【コラム】

後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Pentium II Xeonで、サーバー市場が変わる


●IntelはPentium II Xeonを今年前半と約束している

 米Intelは、律儀にスケジュールを守る会社だ。そして、同社は、上位のサーバー/ワークステーション向けに、新スロット規格「Slot 2」に対応したPentium IIプロセッサを、'98年前半に投入すると昨年後半から言い続けてきた。'98年前半も残りあとわずか。となると、「Pentium II Xeonプロセッサ」と名付けられたこの新MPUの登場も、秒読みに入ったと見て間違いはない。

 最近まで、コード名「DS2P(Deschutes Slot 2 processor)」と呼ばれていたPentium II Xeonは、400MHz版と450MHz版で登場すると、業界では言われている。当初は、450MHz版の発売は第4四半期になると見られていたが、現在はこの予定は繰り上がったと言われている。ただし、450MHzが発表されたとして、今年中盤の段階でどれだけのボリュームで出てくるかは、まだわからない。

 Pentium II Xeonに関しては、Intelが4月21日にニューヨークで開催した「NewYork Analyst Meeting」で、ある程度詳しく説明されている。IntelのWebサイトには、すでにその時のプレゼンテーション資料がポストされており、概要がわかるようになっている。それによると、Pentium II Xeonには、パッケージに搭載する2次キャッシュの容量が、512KBと1MB、2MBと異なる3つのバージョンがあることになっている。これは、大容量キャッシュのニーズが強い、ハイエンドのサーバー/ワークステーションをターゲットにしているのだから当然だろう。

 Pentium II Xeonのパフォーマンス面での大きな特徴は、この大容量2次キャッシュとのMPUコアの間のバスを、MPUコアと同スピードで駆動することだ。現行のPentiumIIの2次キャッシュ用バスのクロックは、MPUクロックの半分になっている。PentiumII Xeonでは、これをPentium Proプロセッサと同じようにMPUコアと同速にすることで性能アップを図った。そのため、特に、サーバーやワークステーションアプリケーションでは、かなりの性能向上が見込めると言われている。


●Pentium II Xeon用に3つのチップセットが登場

 また、IntelはPentium II Xeon投入に合わせて、新たにSlot 2用にふたつのチップセットも提供する。ひとつはデュアルプロセッサ対応の「440GX」で、これはPentiumII Xeon市場の下半分のミッドレンジのサーバーやワークステーション向けだ。もうひとつのチップセットは、最大4CPUに対応する「450NX」で、こちらはPentium IIXeon市場の上半分、上位のサーバー市場をカバーすると見られている。

 しかし、IntelのPentium II Xeon用チップセットはこれだけでは終わらない。最大8CPUをサポートする、さらに上位のチップセットを準備しているのだ。

 Intelは昨年、PCサーバー用マルチプロセッサ技術のパイオニア米Corollaryを買収している。Corollaryの開発した「Profusion」技術は、最大8CPUのPentium Proを搭載したサーバーを可能にする技術だった。Intelは、今年後半にこのProfusion技術を使ったチップセットを投入してくると見られている。それによって、これまではサーバーメーカーが独自チップセットを開発しないと実現できなかった、8CPUサーバーがPentium II Xeonでは比較的容易に実現できるようになるだろう。


●PCより高いPentium II Xeon?

 しかし、Pentium II Xeonはその性能に合わせて、非常に高価なMPUになると見られている。今年3月の「WinHEC 98」で講演したMPU業界随一のアナリスト、マイケル・スレイター氏(業界紙Microprocessor Reportのエディトリアルディレクタ)は、Slot 2用Pentium IIはPCが1台買える価格のMPUになると予言した。実際、Intelが現在上位のサーバー/ワークステーション向けに提供しているPentium Pro 200MHzでは、2次キャッシュ512KB版が1,000ドル程度、2次キャッシュ1MB版が2,600ドル程度になっていた。Pentium II Xeonがこの価格レンジをそのまま引き継ぐとしたら、確かにPCが1台買える価格になる。

 Pentium II Xeonは、もちろん2次キャッシュSRAMをMPUコアと同クロックで駆動するという技術的なハードルにより、Pentium IIよりコストがアップする。しかし、マーケットの状況からも高い価格をIntelがつけられるのも事実だ。特に、大容量2次キャッシュ版が欲しくなる4CPU以上のマルチプロセッササーバーになると、MPUだけでなくシステムの各部のコストがアップする。そのため、MPUの価格を少しばかり高く設定しても問題はない。また、このセグメントでは、競合はRISCサーバーであり、価格的には2,000ドル台でも十分対抗できる。

 そうしたわけで、IntelはPentium II XeonではMPU価格をかなり高めに設定できる。これは、Intelの収益にかなりいい影響を与えるだろう。デスクトップPC用MPUが低価格化してしまった分を補うだけの利益を上げることができるのではないだろうか。


●Pentium II XeonとMercedでサーバー市場の全制覇を狙う

 Intelは、Pentium II Xeonと、さらにその先の「Mercedプロセッサ」で、サーバーおよびハイエンドコンピューティング市場の制覇を狙っている。「New York AnalystMeeting」の資料には、この戦略がよくわかるものがある。

 それによると、Intelはサーバー市場を6つの価格セグメントに分けて考えている。

 これがそのセグメント分けだ。IntelのMPUは、このうち(3)から下、つまり8,000ドル以下の価格帯のサーバーでは、圧倒的なシェアを誇っている。同社は、この市場には、引き続きPentium IIを低コストサーバー向けMPUとして提供して行くつもりだ。4,000ドル以下の小規模なビジネスアプリケーション用サーバーとリソースを共有するだけの低コストサーバーは、Pentium IIでカーバーするというわけだ。

