【コラム】

後藤弘茂のWeekly海外ニュース
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ゲイツ氏がエコノミスト誌上で激白


●反論したくてたまらないゲイツ氏が行間に見える

 米国のニュースサイトで、先週一番のPC関連の読み物は何と言っても「BILL GATES REPLIES Compete, don't delete」(Economist,5/23)だ。米Microsoftのビル・ゲイツ会長兼CEOの愛読誌でもあるEconomist誌が、今回の提訴に関して、ゲイツ氏に反論の場を与えたページだ。堂々、3ページに渡って、ゲイツ氏の反論が読める。

 これが、ともかく、反論したくてたまらないというゲイツ氏の気迫が伝わってくるような文章で、なかなかすごい。主張自体は、政府が製品のデザインにまで口を出すのは、PC業界の成長を阻害し、コンシューマの利益に反するという、これまでのトーンで目新しさは少ない。しかし、司法省への反論を補強するために、さまざまな証拠を盛り込み、司法省の訴状のアラも掘り返していて、その細かさは、ちょっと鬼気迫るものがある。

 たとえば、今回の提訴では司法省はMicrosoftの内部メモや電子メール、マスコミ発言を大量に引用していたが、ゲイツ氏もこの反論の中で、それに対抗して電子メールなどを証拠としてさかんに引っ張り出している。電子メールが証拠になるなら、こちらの主張に沿ったメールだってたくさん出てくる。そう言いたがっているかのようだ。

 たとえば、Microsoftが「Netscapeが誕生するよりも前からインターネット技術をWindowsに統合しようと計画していた」証拠として、ゲイツ氏はMicrosoft上級副社長スティーブ・バルマー氏の'93年12月の電子メールを引用している。それによると、バルマー氏はWindows 95をもし「インターネットの最上のフロントエンド」に位置づけることができれば、Windows 95を幅広く受け入れされることがうまくゆくと提案したという。

 また、ゲイツ氏は、政府の訴訟を「Netscapeの代理」と呼んで、非難している。Microsoftにとっては、今回の訴訟がNetscapeという別な私企業を助けるためのものというイメージを強くした方が有利なので、これは当然の戦略だろう。

 Netscapeとの絡みで、とくに面白いのは、司法省が訴状の中で挙げていた、'95年5月のMicrosoft幹部とNetscape幹部の会談について反論しているくだりだ。司法省は、Microsoftがこの会談で、Netscapeに対して、ブラウザ市場を切り分けようと説得しようとしたと指摘している。訴状によると、「MicrosoftがWindows 95と後継OS用で使うブラウザの単独供給者になり、Navigatorはそれ以外のOSで使うブラウザの単独供給者になる」ようにMicrosoftは提案したという。

 それに対して、ゲイツ氏はまず、Netscapeとの会見は'95年5月ではなく6月だと、日付から違っていると反論。そして、会見の目的も、MicrosoftがNetscapeに技術共有しようと提案した、平和的なものだったと述べている。その証拠として、ゲイツ氏は、Microsoft側の出席者に、Netscapeのマーク・アンドリーセン氏が会談のあと、今後ももっと話し合いをしようと、好意的なメールを送ってきたと書いている。

 といったわけで、この記事は、ゲイツ氏の、ともかく反論したい、語りたいという、その気持ちがにじみ出るような、内容になっている。裁判戦術としては、こうした反証材料は温存して置いて、裁判の中でもっと効果的に使うのが常道では……と素人考えでは思うのだが、ゲイツ氏のはやる心には、そうした考えは浮かばなかったのかも知れない。


●Windows 98マシンがいよいよ店頭に

 と言っても、裁判が本格的に始まるのは9月。Microsoftとしては、その前にWindows 98を無事離陸させないとならない。「Windows 98-Based PCs Arrive in Stores」(Computer Retail Week,6/15)によると、全米の大手PC小売りチェーンには、続々とWindows 98プリインストールPCが届き始めたという。各チェーンの広告にも、Windows 98プリロードマシンの掲載が始まり、秒読み態勢に入ったようだ。

 もっとも、これでPCメーカーは一枚岩でMicrosoftを支持するのかというと、そういうわけでもない。PCメーカーは、この機に、Microsoftからある程度の自由を勝ち取ろうと勇んでいるように見える。今回の提訴で、MicrosoftがOEMメーカーにWindowsの起動画面やブートシーケンスのカスタマイズを制限しているという点が問題になった。そこで、Microsoftが強く出ることができなくなったためか、提訴以来、米Gatewayと米Packard Bell NECは、MicrosoftからWindows画面のカスタマイズの権利をある程度勝ち取った。そして、「Dell in Talks With Microsoft About Custom-Designing PCs」(The Wall Street Journal,6/15、有料サイト、http://www.wsj.com/から検索)によると、ついにMicrosoftにとって最良のパートナーのひとつである米Dell Computerも、MicrosoftにWindowsのカスタマイズで交渉を始めたという。もちろん、これで、Windows支配が大きく崩れるというわけではないだろうが、PCメーカーにとっては、裁判のおかげで、Microsoftの力を少し弱めて、自社の製品を差別化するいいチャンスが来たということかも知れない。


●対照的だったIntelとMicrosoftの対応

 さて、先週はというと、やはり米Intelに対するFTC(米連邦取引委員会:FederalTrade Commission)の行政審判開始が話題になった。なかでも、興味深かったのは、同じように反競争的行為で政府機関から追求を受けているMicrosoftとIntelを比較して、対照的な部分を分析している記事だ。

 実際、こうした事態でのIntelとMicrosoftの反応は対照的だ。Microsoftは司法省と20州および特別区の検事総長らの提訴のあと、すぐさま記者会見を開き、そのあとも饒舌に反論を繰り広げている。ところが、Intelの方は、短いステートメントを発表しただけで、あとは、ほとんど押し黙ったままだ。

 「How Intel and Microsoft differ」(San Jose Mercury News,6/9)は、Microsoftのやり方は「in-your-face style」(傍若無人型)で、Intelのやり方は「low-key manner」(控えめ作法)だと切り分けている。そして、そうした両社のスタイルの違いが、今回の提訴や審判の内容などにも影響していると見ている。例えば、Microsoftに対しては司法省は100ページもの訴状を用意したのに、Intelに対するFTCは11ページの薄い訴状を出しただけ。周囲も、Microsoftに対しては、議会公聴会への出席や批判集会が開催されるなど激しい反対運動が起こっているのに、Intelに対してはそうした動きがないと比較。そして、その原因としては、MicrosoftのあつかましさがIntelの無慈悲さより反対者に強い反発を感じさせるのではと分析している。

 このあたりは、ゲイツ氏の攻撃的な口調と、アンディ・グローブIntel会長の抑えたトーンを、思い起こすと納得ができる。といっても、この違いは、あくまでも業界の外の世界に対する態度であり、両社とも彼らのビジネスの領域では攻撃的なことに変わりはない。


●Microsoftより政治慣れしているIntel?

 また、「Unlike Microsoft, Intel Uses Light Touch in D.C. Dealings」(Washington Post,6/4)は、Microsoftと違って、Intelの幹部や弁護士が何年も政治家や政府と交渉してきて、騒ぎ立てたり感情的にならないというルールを作っているから、Intelの方がうまくやっているのだという専門家の意見を紹介している。考えてみれば、米国の半導体産業は、'80年代に日本の半導体メーカーとの戦いのために政府の力を積極的に借りたわけで、それ以来、政府と密接な関わりを持ち続けてきたというのは十分納得できる。この記事では、IntelはMicrosoftよりもずっとロビー活動に精通していて、有力な人材や強力な人脈を持っていることを、関係者らの証言から明らかにしている。例えば、Intelがワシントンでつながりを持っている有力弁護士には、FTCとの関わりが深い人物がいるそうだ。

 もっとも、「Guarding Secrets Or Locking Out Rivals? FTC Focuses on Intel's Withholding of Data In Suit as Narrowly Drawn as Microsoft Case」(Washington Post,6/9)は、両社のケースには共通点が多くあり、この2社への提訴・審判が同時に起こったのは、偶然の一致ではないと示唆している。つまり、PC業界が米国経済全体にとって重要になってきたので、モノポリーパワーを持つ企業へのけん制をする必要があると政府が感じたということなのだろう。つまり、これまでよりもう少し大人しくするようにと、政府が手綱をかけようとしているというわけだ。


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('98/6/16)

[Reported by 後藤 弘茂]


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