【コラム】

後藤弘茂のWeekly海外ニュース特別編
WinHECリアルタイムレポート その1

なぜここまで盛り上がらない、WinHEC 98


●全米きっての観光エリアでカンファレンスを開催

 ディズニーワールド、ユニバーサルスタジオ、シーワールドと、大型テーマパークが集中するフロリダ州オーランド。Microsoftは、恒例のハードウェア開発者向けカンファレンス「Windows Hardware Engineering Conference and Exhibition (WinHEC)」の会場に、今年は米国でもっとも華やかな観光エリアであるこの土地を選んだ。

 ところが、舞台の華やかさとは裏腹に、今週水曜日から始まった今回のWinHECは、出だしから盛り上がりに欠けるものとなった。少なくとも初日に関して言えば、新鮮味のある話題に乏しく、セッション数も昨年と比べると減少し、しかも、その少ないセッションですら、参加者の中途退席や空席が目立つという状態。これは、過去2回のWinHECでぶちあげた「PC 97/98」プラットフォームを支えるべきOS「Windows 98」の遅れが、結果としてハードウェアメーカーを足踏みさせている、その現状を反映しているようだ。ことさら華やかにした舞台設定は、そうしたMicrosoftの側の問題を少しでも隠そうという意識の現れかも知れない。

●OSロードマップに新展開はなし

 もっとも、今回のWinHECは始まる前から低調になるとささやかれていた。それは、WinHEC前にドラフトが公開された、Microsoftが示す次世代ハードウェアの指標「PC 99」が、ほとんど新しい要素のない「PC 98」までの積み残しを解消するための規格だったからだ。さらに、前回のWinHECから1年で、PC市場のトレンドが一変してしまったことも、大きく影を落としている。PC 9x規格は、基本的にハイパフォーマンスで機能がリッチなPCへと誘導しようという方向性だが、今のPC業界の流れは違う。'97年に急激に進んだ米国でのPCの低価格化の波によって、機能はこのままでいかにコストを削減するかに関心が向いてしまっている。少しでもコストアップになる要素を避けようという心情の開発者を前にしては、Microsoftも新技術は押しつけにくい。

 ところで、Microsoftのカンファレンスでは、OSのロードマップが毎回目玉になるのだが、これもあまり進展がなかった。今回のWinHECでは、ジム・オルチン上級副社長(Personal and Business Systems Group)が初日のキーノートスピーチで、OSを中心とした全体の戦略をレビューした。そのなかで、同氏はWindows 98の後継コンシューマ用OSは、Windows NTテクノロジーをベースにしたものになると示したが、これは昨秋開催したソフトウェア開発者向けカンファレンスPDC(Professional Developers Conference)で発表した内容から変わっていない。今回、このWindows NTコンシューマ版の概要や正式名称などが明らかにされるという予測もあったが、初日には、そうした話題は出なかった。

●ホームネットワーク構想が登場

 では、WinHECにはまったく新しい要素が見あたらないのかといえばそうではない。小粒な話題はそれなりにいくつかある。オルチン氏は、Windows NT 5.0を搭載したACPIノートパソコンや、Windows NT 5.0搭載マシンをユーザー設定ごと複製する「Sysclone」機能、XMLを使った「Chrome」などをデモ。また、Windows Hardware Platformsのジェネラルマネージャのカール・ストーク氏のスピーチでは、静止画像を扱うSTI(Still Image)アーキテクチャやデバイスベイのデモや、ホームネットワーク構想が登場した。

 このホームネットワーク構想は、今回のWinHECの話題だと予想されていたもののひとつで、Microsoftはイニシアチブとして立ち上げた。これは、屋内電話配線や電力線、無線電波を使って家の中のコンピューティングデバイスや家電をコミュニケーションできるようにするというものだ。また、インターネットへも各機器がそのネットワークを通じてアクセスできるようにするという。しかし、現段階の説明の限りでは、どうやってこの構想を実現してゆくかの明確なロードマップもなく、具体性には乏しい。まだ、要素技術を集めて検討に入ったという段階に近いように見える。

 このほかの話題としては、Intelの新しい命令セットアーキテクチャである「IA-64」への取り組みが、より明確になった。ここでは、Win64といったキーワードもちらつき始めている。また、Windows 98に、現時点ですでにサービスパックが予定されていることも、公式に明らかにされた。これには、デバイスベイのサポートなどが含まれる予定だ。こうした新戦略の概要は、来週のレポートでもう少し掘り下げてみたい。また、明日はビル・ゲイツ氏のキーノートスピーチも予定されている。こうしたカンファレンスでは、ゲイツ氏を見に来た客のために、新しい発表がスピーチ向けに用意されるのが通例だ。何か新しい話題が出てくるかも知れない。

□Windows Hardware Engineering Conference and Exhibition(WinHEC 98)のページ
http://www.microsoft.com/winhec/
□参考記事
【'97/4/9】後藤 弘茂のWinHEC米国現地レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970409/winhec.htm
【'97/4/15】WinHECレポート続報「ラディカルな変化は見られないPC 98」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970415/kaigai01.htm
【'97/4/21】WinHECレポート続報「Windows PCのハード進化をMicrosoftが主導」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970421/kaigai01.htm


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('98/3/26)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp