秋葉原

月1回連載:ショップの側から見た秋葉原事情

AMUAMUの「アキバの楽屋から」 第14回

情報こそ、ショップの生命線!

TEXT:AMUAMU


 「アキバの楽屋から」は、秋葉原のパソコンショップ店員である「AMUAMU」が、ショップの側から見た秋葉原事情を、月1回お送りするコーナーです。(編集部)


■新製品ラッシュが続く

 近年のパソコン関連製品の移り変わりは非常に速く、どんどん、性能が高くていい物が出てきます。また、メーカーの思惑により規格が変わり、半強制的に製品が新しくなる場合もあります。これらの次から次へと発売される新製品に、ショップもついていくのに必死です。またそれ以外でも、業界の中で規格や方向性が分かれてしまうと、ショップとしてはそれぞれの製品を用意する必要性も出てきます。

 例えばIntelとAMDの場合、IntelはSocket7を切り捨てようとしていますが、AMDなどの他のCPUメーカーはSocket7もしくはそれを拡張した仕様へと進もうとしています。このような場合、それぞれのユーザーのために、ショップとしては互換性の無い両方の製品を用意する必要があるので負担が増えます。

 規格が完全に統一されて、どの製品も特徴が無く、競争が無いのはショップとしても望んでいません。しかし、多すぎるのも困りもの。難しいところです。


■ショップは情報が命

 このように新製品が続々と出てくる中で、ショップは非常に振り回されています。特にパーツ系の商品は予告や決まった出荷時期も無く、いきなり登場する製品が多いので大変です。

 大手メーカーのパソコン本体の場合、だいたい決まった時期に新製品が登場するので対応できるのですが、海外中心のパーツ系の場合はそう簡単にはいきません。確かに、海外の製品も業界情報やニュースなどで情報が流れてきますが、情報が錯綜し100%確実ということはないに等しく、どの情報を信じたらいいのか分からない時も多々あります。たとえば、「AMDのK6 266MHzよりK6-3Dの方が先に出てくる」という噂も流れてきました。

 代理店からの情報も確実とはいえない現在の状況では、これらの噂も含めたいろいろな情報を総合して、それをショップとしてどう判断するかが決め手になります。この判断が間違っていた場合、損をしたり不良在庫を抱えたりすることになりますから、ショップにとって情報は非常に大切なのです。たとえば、来週発売する新製品の情報を手に入れていないと、すぐに旧モデルとなってしまう製品をたくさん仕入れてしまい、翌週には首が回らなくなってしまうなんて事もありえます。ただでさえ、移り変わりや価格変動の速さから不良在庫が生まれやすい状況なのに、情報不足で不良在庫を抱えようものなら、目も当てられない状況になってしまいます。

 また、情報に強いショップは価格も安いのです。それは、「情報網=仕入網」ともいえるからで、幅広い仕入先を持っていれば、それだけ安くて良い商品を店頭に並べられます。その情報網も、パーツの動きは海外それも米国・台湾が中心なので、国内だけに頼っていてはだめなのです。つまり、海外のルートをどれだけ持っているかがショップにとっては重要なポイントになります。

 さらに奇妙なことに、日本国内で生産している海外メーカー品も、なぜか海外からの方が情報が速いことが多いという現象が生じています。例えば、QuantumのHDDは松下寿の国内工場がほとんどを生産しているらしいのですが、情報は海外からの方が多く、価格も国内より海外の方が安い場合もあります。


■ショップもニュースに振り回される

 出荷情報より前に、製品の情報が流れるのが世の常ですが、それに振り回されることも少なくありません。東芝のLibretto 100の場合、東芝ヨーロッパが日本より先に発表したことを、国内の多くのメディアが取り上げたため、Libretto 60や70の値段が一気に下がりました。

 日本の東芝は未発表の製品なのでコメントをしていないのですが、発表があったことを多くのメディアで取り上げられ、ユーザーの目は一気に新製品に移ってしまったのです。業界で日本の東芝が発表するといわれていた日よりずっと先だったため、価格の急落にびっくりしたショップも多かったかもしれません。

 このように、価格はニュースにも左右されるところが大きく先が読めません。今回のLibretto 100のように予想もしないところから正式な情報が流れてしまうと、ショップとしては手の打ちようがありません(Libretto 100の場合は、前々から業界の情報である程度わかっていたので、煽りを受けたところは少ないかもしれませんが……)。


■ショップにとっての不良在庫

 「不良在庫」それはショップにとって非常に忌まわしい物です。多くの場合、本当の意味での「不良」ではなく、売れない商品をさします。売れると思って仕入れたけど売れ残ってしまった物などが、不良在庫となっていきます。これをどう販売して、次の販売への資金にしていくかが鍵となります。パソコン関連機器の多くは寝かせれば寝かせた分だけ安くなるります(PCケースなど例外もあります)。しかも、その安くなるペースは非常に速いので、赤字になっても売らないとまずい状況に陥ることもあります。しかし、たとえ大赤字で売っても、次に仕入れた物でそれ以上に黒字が計上できればOKなのです。ただ、そのタイミングを見計らうのは非常に難しく、そこがショップの腕の見せ所といえます。

 ショップとしては、在庫をどのくらいの期間で回転させて、不良在庫を抱えないかが重要となってきます。たとえば、月の初めに仕入れた物がその週の終わりにはほとんどなくなり、次の週には再度入荷するぐらいが理想です。とはいうものの、それはあくまで理想で、仕入れにはギャンブル的要素が多分にありますので、うまく行かない場合もあります。いち早く察知した情報によっては、利益を削ってでも安くして、すばやく売り切ることが必要なこともあります。

 このように、ショップは仕入れた情報によってタイミングを常に計りながら、動きの速いパソコン関連製品を扱っていく必要があるのです。さらに、最近はこのペースが非常に速く大変な時代となっています。まぁ、それが面白いところといえば面白いところなのですが。


■ユーザーも情報を手に入れば……

 ここまでは、ショップ側の視点から書いてきましたが、ユーザー側にとっても情報が重要なことに変わりはありません。たとえば、いち早く値下げや新製品の情報を掴んでいれば、悔しい思いをしなくてもすみます。

 筆者も昔に悔しい思いをしたことがあります。まだパソコンショップ業界に入っていなかった時に、当時メインマシンとして持っていたエプソンのPC-98互換機(PC-486MU)をアップグレードしようとして、Intelの486DX4 100MHzオーバードライブプロセッサを買いました。しかし、その翌月、Intelが大幅値下げをして2万円ぐらい安くなり、かなりショックを受けました。情報さえもっと持っていれば!と悔しがったものです(パソコンショップ業界に入ったのは、このことに起因しています)。

 しかし、いくら情報が重要とはいえ、ユーザー1人が手に入れられる情報には限界があり、ショップと比べるとかなりの差があります。ただ、そういった中でもインターネットで情報を探したり、雑誌の記事をよく読んだり、ショップの店員と仲良くなって情報を聞き出すなど情報収集の方法は色々あります。

 「情報こそ力」。よい情報を手に入れれば、ショップもユーザーもよい思いができます。しかし、ショップ側としては、ユーザーにはあまり情報を持ってほしくないというのが本音です。そこはやはり、ショップとユーザーの駆け引きなのかもしれません。


■さらにペースは上がるのか?

 今後、さらに製品の移り変わりのペースは速くなっていくという怖さはあります。しかし、情報こそがショップの生命線。ついていけないショップはどんどん淘汰されていくかもしれません。さらに厳しい業界となりつつあります。

[Text by AMUAMU]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp