【コラム】

後藤弘茂のWeekly海外ニュース特別編
WinHECリアルタイムレポート その2

半年間で進展がなかったMicrosoftの戦略展開。ゲイツ氏のスピーチで浮き彫りに


●またまた同じビデオ

 「うっ、またか」
 フロリダ州オーランドで開催されているMicrosoftのハードウェア開発者向けカンファレンス「Windows Hardware Engineering Conference and Exhibition (WinHEC) 98」で、ビル・ゲイツ氏のキーノートスピーチを聞きながら、こう思ったリスナーは少なくなかったに違いない。それと言うのも、スピーチの出だしで流されたビデオが、これまでにも何回も使い回されたものだったからだ。TV CMや料理番組などをパロディにして、現在のPCとそれを取り巻く環境の複雑さや扱いにくさなどを茶化したビデオ。ゲイツ氏のスピーチでは、このところ、このビデオを流したあとに、この問題を何とかするためにMicrosoftが取り組んでいるという主張へとつなげるというのがパターンになっている。

 知っている限りでは、このビデオが最初に登場したのは、昨年9月のソフトウェア開発者向けカンファレンス「PDC(Professional Developers Conference)」で、その後は、COMDEX Fallを始めキーになるイベントでは必ず使っている。私自身も、このビデオを見るのは4度目だ。

 これが意味するのは、たんにMicrosoftがプレゼンテーションの素材作りをケチっているというような単純な話ではない。要は、Microsoftの言っている内容が、昨年のPDC以来変わっていないということなのだ。イントロのビデオが変わっていないのだから、もちろんそのあとの展開も変わらない。シンプリシティ、スケーラビリティ、マネージャビリティといった、Microsoftの掲げる旗も変わっていない。そして、それらの理想の実現への距離は、いつまでたっても縮まらない。

 もちろん、進展も見せてはいる。たとえば、Windows NT 5.0の紹介ではお馴染みになりつつあるインテリミラーリングのデモは、トラブルなく見せられるようになった。これは、クライアントのマシンがダウンした場合に、別なマシンをネットワークブートしてWindows NT 5.0をネットワーク経由でインストール。その際に、そのユーザーが古いマシンで使っていた環境を、そっくりそのままニューマシンに再現するというものだ。でも、これもデモがうまく行くようになったという程度の進展に過ぎない。

 確かに、半年で大きな戦略の進展を期待する方にも問題があるのだが、昨秋までのMicrosoftは半年もあれば戦略に大きな変化が起きていた。同社が、こうした怒濤のような戦略展開に、ブレーキをかけ始めたのも事実だ。

 というわけで、今回のゲイツ氏のスピーチには新味があまりなかった。ゲイツ氏のスピーチは、最近は総花的な内容になりつつあるが、特に今回はそうした色彩が濃く、あらゆるMicrosoftのダイレクションの概要をなでるような内容に見えた。


●ディジタルTV戦略はあいまいなまま

 また、今回は、ゲイツ氏がディジタルTV戦略を仕切直しするのではないかという点も期待されていたが、これもあまり新展開が見えなかった。これには背景がある。昨年のWinHEC 97で、ゲイツ氏は「PCでディジタルTVをサポートする」とぶちあげたのだ。米国では、今秋から地上波でディジタルTV放送が始まることになっている。ゲイツ氏は、この次世代TVを家庭で楽しむためのプラットフォームはTVではなくPCだとぶちあげ、そのための画像フォーマットとして「HD0」、「HD1」、「HD2」を提案した。

 ところが、その後、Microsoftの提案の核の部分は放送業界には受け入れられず、Microsoft自体もディジタルTVに関してCOMDEXでも1月の家電関連ショウ「Consumer Electronics Show (CES)」でも新たな展開を見せることができなかった。そのため、これをどう収めるかが注目されていたのだ。しかし、ディジタルTVに関しては、ゲイツ氏はトーンダウンはしているものの、PCで「HD0(Microsoftの主張するディジタルTVフォーマットのうち、もっともローレベルのもの)」がデコードできるというデモを行い、データ放送がディジタルTVのカギとなるという従来の主張を繰り返すにとどまった。昨年のWinHECと違うのは、デモを見せたことと、セットトップボックス(Windows CE)からPCというカタチに仕切直しをしたことくらいだ。

 また、ディジタル動画でのPCの付加価値としては、リアルタイムレコーディングのデモを見せた。これは、PCでキャプチャした動画を、MPEG2でエンコードしてDVD-Rに焼き、それを普通のDVDプレイヤーで再生するというデモ。要はミュージックCD-Rを作る感覚でDVD-Rビデオを作るという話だ。しかし、これだけでは、だからホームにPCをという誘いとしては魅力が薄い。このほかの話題としては、ホームネットワークやTAPI 3、ADSLなども登場した。このあたりの話題は、また来週のコラムで取り上げたい。

□Windows Hardware Engineering Conference and Exhibition(WinHEC 98)のページ
http://www.microsoft.com/winhec/


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('98/3/27)

[Reported by 後藤 弘茂]


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