レポートインデックス


プロカメラマン山田久美夫のPMA 98現地レポート 第5弾

電話が安いと、写真も楽し!
~“写真をシェアする”インターネット・フォトの世界~


PMA 98

「PMA 98 (Photo Marketing Association International)」

'98/2/12~2/15 開催(現地時間)

開催地:ニューオリンズ


●市内なら月1,000円+αで“常設線”!?

 アメリカ取材で感じるのは、電話代の安さ。なにしろ、ホテルの部屋から連日数時間接続しても、市内のアクセスポイントなら”一回”で、ホテルチャージをいれても電話代は0.75ドル(高くても1.5ドル)で繋ぎっぱなし! しかし、ホテルチャージ込みの話で、これでも現地の人に聞くと法外なものという。

 なにしろ、アメリカでは市内通話は会社によっても若干違うが、月10~15ドル程度の固定料金制を選択でき、時間無制限の利用ができるというきわめて恵まれた通信環境になっている。つまり、プロバイダーの使用料+10~15ドル程度で、事実上、インターネットの常設線という環境が実現するわけだ。この通信費の安さ。これがアメリカでのネットサービスを考えるときのベースとなる。つまり、それだけインターネットが身近な存在といえるわけで、これはデータが大容量になる画像通信を考えたときに、かなり有利な展開となる。

 さらに、写真の楽しみ方も日本とは大きく異なる部分が多い。とにかく、アメリカで感じるのは、多くの人が家族の写真を持ち歩き、家に飾って日常的に楽しんだり、プレゼントとして利用しているという、日本とは違う”写真文化”だ。つまり、写真をシェア(共有)することで、コミニュケーションの手段として有効活用しているわけだ。その意味でインターネットの普及は、遠隔地の家族や友人と、写真を通じて、楽しさを共有するという、新しい形態の文化を形成しはじめている。今回はPMAで展開されたこのようなインターネット・フォトの世界についてレポートしよう。



●出力メニューから直接ネットへアップロードしプリントできる
 コダックの買収で脚光を浴びた壮大な「フォトネット」サービス

フォトネット  PMA開催初日の朝、コダックがプレス向けの発表会を開催した。その目玉となったのが、PC Watchでも報じられた、「米Kodak、PhotoNetの米PictureVision社を子会社化」という大ニュースだ。もちろん、これだけではその意味合いが分かりにくいうえ、日本国内ではPhotoNetサービスやPictureVision社自体、どんなものだか分からない人が多く、さほど注目されなくても当然だ。

 しかし、マイクロソフトの「ピクチャーイット」、 MGI Softwareの1996年にWindows系フォトレタッチソフトのシェアNo.1を獲得した「フォトスイート」といった米国で有名な画像処理ソフトのメニューの中に、印刷メニューと並んで「PhotoNet」というメニューがあると聞いたら、その存在の大きさが少しは理解できるのではないだろうか。


フォトネット  少々極端な言い方をすると、PhotoNetサービスとは、インターネットという壮大なネットワーク環境を利用した、高画質で高機能なネットワーク・プリンターを提供するプリントサービスといえるわけだ。さらに、このPhotoNetにはインターネット上に写真を掲示するネット・アルバムシステムがあり、個別のIDによってセキュリティーされているうえ、そのIDを写真を見せたい相手に知らせれば、そこにアクセスし、その写真を見ることができる。つまり、写真をネット上でシェア(共有)して楽しむことができるわけだ。また、スクリーンセーバー用として、VGAサイズの画像をダウンロードすることもできる。

 さらに、ネット経由でプリントを依頼することができるため、デジタルカメラの画像をアップして、それをプリントすることもできるわけだ。その意味ではまさに、ネットワークプリントシステムといえるわけだ。

 そのうえ、写真を使ったTシャツやマグカップといった個人では作製が面倒なバリエーションプリントまであり、ネット経由でもカメラ店が提供する以上のサービスが受けられるシステムといえる。また、店頭にフィルムを持ち込めば、スキャンしてネット上にアップロードするサービスもあり、デジタルカメラやスキャナーを持っていなくても、ネット上で写真を楽しむこともできるわけだ。

 実際にアメリカでは、このPhotoNetサービスは結構メジャーな存在であり、将来的な展開も見込めるシステムといえる。これを世界最大のフィルムメーカーであり、デジタル化に熱心に取り組んでいるイーストマン・コダックが見逃すわけはない。その結果が、今回の買収となったわけだ。
 もっとも同社は昨年のPMAで自社独自のネットワークサービス構想を発表しており、インターネット経由でのプリントサービスも、オープンなものではないが、数年前から実施していた。しかし、今回のPhotoNetを傘下に収めたことで、それが一挙に全米、さらには全世界的なサービスの基盤を整えたことになる。

発表会  そう考えると、今回のコダックの買収劇がどれほどインパクトのあるものだったのか、容易に理解できるだろう。そう、コダックはこのPhotoNetサービスを行っているPictureVision社を同社のNetwork Service部門として活用することで、世界一の”Picture Network”を手に入れたわけだ。
 しかもそれが、今後はアメリカ最大の写真関連市場を持ったコダックの扱いになるため、全米、さらに世界規模での展開ができるようになる。これはまさに壮大な新事業といえるわけだ。

