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WinHECレポート続報

「ラディカルな変化は見られないPC 98」

●Windows PCのハード進化をMicrosoftが主導

 米Microsoft社が毎年ハードウェア技術者を集めて開催する「Windows HardwareEngineering Conference (WinHEC)」は、ハードウェアメーカーにとってはやっかいなカンファレンスになりつつある。というのは、WinHECでは、Microsoftがハードウェア各社に、次のWindows PCに要求する仕様を突きつけるからだ。Windowsのロゴを取得して、Windowsプリインストールにするには、Microsoftの提示する「PC 9x」仕様に準拠したマシンを作らなくてはならない。そして、そのハードルが段々と高くなりつつあるのだ。

 ソフトメーカーであるMicrosoftが中心となって、ハードウェアの仕様を決めるというのはかなり妙に聞こえる。Microsoftがハードにまで口を出し始めたという受け取り方もできるわけだが、これにはポジティブな面もある。それは、ハードウェアメーカー同士だと、なかなか標準化できないPCの仕様が、ひとつのスタンダードのもとに進化を始めているということだ。その結果、Microsoftの支配力が強くなるという議論もあるわけだが、それを置いておけばこれも悪いことではない。また、現実にはMicrosoftもPCメーカーとのパワーバランスを取りながら進めていて、それほど大胆な提案ができるわけではない。

 もっとも、前回のWinHECで発表されたPC 97は、ほとんどのPCメーカーにとっては大胆な提案と映ったようだった。というのも、PC 97では、新シリアルインターフェイス「USB」や、その時点ではベースとなる技術が提供されていない新しい電力管理機構「OnNow」の搭載が必須とされたからだ。また、PC 97の先のゴールとして「Simply Interactive PC(SIPC)」構想が掲げられた。PC 97ですらかなりハードルが高いところへ、さらにラディカルな構想を突きつけられたわけだ。とくに、ドライブメーカーは5秒でパソコンを起動させるというOnNowに対して、現状のパソコンでは難しいと難色を示した。そうしたこともあって、PC 97はこれまでのPC 9xよりもインプリメンテーションのサイクルが遅れている。

●ISA外しが今回のポイント

 では、今回発表された「PC 98」は、PC 97とPC 98に対してどのような位置づけになるのだろう。まず、基本となるBasic PC 97とBasic PC 98の仕様を比べてみた。

Basic PC 97 Basic PC 98
CPU Pentium MMX Pentium
120MHz 200MHz
メモリ 16MB 32MB
グラフィックス 800×600×16 1,024×768×16ドット
ISA OK(推奨しない) OK(デバイスは不可)
USB 必須 必須
OnNow 必須 必須
IEEE 1394 推奨 必須
デバイスベイ なし 強く推奨

 WinHECでPC 98のプレゼンテーションを行ったWindows Operating Systems Divisionのグループマネジャ、デビッド・ウイリアムズ氏自身が「差分的なチェンジで(PC 97と比べて)ラディカルなデザイン変更ではない」と言うように、驚くような変化はなにもない。MPUとメモリ、グラフィックスは半導体技術の進化と低価格化に応じた強化で、特に言うことはない。

 むしろ、もっと重要な点は、ISAデバイスがなくなることだ。Basic PC 98ではISAバスの搭載は可能だが、そのバスにISAデバイスを搭載してパソコンを出荷することは不可となった。こうやって、Microsoftは段階的に足手まといの低速なISAバスとデバイスをPCからなくそうとしているわけだ。これまでは、そうしたくてもできなかったわけだが、USBに続きIEEE 1394のコアロジックチップセットでのサポートが見えてきたのと、PCIオーディオチップなどISA依存を断ち切れるデバイスが揃ってきたためにより強く打ち出してきたと思われる。次のステップは、もちろんISAバスを不可にすることで、最終的には、マザーボード上のものも含めて全てのISAデバイスを禁止し、また、スーパーI/Oにぶら下がっているインターフェイスのほとんどもなくしてしまうつもりだろう。

 デバイスベイが入ってきたのは、ISAに代わる周辺デバイスの拡張方法としてだ。ただ、デバイスベイは、エンドユーザーには恩恵が大きいものの、周辺機器メーカーにとってはこの基準に合わせるのはやっかいだ。必須ではなく、推奨になっているのもそのためだろう。

●デジタルTVを巡る放送業界とPC業界の戦争

 それから、PC 98ではデジタルTVレディになる。これは先週の第一報だと説明不足だったのだが、かなり複雑な背景がある。デジタルTVでは、映像データはMPEG2で伝送するわけだが、その画像フォーマットとして放送業界では1,920×1,080ドットでインタレースが主軸となる方式を提案している。Microsoftによると、これに対応したデジタルTVは当初は高いものでは5000ドルくらいになってしまうという。ところが、MicrosoftやIntelが先々週提案した方式では、メインは1,280×720ドットでノンインタレースオンリ。これなら、'98年の時点でも、低コストにPC上で提供できるという。だから、PCの方がよりよいデジタルTVのためのプラットフォームになるとMicrosoftは主張するわけだ。Microsoftではこれに合わせて、MP@2xMLというMPEG2のノンインタレースのアルゴリズムも提示している。Microsoftは、PC 98で、これらの基準や技術に対応できるようにすることで、デジタルTVのスタンダードをこちらに引き寄せようとしているわけだ。デジタルTVレディと言っている背景には、このように、TVというプラットフォームをそっくりPCに取り込んでしまおうという壮大な戦略がある。

 もうひとつ、PC 98で強化されたのは、新しいドライバシステムWDM(Win32 DriverModel)によるモデムドライバだ。これはベンダーがDSPモデムやソフトモデムの実現を、Windows NT/95にまたがって容易にするものだ。

 このほかにPC 98で目立つのは、Basic PC 98が、家庭向けの「Consumer PC 98」とビジネス向けの「Office PC 98」の2モデルに分かれたこと(PC 97ではひとつだった)。家庭向けには、“Basic”ではない「Entertainment PC 98」があるわけだが、これによりこのEntertainment PC 98が従来のパソコンの延長ではない、違ったテイストのマシンになることがより鮮明になった。事実、Entertainment PC 98では、AGP、DVDドライブ(MPEG2/AC-3デコードサポート)、デジタルオーディオ、TVチューナー、TV出力といったハイスペックが必須となり、さらに先鋭的な仕様となった。密閉型の「シールドケース」匡体や大型ディスプレイが推奨され、ワイヤレスのキーボードやポインティングデバイスも認められている点を考えると、明らかに、これまでの延長線にあるPCとは違う方向に進みつつある。おそらく、Entertainment PC 99あたりが、一番最初にSIPCのスペックを満たすものになるだろう。ただし、実際に一般家庭のリビングにハイスペック指向のEntertainment PCが受け入れられるかどうかはわからない。そのためにも、デジタルTVがキラーアプリケーションとしてぜひ欲しいと考えているのではないだろうか。

('97/4/15)

□Microsoft WinHECホームページ
http://www.microsoft.com/hwdev/winhec.htm
□Device Bayのホームページ
http://www.device-bay.org/
□関連記事
【4/9】後藤 弘茂のWinHEC米国現地レポート
「WinHECでゲイツ氏がPCでのディジタルTVサポートを発表」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970409/winhec.htm

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp