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Windows 98を巡る、司法省対Microsoftのファイナルバトル



●MicrosoftがWindows 98擁護を活発に訴える

 Windows 98出荷(OEM向け)を目前に控え、米Microsoft社と司法当局との最後の“にらみ合い/つばぜり合い”が続いている。連休前のコラムで、ゴールデンウィーク中に司法省がMicrosoftに対して新たな訴訟を起こす可能性について書いた(「ゴールデンウィーク中は、Microsoft対司法省の爆弾にご注意」)が、Microsoftもそうした動きを意識して次々と手を打っている。

 「Friends of Windows 98 To Show Support」(COMPUTER RESELLER NEWS,5/1)など多数の記事で報道されている通り、先週はコンピュータ関連企業26社のトップエグゼクティブ(米Intel社のアンディ・グローブ会長兼CEO、米Dell Computer社のマイケル・デル会長兼CEO、米Compaq Computer社のエッカード・ファイファーCEOなど)が連名で、司法省に書簡を送った。「Text of letter from execs to Justice Department, defending Microsoft」(InfoWorld Electric,5/1)がその書簡の全文だ。これを読むと、業界トップらは、司法省がWindows 98の発売を遅らせるような行動を取った場合はPC業界全体に甚大な被害が出ると主張。「調査のメリットへの意見は披露しないが、Windows 98リリースを遅らせたり妨げたりする行為をとらないようお願いしたい」と書き送ったらしい。

 Microsoftに対しては、全米13州の検事総長もWindows 98出荷前の訴訟を計画しているとも報道されている。「Microsoft Seeks Allies To Halt Antitrust Move」(The Wall Street Journal,5/1,有料サイト http://www.wsj.com/ から検索)によると、26エグゼクティブの書簡は、この13州の当局にも送られたという。もちろん、この書簡のバックには司法省を抑えてWindows98をなんとしても出荷したいMicrosoftがいる。

 「Microsoft gets a little help from big friends in letter to the Justice Department」(InfoWorld Electric,5/1)によれば、書簡の草案にはMicrosoftもアクティブに関わったそうだ。Microsoftは、業界トップを集めることで、相手にするのがMicrosoftだけではないぞというプレッシャーを与えたのだろう。

 また、Microsoftは今週火曜日にはPC業界のトップを集めたWindows 98擁護の決起イベントも開いた。この集会でのゲイツ氏らのスピーチのトランスクリプト「PCIndustry Leaders Unite to Support Windows 98 and Innovation for Consumers」は、すでにMicrosoftのWebサイトにアップされている。これを見ると、ビル・ゲイツ会長兼CEOは、「Windows 98を脱線させたり遅らせるいかなる政府のアクションも、米国経済を傷つけ、米国の雇用を犠牲にするだろう」と述べたらしい。つまり、Windows 98阻止は米国経済を害することになると、国益の問題にまで広げることで、司法省をけん制しようとしている。


●ゲイツ氏は司法当局によるWindows 98阻止の動きを本気で警戒

 Microsoftがここまで慌てて、そして徹底してWindows 98擁護のムーブメントを盛り上げようとしている背景には、先週伝えたような司法当局の動きがある。Microsoftは、新たな提訴を真剣に警戒している。

 「PC Industry Leaders Unite to Support Windows 98 and Innovation for Consumers」では、司法省や州の司法当局がWindows 98を阻止しようとすると考えているのかという質問に対して、ゲイツ氏が次のように答えている。「司法省か州検事総長が、Windows 98に対する(差し止めの)強制命令の要求を含む訴訟を計画している可能性について、これまでいろいろ議論されてきた。それは事実、(彼らによって)考慮されているものだ。だからこそ、いまWindows 98の利益のために発言する価値があるのだ」。

 これを見る限り、ゲイツ氏は、司法省や州の検事総長がWindows 98の出荷差し止めを目指した新たな反トラスト法訴訟を計画しているという、ある程度の情報を得ているようだ。そう考えると、Microsoftの過剰なまでの反応も納得がゆく。

 そして、司法省か州検事総長らがしかけるとしたら、今週から来週にかけてが山場になる可能性が高い。それは、Windows 98阻止を本気で考えているなら、Windows 98出荷前に提訴しないと意味がないからだ。いったんWindows 98が出荷されてしまえば、それを差し止めることはほとんど不可能に近い。そして、Windows 98の正式リリースは6月25日だが、OEMメーカーへの出荷は5月の中旬から始まってしまう。つまり、5月中旬を過ぎれば、司法側の介入はかなり難しくなるわけだ。MicrosoftがここでWindows 98擁護で一気に詰め寄っているのには、こんな事情がある。

