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Microsoft対司法省、3度目の法廷対決はMicrosoftに順風か?


●Microsoft裁判の控訴審が始まった

 先週は、Microsoftと司法省の法廷対決の第3ラウンド、ワシントンDCの連邦控訴裁判所での審理が行なわれた。司法省の提訴による、Microsoftに対する反トラスト法裁判は、昨年12月に判決が出るまでの暫定措置として仮命令が下されている。この仮命令は、Microsoftに対してWindows 95のライセンス供与の際に、Internet Explorer(IE)をバンドルすることを強制することを禁じている。しかし、Microsoftはこの仮命令が、法廷の権限を超えたものだとして控訴した。今回の控訴審は、この控訴によって行なわれたもので、仮命令の権限と、連邦地裁が任命したスペシャルマスター(技術上の事実関係を調査する外部学識者)の人選が適切かどうかを巡って争われる。

 今回の審理は、初回ということもあって、それほど切り込みはなかったようだ。しかし、「Microsoft states its case」(San Jose Mercury News,4/21)などを見る限り、これまでの裁判と異なり、司法省側に対して判事らが厳しく迫る場面が目立ったようだ。判事は、司法省の弁護士に対して、そもそもの司法省の提訴の基盤となっている'95年の同意審決そのものがある種の差し止めなのに、仮命令が同意審決を実施するために認められるのはおかしいと問いただしたそうだ。ここからは、判事が仮命令の根拠に関して、ある程度の疑問を持っていることがわかる。つまり、Microsoftにとってはさい先のよい出だしとなったわけだ。Microsoftにとくに甘かったというわけではないようだが、連邦地裁と比べると、控訴裁判所は、Microsoftにとってやりやすい相手のようだ。


●反Microsoft団体に、保守派の有力人物が参加

 しかし、Microsoftにとって順風ばかりが吹いたわけでもない。たとえば、控訴審が行なわれる直前には、反Microsoftのロビー団体「ProComp」が旗揚げしている。この団体設立では、参加メンバーが注目を集めた。クリントン大統領に大統領選で破れたボブ・ドール氏など、ワシントンDCでも名うての保守派メンバーが加わったからだ。とくに、米国で注目されたのは、ロバート・ボーク元高裁判事が加わったことだ。「Sherman Antitrust Case Is Sought Against Microsoft by Ex-Judge Bork」(The Wall Street Journal,4/21、有料サイト、 http://www.wsj.com/ から検索)によると、ボーク氏はレーガン大統領時代に最高裁判事に指名された(議会の承認を得られなかった)保守派判事の代表格であり、自由市場に対する反トラストの介入は最小限にすべきという意見の持ち主だという。Microsoftは、今回の裁判で、政府の過剰な介入は技術進歩を妨げるという論を展開しているが、ボーク氏の意見はまさにその論と一致する。つまり、Microsoftが拠り所にしている論を法曹界で主張している中心人物が、反Microsoft陣営に加わってしまったわけだ。ドール氏やボーク氏といった、「小さな政府と自由な経済」のイデオローグが反Microsoftに回ったことは、結果としてMicrosoftの論拠を多少なりとも弱めることになるかも知れない。


●血まみれのモニタがベッドのなかに……

 Microsoftにとって悪い事件は、もうひとつ起きた。「Federal Prosecutors Are Pursuing New Antitrust Case vs. Microsoft」(The Wall Street Journal,4/24、有料サイト、 http://www.wsj.com/ から検索)によると、連邦検察官は、また別件でMicrosoftの反トラスト法違反を調査しているという。今度は、Microsoftが'95年5月に米Netscape Communications社に対して、Webブラウザ市場を切り分けようと違法な説得を図ったかどうかが問われているという。ようは、MicrosoftがWindows用のWebブラウザを出すから、Netscapeは非Windows市場だけに絞るようにと、脅したのではないかということらしい。この件は「Microsoft reportedly may face new Justice Department antitrust probe」(Infoworld,4/24)でも紹介されているが傑作なのは、Netscapeのマーク・アンドリーセン上級副社長のコメント。アンドリーセン氏は、Microsoftとの会見について「まるでドン・コルレオーネ(映画『ゴッドファーザー』のマフィアのボス)が訪ねてきたみたいだった。次の日ベッドの中に血まみれのコンピュータモニタがあるんじゃないかと思ったよ」と語っている。ちなみに、ゴッドファーザーでは、ドンの申し出を断った男のベッドには血まみれの馬の首が放り込まれ、恐れおののいた男はドンの言うことを聞くようになるが、どうやらアンドリーセン氏のベッドにはモニタは転がっていなかったようだ。


●IE 5.0からはJavaとActiveXがなくなる?

 さて、先週の技術ネタでは、ぼちぼち出てくるようになったInternet Explorer 5.0の話題があった。「Microsoft plans to downgrade browser」(The Sunday Times,4/26)は、Microsoftが先週の会議で、JavaとActiveXをIE 5.0から取る計画を話し合ったと報じている。この記事では、その動機はJavaを使いたいユーザから金を取ることだというアナリストの意見を紹介しているが、それはないんじゃないだろうか。


●Intelはロジックチップのワンチップ化も計画中

 Intelの次世代チップセット計画についての記事もあった。「Integration Approaches Diverge」(Microprocessor Report,4/20)によると、Intelはノースブリッジ(CPU-PCI)チップ、サウスブリッジ(PCI-ISA)チップ、グラフィックスチップを統合した統合チップを計画しているという。このチップでは、グラフィックスとCPUでメモリインターフェイスは共有されるために、AGPインターフェイスがなくなるという。また、Intelが次世代メモリとして後押ししている「Direct RDRAM」の時代になったら、Direct RDRAMのインターフェイスをMPUに取り込む可能性もあるという。それは、100MHzのCPUバスでは、Direct RDRAMの広いメモリ帯域をフルに使うことができないためだという。


●CATV会社がデジタルTVをフルサポートへ

 さて、このコーナーで何度も取り上げている米国の地上波デジタルTV動向でも、新たな展開があった。今度、話題になったのはCATVでの地上波デジタルTV放送のサポートだ。「Cable companies grilled on digital-TV transition」(Electronic Engineering Times,4/24)は、米国のCATV会社最大手の米Tele-Communications(TCI)社と米Time Warner Cable社が、次世代デジタルSTBでHDTV(高精細度TV)をサポートすると明言したことを、大きく扱っている。例えば、TCIのデジタルSTB(セットトップボックス)は、地上波デジタルTV放送の一部の時間帯で行なわれるHDTV放送を高解像度ディスプレイにも表示できるし、従来の低解像度アナログTVにも表示できるという。

 これがどうしてニュースになるのかというと、米国の場合、60%以上のTV視聴者がCATVを利用しているからだ。つまり、地上波TV放送がデジタル化しても、CATVがそのデジタルTV放送を流せないと、米国の3分の2の視聴者には届かないことになってしまう。地上波デジタルTVの成功のカギは、事実上、CATVが握っているわけだ。

 そして、この話でとくに問題になっているのは、HDTV放送だ。CATV局が、HDTV放送をそのままの画質で流すかどうかは、これまで決着がついていなかった。もし、CATV局がHDTV放送を局側で低い解像度に変換して流すとなると、HDTVの高い解像度は意味をなさなくなってしまうわけだ。実際、今年1月にラスベガスで開催された家電ショウ「Consumer Electronics Show (CES)」の時点では、CATV業者はこうした形でデジタルTV放送をサポートすると見られていた。TCIのデジタルSTBは、MicrosoftのWindows CEとWebTV技術を使うが、今月初めに来日したMicrosoft子会社のWebTV Networksのスティーブ・パールマン社長も、TCI用STBでは704×480ドットプログレッシブ(ノンインタレース)表示で60フレーム/秒の「480P」フォーマットしかサポートしていないと記者会見で説明していた。とすると、今月頭からこれまでの間に、仕様が変わったことになる。実際、「Cable Companies Promise Congress They Won't Block Digital TV Signals」(The Wall Street Journal,4/23、有料サイト、 http://www.wsj.com/ から検索)も、もともとのTCIのプランではHDTVは対応しないはずだったが、計画が変わったと報じている。

 これはどういうことだろう。考えられるのは、CATVが地上波デジタルTV放送をすべて放送しなければならないようにする「マストキャリー(must carry)」ルールを、政府により強制させようとする放送業界側からの圧力が高まったことだ。CATV業者側としては、HDTVに対応できるようにして風当たりを弱め、その代わり、マストキャリールールを適用されるのを避けようとしているのではないだろうか。

 記事中でもTCI側は、すべての放送業者のすべてのデジタルサービスをCATVで流すには、同社のCATV放送の14のチャンネルを取りやめなければならない(つまり、それだけ帯域を食ってしまう)ため、非現実的だと訴えている。しかし、Microsoftが技術協力するSTBの方は、比較的低解像度の480PフォーマットのデジタルTV放送をデコードできればいいとする当初の仕様からグレードアップせざるを得なくなった可能性が高い。


●CompaqがSTB(セットトップボックス)を開発か

 こうした動きと歩調を合わせるように、Microsoftと米Compaq Computer社も、米国放送業界が開始するHDTVのフォーマットの片方である1,280×720ドットプログレッシブ(ノンインタレース)60フレーム/秒の「720P」フォーマットのサポートを発表している。そして、「Compaq planning PC-TV convergence box」(4/23,NEWS.COM)が、Compaqが、デジタルTVを意識したSTBを開発しているというニュースも流れてきた。Compaqの製品は、Windows 98ベースだというから、前回紹介したIntelのカテゴリ分けで言えば、セットトップPCにあたる。価格も1,000ドル以下というケースも十分ありうるだろう。しかし、それでもいわゆるSTBの常識からすればずっと高価で、しかも(Windows 98だとすれば)扱いにくいシロモノになる可能性が高い。この記事が報じているようなSTBをCompaqが実際に出荷するとしても、それが本命ではないだろう。おそらく、Windows CEでのデジタルTVサポートの準備が整ってから、500ドル以下のWindows CE搭載STBを本格的に投入してくるのではないだろうか。


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('98/4/28)

[Reported by 後藤 弘茂]


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