 実際にアメリカではコニカや富士も規模こそ違うが、このようなネットワーク構想を発表し、コニカなどは一部で実際のサービスを行なっているわけだが、これで大きく水を空けられたことになりそうだ。

 もちろん、これらはインターネットを始めとしたネットワーク環境が、安価に日常的に利用できるアメリカならではのサービスともいえる。
 正直なところ、このようなシステムを日本で本格展開したとしても、いまはまだ時期尚早。というよりも、先に紹介したように、インターネットを利用するためのコストを考えると、なかなか現実的ではない部分も多い。このあたりが、日本国内でいまひとつ注目を浴びない理由ともいえるだろう。

 日本では“写真をシェアする”という感覚があまりないわけだが、それもプリクラ世代の人がプリクラシールを見せあったり、交換することで、写真を楽しむという文化が生まれ始めている。その意味では、環境の構築次第では、このようなネットワーク・フォトの世界が今後、ある広がりを見せる可能性も秘めている。



●フィルムだってスキャンしてデジタルでプリントする
 ミニラボ向けデジタルプリンターを発表したコニカ

コニカ コニカ
 先のインターネット・フォトサービスは、PCユーザーを始めとした将来的な展開が期待される分野。だが、ごくごく普通の人にとっては、いくらインターネットが発達しても、写真のプリントまですべてネット経由でおこなうというのは、まだまだ現実的なものではない。しかも、あまりにネットワーク化が先行すると、現在、現像やプリントがメインの収入源となっているカメラ店やDP窓口などの商売に大きな影響を与える可能性が高い。むしろ、一般的なユーザーやこれらの店では、ネットワークサービスよりも、店頭で簡単にデジタルサービスが展開できる環境が整ったほうが現実的というのが本音だ。
 実際に、アメリカの市場では、店頭で受け付けて集配し、大型の現像所で処理するスタイルよりも、店頭処理による、いわゆるミニラボのほうが主流になっている。そのため、ミニラボ用のデジタルプリントマシンの登場が心待ちにされていたわけだ。

 そこに今回、コニカが満を持してミニラボ用の本格的なデジタルプリントシステムを発表。PMAではかなりの注目を浴びていた。これは、デジタルカメラを始めとしたデジタルデータからのプリントをメインとしたシステムでありながらも、従来からのフィルムのプリントも同じマシンで処理できるところがミソ。
 つまり、フィルムやカラープリントからのプリント処理では、一度、それらを同システムの高速スキャナーでスキャンしてデジタルデータに変換。それをカラー印画紙にデジタルデータとして露光してプリントするわけだ。このシステムなら、一台のマシンでフィルムとデジタルデータの両方を高速に処理できるので、ミニラボは狭いスペースと限られた予算のなかで、来るべきデジタル時代への対応が可能になるわけだ。

 もちろん、富士は先行して、本格的な高速処理可能なデジタルプリンターである「フロンティア」を発売しているわけだが、こちらは大型の集配ラボ用でサイズも大きく、価格も一式で3500万円(!)もする。そのため、個人経営が多く、スペースも限られているミニラボでは、今回のコニカのようなマシンが必要だったわけだ。

 このマシンは業務用なので、詳細は割愛するが、いずれ日本国内のミニラボにも、このようなマシンが導入されることが予想され、その時代には、いよいよ「デジタルカメラから1時間仕上げの同時プリント」という世界が実現する。そう考えると、いちいちパーソナル向けプリンターでプリントするよりも、近くのDP店で気軽にプリントしてもらった方が楽だし、パソコンが苦手な人もより気軽にデジタルカメラからのプリントを楽しめる時代になりそうだ。



●業務用インクジェットプリンターでの
 デジタルプリントサービスを展開するキヤノン

 キヤノンは昨年6月に国内発表した、自社のインクジェット技術を生かした業務用高速プリンターを核としたプリントサービス「HYPER PHOTO」システムを展示。基本的にはコニカのシステムの出力部分をインクジェットプリンターに置き換えたようなシステムで、もちろん、フィルムとデジタルデータ、両方からのプリントがこれだけでできる点が大きな特徴だ。

 占有面積もミニラボ用プリンターより遥かに小さく、ミニラボでも既存のラボ機器の空きスペースになんとか収納できるレベル。価格も数百万円レベルなので、ミニラボでも導入可能な機器といえる。

 しかし、インクジェット式ということで、先のコニカや富士のように、普通のカラー印画紙にプリントしたものに比べて、クォリティーがやや及ばず、保存性に関しても100年プリントをうたう印画紙タイプに比べると難がある。さらに、処理速度も毎分1枚程度で、先のシステムのように毎分数十枚というオーダーであることを考えると大きく水を空けられている。
 将来のデジタル時代への準備用というよりも、むしろ、既存のミニラボシステムでは対応が難しいバリエーションプリントのための機器といった意味合いが強いプリント機器といえそうだ。
 また、日本ではインターネット経由でのプリントサービスという展開もアピールしていたが、アメリカではシステムとしての紹介がメインだった。

キヤノン キヤノン


□PMAのホームページ
http://www.pmai.org/
□PMA 98のホームページ
http://www.pmai.org/convention/pma98.htm
デジタルカメラ関連記事インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/digicame/dindex.htm

('98/2/25)


[Reported by 山田 久美夫]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp