後藤貴子の データで読む米国パソコン事情
 
第2回:「Money Vs. Quicken:Microsoftが個人財務ソフト戦争」ほか


Money Vs. Quicken:Microsoftが個人財務ソフト戦争

■Microsoftのもうひとつのライバル

 「Microsoftのライバル」といえば、Sun Microsystems、Netscape Communications、Oracleといくらでも名前が挙がってしまうが、米国では、日本にないソフトでまだほかにも強力なライバルがいる。それは個人財務管理ソフト「Quicken」のメーカー、Intuit。同種ソフト「Money」を後発で出したMicrosoftは、圧倒的シェアを誇るIntuitに、今、猛烈なタックルをかけている。

 そんなMicrosoftのはやる気持ちがよく表れたのが、1月に出したリリースだ。「消費者は(Quickenより)Money 98を好む」と題し、独立調査機関Burke Marketing Researchが202人に面接調査したところ、Quickenの現ユーザの半数が次回はMoneyにしたいと回答したと発表した。また、Moneyが97年にユーザを倍増させたことも強調した。

 むろん、引き合いに出されたIntuitも黙ってはいなかった。調査会社NFO Researchに4,000人以上の購入パターンを調べさせたところ、99.4%のQuickenユーザがMoney 98に乗り換えていなかったと発表して、Microsoftのデータに真っ向から対立。また、PC Dataがまとめた実際の売上金額データによれば97年11、12月期のシェアはQuickenの87.6%に対し、Moneyは9.2%だったと、やはり自社ソフトの優位性を強調した。

 MoneyとQuickenが争うのは統計だけではない。97年秋のバージョンアップでは、ともにインターネット連動機能を強化。インターネット上でもそれぞれ、最新株価や税関係の情報から、損害・生命保険やローンの比較まで、最新のマネー情報を提供している。

■なぜそんなに張り合うのか

 Microsoftが仕掛けているとも言えるこの張り合い、過去のいきさつを知っているとさらにおかしい。実はMicrosoftはWindows 95発売直前、Intuitを買収してQuickenを手に入れようとしていたのだ。独占との批判をかわすため、自社のMoneyをNovellに売り払おうとしてまでだ。司法省の介入などでその計画がご破算になった結果、今はこうやってMoneyでQuickenを追い落とそうとしているわけなのだが、それにしても、Microsoftはなぜこんな一分野のソフトに執着するのだろう。

 おそらくそれは、個人財務ソフトがオンラインバンキング市場で重要な武器になると見ているからだ。日本では個人財務ソフトはほとんどなじみがないし、オンラインバンキングもまだまだ一般家庭の生活からはほど遠いところにある。しかし、米国では個人財務ソフトは90年代前半からワープロ、表計算と並ぶ人気製品。そして個人財務ソフトメーカーと提携し、ソフトと連動したオンラインバンキングサービスを行なう金融機関も多い。

 例えば米国では支払いに小切手を使うことが非常に多い。毎月の公共料金なども自動振込でなく、小切手に請求書の金額を書いて郵送するのが普通だ。そこでその煩雑さを軽減するオンライン請求書決済サービスが人気を集め始めている。小切手用当座預金のある銀行のWebサイトで、誰にいくら支払いたいかを入力すれば、あとの手続きは銀行がしてくれる。これが個人財務ソフトと連動していると、ユーザは口座への入出金の履歴をインターネットなどを通じソフトにダウンロードすることができ、マネー管理がさらに簡単になる。

 このような形態は米国でもまだそれほどは一般化していない。しかし、オンラインバンキングがより普及すれば、MicrosoftやIntuitのような企業は大きな利益が期待できる。個人財務ソフトとオンラインバンキングの連携を強めてソフトの売上をさらに伸ばせるし、金融機関にサーバなどのトランザクションシステムを売ることができるからだ。そしてMicrosoftは特にこのシステムの売り込みに熱心なのだ。

 金融機関にとっても、オンライン化を進める上でMicrosoftなどの協力は欠かせない。ただし金融機関が恐れていることがある。それは、ソフトウェア企業がトランザクションのたびにコミッションを取ったり、消費者に対する直接の窓口になることによって、お客を奪ってしまわないかということだ。もちろん、Microsoftのほうも、金融機関に敵と思われたくはない。『Bloomberg News』によれば、12月にニューオリンズで開かれた銀行家のカンファレンスに衛星TV会議システムで参加したゲイツ会長は、「Microsoftはバンキングで広範な役割をしようとしているのか。その答えはノーです。我々はソフトウェア会社です」と発言、懸念を消そうと努めた様子だ。

 でも、もしトランザクションごとに手数料が入ってくるチャンスがあれば、それを見逃さないのがMicrosoftではないだろうか。実際、Microsoftは請求書の処理代行業者のFirst Data Corp. (FDC)とジョイントベンチャーMSFDCを設立し、そこでオンライン請求書決済サービスを請け負おうともしている。Microsoftの力の入り方を見れば、疑心暗鬼にかられる人がいるのも無理はなさそうだ。


売れてるノーブランドパソコン

■一番のCompaqよりもっと人気のパソコンが

 米国で最も売れているパソコンブランドはCompaq Computerだが、実はそれよりもっと売れているパソコンがある。

 米国の技術系メディア企業CMP Media社のリリース(「No. 1 Personal-Computer Brand is Unbranded」)によれば、'97年にCompaq Computerのパソコンは510万ユニット販売されたが、小売業者(VAR業者)が組み立てて販売したシステムを集計すると、それを上回る640万ユニットになるという(CMP Media傘下のChannel Information Services Research & Consulting(CIS)社の調査)。いわばノーブランドパソコンで、米国では「ホワイトボックス」と呼ばれている。得意先は自前のIT部門がない小規模企業だ。

 ホワイトボックスの一番の魅力は価格だ。同じCMP Media系列の『Computer Reseller News』が調査内容をより詳しく報道しているが、それによれば、233MHz Pentium II CPU、32 MB SDRAM、4 GB HDD、15インチモニタといったスペックのWindows 95パソコンが、ホワイトボックスでは1月の平均価格で1,700ドル。Compaqパソコンでは2,145ドル、Hewlett-Packardの製品では2,212ドルだったという。組み立ては無名のVAR業者でも、使っているコンポーネントはIntelはじめ有名メーカーのものが多いのだから、実利を取ればホワイトボックスの価値は高い。

 しかも、ホワイトボックス製造業者は、各顧客と中央値で約7年という長いつきあいを持ち、その企業のニーズをよく取り入れてコンフィギュレーションしてくれるうえ、サポートやアップグレードの面倒見もいい。Compaqなどの大メーカーも、小規模企業向けパソコンの注文生産などを強化しようとはしているが、このきめ細かさにはなかなか追いつけない。

■やっぱり花より実を取る米国

 日本でも、小規模企業に納めるパソコンは、VAR業者がそのオフィスに必要なソフトを選んでインストールしたりカスタマイズしたりというサービスをするのが普通だが、そのベースとなるパソコンは名の通った国産ブランドのパソコンであることが多い。秋葉原でパーツを買い自作パソコンを組み立てるくらいのユーザは別として、普通の人はノーブランドパソコンに手を出したがらないからだ。

 やっぱりブランドの安心感を求める日本と、実利第一の米国の違いがここにも出ているといえよう。

[Text by 後藤貴子]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp