法林岳之のTelecom Watch
第16回:1998年5月編
「PCカードモデム:ノートPCの好調な売れ行きを反映」ほか



 Windows 98の発売を控え、通信機器にも新しい製品が登場してきたが、今ひとつ派手さに欠ける。4月、5月、6月と海外取材が続いたが、昨年にも増して、日本と海外の通信事情の違いを感じさせられた。


PCカードモデム:ノートPCの好調な売れ行きを反映

 5月の新製品では、V.90対応、もしくはV.90へアップグレード可能なPCカードモデムが2機種続いた。パソコン本体市場でノートPCが好調な売れ行きを示していることを反映しているのだろう。

 5月14日に発売されたオムロンのPCカードモデム『ME5614C』は、V.90/K56flex両対応のものだ。オムロンと言えば、国内ではアイワやソニーと並んでx2規格を支持してきたメーカーだが、今秋にもV.90が勧告されることになったためか、今回はK56flexにも対応した製品を投入した。おそらく、他のメーカーでもこうした逆転現象が見られそうだ。

 このME5614CはRockwell Internationalが開発した2Mbit版のモデムチップセットを採用したもので、大手メーカーでは国内初のV.90/K56flex両対応の製品ということになる。

 PCMCIA用のモデムチップセットは外付けや内蔵モデム用よりもコンパクトなものが採用されている。過去の歴史から見ると、新規格のモデムチップセットは外付け用や内蔵モデム用から出荷が開始されていたのだが、今回は実際の製品の投入もPCカードモデムが先行したことになる。これもノートPCの売れ行きが好調なことの影響だろうか。オムロンME5614は、当初の出荷予定台数を超える売れ行きだという。販売店などで話を聞いても、外付け用や内蔵用に比べ、PCカードモデムの売れ行きは好調で、販売比率も徐々に狭まりつつあるという。

 また、アイワは5月19日にV.90にアップグレード可能な33.6kbps対応PCカードモデム『PV-JF3356W』を発表している。PCカードとケーブルを接続する部分にLEDを装備した同社お得意のデザインだが、今回はアップグレードにちょっとした特徴を見せている。PV-JF3356はV.34/33.6kbps対応だが、x2対応へのアップグレード、V.90対応へのアップグレードをともに3,000円で実施する。しかし、最初にx2対応にアップグレードしたユーザーはV.90対応へのアップグレードは無償になるそうだ。一見、手間の掛かることのように見えるが、ユーザーにとってはプロバイダの対応を見極めながらアップグレードできるわけで、意外に有利なシステムと言えるかもしれない。価格も12,800円とかなり安いので、PCカードモデムが欲しいユーザーは十分検討する価値がありそうだ。

 一方、外付けタイプとしては、スリーコムが国内初のV.90/x2両対応デスクトップモデムを5月25日に発表した。一見、新製品のように見えるが、実のところは4月からフィールドテストやアップグレードサービスを実施していた同社のx2対応モデム『Sportster 56K』をアップグレードしたもので、大きな変更点はない。

 今夏へ向けて、x2及びK56flex両陣営(もはやそう呼ぶべきではないのかもしれないが)から、V.90との両対応になった製品が次々と発売されることになりそうだ。ただ、気になるのは前回のTelecom Watchでもお伝えしたとおり、プロバイダ側のV.90対応だ。そろそろ開始時期などをアナウンスしてもらいたいところだ。

□オムロン、K56flexとV.90両対応の56kbps PCカードモデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980514/omron.htm
□アイワ、V.90にアップグレード可能な低価格33.6kbps PCカードモデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980519/aiwa.htm
□スリーコム、国内初のV.90/x2 両規格準拠デスクトップモデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980525/3com.htm


電子メールはチカチカで知らせる

 5月はISDNターミナルアダプタにも新製品が登場した。5月8日にはアイワからWindowsとMacintoshに両対応のPCMCIA ISDNカード『TM-J1281M』、5月25日にはトップシェアのNECの新製品『AtermIT65EXシリーズ』がそれぞれ発表された。

 TM-J1281Mは同社が今まで販売していたTM-J1280をベースにバージョンアップしたもので、ISDN用FAXソフトのRVS-COMに対応した。この製品は従来からWindowsだけでなく、Macintoshにも対応しているのが特徴のひとつだ。Macintoshのシェア低下が伝えられているが、国内ではPowerBook 2400シリーズが好調な売り上げを記録しており、Macintosh対応のPCカードの需要は意外に多い。Windowsだけでなく、Macintoshもしっかりサポートしてくれるのは、ユーザーにとっても心強い存在だ。また、モデム同様、コネクタ部分にインジケータがついているのも便利だ。

 一方、AtermIT65EXシリーズはISDNターミナルアダプタの定番と言われるAtermITシリーズの新製品だ。今回の製品ではUSB回りの機能が強化され、パソコン上からUSB接続したAtermIT65EXシリーズの着信履歴が見られるようになったり、液晶ディスプレイに日時が表示できるようになるなどの改良が図られている。

 機能的には従来モデルとあまり差がないように見受けられるが、内部的にはかなり変更が加えられている。たとえば、各機能を実現するためのメモリエリアは従来モデルよりも拡大され、アナログポートも1ポートにつき最大3台までブランチ接続(数珠つなぎ)ができるようになっている。DSU内蔵のAtermIT65EX/Dの実売価格も3万円強とかなり安くなっており、これからISDNに移行する人にはかなり魅力的な製品と言えそうだ。ちなみに、従来のAtermIT65シリーズではAtermIT65Proのみが生産継続となり、それ以外の機種は現在出荷されている分がなくなり次第、販売終了となる予定だ。しかし、従来モデルをAtermIT65EXシリーズ相当にするためのファームウェアも公開される。

 また、AtermIT65シリーズと言えば、USBポートを備えていることが特徴のひとつだが、気になるのはWindows 98環境での対応だ。筆者が確認した限りでは、Windows 98でも正しく動作しており、利用価値が高いと見ている。OS側のUSBサポートもWindows 95とはまったく別物なので、もしAtermIT65シリーズをUSB接続で利用するのならば、Windows 98を利用することをおすすめしたい。

 ところで、AtermIT65シリーズと言えば、フジテレビ系列で6月末まで放映されていた『With Love』というドラマに登場したことで話題になった。特に、電子メールが着信したときにMSGランプがチカチカと点滅する『電子メール着信通知機能』については、視聴者からの問い合わせが多かったと言う。その昔、コードレスホンが出たばかりの頃、テレビドラマで使われたことにより、一気に普及したことがあったが、ISDNターミナルアダプタもこれを機にさらなるブレイクができるか、気になるところだ。

□アイワ、Windows、Macintosh両対応のPCカード型TA
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980508/aiwa.htm
□NEC、USB機能を強化したTA「AtermIT65EX」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980525/nec.htm


ノートPC内蔵モデムは必要か?

 通信機器というわけではないが、ノートPCの内蔵モデムについて少し触れておこう。5月12日に日本IBMから発表されたThinkPad 600には、x2対応の56kbpsモデムが内蔵されている。この内蔵モデムは米Rockwell InternationalやLucent Technologyといったメーカーのモデムチップセットではなく、IBMのAdvanced Communication Processor(以下ACP)というチップを採用している。ThinkPad 770シリーズにも採用されていたが、今回のThinkPad 600/770E/770EDからはx2対応となり、最大56kbpsでのデータ通信を可能にしている。IBMによれば、このACPはThinkPad 760シリーズなどで採用されていたMWaveの約2倍の処理能力を持ち、通信環境に最適化されたチップとして設計されているそうだ。

 ただ、現実的な問題を考えたとき、ノートPCの内蔵モデムがどれだけ便利なのかは筆者もそろそろ疑問に感じている。というのも、ノートPCで通信をするなら、やはりPHSの方が有利だからだ。ほぼ場所を問わずに通信ができ、パルディオ321S/341Sのような一体型なら面倒なケーブルの接続も不要だ。日立のWindows CE機『PERSONA』のように、内部にPHSデータ通信のための回路を組み込む方法論もあるのではないだろうか。ThinkPadシリーズはワールドワイドに展開されているため、国内向けにカスタマイズすることは難しいだろうが、もう少し日本の通信インフラストラクチャを意識した構成も検討して欲しいところだ。

 ところで、ノートPCと言えば、冒頭でも触れたように、現在、国内のPC市場ではノートPCが好調な売れ行きを示している。7月25日にWindows 98の発売を控えているが、筆者が取材した限りの情報では、かなりの数のノートPCがWindows 98へのアップグレードに失敗、もしくはアップグレード後に不具合が出ると見ている。「どうも調子が悪い」、「何かおかしい」といったレベルではなく、「インストールできない」、「起動しない」というシビアなレベルのトラブルが起きることになりそうだ。正式発売前なので、敢えて特定のメーカー名は挙げないが、かなりの人気モデルでもβ版で深刻な不具合が確認されている。

 もし、Windows 98へアップグレードをするのであれば、各メーカーのサポートページなどでしっかり情報を集めてから作業を始めることを強く推奨したい。BIOSのアップグレード、ユーティリティソフトウェアのバージョンアップなどもかなり行なわれることになりそうだ。そうした手間を避けたいのであれば、Windows 98プリインストールモデルを買うしかない。
 いずれにせよ、Windows 98の発売によって、メーカーの信頼性やサポート体制が問われることになりそうだ。

□IBM、CD-ROM内蔵で薄型のThinkPad新機種
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980512/ibm.htm

[Text by 法林岳之]


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