スタパ齋藤

持ってるだけでDTVの夢が広がる
ソニーPCV-S600TV7



■ソニーのでっかいVAIO

VAIO PCV-T710MR
VAIO PCV-T710MR
ノートの主流デザインを変えた、PCG-505と同日、'97年10月15日に発表されたソニーの最初のタワー型パソコン。上位モデルが50万円台前半と価格がやや高かったこともあり、販売面ではいまひとつだった
 かなり前というか去年くらいの話になるが、仕事で、ソニーのVAIOシリーズコンピュータのミニタワー型を使った。これはソニーがWindowsパソコンに本格的に参入した最初のパーソナルコンピュータだったと思う。でまあそれはいいのだが、そのマシン、何がアレかって、MPEG-1のリアルタイムエンコーダカードを搭載していやがったのでありやがられた。また、CD-Rドライブも内蔵なさっておられた。ビデオ編集ソフトもプリインストールされなさっていらっしゃられまくられた。付属のテレビチューナー付きディスプレイを使えば、テレビ番組のハードディスク録画なんてコトもできちゃわれた。要するに、コレ1台で映像のデジタル化・編集・ビデオCD化ができやがられるのであらせられ奉られた。もはや日本語がメチャクチャになるくらい、俺はコレが欲しかった。

 が、買わなかった。まず第一の理由は、俺が金欠であると同時にそのマシンがけっこう高かったこと。コンピュータ野郎にとって最も苦しい、指をくわえて見ているだけモードを選択せざるを得なかったのだ(でもVAIOノートPCG-715はカードで買いましたけど)。  それ以外の数多くの理由は、例えば本体がデカいとか、付属のディスプレイがドデカいとか、キーボードがデカくてしかもそれをさらにデカまらせるパームレストが付いていたとか、動作音がけっこうデカいとか、まあ多量にある。が、今考えてみれば、それらの多量の“買わなかった理由”は、それを買えなかったということからくる類い希なるストレスを少しでも緩和しようとして俺が編み出した、“買えないゆえのイチャモン”だったのかもしれない。

 「くっそ~アレ欲しいよ超欲しいよふざけんじゃねえよコンピュータ野郎をナメやがってソニーめいつかユンボで乗り付けて品川工場ブッ壊してやるからそう思え」と、お門違いの怒りを品川方面へ念力により転送していた頃、VAIOノート505が登場。以後、不況の真っ直中なのにノートパソコンを売りまくる新参(ホントは古参)コンピュータメーカーとして、ソニーは話題になりまくった。

 話は戻るが、その最初のでっかいVAIO、アレは実に(俺みたいな)消費者を悩ませるマシンだった。外見は、垢抜けない男子と女子が子供っぽい会話をする中学校に突如現れた美人&脱いでもスゴいんです的肉体英語教師(←化学教師でも可)みたいに目を引くし、性能は、タバコ臭いしホコリっぽいしオッサンだらけだし全体的にグレー一色の経理部に派遣された超有能&セクシー&外見ランクA(←そーゆーこと書くな>俺)的秘書みたいにクールだし、それがあれば現在抱えている問題が片づくわすげえ楽しくなるわハッピーだわというイメージの存在だった。



■冷静になれ冷静に!!

 それから半年以上が過ぎて、そのでっかいVAIOに対して冷静に考えられるようになると「実はアレはフツーのマシンにキャプチャカード入れたりチューナーカード入れたりなど工夫すれば、ソニーのVAIOじゃなくても代替えがきく存在だ」とか思っちゃったりする。まったく何で俺はあんなに熱くなっていたのだろう、と。

 が、そこがソニーのソニーたるところ。他のメーカーにはなかったし、ユーザーさえも思いつかなかったようなシステムなりコンフィギュレーションなりで、製品を登場させる。製品の企画力が凄まじく強まったメーカー、と言えば簡単だが、そういうことだけではないような気がする。

 単純な俺が考えるところ、普通はユーザーの需要があり、その需要に対してメーカーは製品を投入する。まあ、現代の需要というのは、ユーザーのほんの少しの望みを、メーカー側ができる限り増幅して肥大化した妄想のようなモノではあるが、それでもその妄想を実現させてくれる製品が出れば売れる。ともあれ、濃いにしろ薄いにしろ、人々の間に需要的フィーリングの雰囲気があって、そこに商品が投入されるのが、ふつーの市場だ、と俺は思う。

 が、ソニーのやり方は、な~んかソレとは全然違う。浅はかな俺が考えるところ、ソニーはない需要まで作り出しているという感じだ。“身につける感覚のハンディカム”なんかなくても別に困らないのだ。“平面のブラウン管”なんかなくても誰も弱らないのだ。ましてや“テレビ番組を録画できるWindowsマシン”がなくたって痛くも痒くもないのだ。電化製品がない時代のことを引き合いに出し、現代の電化製品市場を“贅沢品市場”と言う向きがあるが、それを言えばソニーなんざぁ極超贅沢品メーカーだと言えよう。

 なくても“困らない”し“弱らない”し“痛くも痒くもない”ようなモノを、ないと困って弱って痛くて痒くてたまらねえモノにしてしまうことにかけては、ソニーさんは世界でも1本の指に入りますなという感じであり、ソニー製品のCMが流れるたびに妙に血圧を上げている俺であり、我ながらもうちょっとソニー製品に対して冷静にならんといけませんな、という感じである。



■また出やがったソニー製品!!

