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Intel、AMD、Cyrix、IDTの次世代MPUの姿が10月13日に明かされる



●Microprocessor ForumでMPUメーカーが技術を競う

 米IntelのPentium II後継MPU「Katmai(カトマイ:コード名)」、米AMDの新MPU「AMD-K7(コード名)」、米National Semiconductor傘下のCyrixの次々世代MPU「Jalapeno(ハラペーニョ:コード名)」、IDT/Centaurの第3世代MPU「WinChip 3」、そして新興Rise Technologyの初めてのx86 MPU「mP6(コード名)」。

 10月13日に、x86系MPUだけでもこれだけの顔ぶれのMPUの概要が明かされる。というのは、毎年恒例のMPU業界のカンファレンス&セミナー「Microprocessor Forum」が、カリフォルニア州サンノゼで開催されるからだ。各社とも、'99年の決戦に向けて、注目度の高いこのカンファレンスで次世代MPUの存在と技術優位性をアピールしようと決意を固めているようだ。

 Intelが発表するのは、「Katmai New Instructions(KNI)」と呼ばれる、Katmaiに搭載される新しい命令群のオーバービュー。これには浮動小数点演算を「SIMD(Single Instruction, Multiple Data)」技法により、ひとつの命令で複数のパック化されたデータに対して同じ処理を同時に実行できるようにする命令が含まれていると言われている。Intelはこのカンファレンスで、このKNIの概要と、実際のMPUにインプリメンテーションするマイクロアーキテクチャの概要を明かすつもりらしい。Katmaiでは倍精度の浮動小数点演算のSIMD化を行ない、そのために128ビットのレジスタを新設するともウワサされているが、果たして実際はどうなのだろうか。

 AMDは昨年のMicroprocessor Forumで、AMD-K6を改良した「AMD-K6-2」と「AMD-K6-3(Sharptooth)」の概要を明らかにしたが、その際に、1年後にAMD-K7を発表すると予告していた。そして、同社はいよいよその約束を果たそうとしている。AMDが、ハイエンドPCとマルチプロセッササーバーもカバーするというこの新設計のMPUに、どんなアーキテクチャを採用するつもりなのかは、業界でも注目されている。

 CyrixのJalapenoは、じつは同社にとって「6x86」以降初めて、基本的なマイクロアーキテクチャを一新したMPUとなる。6x86以降のMPU群、たとえば「6x86MX」や「M II」、それにまだ登場していない次世代の「Cayenne(カイエン:コード名)」は、いずれも6x86コアを改良したMPUだった。そのため、職人芸のCyrixがひさびさに世に問うJalapenoのアーキテクチャは関心を集めている。以前、Cyrix幹部は次世代のコアまでは「x86ネイティブ実行方式」を取り、IntelやAMDのように「x86命令→RISC風命令変換」は行なわないと言っていた。さて、どうなるだろう。

 ニッチながらも徐々に市場を獲得しつつあるIDTは、次のWinChip 3で、一気に動作周波数を2倍に引き上げる。スーパーパイプラインを採用し、過酷なx86 MPUの性能レースに追従するつもりだ。

 そして、長らくウワサだけだったRise Technologyも、いよいよ「mP6」のベールをはぐ。ローコスト/ローパワーと謳う同社のMPUの内容に関しては、今のところほとんど報道されていない。


●x86以外にも注目の発表が目白押し

 今回のMicroprocessor Forumでは、x86系MPU以外にもかなり興味深い発表がいくつも行なわれる。先週伝えた、Philips Semiconductorsのメディアプロセッサ「TriMedia」の64ビット版や、Internext CompressionのJavaバイトコードDSPをデュアルで備えたシングルチップMPEG-2エンコーダ、3DlabsのAGP 4X向けジオメトリアクセラレータ、ATI Technologiesの次世代RAGEなどなどだ。Intelの次世代アーキテクチャ「IA-64」に関するカンファレンスもあるし、トップアナリストによるセミナーも多数用意されている。

 さらに、今回は組み込み向けMPUのカンファレンス「Embedded Processor Forum」も併設されていて、そちらでも話題のARM10を始め多数の発表が予定されている。実は、現在組み込み向けMPUはデジタル家電の興隆を前に、マルチメディア処理機能を加えるし烈なレースに入っていて、盛り上がっている。

 というわけで、10月12日からの1週間は、MPU業界にとって今年もっともホットな週となりそうだ。少なくとも、'99年のPCの心臓部のテクノロジの概要は、ここで明らかになると思ってよさそうだ。