 では実際に司法側が提訴するとしたらどうなるのか。先週は、13州の動きが報道されたが、司法省はいぜん沈黙を守ったままだ。もし提訴するとしたら、州の検事総長らだけで、各州ごとに提訴するという動きになるのだろうか。このあたりの動向の分析は「States' Fight Vs Microsoft Tough Without Fed Help - Lawyers」(Dow Jones Newswires,4/30)が詳しい。この記事によると、州検事総長がMicrosoftを提訴しようとしているのは、彼らの多くが州知事の座をねらっている(実際に出馬することが多い)ためだという。世間から悪役に見られているMicrosoftに対する訴訟は、注目を集めるので政治的メリットがあるというわけだ。しかし、記事では、反トラスト法の専門家が少ない州の検事局では、司法省の助けなしに戦うのは困難だろうと指摘している。そして、結局は司法省が提訴するだろうという、専門家のコメントを紹介している。となると、ますます司法省の沈黙が不気味だ。はたして、司法省はどちらに転ぶのだろう?


●Intelにも反トラスト法違反の訴訟が?

 反トラスト法訴訟の火の粉は、MicrosoftのPC業界での盟友米Intel社にもふりかかるかも知れない。スクープ記事「Feds prepare antitrust cases against Intel」(USA TODAY,4/28)によると、Federal Trade Commission (FTC、連邦取引委員会)がIntelに対して、むこう数週間のうちに提訴を計画しているという。もっとも、この記事は、この件に近い情報筋からの話として提訴の可能性を報じているだけで、具体的な提訴の内容などはレポートしていない。そのため、どの程度信憑性があるかは、まだわからない。このニュースは、他のニュースサイトでも取り上げているが、ほとんどがUSA TODAYの後追い記事で、まだ確証を掴んだという状態ではなさそうだ。IntelがFTCからの調査を受けていたことを考えると、確かにありそうな話だが……。


●IntelはCeleron計画を一部変更

 Intelの話題をもうひとつ。
 「Intel Expands Celeron Rollout」(COMPUTER RESELLER NEWS,5/4)によると、IntelはCeleronのロードマップを一部変更したらしい。これまでのプランでは、先月発表した266MHzの2次キャッシュなし版Celeron(コード名Covington:コヴィントン)のあとは、300MHzの2次キャッシュ統合版Celeron(コード名Mendocino:メンドシノ)を今年の第4四半期に出す予定だった。しかし、新プランでは300MHzの2次キャッシュなし版Celeronを第3四半期とMendocinoの前に出し、第4四半期のMendocinoは333MHzに動作周波数がアップされることになった。この変更の意味していることのひとつは、デスクトップ版Mendocinoの動作周波数を333MHzからスタートさせるメドが立ったということだろう。

 2次キャッシュなし版のCeleronの方は0.25ミクロン版Pentium II(333MHz以上のPentium II)と同じダイ(半導体本体)を使っているので、こちらはそもそも300MHzでもかなりの量が採れると思われる。だから、2次キャッシュなし版Celeronが、300MHzに引き上げられたのは、単純にMendocinoの高速化に対応したためではないだろうか。

 Intelのグラフィックスチップ戦略についての記事もあった。「The Intel effect」(Forbes,4/29)によると、Intelは「Intel740」をすでに100万個出荷したが、年末までには500万個に達するだろうという。アナリストによると、740の原価は18ドルで、Intelは現在それを25ドルで売っているが、500万出るようになったらさらにボリュームディスカウントを始めるだろうという。そうなると、CPUとチップセットとグラフィックスチップのセットで、ますます寡占化が進む可能性もある。


●AMDのK6-2は5月28日

 Intelのライバルの米AMD社関連のニュースもいくつか出てきている。なかでもPC Watchの読者が関心があるのは、「K6-2」(K6 3Dを改名した)の発表日だろう。「Sanders Still In Charge As AMD Readies For Intel Battle」(COMPUTER RESELLER NEWS,4/30)によると、AMDは5月28日に発表するつもりらしい。とすると、K6発表からほぼ1年で、次のチップが登場することになる。K6ではとりあえずIntelの一角を崩すことに成功したが、生産面でのトラブルにより、当初の期待より小さな成果しか挙げることができなかったAMD。さて、次のラウンドはどうなるだろう。


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('98/5/7)

[Reported by 後藤 弘茂]


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