 しかし、(4)の8,000ドル~2万5,000ドルの価格帯になると、Intel MPUのシェアは一気に半分以下に下がってしまう。Pentium II Xeonが投入されるのは、まさにこの市場だ。Intelは、Pentium II Xeonを(4)の部門データベース市場を中心に、その上の(5)10万ドル以下市場と、その下の(3)8,000ドル以下市場に持ち込もうとしている。つまり、これまでx86サーバーが、浸透しきれなかった部門サーバーを征しようとしているのだ。

 そして、次のIA-64プロセッサMercedは、(5)と(6)、つまり2万5,000ドル以上のセグメントにも同社製品を浸透させる役割を担う。つまり、これまでIntelが少数派だった大企業のデータウェアハウス用サーバーなどの市場を攻めるのだ。

 Intelのパトリック・P・ゲルシンガー氏(副社長兼Business Platform Group本部長)は、昨年11月、IA-64の狙いについてこう語っていた。

 「IntelはSlot 2でエンタープライズコンピューティングの分野に入る。しかし、そこにはさらに高いレベルのプラットフォームとして、メインフレームやデータウェアハウスサーバーがある。そして、この分野では64ビットと高いマルチプロセッサ構成が要求されている。それがIntelが、IA-64に力を入れる理由だ」

 つまり、64ビット化とマルチプロセッサ対応に力点が置かれているIA-64は、32ビットMPUであるPentium IIではまだIntelが破れないハイエンド市場をターゲットとしたものというわけだ。特に、巨大データベースを扱うデータウェアハウスでは4GB以上のアドレス空間をサポートできる64ビットMPUが向いている。4GB以上のRAMを搭載することで、データベース処理を高速化できるからだ。そのため、この市場は、現在のところは64ビット化で先行するRISCサーバーの独壇場となっている。


●Pentium II Xeonのあとに500MHzのTannerが続く

 Intelは、このようにPentium II Xeon以降は、サーバー市場の制覇に一気に注力する。そのため、このセグメント向けMPUの高速化を急いでおり、同社の公開資料を見ると、来年前半には、Pentium II Xeonブランドで500MHzを実現することになっている。このPentium II Xeonは、「Tanner(タナー:コード名)」と呼ばれるMPUのようだ。Intelは、Tannerと同じ時期に、MMX命令を拡張した「Katmai(カトマイ:コード名)」を投入することを明らかにしているが、TannerのコアはこのKatmaiと同等になると見られている。

 このTannerというMPUは、Intelのもともとの計画では、MercedプラットフォームとPentium II Xeonの橋渡しをする役割も担っていると言われていた。Intelは、Mercedでは「Slot M」と呼ばれる新しいスロットを採用すると見られているが、当初のTannerは、Slot 2版とSlot M版の2バージョンが用意されると言われていたのだ。これは、上位サーバーでのMercedへの移行を容易にするための措置だと思われていた。しかし、Mercedの出荷計画に狂いが出たため、Slot M版は繰り延べされたものと見られている。


●不安を呼ぶMercedの遅れ

 先々週に発表された、このMercedのスケジュールの遅れは、米国の金融街にパニックを巻き起こした。それは、IntelがPC市場だけでなくサーバー市場も制覇するという、Mercedによって支えられているシナリオに狂いが生じたと見られたからだ。実際には、Intelの発表では、Mercedの出荷は'99年後半が2000年半ばにスライドした、つまり約6ヶ月程度遅れただけであり、致命的とは通常受け止められないものだ。しかし、Intelのハイエンド制覇の象徴がMercedだっただけに、その心理的影響は大きかったようだ。

 Intelとしても、MercedはIA-64への移行を促進するためにも早く出したいに違いない。64ビット版Windows NTはMerced登場には間に合わないとしても、せっかく大半のUNIXベンダーがIA-64サポートに向かっている、今の追い風は逃したくないはずだ。そのはずなのにスケジュールを遅らせたということで、業界ではいろんな憶測が飛んでいる。

 Intelは発表資料で、Merced開発は、機能モデルおよび初期の物理レイアウトの完了をした段階にあると言っている。そろそろサンプルチップが視野に入り始めた頃だ。Intelは通常、ファーストシリコンと呼ばれる最初のサンプルから実際の製品まで、かなり時間を置くので、これは当初のスケジュールから考えても妥当な段階だ。つまり、ここでスケジュールが遅れることが判明したということは、何らかの問題が発見されたことを意味している可能性が高い。

 もっとも、この基本的な物理レイアウトが見えてきたあたりからファーストシリコンまでの時期は、それまで見えなかった問題が顕在化する時期なので、この発表自体は意外ではない。しかし、今の段階では、どれくらいクリティカルな問題なのかわからないので、不安が広がっているのだ。例えば、以前に64ビット版の「PowerPC620」が基本的な設計は終わったのに、いくつかの問題が顕在化して、事実上取りやめになってしまったことがある。この不安を払拭するいちばんの方法は、IntelがMercedのシリコンをできるだけ早く顧客に出すことだろう。

□「1998 Spring Analyst Meeting」
http://intel.audionet.com/intel/nyam98/formats.html


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('98/6/10)

[Reported by 後藤 弘茂]


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