VAIO PCV-S600TV7
VAIO PCV-S600TV7
マイクロタワー型のVAIO 3機種のうち、動画取り込みができるモデル。マザーはインテルの提唱するMicroATX準拠。オリジナルデザインのタワーケースは前面が互換機のようにでこぼこすることなく、きれいな仕上がり。実売価格は33~35万円程度。
 俺は、ソニースカイセンサーことICF-5900の時代から、もはやソニー製品に対して冷静になるのは不可能だということをよく知っているので、無理に冷静になりはしないのだが、こないだラオックスにVAIOのマイクロタワー型ことPCV-S600TV7が置いてあったときには、俺の脳内の冷静化ルーチンを片っ端から起動して冷静を装おうとした。もう一押しで買っちまいそうだったのである。誰かのたった一言が、俺をATMに走らせ、俺の一万円札三十数枚とラオックスのそのマシンを交換させちまう。もうギリギリの状態だった。
 が、ちょうど出会った知人がスパッとその一言を言ってのけたので、俺はPCV-S600TV7をサクッと買ってしまったのであった。  で、このPCV-S600TV7だが、これは買ったその瞬間から無条件で極楽浄土への入場が許可されたついでにあらゆる煩悩や鬱屈や頭打ち感を神が洗い流してくれたようなハッピー感を味わえる。当たり前のことだが、PCV-S600TV7のカタログに書いてあることが全部でき、これすなわちソニーが提示した新たな需要をソニーの保証付きで供給されたというコトであり、読者の方々は「何言ってんだよコイツ、イカレてるぜ」と思われるかもしれないが、俺としては前述のでっかいVAIO以来のモヤモヤが完璧に晴れた爽快さなのである。



■PCV-S600TV7

 このマシンのウリは、ソニーのお家芸のデジタルハンディカムとコンピュータの融合。要するにDV端子付きのデジタルビデオからデジタル情報のままダイレクトに動画をキャプチャし、デジタルデータのまま編集し、再度デジタルビデオにコピーしたり、CD-Rにムービーとして記録できたりするという、つまりデジタルビデオ編集機能である。

 ビジネス用途なんざぁこれっぽっちも考えてねえ男らしいコンピュータメーカーのソニーだけに、もちろんPCV-S600TV7もDTVのことばっかり考えてこのマシンを作ったと思われる。CPUはPentium II 333MHz、メモリは標準64MB(最大256MB)、HDDは8.4GB、書き込み最大4倍速(読み出し最大24倍速)のCD-Rドライブ。テレビも見られるマルチユースな17インチディスプレイも付属している。オラオラオラ!! デジタルビデオの編集やれっつってんだよオラ!! という感じの性能を持っているわりには、マシンの前で唸って唸って閉店時まで唸り続けてカタログだけ持って帰宅するほどには高価でない。

 で、デジタルビデオ編集だが、以前のでっかいVAIOに比べると、汎用性はやや落ちている感じがある。前述のミドルタワーのVAIOの場合、MPEG-1リアルタイムエンコーダカードで動画をビデオキャプチャできた。が、PCV-S600TV7はDV端子を持つデジタルビデオ機器からしか動画を撮り込めない。なーんだウチのVHSの映像はダメなのか~と思う方も多いかと思う。が、俺思うに、この仕様は納得できる。確かにフツーのビデオ信号はキャプチャできないが、DVならデジタルデータのまま直接キャプチャ(というかデータコピー)ができるのだ。絵のキレイさから言っても、データの流れ的スッキリ感から言っても、このDV限定キャプチャ仕様はかなり納得がいく。

 具体的なデジタルビデオ編集手順は、まずDVデッキなどとPCV-S600TV7をDVケーブルでつなぎ、DVgate motionやAdobe PremiereLE-Jなど(付属)で動画を加工・編集し、CD-Rに焼くか、再度DVgate motionでDVテープに(デジタルのまま)書き出す。まあ、実際のデジタルビデオ編集は、撮影もコンピュータ上の作業もけっこう手間がかかるので、朝撮った映像が午後にはCD-ROMという簡単さにはいかない。が、デジタルハンディカムなどとPCV-S600TV7だけでDTVが完結しているという点は、従来のDTVのムツカシサをかなり緩和してくれていて、実際身近なものにしている。



■その他いろいろ

 PCV-S600TV7はある意味持ってるだけでDTVの夢が広がるという愉快なコンピュータなのだが、DTV以外のところもけっこうイイ。

 俺がかなり気に入っているのは、付属のディスプレイCPD-17MS。17インチのトリニトロン管マルチスキャンディスプレイで、テレビチューナーやステレオスピーカーが付いていて、さらにビデオ入力やテレビ出力までついているという、比較的マニアックなディスプレイである。

