非同期通信レポート 第28回

非同期通信レポート 第27回

ナンバー・ディスプレイはどうなってるの? 
【その2】

TEXT:法林岳之

 2月からサービス開始したNTTのナンバー・ディスプレイサービスですが、「いまひとつよく分からない」「ISDN回線からの利用はどうなるのか」など、読者の方からもいくつかご質問をいただきました。そこで、法林岳之氏によるナンバー・ディスプレイサービスのレポートをお届けすることにしました。3回に分け、25日より3日連続で短期集中連載します。(編集部)

【2/25】
ナンバー・ディスプレイはどうなってるの? (その1)
・大混乱のナンバー・ディスプレイサービス
・ナンバー・ディスプレイとは?
・ナンバー・ディスプレイの効能と狙い
・CTI技術への応用


不十分な事前告知がトラブルを招く

 と、ここまではあくまでも基本的な話。ナンバー・ディスプレイはスタート直後から混乱を招き、NTTには初日に20万件近い問い合わせがあったという。なぜ、このような事態になってしまったのだろうか。

 まず、告知に関する部分だ。NTTでは'97年1月から横浜・名古屋・福岡でナンバー・ディスプレイの試験サービスを実施しており、'98年2月から正式に全国でサービスを開始した。記憶が定かではないが、全国展開の決定を下したのはたしか昨夏で、その直後の9月にはNTTから各家庭に以下のような書類が送られてきている。

告知ハガキその1 告知ハガキその2
ナンバー・ディスプレイ告知ハガキ(抜粋)

 このハガキには『電話番号を非通知とする方法を2種類用意しましたのでご案内申し上げます』『ハガキの返送がない場合は「通話ごと非通知」として承ります』と書かれており、ナンバー・ディスプレイに関する説明を記したパンフレットも同梱されていた。電話番号を非通知とする選択肢としては、以下の2つが用意されていた。

 しかし、これが分かりにくいと感じる人が多かったようだ。利用者としては通知されるか否かを決めたいのに、『非通知』という単語を使われているため、一見、常に「通知されない」よう印象を受けてしまう。おそらく多くの人は「どうやらお金を取られる話みたいだから、何もしなければ、何も変わらないだろう」と考えたのではないだろうか。これは別にNTTに悪意があったわけではなく、交換機などで使われている文化をそのまま利用者に押し付けてしまったためだ。
 Internet Watch2月17日の火曜日コラムで山下編集長が触れているように、まず最初に告知するときに使う用語に問題があったというわけだ。ちなみに、この用語は『通常通知』『通常非通知』といった平易な用語に改められるようだ。

 また、同梱のパンフレットについてだが、これも内容が今ひとつだった。ナンバー・ディスプレイの大前提となっている「利用者が申し出なければ、電話番号が相手に通知されます」という話こそ書いてあるものの、そのリスクに関する話がまったく触れられていないのだ。電話番号と言えば、当然、その人のプライバシーに関わるものだ。女のコと仲良くなりたいとき、電話番号(今どきならPHSや携帯電話の番号)を聞き出すというのがあるが、これからは何もしなければ、無条件に自分の電話番号をバラまくことになってしまう。これを良しとするか否かは利用者の判断次第だが、個人的には通知を前提とすることに賛成だ。前述の火曜日コラムで山下編集長が「プライバシーを公開せずには生きていけない」という意見を書いているが、基本的には筆者も同意見だ。ただ、その前提条件として、利用者がシステムをよく理解し、サービス提供者がしっかりと告知している場合に限るという点を付け加えたい。


利用者の不勉強だけでは済まされない

 続いて、サービスが開始された2月1日。ここで起きたトラブルとしては、以下のようなものがあると言われている。

  1. 相手の電話番号が通知されない
  2. 呼び出し音が鳴ったので、受話器を取ったら無音だった
  3. その他、電話機の動作がおかしい

 これらの内、(1)については利用者側のミスによるものも多かったようだ。たとえば、「ナンバー・ディスプレイの契約はしたが、対応端末機器を設置していない」「ナンバー・ディスプレイ対応端末機器を設置したが、契約していない」といったものが挙げられる。家庭用のFAX機能付き電話などで、「ウチのは液晶ディスプレイがついているからナンバー・ディスプレイ対応だろう」と早合点した人も多かったようだ。
 利用者の不勉強が原因とも言えるミスだが、サービスを提供するNTTがしっかりと告知をしていれば、こうしたトラブルも未然に防ぐことができたはずだ。少なくとも「対応端末機器を設置していない」というトラブルについては、ナンバー・ディスプレイの申し込みがあった段階でNTTが確認していれば済んだ問題だ。

 ちなみに、ナンバーディスプレイ対応端末機器は、新聞やテレビなどでトラブルが報道されてから明らかに売れ行きが変わったそうだ。ある販売店で聞いた話によれば、ナンバー・ディスプレイのサービス開始を見込み、昨年末から対応端末機器を揃えていたのだが、1月はほとんど引き合いがなかったそうだ。もちろん、不況に起因するところもあるのだろうが、2月2日に新聞などでトラブルが報告されてからはナンバー・ディスプレイ対応端末機器に関する問い合わせが急増し、2月半ばには品切れになる製品もあったという。このことからも、いかにNTTの告知が不十分だったかがよくわかる。

 次に、(2)及び(3)の問題。これはナンバー・ディスプレイのシステムそのものに関わる問題が隠されている。ナンバー・ディスプレイでは、発信者番号番号を通知するために、モデムと同じような信号をやり取りしている。たとえば、利用者の端末を呼び出すときは、まず、交換機から利用者の端末に情報受信端末起動信号が送られる。交換機はこれに対する応答を6秒間待ち、その間に応答信号を認識できないときは従来と同じように呼び出しをする。応答信号が返ってきたときは、交換機から情報などが利用者の端末に送られ、次の処理に進む仕組みになっている。

 ところが、端末によってはこのやり取りの途中で呼び出し音が鳴ってしまうことがあり、それに応答すると無音状態が続いたり、電話機そのものの動作がおかしくなるというわけだ。NTTではこうした信号のやり取りの仕様などに関する詳しい情報を公開しているが、必ずしも仕様通りに動作していないケースがあり、トラブルの原因となっている。今回、メーカーや開発者などに取材した意見を総合すると、以下のような話が見えてきた。

 細かい部分については筆者が実際にテストをしたわけではないので、敢えて説明しないが、3つめの問題点については複数の人が同じメーカーの製品を挙げていたことも付け加えておく。

 また、2月23日付けの新聞に告知が出ているが、NTTが販売するナンバー・ディスプレイアダプタ20も動作不良で回収されることになった。この件については、ナンバー・ディスプレイのページでもまったく告知されておらず、相変わらずの告知不足が続いている。

 最近はほとんど耳にしなくなったが、今から10年以上前、FAXでも相性の問題が取り上げられたことがあった。ナンバー・ディスプレイのトラブルも似たようなレベルにあるというのが実状だ。これから対応端末機器を購入するのであれば、すでに利用している友だちなどに評判を聞き、動作実績のある端末機器を購入するしかないだろう。万が一、トラブルが起きたときは、NTTや端末機器を製造したメーカーに報告し、改善してもらうしかない。何とも情けない話だが、これくらいしか自衛手段はないというのが正直なところだ。

 27日は、ナンバーディスプレイについて以下の内容をお届けします(全3回)。
  • 他の通信事業者との接続
  • ナンバー・ディスプレイの利用価値
(編集部)

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp