【コラム】

後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Mobile Pentium II登場
-そしてノートPCはサブ1,500ドルへ向かう-


●米国ではノートPCは1,500ドルの戦いに

 おそらく、米国でのノートPC新製品の実売価格は、そう遠くないうちにローエンドが1,299ドル近辺にまで下がる。旧モデルは1,000ドルを割る売価が一般化、サブ1,500ドル(1,500ドル以下)製品が小売り市場ではかなり大きなパーセンテージを占めるまでになるだろう。大胆な予測に聞こえるかも知れないが、今年1月から3月までの間に米国で起こったノートPC価格の急激な下降を見ていると、今年後半か、遅くとも来年頭にはこんな状況になってもおかしくない。

 '97年に米国の小売り市場で吹き荒れたサブ1,000ドル(1,000ドル以下)デスクトップPCの波は、いよいよ聖域だったノートPCにも及び始めた。昨年後半から兆候は見え始めていたのだが、今年1月からは、ついに本格的な価格のスライドが始まった。きっかけのひとつは、東芝の米国法人Toshiba America Information Systemsがローエンドモデルの「Satellite 305CDS」(MMX Pentium 166MHz)を1,699ドルで投入、在庫処分的な旧モデルではさらにアグレッシブな価格をつけたこと。これを機に、ノートPCの価格はガラガラと音を立てて崩れ始め、各メーカーが相次いでローエンドモデルを1,500ドル前後まで下げ始める。1社が下げると、また他のメーカーが価格改定を発表するという値下げバトルに突入した。1月以来の米国での大手メーカーのプレスリリースを並べると、ともかくノートPCの価格を下げたという発表ばかりが目立つ。

 そして、一部のメーカーでは、いよいよ999ドルという価格設定も出てきた。たとえば、3月に米Compaq Computer社が発表した価格表では、133MHz Pentiumの「Armada 4131T」が999ドルとなっている。もっとも、999ドルはさすがに製品寿命の終わった在庫処分品で、スペックも古ければ、あまり流通していない場合がほとんど。実際に見かけるのは、米国でも1,499ドル程度からとなっているようだ。しかし、それでも従来2,000ドル前後だったノートPCのローエンドの水位が、あっという間に1,500ドル前後にまで下降した衝撃は大きい。米国ではノートPCの市場がまだ小さいため目立っていないが、変化はデスクトップの時以上に劇的だ。


●間が悪いMobile Pentium II登場

 Mobile Pentium IIプロセッサが登場したのは、まさにこの嵐の最中だ。日本ではあまり気づかれていないが、米国ではともかく間が悪い時というか微妙な時期に登場した。米国ではこの状況なので、Mobile Pentium IIだからといって高付加価値商品の価格設定がしにくい。ところが、日本にはまだその低価格化の波は及んでいないから、従来通りの値付けができる。今回、Mobile Pentium IIノートPCの登場で、日米の価格差が開いた理由はここにあると思われる。

 米国では、先鋭的な米Dell Computer社などが3,000ドル以下につけ、その他メーカーの大半は3,500ドルから5,000ドル前後のレンジに入れた。たとえば、Toshiba America Information Systemsは日本では発表しなかったMobile Pentium II搭載「Satellite Pro」シリーズを発表。予想市場価格で3,549ドルとしている。同社が最新MPUを、TecraシリーズだけでなくSatellite Proシリーズにも持って来るという展開は、これまではほとんどなかった。それだけ、アグレッシブな戦略できたということだ。

 各社がこうした価格付けをしたため、今回の新マシン群は、昨秋、Intelがモバイル用MMX Pentium最高峰の「Tillamook」200/233MHzを発表した時と比べると数段価格が引き下げられている。メーカーによっても違いはあるが、1,500ドル~2,000ドルは下がった感触だ。日本では、各社が50万円以上の値付けをするなか、デルコンピュータと日本ゲートウェイ2000の安さが際だった格好だが、これは米国のプライスタグと日本のプライスタグの違いが出たと見ることもできるだろう。それだけ、米国ではこの3ヶ月の価格下落が圧力となっているわけだ。


●Intelも低価格ノートPCに取り組む

 もっとも、Tillamookの時と比べると低価格になったとは言え、出始めのMobile Pentium IIノートPCはまだまだ高い。しかし、今後1年程度でこれも状況が変わる。おそらくPentium II系のアーキテクチャのMPUを搭載したノートPCが、1年ほどで2,000ドルを楽に割り込み、うまくすれば1,500ドルラインに近いところまで'99年前半には来るのではないだろうか。じつは、これはかなり現実味のあるシナリオだ。それと言うのも、他ならぬIntelがこの状況に敏感に反応しているためだ。

 Intelは、デスクトップPCで吹き荒れたサブ1,000ドルの波への対応が一歩遅れたのを反省。ノートPCでは「Segment-Zero Notebook(セグメントゼロノートブック)」と呼ばれる、ノートPCの低価格化のためのイニシアチブをすでに進めていると言われている。このウワサに対して、インテル日本法人のマーケティング本部長ジョン・アントン氏は次のように答えた。

