー、輸入代理店が出展しているほか、各パソコン関連メディアも取材のために訪れている。
会場以外でも、台湾の秋葉原と言われる光華商場にも面白いものがたくさんあったようで、編集部のスタッフが“おみやげ”を色々と買ってきた。その中でも最も興味を引いたのが、今までに見たこともないSocket 7対応CPUだ。今回はこのCPUを、編集部から借りることができたので、早速レポートする。
□参考記事
COMPUTEX TAIPEI '98レポート インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980604/cmptx_i.htm
【黄金戦士】 |
【威錦實業有限公司】 |
黄金の方は外見から理解できるとしても、戦士が何を意味するのかは知るすべもないが、PCユーザに興味を抱かせるだけの力を持った上手いネーミングである。
黄金戦士は、Pentiumと同じ大きさの緑色の基板の中心部にキラキラと黄金色の金属板がついている。黄金も単なる黄金でなく光り輝いており、それがあやしさをを醸し出すとともに、特徴となっている。また、緑の基板上には、シルク印刷がされているが、その意味ははっきりとはわからない。
裏返してみるとこの謎のCPUのスペックがわずかながら見えてきた。Intel製のSocket 7対応CPUだとsSpec Numberや製造ロットが印字されている裏の中心部に、何やらフィルム状のものがハンダ付けされている。シールが貼られているために全体は見えないが、端に見えるマークはIntel CPUに印刷されているものと酷似している。このことから、このCPUがTCP(Tape Carrier Package)のモバイルMMX Pentiumであることが容易に想像できる。また、表に貼ってあるシールからすると200MHz版として使用できるようだ。ノートPC用CPUを強引に配線を伸ばしてSocket 7仕様にしただけの製品とはいえ、その実行力には驚かされるばかりである。
購入したショップの店員は「ノート用MMX Pentium 200MHzに足をはかせたものでコア電圧は2.5V」といっていたようだ。しかし、後述するがこの店員の話には矛盾がある。
外見からは、TCPのモバイルMMX Pentiumであることに間違いない。しかし、実際には何MHz版のチップを使っているのかまでは、わからないのだ。
【唯一のスペック表示】 |
【Intel製と酷似するマーク】 |
最初に、黄金戦士を装着してこのCPUがどのような情報を返してくるのかをチェックしたところ、このようになった。
CPU | Pentium(MMX) |
Vender | GenuineIntel |
Family | 5 |
Model | 4 |
Step | 3 |
次に、どのような内部動作クロックの設定倍率を持つのかを調べてみた。結果からいうと2.5倍、3倍モードしか持っていない。つまり、ベースクロックが66MHzの場合には66MHz×3倍 = 200MHzでの動作になる。ということで、今度はベースクロックをどの程度まで引き上げられるかに興味が移った。
ベースクロックが66MHzの場合には、当然のことながら2.5倍速(166MHz)、3倍速(200MHz)ともに動作した。次に75MHzに設定してみたが、既にこの時点で2.5倍速(188MHz)、3倍速(225MHz)ともに安定動作しない。OS(Windows 98 β3)が正常に起動しないのだ。その後、コア電圧2.14Vで各種設定を行なったところ、P5SD-Aで設定できる範囲では、68MHz以下でしか正常動作しなことが確認できた。
今度は、コア電圧を2.54Vに上げて挑戦することにした。ベースクロックを75MHzに設定して試みたところ、2.5倍速(188MHz)では正常動作、3倍速(225MHz)ではOSが起動できなかった。さらに、83MHzに上げてみたところ、2.5倍速(208MHz)は正常に動作したが、3倍速(250MHz)ではBIOSすら起動できない結果となった。念のため100MHzも試してみたが、2.5/3倍速ともにBIOSも起動しなかった。その後、コア電圧を2.94Vまで上げてみたが、結果には変化はみられなかった。
クロックアップ耐性テストの結果は芳しくなかったが、いずれの場合もそれほど発熱がなかったのが印象的だった。しかし、今回CPUファンに、定番の山洋製のファンを使用してみたが、CPUの黄金の金属板の中心部が微妙にへこんでおり、シリコングリスを厚めに塗らないとファンとの接触が悪かった。この点は、実際にこのCPUを使用する際には注意したいところだ。
コア電圧2.14V | コア電圧2.54V | |||
---|---|---|---|---|
2.5倍 | 3倍 | 2.5倍 | 3倍 | |
66MHz | ○ (166MHz) | ○ (200MHz) | ― | ― |
75MHz | △ (188MHz) | △ (225MHz) | ○ (188MHz) | △ (225MHz) |
83MHz | ― | ― | ○ (208MHz) | × (250MHz) |
100MHz | ― | ― | × (250MHz) | × (300MHz) |
逆に店員のコア電圧は2.5Vだということを信用してみると、使用されているCPUは、2.45Vが規定されているTCPのモバイルMMX Pentiumだと予想される。これであれば、2.54Vや2.94Vで駆動しても、それほど発熱が起こらないはずだ。ただ、コア電圧が2.45VのTCPのモバイルMMX Pentiumには、133/150/166MHz版しかないのだ。166MHz版は、ベースクロックが66MHzで内部2.5倍速の動作になるが、PPGAのMMX Pentiumと同じように、3倍速モードを持っているロットがあってもおかしくはない。
また、200MHz版であれば最新の0.25ミクロンルールが採用されているはずである。これまでの経験上、0.25ミクロンルールのCPUは、クロックアップ性能が比較的高いものが多かった。そのため、個人的な憶測になるが、使用されているCPUが200MHz版だとは考えにくい。
これらのことを総合すると、使われているのは166MHz版のモバイルMMX Pentiumではないかと考えたくなる。実際のところはわからないが、とにかく、黄金戦士はあやしさ爆発なCPUであることには間違いない。
今回レポートした黄金戦士の性能はやや期待はずれであったが、製造技術的には0.25ミクロンルールの233MHz版や266MHz版を使った製品がいつ登場してもおかしくないわけで、今後の製品に期待したい。
[Text by 一ヶ谷兼乃]