 最初このCPD-17MSを見た時は、「何だよソニーふざけやがってこんなデケえディスプレイを抱き合わせ販売すんじゃねえよ」とムカついたが、使ってみると良く、例えば単純にテレビとコンピュータディスプレイがひとつにまとまっているトコロがいい。テレビとしても使えるし、コンピュータディスプレイとしても使えるし、さらに同時にも使えるMiniTV機能もある。MiniTV機能は、コンピュータの表示の上に重ねて、小さなテレビ画面を表示する機能。サイズは大中小の3種類で、表示位置も5地点から選べる。映りは今時の17インチディスプレイの中では中の上という感じで、かなりキレイ。

 ただでさえでっかくて邪魔な17インチディスプレイと、ただでさえ邪魔なテレビが一体化しているというのは、日本の住宅事情的には非常に便利な点。14インチ時代にはNECやシャープがこーゆーよーなディスプレイを出していたが、なぜか17インチにはなかった。ディスプレイ市場的盲点か!? ありそうでなかった製品である。目の付け所がシャー……いや、ソニーである。

 ちなみにこの付属ディスプレイ、単体で市販もされていて、型番はCPD-17MS。標準価格は何と128,000円もしちまう製品であった。ということはマイクロタワーVAIOって単体では20万チョイ!?

 それから、ビデオカード。4MB版のATI3D RAGE PRO TURBO AGPが搭載されている。最近のビデオカード事情に対して凄まじい疎さを見せる俺だが、使ってみた感じは、すげえ速い。まあいつもノートパソコンとか使ってますから。ともあれ、デスクトップ機というのは、融通が利かないところもあるが、その部分は処理性能でカバーしているという感じであった。あ、あと333MHzのPentiumIIだが、これは速い感じである。というか、こないだまで120MHzのPentiumノートパソコンで仕事してたので、速く感じるのは当たり前かもしれない。時代は進んでいるんですねぇ。

 細かいことだが、IrDA準拠の赤外線通信ユニットやK56flexのFAXモデムもついてたりする。この辺も、なんつーか、消費者の購入判断を3~5%くらいグラつかせる要素になるような気がして、やはりソニーはモノの売り方がうまいと思ったりした。

 あと、デスクトップのVAIOはみんなそうなのだが、コンピュータ本体の裏側のコネクタ周辺の作りは非常に良く、またわかりやすい。各コネクタの近くには、それが何のコネクタなのか明示してあり、またケーブルも色分けされているので、初心者でも比較的迷わず接続できる。まあ俺の場合マニアなのでそんなお世話は無用なのだが、こういう部分がしっかりかつ紳士的に作ってあると、なんか製品としての信頼性が高いような気がして安心する。



■みんなで買おう!!

 というわけで、PCV-S600TV7を得てニヤついた毎日を送っている俺なのだが、正直なところ、まだそれほど使い込んでいない。使いまくり、という状況にはまだまだ至っていないのであった。実際、“ビデオ編集ができる”のと“ビデオ編集をやる”のとではまったく大きな開きがあり、前者の場合はマシンだけあればオッケーなのであり、後者をやるには精神的余裕&時間的余裕&強まった創作意欲が必要であり、なかなかどうもアレですな……ルアーやリールやロッドばかり衝動買いしちゃうけど年に4~5回釣りに行けるかどうか的サラリーマンの気持ちがよくわかる。でも、とりあえず何かを可能にするハードウェアがあるというのは、精神衛生上非常に良い。

 ところで、このPCV-S600TV7の購入で、俺のコンピュータ購入台数がめでたく64台となった。ひじょうにキリがいい。え? なんで64がキリがいいのかって!? それは2の累乗だからだッ!! 16や32や64こそ男の中の男の数字!! 2の累乗以外の数字は認めん!! ていうか、つまり、我ながらここ十数年でいっぱい買ったなァと。また、俺と同じくたくさん買っている友人(船田戦闘機氏)がいて、じゃあここは一発ということで、新たに書籍を書き下ろしてみた。

 書籍名は『100台のコンピュータ』。A5判の上製(ハードカバー)本で、8月27日にアスキー出版局から発売される。内容は、我々はこのような時代にこのようなコンピュータを買ってこのような感じで過ごしてこう感じた、みたいな、いわばコンピュータ購入エッセイ的著述である。興味のある方はぜひご一読願いたい。なお、たぶん、PCWatch読者の方にも『100台のコンピュータ』を何冊かプレゼントできると思うので、読みたいけど買いたかねえよという方は、ご期待願いたい。ていうかプレゼントできなかったらごめんなさい。
(編集部注:アスキー担当様のご好意により、『100台のコンピュータ』をPC Watch読者の方に、抽選でプレゼントできることになりました。詳しくは、8月24日のPC Watchにてお知らせします。)

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□「PCV-S600TV7」製品情報
http://www.sony.co.jp/ProductsPark/Consumer/PCOM/MicroTower/PCV-S600/index.html

[Text by スタパ齋藤]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp