【コラム】

後藤弘茂のWeekly海外ニュース

“ポータル”を巡る買収・提携で、米国インターネット業界は大混乱


●ポータルって何だ?

 “ポータル(Portal)フィーバー”-この2カ月ほどのインターネット業界の状況を一言で説明するとこうなる。ポータルという新キーワードに戸惑うかも知れないが、難しい話ではない。ポータルは“正面玄関”という意味で、インターネットという建物に入る時に必ず訪れる入り口といったような意味で使われている。

 具体的には、YAHOO!のようなサーチエンジンやAOLのようなインターネット融合型オンラインサービスのホームページ、あるいは米Netscape Communications社のホームページのように、インターネットのサイトのなかでとくに訪れるユーザーが多いものを一般的にこう呼んでいる。

●ポータルを巡って買収・提携の大乱戦

 で、このポータルで何が大騒ぎになっているかというと、娯楽産業や通信産業の大手企業が、人気ポータルサイトを持つ企業を買収したり提携しようと、ラッシュを起こしているのだ。

 米国最大の娯楽企業Walt Disneyは、米Infoseekへの資本参加と提携を先週発表。Disneyの持つ資産や、ABC(米国4大ネットTV局のひとつ)やESPN(米国のスポーツTV局)といったDisney関連TV局のコンテンツを、Infoseekのポータルサイトと融合させた新ポータルを作るという。かと思うと大手電機メーカー米General Electric傘下のNBC(米国4大ネットTV局のひとつ)は、CNETのポータルサイトSnap!に資本参加。また、大手電話会社AT&Tは、AOLに買収をもちかけて断られたと、先週すっぱ抜かれた。さらに、残った大物メディア企業である米Time Warnerや米Viacom(MTVやNickelodeonを傘下に持つ)も、ポータル獲得に動いているというウワサが、米国のニュースサイトには流れている。どうやら、テレビや映画、通信といったメディア関連企業は、こぞってポータル獲得に入れ込んでいる様子なのだ。

 いや、ポータルに熱心なのはメディア産業ばかりではない。コンピュータソフト業界では、Webブラウザ市場を2分する米MicrosoftとNetscapeが、それぞれ新しいポータルサイトのベータ版(Microsoft「Internet Start」、Netscape「Netcenter」)を発表、やはりポータルに力を入れる気配を見せている。

●ポータル化に昨年後半から拍車がかかる

 ポータルという単語は、じつはこれまでもインターネットの入り口を示す言葉として、しばしば使われていた。しかし、ポータルがカギカッコ付きで、特定の種類のサイトを示すカテゴリーとして一般的に使われるようになったのはつい最近の話だ。ニュースサイトの記事を見ていると、4月からポータルという単語が登場する頻度がぐっと増え、5月になって爆発的に増加していることがわかる。

 これは、ポータルを巡っての買収や提携の動きが活発化したからだが、その背景には昨年後半からの、サーチエンジンサイトの様変わりがある。大手サーチエンジンは、内容を一新してポータルと呼べるだけの内容を備え始めた。単なるサーチだけでなく、ニュースなどの最新情報や、お勧めサイトリスト、Web上での電子メールサービスやチャット、BBSなどのコミュニケーション機能も含めて提供しはじめたのだ。

 これまでも、サーチエンジンやオンラインサービスやWebブラウザのサイト群は、Webでもっともアクセス頻度の高いサイトとして常にトップ集団を形成していた。毎日、何百万という人々をWebにナビゲートするのだから、それは当然の話だ。インターネットでは、アクセスが多いということは強力なパワーになる。ところが、これまで彼らはそのパワーを、あまり生かしてこなかった。せいぜい、強気の広告営業くらいにしか反映してこなかったのだ。

 しかし、ポータルとしてネットサーファーに及ぼすパワーを認識するにつれて、彼らの考え方も変わり始めたようだ。そこで、トータルなサービスを提供できる真のポータルに自分たちのサイトを仕立て上げようとし始めた、それが昨年後半からの状況だ。

●新ネットサーファーにとっては本当の意味での入り口に

 そのポータルに、TVや映画、通信といった旧来のメディア/通信産業が熱い視線を注いでいるのは、なぜか。それは、今後、ポータルの需要性がさらに高まり、インターネットにアクセスする人たちがポータルに依存するようになるという読みがあるからだ。

 今、インターネットをヘビーに使いこなしている人は、この読みを奇妙に感じるかも知れない。ヘビーなネットサーファーにとっては、ポータルも数多くのWebサイトのひとつで、自由に乗り換えたり使い分けたりできるからだ。

 しかし、インターネット業界やメディア産業が、ポータルで描いているビジョンは違う。彼らは、これからインターネットにはライトなユーザーが増え、そうした新ユーザーは特定のポータルに依存するようになると見ているのだ。つまり、自分のPCやWebブラウザ、あるいはISPのイントロパックにデフォルトで設定されているポータルだけを使い続ける、そんなユーザーがどんどん増えると予測しているのだ。

 Microsoft対米司法省の裁判も、ポータルの追い風となる。裁判の影響で、PCメーカーがPCに搭載したWebブラウザのデフォルトのスタートページを、自社が運営したり提携するポータルに設定しやすくなるかも知れない。つまり、Windows 98を載せていても、Microsoft以外のポータルへ誘いやすくなるわけだ。

 デフォルトのまま使う、受動的ネットサーファーは、スタートページとして登録されているポータルを変えるなんてことは思いもつかない。それどころか、インターネット家電になると、ポータルの設定を変えられないというのも当たり前だろう。そうなると、彼らは、常にデフォルトのポータルからインターネットに入ることになり、本当の意味でのポータルになるわけだ。

●ポータルはメディア産業にとってわかりやすい形

 こうしたポータルのあり方は、旧来のメディア産業にとってはすこぶるわかりやすい。ビジネスモデルだって組み立てやすい。だから、どうも正体がつかめないインターネット企業への買収や資本参加に躊躇していた彼らも、がぜん乗り気になったというわけだ。

 彼らにしても、自分たちでやって失敗するよりは、買収や提携でインターネット企業の力を手に入れる方が手っ取り早い。というか、伝統的なメディア産業は、いずれもインターネットでは手痛い目にあってきている。例えば、AT&Tは「interchange」というオンライン出版をやろうとして、うまくいかなかった。Time Warnerのコンテンツサイト「Pathfinder」も、最初は素人目にもまとまりがないように見えた。他の企業にしても、ポータルほどの人気を得ることができていない。

 というわけで、総合サービスとしての体裁を整え、旧型メディア産業からの資本も流入し、活発化しているポータルサイトは、今後ますますサービスの充実に拍車がかかると見られている。皮肉なことは、この方向は、彼らが浸食した旧来型オンラインサービス(パソコン通信)と、サービス内容では似ていること。逆を言えば、全米のPC所有家庭の4分の1に食い込んでいるAOLを超えるには、まだ時間がかかりそうだ。

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('98/6/25)

[Reported by 後藤 弘茂]


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