●Forumを前に増えてきたJalapenoに関する報道

 こうしたMicroprocessor Forumの盛り上がりを前に、徐々に、各社の次世代MPU関連の記事が増えてきた。そのなかでも、今、いちばん状況が見えにくいCyrixに関する記事がなかなか面白い。例えば、「Cyrix serves Jalapeno to burn Intel」(Electronic Engineering Times,8/6)では、Cyrix幹部がJalapenoとそのコアを使った製品について、かなり突っ込んだところまで語っている。

 はっきり言って、National Semiconductor傘下になってからのCyrixの次世代MPU計画は、ワンチップPC計画以外はあまり明瞭ではなかった。そのため、IntelとAMDがデッドヒートを繰り広げるなかで、Cyrixがどこへ向かうのか、とくに、単体MPU製品がどうなるのかについては、かなりクエスチョンマークがつき始めていた。しかし、Microprocessor Forumを前にして、ようやくCyrix幹部は、その重い口を開き始めたようだ。

 この記事によると、Jalapenoは動作周波数を高める点を重視したMPUとなり、性能的には600MHzのPentium IIプロセッサクラスを狙うという。これは、命令実行の並列度を高めることを重視するという、Cyrixのこれまでの方向性とは異なるアプローチを取ったということを意味する。もし、Jalapenoのコアがこれまで同様に、Intelコアよりもx86命令の平均的な並列実行度が高いとしても、Pentium II 600MHz相当の性能を実現するためにはJalapenoは500MHz程度の動作周波数を達成しなければならない可能性が高い。これは、かなりハードルが高そうだ。

 また、この記事の中でCyrixの幹部は、一般論として500MHz以上の高速MPUでは、かなりの量の2次キャッシュをオンチップ、つまりMPUコアと同じチップに統合することになるだろうと語り、さらには、オンチップ3次キャッシュさえもありうると言っている。となると、少なくとも、AMDやIntelと同様に2次キャッシュを統合する可能性はかなり高いだろう。

 また、CyrixはCayenneからMMXを拡張する予定で、命令としてはAMDのMMX拡張「3DNow!」を使うことでAMDと合意している。しかし、この記事ではCyrix幹部が、MMX拡張の将来についてかなり興味深いことを言っている。まず、IntelのKatmai New Instructions (KNI)の方が3DNow!より優れていると、ソフトベンダーから言われているとCyrixでは明かしている。実際、こうした話はこのほかのニュースや業界筋情報でもちらほら流れてきており、x86互換MPUベンダーは、対Katmaiでふたたび苦しい戦いになる可能性が出てきている。

 そのため、この記事では、Cyrix幹部がKNIに対抗するために、AMDが3DNow!を拡張させるのか、Cyrixが独自に拡張させるかなどを議論していると語っている。KNIがウワサ通りの内容だとすると、単精度浮動小数演算のSIMD化をMMXレジスタを使って行なった3DNow!とは大きく異なる。そのため、3DNow!用の実行ユニットをちょっと改造して対応ということはできない。KNIの内容によっては、AMDも大きな問題を抱えることになる。

 また、CyrixはIntelが「Celeronプロセッサ」で'99年から採用する新しい370ピンのソケット(Slot 1のソケット版)に関心を示していることも明かしている。新ソケットは133MHz以上で駆動できるので、Intelが計画している以上に性能を上げられるという。また、Jalapenoコアでメモリコントローラ一体型のMediaGXタイプの製品では、Rambus DRAMを採用することが合理的だろうとも言っている。これは時期を考えれば当然の話だ。


●Cayenneはどうなる

 Cyrixに関しては、もうひとつ興味深い記事がある。Microprocessor Forumを主催するMicroDesign Resourcesの発行するMPU業界専門誌「Microprocessor Report」の「PC Processor Market Stratifies AMD Only Vendor Making Broadside Attack」(Microprocessor Report,8/3)だ。これは、MPU業界アナリストの第一人者マイケル・スレイター氏のコラムなのだが、その中で、Cyrixが'99年に投入する次世代MediaGX「MXi(コード名)」がJalapenoコアになると言っているのだ。昨年のCyrixの発表では、MXiはCayenneコアで本来なら今年後半に登場するはずだった。スレイター氏は、Cayenneの製品化が遅れるために、Jalapenoまで1世代ずれ込むと予測しているのかも知れない。Cayenneは一体どうなってしまうのだろう。

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('98/8/14)

[Reported by 後藤 弘茂]


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