 「われわれは、そのセグメントをBasic Notebook PC(ベーシックノートブックPC)と呼んで、新しい市場として取り組んでいる。日本はそうでもないが、アメリカではPCメーカーからは1,500ドル程度のプライスのノートPCを望む声が多いからだ」

 アントン氏によると、Intelはまず低コスト化での問題点を調べたという。

 「まず問題は、今のノートPCでは、さまざまな部品がメーカー独自のカスタム部品になっていることだ。たとえば、液晶スクリーン、マザーボードなど、どれをとってもカスタム部品だ。こうしたカスタム部品の開発コストは、ノートPCの価格に跳ね返っている。われわれは、それが通常のノートPCで約100~200ドルのエクストラコストになっていると見ている。そして、このコストはユーザーには、何ももたらさない。コストがかかっても、その結果新しい機能が加わるなら歓迎するが、マニファクチャリングのためのコストはエンドユーザーにとって意味がない」

 その上で、アントン氏はIntelのアプローチを説明する。

 「そこで、Basic Notebook PCでは、低コストのノートPCのために、各社がカスタム部品を開発しないで済むような方向を考えている。それによってメーカー側の開発コストを下げる」「これは、デスクトップでBasic PC(インテルの低コストPCのイニシアチブ)でやろうとしていることとコンセプトは同じだ」

 この新しいIntelのアプローチでは、おそらくIntelが定めるガイドラインに沿って作られた部品を組み合わせると、低コストにノートPCを作れるようになると見られる。つまり、さまざまなメーカーが供給する汎用のマザーボードや電源などを組み合わせることで、デスクトップPCができるのと同じ状況がノートPCでも実現されるわけだ。もちろん、フォームファクタや重量などでさまざまな要求があるノートPCでは、すべてのモデルがそうしたアプローチで開発できるようにはならないだろう。しかし、ローコストノートPCに関しては、このアプローチがうまく行く可能性は高い。エンドユーザーとしては、見えないコストが削減されることを喜ぶべきだろう。だが、PCメーカーにとってみれば差別化がしにくくなり、ノートPC開発のハードルが低くなることで参入が増えることも意味しており、心境は複雑なはずだ。


●キャッシュ統合版MendocinoはノートPCに?

 Intelが、ノートPCの低価格化でイニシアチブを取ろうとしているのは、もちろんこの分野が非Intel製MPUにとってのニッチマーケットになるのを防ぐという意味合いもある。米AMD社と米Cyrix社/米National Semiconductor社、米IDT社/米Centaur Technology社などは、高消費電力と高発熱がPentium IIのウィークポイントであることを知り抜いている。だから、従来は食い込みにくかったこの市場にも、積極的にアプローチをかけている。米Compaq Computer社が、ノートPC「Presario 1220」で200MHz版のMediaGX MMXプロセッサを採用したのがその好例だ。

 Intelはデスクトップ市場では、Basic PCと彼らが呼ぶ1,000ドルPCマーケットで、こうしたライバルメーカーを迎え撃つために「Celeron」というブランド名の新しい2次キャッシュレス版のP6系MPUを投入することを、すでにカンファレンスなどで明らかにしている。しかし、モバイル市場に関しては年内に300MHz版のMobile Pentium IIを投入するとは言っているものの、「'98年はノートブックにCeleronを出すことはない」(アントン氏)と断言する。これは、おそらく現在のMMX Pentium 266MHzで迎え撃てると見ていることと、第1世代のCeleronでは性能的にノートPCメーカーには受け入れられにくいと考えているためではないだろうか。

 では、来年はどうだろう。アントン氏は「'99年の製品に関しては、まだ討議している段階で、決まっていない」と言葉を濁す。これは、今年前半に発売すると発表している第1世代のCeleron(コード名「Covington(コヴィントン)」)のあとに、2次キャッシュSRAMを同じダイ(半導体本体)に統合した「Mendocino(メンドシノ)」が控えているからだと思われる。3月末にMicrosoftが開催したハードウェア開発者向けカンファレンス「Windows Hardware Engineering Conference and Exhibition (WinHEC) 98」では、MPU業界の有名アナリストであるマイケル・スレイター氏が講演、このMendocinoがデスクトップだけでなくノートPCにも入ってくると予言した。こうした観測に対して、アントン氏は「現時点ではまだ考えていない」と否定している。しかし、ワンチップ化によって扱い易くなり、CPUコアと同クロックで駆動するキャッシュによってパフォーマンスも第1世代のCeleronより格段に高いMendocinoがノートPC、それもローエンドに入ってくる可能性は、かなり高いと思われる。

 Basic Notebook PCとMendocino。この組み合わせによるアラウンド1,500ドルノートPCは、競合メーカーにとってかなりの強敵になるかも知れない。


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('98/4/7)

[Reported by 後藤 弘茂]


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